59.安久尾建設の犠牲者たち
速めに昼食を済ませ、ホテルを出る、僕、加奈子、史奈、そして原田。
待ち合わせの相手は、今朝、ウォーミングアップのジョギングで、偶然再会した、僕の幼馴染のマユこと、熊谷真由子。
「ちょっと、面白そうだからついて行くよ。」
と、原田も同行してくれることになった。
その台詞を言った後、僕にウィンクしてくる。
本当にありがたかった。
やはり、夏の芝生だけのスキー場は、案の定、野原であり、マユの存在はとても目立った。
大きく手を振って、僕たちを迎えるマユ。
「ごめん、待った?」
僕はマユに問いかける。
「ううん。今来たとこ。」
マユは笑っている。
「えっと。」
僕は何を話せばいいか戸惑ったが。
「輝の幼馴染の熊谷真由子です。雲雀川経済大学付属高校で陸上部しています。」
マユは自己紹介して、頭を下げる。
「今朝はすみませんでした。まさか、ひかるんに、彼女が居たなんて、思ってなかったので。私もついつい、再会した喜びの方が大きかったので。」
マユは、一緒にいる、史奈と加奈子を見る。
一瞬、ドキッとした二人だが、少し安心して、笑顔を見せる史奈と加奈子。
何でわかったのだろう・・・・・・。
「あっ。なんでわかったのだろう、って顔してる。わかるよ♪そういうところ昔から変わらないし、お二人の顔を見てもね。だって、ひかるん、バレエ団のサポートに自分から参加しようって思わなかったでしょ。」
マユはそう言いながら、笑っている。見抜かれていたか。
「ふふふ。わかってくれて本当に良かったわ。私は瀬戸史奈です。さあ、加奈子ちゃんも自己紹介しましょ、相手が先に自己紹介してくれたんだよ。そして、謝ってもくれたんだよ。」
史奈に促されて。
ああ、そうですよね。という顔をする加奈子。
「あ、あの、井野加奈子です。輝の・・・・。高校の友達・・・。い、一応、彼女・・・。です。」
加奈子も自己紹介する。
「よろしく。加奈子ちゃんの、バレエ団の責任者の原田です。」
原田も最後に自己紹介をした。
「ひかるん、どう、調子は?高校はどこに通っているの?」
真由子が明るく質問する。
「えっと、花園学園。」
僕が答える。
「へー、今年から共学になった元女子校だね♪だったらモテモテだ。あーあー。」
真由子は大きな、ため息をつく。
「でも、不思議。違う県で一緒に生まれ育った、ひかるんが、なんで、この県の花園学園に通っているのか・・・・・。ねえ、何で?」
マユはさっきとは違う声のトーンで僕に話しかける。
息を飲む僕。
まずいと思ったのだろうか、一瞬にして表情を変える、史奈、加奈子、そして、原田の三人。
唇が渇いてくる僕。
その表情を見逃さなかったのは、さすが僕の幼馴染だった。
「まさか。やっぱりそうなの?」
マユは涙を流している。
「ひ、ひかるんも、犠牲になったんだ・・・・・・。」
マユは少し涙ぐみながらも落ち着いて言葉を言った。
「安久尾建設と、反町市に。」
マユの言葉に、僕たちはそろって、表情を変えた。それを見逃さなかったマユ。
マユは涙目になりながら僕を抱きしめる。
「つらかったね。わかるよ。」
マユの表情はさらに激しくなる。
「どうして、わかるの?」
僕はそう言ってマユの涙につられたのか、僕も涙を流す。
「わかるもん、だって、私も犠牲になったの、あいつらに。」
マユは勇気を振り絞っていった。
その言葉に僕も、そして、史奈、加奈子、原田も表情を変えた。
「ど、どういうこと?」
僕が聞く。
「よかったら話してもらえないかしら。」
史奈が聞いてくる。
加奈子と原田も史奈の言葉に頷く。
「はい。まず、私と、ひかるんは幼稚園からの幼馴染で、家も近所でよく遊んでいたんです。習い事は二つ。私もひかるんも同じのをやってました。一つは、ピアノ教室、もう一つは陸上教室です。」
「「「あぁ~。」」」
史奈、加奈子、原田の3人は声をそろえて言う。
「だから、輝、あれだけ今朝のジョギング速かったんだ。」
加奈子の言葉に妙に納得。
「はい。でも。皆さんも知っているかもしれないですが、どちらか一つは小学校の4年生くらいで、速めにスランプが来ます。ひかるんはピアノの成績がどんどん伸びていくのですが、私は未だに楽譜が読めず苦戦中。私は陸上の方で、どんどん速くなっていきますが、ひかるんは遅いままで、ついには下の学年の子たちに抜かれて行ってしまう。」
「ふふふ。輝君らしい。でも、ピアノはとても上手かったのね。」
マユの言葉に史奈が笑っている。
「はい。それぞれ、どちらかの才能しかないと思ったのか、小学校の5年生に上がったときに、それぞれ苦手な方を辞めました。私はピアノ、ひかるんは陸上を辞めました。」
マユはさらに話をつづけた。
「なるほど、賢明かも知れないな。」
原田はそう言いながら笑っている。
「やめた理由はそれだけじゃなくて、もっと大きな理由があって。私、隣町に家ができて、そのタイミングで引っ越しをすることになったのです。ひかるんとはそれっきりになりました。その後は、それぞれ、陸上とピアノの腕をそれぞれの場所で、メキメキと腕を上げていったと思います。」
マユは話を続ける。
「そうだね。そうじゃないと、今の輝はいないよね。」
加奈子はマユの話に頷く。
「私は、中学は勿論、陸上部に入りました。県の大会もドンドン賞を取るようになって。女子中学駅伝のメンバーにも選ばれました。」
「おおっ。すごい。」
史奈がニコニコ拍手をしている。
「でも・・・・・。」
マユが再び涙目になる。
「ある時期から、駅伝メンバーにも選ばれなくなり、大会も出場させてもらえなくなりました。1つ下に、反町のつまり与党の幹事長の孫娘が居たからです。彼は、孫娘の活躍を奪われたくない、レギュラーで走って欲しい、という思いから、方々に根回しして、大会のルールを変えたり、意味不明な失格処分をしたりといろいろとありました。」
「あちゃー。」
原田は頭を抱えた。そして、ここにいる全員、そんな気持ちになった。
「そして。私は、そのせいで地元の高校に進学させてもらえませんでした。」
「「「えっ!!!」」」
僕たちはマユの言葉に耳を疑った。
「内申書を改ざんされて、陸上を辞めるなら、内申書の評価を挙げてやると脅されて。結局私は、新しい家も、自分の部屋も、親元を離れて、県外の雲雀川経済大学附属に入学することになりました。」
そんな、そんなことが、マユは少し涙になりながら。呼吸を整えていた。
「そして、今もそのトラウマなのかわからないですけど、得意な長距離はスランプの中にいます。それ以外にも、短距離や、棒高跳び、いろいろな陸上競技もチャレンジしましたが、やっぱり思うように結果は出せず。ただ、チームメイトには恵まれて、感謝でした。
そんな中で、今日、ひかるんと再会したんです。
まさかとは思いました。だって、与党の幹事長も、外務副大臣も、選挙のたびに、外務副大臣の息子がさんざんピアノをアピールしていました。ひかるんもまさか、そいつの犠牲になっているのではと思って。今日、蓋を開けてみたら・・・・・・・。」
「やっぱりそうだった、というオチか・・・・。」
原田がため息をついて、表情を変える。
「ますます許せないな、あいつら・・・・・・。」
「はい。そう思います。」
原田と加奈子は怒りをこみあげる。
「そうだったんだ。ごめん、マユ。気付けなくて。」
「ううん。いいの。もう、もう、ひかるんと会えたから・・・・。」
再び泣きながら抱き合う、僕とマユ。
「ひかるんも、何があったか話せる。」
僕は頷き、今まであったことを話した。ところどころ、史奈、加奈子、原田がフォローしてくれる。
僕は3人にお礼を言って、こんな感じだという言葉で、話を閉じた。
「そうよね。話したくないし。ひかるん、いつまでも引きずっちゃうよね。」
マユはそう言って、泣き止み、笑顔になる。正確には無理にその表情を作っているようだ。
「ありがとね、話してくれて。」
マユはウィンクする。
「皆さんも、ありがとうございました。ひかるんを助けてくれて。」
マユは、改めて、3人にお礼を言って、立ち上がる。
「そしたら、そろそろ、昼休憩が終わりなので、私は行きます。」
マユはお辞儀をして、その場を立ち去る。
「あ、あの、ちょっと待って!!」
史奈が、声をかける。
「はい。」
マユが立ち止まる。
史奈は加奈子の眼を見る。そして、原田の眼を見る。
加奈子も原田も大きく頷いている。
「よかったら、これからも輝君に会いに来ていいわよ。あなたに、紹介したい人達も出来たし、雲雀川経済大学附属よね。その近くに住んでいるの?」
史奈の質問に、マユは応える。
「はい。近くのアパートを借りて住んでます。」
「そう、よかった。輝君も、雲雀川の伯父さんの家に住んでいるから、この合宿が終わったら、会いに来て。私も、加奈子ちゃんも、あなた、ううん。真由子ちゃんを見てて、かわいそうに思ったから。せっかく近くに住んでる、幼馴染と再会したんだから、ねっ。」
史奈がウィンクして、マユに向かって手を振っている。
「はい。ありがとうございます。絶対、行きます!!」
「そしたら、私たちと、連絡先、交換しましょ。」
史奈の提案に、マユは頷き。すぐにそれぞれ、スマホを取り出した。
「ありがとうございます!!」
「ふふふ、またね。」
史奈は手を振る。そして、加奈子も手を振る。2人の表情には曇り空が一気に晴れた飛び切りの笑顔で、マユを見送っていた。
マユも夢中で手を振り返す。
僕も、一緒に手を振って、マユを見送った。
両肩をポンポンと叩かれる。
「なんだ、少年。すっごくいい子じゃないか。」
原田はそう言いながら笑っている。
「うん。輝も、真由子も、本当に会えてよかったね。」
加奈子はそう言いながら笑っていた。
僕は、3人にお礼を言って、そして、改めて、謝罪し、僕たちもホテルに戻って、午後の練習を再開した。
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