58.再会は偶然にも
「す、すごーい。ホントに、ホントにひかるんだぁ。」
マユこと、熊谷真由子がそこに立っていた。
「マユこそ、なんでこんなところに?」
「ふふふ。陸上部の合宿。」
マユは、嬉しそうに言った。
「そ、そうなんだ。」
さすがに、女子の陸上競技部なら、先ほど抜かされても仕方がない。
「あっ、合宿の練習中だから、あとでね。どこのホテル泊っているの?」
僕は、宿泊しているホテルの名前を告げる。
「えっ、私たちのホテルとすぐそばじゃん。この後、少し、休憩だから、走り終わったら行くね。だから、ひかるんも早く来てね。そこの池で、折り返しでしょ?」
「あ、ああ。うん。わかった。」
マユは僕にあった喜びを爆発させたからだろうか、明らかにペースを上げて走り去っていった。
なんだ、バレエ団じゃなかったか、という安心感と、こちらもマユに会えた喜びがあるのか、ペースが上がっていた。
池を折り返して、再び、僕たちの泊っているホテルへ。
折り返すと、原田のバレエスタジオの縦長の、大集団とすれ違う。
みんな必死に、マラソン、つまり、持久走をしているようだ。
ホテルに戻る、僕。
そこには原田と、マネージャーで付いてきた、史奈がホテルに待機していた。
「よーっ、少年、結構早いな。流石は男子だね。」
原田の声。そして。
「おっ。輝君お疲れ。結構早かったね。というか、私より速いんじゃない?」
史奈が声をかけてくる。
「は、はい。まあ、息が切れそうですが。」
肩で息をする僕、久しぶりにハイペースで飛ばし過ぎた。
「まあ、それは良いんだけど。あの子・・・・。一体誰?」
史奈は視線を変える。そして、表情も少し曇る。
視線の先には先ほど出会った、マユの姿があった。
マユのさらに背後には、マユの所属している陸上部の部員たちが、各々、休息をとっている。
「ああ。私も気になった、話を聞いてみると、君を待っているようだが。」
待っているマユを不思議に思い少し、声をかけたのだという。
「ああ。昔の知り合いなんです。どうやら、所属している陸上部の合宿で、そこの、ホテルを利用しているようですね。」
僕はそう言って、マユの元に駆け寄る。
「おーっ。ひかるんお疲れ。結構、速かったね。」
マユは声をかける。
「ああ。久しぶりに、マユ、お前と会ってな。少し飛ばし過ぎた。」
「ふーん。毎回こんな感じならよかったんだけどね。ところで、何で、ひかるんが来てるの、運動部?」
「いいや、バレエ団の合宿の手伝い、一応、ピアノを弾くスタッフ。」
「あー。だから、折り返した時、小学生の女の子たちが行列で走ってたんだ。やっぱり、ピアノ上手いもんね!!」
マユはとても興奮しながら笑っている。
「知り合いか?少年。」
原田が、駆け寄ってくる。
「輝君。一体、どういうこと?」
史奈は少し難しい表情をしながら、いや、にやにやと笑っている表情も若干しつつ、こちらに来る。
「あー。この子は、熊谷真由子さん。小学校4年生くらいまで、保育園からずっと近所に住んでいて、仲が良かったんだ。」
僕は冷静になってマユを、原田と史奈に紹介する。
「へえ。つまり、幼馴染か。」
「ふーん。輝君。幼馴染が居たんだ。」
原田と史奈がニヤニヤと笑っている。
しかし、原田は急いで、仕事に戻った。バレエ団の生徒たちがゴールしてくるのに気付いた。
続々と、ゴールしてくる生徒たちを迎える。
沈黙が流れる、僕と、史奈、そしてマユ。
だが、その沈黙は一瞬で破られる。
ゴールしてくる生徒の中に加奈子もいた。
「はあ、はあ、輝。凄く速い。やっぱり男の子って・・・・・・・。」
加奈子は史奈の他に、もう1人いる女子の存在に素早く気づいた。
「ひ、輝。この子、一体?」
加奈子はキョトンとしながら、僕を見る。
「ふふふ。加奈子ちゃん、輝君に幼馴染が居ました。ただいま、絶賛、感動の再会中。」
史奈はテヘペロ。という顔をしながら、加奈子に説明する。
「えっ、そうなの?輝。なんかすごい。」
加奈子は史奈の説明に顔を真っ赤にしながら、僕の腕をしっかり握る。
「す、すみません。隠すつもりはなかったのですが、こんなところで会うなんて・・・・・。思ってもみなかったので・・・・。」
僕はすぐさま謝る。
「別に、責めないわよ。ただ気になっただけ、世の中って狭いわね。」
「う、うん。輝。良かった。そうだよね。輝のせいじゃないよね。」
史奈と加奈子は僕の言葉に嘘をついていないと見たのか、すぐにうんうん、と頷く。
「マユ~、時間よ~。」
「はーい。今行く~。」
陸上部員の誰かに呼ばれるマユ。
「ごめん、もう行かなくちゃ。そうだ、昼休憩の時間とかに少し話さない?そこのスキー場で。」
マユの提案に、なんだか安心する僕。
そして、さらに安心して、思いっきり胸をなでおろす、加奈子、史奈。
「そうね、是非そうして欲しいわ。」
「うん。良かった。なんか、モヤモヤして過ごすところだった。」
史奈と加奈子が笑う。
「ああ。わかった、もちろんいいよ。」
僕はマユの提案に、頷く。
「うん。じゃあ、あとでね。」
マユはそうして、近くのホテルに宿泊する、陸上部のメンバーの元へと戻っていった。
直後の午前練習。
何だろう。少し不安な時間が流れる。
史奈も、加奈子も黙ったままだ。
ただ、サポートや練習はしっかりしてくれて、とてもありがたかった。
そうして迎えた昼休憩の時間。
早めに昼食を済ませ、僕、史奈、加奈子。
そして、「面白そうだからついて行くよ。」といって、その一行に原田が加わる。
僕たちは、マユに指示されたホテルの傍の、夏の芝生で覆われたスキー場に向かうのだった。
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