61.早織のお店で
バレエ団の合宿も、あっという間に最終日を迎える。
午前中に練習を行い、昼食を食べて、閉会式となった。
お世話になった、ホテルの人達に感謝を述べ、また、スタッフで来てくれた人にも感謝を述べるのだが。
そのスタッフに僕も含まれていて。
「「「ありがとうございました。」」」
と、拍手で送られてしまった。
「おにーちゃんのピアノで踊れてすごっく嬉しかった。」
「おにーちゃん、すごーい。」
そんな生徒たちの喜ぶ声がある。
「そういうことだ。少年、お疲れさんだったな。」
原田はそう言って、僕の肩を叩く。
「はい。ありがとうございます。」
僕は、原田に頭を下げる。
帰りのバスは、やはり渋滞にはまってしまい、しばらく動かなくなったため、かなりの時間を要した。
そして、反対側の車線を見ると、そちらもかなり混んでいる。
改めて、この辺が、温泉街など周辺の観光事業があるということが目に見えて判る。
そうして、僕は合宿を終え、家に帰宅し、すぐにベッドに入った。
そうして、翌朝、コンクールと合宿の疲れからか、昼頃まで寝ていたらしい。
すぐに飛び起きて、準備をする。
史奈、加奈子は大丈夫。フォローするからということで、僕は深呼吸して、自転車に乗る。
目的地は、早織たち家族が経営するお店、『森の定食屋』だった。
雲雀川経済大学付属高校は、川の向こうにあり、僕が知っている中で、一番の最寄りの施設は、『森の定食屋』だった。
自転車をこいで、森の定食屋の場所に行くと、そこにはすでに先客がいる。
史奈だった。
「ご、ごめんなさい。史奈さん。待ちましたか?」
「ううん。今来たとこ。」
おそらく、一番遠い史奈が一番乗り。
「どうやって、ここまで。」
と思ったが。
「ふふふ、ここら辺にもバスは走っているの。駅から、バスで来たわよ。こうして、1人の時は。」
少し、安堵する。
駅や花園学園から、直線距離を結べば、そう遠くはないが。川を渡らなきゃいけないため、橋まで回り道をすることになる。
そして、葉月、結花が到着した。
「ごめんね、遅くなって。」
「おーっ、合宿お疲れ~。」
葉月と結花は、笑いながら言っている。
やはり、最も遅く着いたのは加奈子だった。
だが、真面目な加奈子、時間通りギリギリに、ここに着いた。
「輝、おはよう。よく眠れた?」
僕は頷く。
そこには昨日までの加奈子とは違い、髪の毛をまとめる時間もなく、縛った跡がついた髪型だった。
そうして、僕たちは、早織のお店に入っていく。
『森の定食屋』だ。
中に入ると早織が出迎えてくれる。
僕は少しドキドキ。
だが。
「ふふふ。大丈夫よ。」
史奈はそういうふうに言っているが、やっぱり僕は男性だからだろうか。
そうしているうちに、店の扉が開いた。
そこに居たのは日焼けした女子。マユこと、熊谷真由子だった。
僕は手を振る。
「お待たせ。ごめんね。」
マユはそう言いながら、僕たちのテーブルに座る。
「あの、こちらは熊谷さん。小学校の時から仲が良くて・・・・・・。雲雀川経済大学附属高校で、陸上部で活躍しているんだ。」
マユは頭を下げる。
「へー。」
「ふ~ん。」
葉月と加奈子は最初こそは、そういうリアクションだったが。
「熊谷真由子です。初めまして。」
マユのどこか懐かしさを感じる、明るい挨拶を済ませたからだろうか。
「初めまして。花園葉月です。」
「えっと、北條結花です。」
「あ、あの・・・・。八木原早織です。」
合宿に参加していないメンバーがそれぞれ、自己紹介する。
「バレエ団の合宿で、たまたま再会してね。」
僕はみんなにわかりやすいように、説明した。
途中、史奈、加奈子がフォローしてくれる。
そして。話題は、マユがどうして、この町の高校に進学してきたかの話題になる。
合宿の、スキー場の芝生の上で話した話題が再び、語られる。
【安久雄建設】、【反町市】というワードが出てきて、かつ、マユも、与党の幹事長と、外務副大臣の犠牲者とわかると、全員表情が変わった。
「うわぁ~。」
結花はえげつない表情を浮かべ、頷く。
「あちゃ~。」
葉月も頷く。
「はあ。」
一番心配していたのは早織だったが。早織も肩でがっくりと落ち込んだ後、頷いた。
合宿に参加していない3人から、マユに同情するコメントがそれぞれの口からでる。
そして。
「輝君はどうする?」
葉月はそう聞いてくる。
「うん。とてもかわいそうに思うし、見過ごせない。同じ、犠牲者として。これからもお話しできるならしたいなあと思って、今日、皆を呼んだのだけど。」
僕はそう言って、葉月たちの顔を見る。
「うん。ハッシー偉い!!そしたら、ウチは大歓迎だよ。ハッシーと同じ敵の犠牲者は温かく迎えなきゃ~。」
「うん。そうだね。私もそうしたいな。」
結花と葉月は、僕に向かって頷く。
一番心配していた早織もうんうん、と頷き、受け入れてくれた。
残りは、マユだ。この状況を説明しないといけないんだよなぁ・・・・・。
「ごめん、マユ。僕、優柔不断で。ここにいるのは皆・・・・・。」
僕のつたない説明を、史奈がフォローする。
「へぇ~。流石元女子校。ひかるん、モテモテ~。♪」
マユはニコニコ笑う。
だけど。そこから試合をするときのような真剣な顔になり。
「つまり、試合に参加させてもらえるってことよね。私も・・・・・・・。」
僕は頷く。そして、ここにいるメンバー全員、頷く。
「そしたら、喜んで、参加します。ありがとう。仲間に入れてくれて。」
そういって、マユは状況を受け入れてくれた。
ここで初めて、肩の荷が下りる僕。
「やっぱり、ひかるん、心配していたでしょ。大丈夫よ。確かに状況としては、そうだけど、参加すればメリットの方が大きいでしょ。」
マユはそう言いながら、笑っている。
「少なくとも、高校生活という試合中はね。この試合が終わった後に、ひかるんが・・・・・・。」
マユは少し怖い顔をしながら言う。
「だ、大丈夫だよ。」
僕はそう言って、マユの肩を持つ。
「ふふふ。冗談、ひかるん可愛い。ひかるん、そんなことしな人だから、信用しているのよ。それに、まだまだ、心の傷はありそう。」
マユはそう言いながら笑っている。
癒しの言葉に聞こえる僕。
「はあ、幼馴染っていいわね。」
「ホント、何でもわかってていいなぁ。」
史奈と結花の声。
「まあ、いいんじゃない。それじゃ、マユさん、これからよろしく。」
加奈子はマユと握手をした。
何だろう、陸上とバレエ。何かに向き合っている分、その握手は意気投合していた。
こうして、マユを仲間にして、僕たちは『森の定食屋』を出た。
改めて、マユにこの町を案内することにした。
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