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57.朝のトレーニング


 翌朝、起床時間の少し前に僕は目覚める。

 山の中の朝は綺麗だ。


 ベッドの隣には加奈子がいる。

 加奈子が所属するバレエ団の合宿。僕はピアノサポートのスタッフとして、この合宿に呼ばれている。


 加奈子は部屋を抜け出して、僕の部屋へと来ていた。

 そして、お互い、生まれたままの姿で、ベッドで寝ていた。そして、その場所が夏とはいえ、標高は2000メートルを超える、山の中。


 布団の中は僕と、加奈子の体温で温かかったが、布団の外に出ると一気にひんやりしてきた。

 「寒いっ。」

 僕は一気に目が覚める。


 加奈子は隣ですやすや寝ているが・・・・・。

 「んー。おはよー、ひかるぅ。いま、なんじぃ?」

 加奈子はそう言いながら眠い目を擦り、僕に聞いてくる。

 起床時間よりも少し前の時間を伝える。


 「まだまだ、時間あるー。もういっかい、一緒に寝よう。」

 加奈子は僕の両手を掴み。

 もう一度、布団に戻そうとする。


 加奈子の体温で、再び僕の身体は温かくなったが・・・・・・。


 「えっ。冷たい。寒い。輝、何で?」

 布団の外に出た僕の身体に触れた加奈子、その冷たさで、一気に目が覚める。


 「山奥に来ているからだよ。合宿だよ。合宿。」

 僕は加奈子にそう伝えると。


 「い、いけない、いい加減部屋に戻らないと。」

 加奈子は飛び起きて、一気に服を着替える。

 慌てる加奈子。いつも朝はこんな感じなのだろうか。

 僕はそう思いながら、加奈子の方を見る。


 お互いに服を着終わる。僕と加奈子。


 「輝。本当に、ありがとう。」

 加奈子は僕の顔に近づき、唇を重ねて、キスをする。

 「うん。」

 頷く僕。


 「ねえ。また、夜も来ていい?」

 加奈子の頼み、何だろう。すごくドキドキする。

 僕は黙って、再びキスをする。


 「ありがとう。じゃあ、今日も、頑張ろうね。」

 「うん。」

 僕は手を振る。

 加奈子は隣の部屋で寝ているであろう、原田達にバレないように、そっと、扉を開けて出て行った。

 そして、おそらく原田にバレるのが怖くて、加奈子が勢いよく出て行った瞬間、僕は再び部屋の扉を閉めた。



やがて、起床時間となり、点呼を済ませて、朝食の時間となる。

 色とりどりの食事が並ぶ。

 さすがはホテル、味もしっかりしている。

 僕の家は農家なので、食事の量はこれとほぼ同じ量が並ぶが、さすがはホテル、味付けはしっかりしている。


 「おはよう少年。」

 原田の声がする。相変わらず、朝からパワフルな女性だ。

 原田は僕と、向かい合わせのテーブルに座る。


 「うまいな。流石はホテルの食事だ。」

 原田はそう言いながら、食事をパクパクととっていく。


 「ん?どうした少年、美味しくなさそうだな。」

 原田は、そういいながら僕を見る。


 「あ、と、とても美味しいですよ。タダ、家が農家なので、野菜とか、みそ汁とか、これとほぼ変わらない量が出たりしますから。」


 「あー。そうだったな。確かにあそこは畑ばっかりで、夜、車の運転するの怖かったわ。」

 そういえば、そうだ。バレコンクールの時、原田に家まで送ってもらったんだ。


 「す、すみません、お礼を言うのが遅くなってしまいました。その、あの時は、本当にありがとうございました。」

 僕は、原田に頭を下げる。


 「ああ。いいって。いいって。困ったときはお互い様だ。元気になったか?この一か月くらいの近況は、加奈子ちゃんから、いろいろ近況は聞いていたぞ。なかなか面白そうだな。」

 原田は笑いながら、言った。


 その言葉に笑顔で頷く僕。


 「おーっ。面白いと言えば少年、夕べは・・・・・・・。」

 少し間多く原田。


「おーっとこの先を言ってしまうと、某ゲームのパクリだから言わないでおこう。あいつ、吉岡が小学生の時にプレイしていたゲームだから、知ってるんだわ。このセリフ。」


 「・・・・・・・っ。」

 原田の言葉で、食事が気管支に入り、喉を詰まらせる。

 原田の目線は一緒に来ていた、講師の一人、男性講師の吉岡の方を見る。


 だが、僕に異変を感じたのか、すぐに僕の方へと目を向ける。


 「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。」


 「大丈夫か?少年、ほら、水だ水。」

 原田から水を差し出される。


 当然、原田が言っていた某ゲームに出てくる台詞は勿論、知っている。

 僕だって、そのゲームをプレイしたことがある。超がつくくらいの人気シリーズだ。

 ストーリーは勿論そうだが、音楽がやっぱり好きだ。


 ゲームのメインテーマを、これまで生きてきた時間と5分でできたという、作曲家の言葉に惹かれて、いつか、作曲をしてみたいなと思ったこともある。


  「も、申し訳ありません。」

 僕は原田に、必死で手をついて誤ったが。


 「いいってことさ、御咎めなし。ここは、学校の修学旅行とか、刑務所とかではないんだから。それに・・・・・。」

 原田は、加奈子の方を見る。

 元気よく、他の生徒たちとおしゃべりをする加奈子。


 「私も、こういう、恋バナは大好きだ。あの真面目な加奈子ちゃんに、心惹かれる男の人が現れて嬉しいんだよ。そして、もう一つ。これは、寂しいことでもあるんだが・・・・・。」

 原田はウィンクをする。


 「加奈子ちゃんを怒る機会は、唯一この合宿でしかない。朝は寝坊はするわ、寝起きでふにゃふにゃになって話を聞いていないわ、部屋まで叩き起こしに行ったことがあるわ。合宿の朝は本当に戦いだったよ。まあ、それが加奈子ちゃんを怒る唯一の時間だから、他の生徒も珍しそうに、見に行くんだよね。でも、今日はどうだ?」

 原田と一緒に加奈子を見る。

 楽しそうに、おしゃべりをする加奈子。


 「少年、お前が、一緒に寝てくれて、一緒に起こしてくれたんだろ?他の生徒からも、『加奈子ちゃん珍しくちゃんと起きてるー。』だってさ。ありがとよ、少年。」

 原田はウィンクしながら、どこか寂しそうにも見つめていた。

 僕は黙って頷く。


 「ああ、言い忘れていたが、ここのホテルは大浴場で、朝風呂もできるし、部屋の風呂も使っていいぞ!!すまないな、少年とは、合宿のしおり、ゆっくり確認する時間が出来なかったな。体、温めといてくれ、朝からハードな練習をするからな。」

 原田はそう言って、笑顔でうなずく。



 原田の言葉に甘え、朝食を済ませ、大浴場の朝風呂で、温まる。

 そうするとちょうどいい時間となり、朝一番の練習を行うのだが・・・・・・。


 僕たちはホテルの外に集合していた。

 「と、言うわけで、合宿恒例、マラソン大会を実施する。発表会に必要なのは技術は勿論だが、基礎体力も大事だ。せっかく、山に来たので、各々走ろうではないか。」

 という原田の声。


 生徒たちは、各々自分のペースで、原田に指示されたコースを走ることになった。


 何だろうか。山の景色を見ていると、僕も走りたくなり。

 「僕も一緒に、いいですか?」

 という声を原田に掛ける。


 「ああ、もちろんだ、一緒に汗を流してくれよ!!」

 とのことだったので、一緒に走ることにした。


 各々自分のペースで走る。

 当然、一番最後方から、バレエ団の先生たちも追ってくる。


 一番下は、まだ、小学校にも満たない子たち、そして、一番上は高校生。

 そうなると、先頭から最後方までかなりの差がある。


 僕は男子ということもあり、先頭で走っていた。

 さすがに、陰キャということで、男子の集団に入ったら遅い方だが、やはり、女子のバレエ団という集団になってくると、先頭で走ることになる。


 だが、さすがはバレエ団で、柔軟運動とかもしっかりやっているのだろう、もしくはチアダンス部などの、運動部に入っている子もいるのだろうか。

 振り返るとすぐ後ろに何人か付いてきている。


 何だろうか、久しぶりに負けたくないという気持ちが入るし、周りからも、『お兄ちゃんすごーい。』と、言われる成果、ペースがだんだんと上がってくる。

 山の中ということもあって、坂道でしんどいはずなのに・・・・・・。


 だが、さすがの文科系男子の僕も運動系の男子たちには勝てなかった。

 何人か男子たちの集団に抜かされていく。

 一瞬ヒヤッとするが、彼らの背中には、箱根駅伝の常連大学の文字が・・・・・・。


 ああ、そうだ、他のスポーツ団もここら辺のホテルで合宿しているのだ。

 さすがに彼らには当然かなわない。

 だが、視界ギリギリまでついて行きたいという気持ちがある。


 そして、次の瞬間。

 「ウソだろ・・・・・。」


 何人かの女の子たちにも抜かされていった。


 「や、ヤバい、せめて、バレエ団の女の子たちには勝たないと。」

 おそらく、僕が彼女たちよりも遅い、時間帯にゴールした瞬間。


 「少年、遅いぞ、カッコ悪いな~。」

 というような言葉を原田から言われるかもしれない。


 またまた、僕はペースを上げ始めた。

 だが。


 「まずい・・・・・。」

 抜かされた女の子たちになかなか追いつかない。

 いや、むしろ離されてしまう。


 やがて、僕の視界に池が見えてくる。

 あそこが確か、折り返しだったよな。


 ここら辺一体のスポーツ団はあの池を目標に、走り練習を実施するのだという。

 案の定、当の昔に抜いていった、箱根駅伝の大学チームは、あの池で折り返して、再び、僕とすれ違っている。


 そして、少し、時間がたって、先ほど僕を抜いていった、女の子たちもすれ違うことに。

 まずい。負けないように、しなきゃ。


 「あれ・・・・・・。ひかるん?」

 声をかけられる。

 ああ、僕、本当に体力無いなと思って、ああ、皆に負けたよ。と思った。


 だけど・・・・・・。そんなことはなかった。


 「えっ。」

 僕は足を止めた。ものすごく驚いた僕が居た。


 「本当に、ひかるんだ。久しぶり。元気だった?」

 「ま、マユ。なんで?」


 声をかけられたのは、原田のバレエ団の女の子ではなかった。

 日焼けした、飛び切りの笑顔の女の子の顔がそこにはあった。




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●現在執筆中の別作品もよろしければご覧ください。

 1.忍者翔太朗物語~優秀な双子の兄だけを溺愛する両親のもとで奴隷のような生活をして育った忍者のお話~URLはこちら↓

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 2.元女子魔道学院に異世界転生した男子の僕が入学するとどうなるのか?※このシリーズの異世界転生編です。

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