51.1学期の終業式
「はい。これ。」
心音が紙を渡す。
「夏休みの練習日程表。橋本君は伴奏ということで、星印がついている日に来てくれればいいからね。」
そういって、心音から紙を受け取る。
星印の日は、今週、来週つまり、7月の下旬にかけて毎日のように付いているが、これは想定通り。
大体、県のコンクールが7月の終わりから8月のはじめにある。これは僕も合唱経験者なので、想定通り。
その後は、星印の日はまばらだった。
「ごめんね。7月がかなり多い感じだけど、私たちの県はコンクールが、7月の末にあって。橋本君には急ピッチでピアノをお願いすることになるのだけど。大丈夫かな?
その後、8月の頭から中旬までは休みで、また8月の下旬からやっていく感じなんだけど。本当は、県のコンクールが終わって、そこで入賞したら、関東コンクールから。入賞しなかったら、クリスマスコンサートからお願いすることにしようと思ったんだけど。今の感じだと間に合いそうだし。無理しちゃうかもしれないけれど・・・・・。
勿論伴奏者の変更は直前まで、認められているから。こっちでやっておくね。」
「ええ、大丈夫です。」
僕は頷く。
「そして、加奈子からも、橋本君の予定を聞いていて、7月末から8月の頭に開けてくれれば大丈夫ということなので、そこも調整しているから、無理のない範囲で来てね。」
加奈子?と一瞬思った。
「加奈子・・・・。先輩・・・・。ですか・・・・。」
僕はまだ何も予定は聞いていないが。
「ああ。なんか、バレエのことでまたお願いしたいことがあるみたいよ。知らなかったみたいなので、加奈子から予定は聞いてね?橋本君は大丈夫?私たちに付き合わされてばっかりで、橋本君の個人的な予定とかはない?」
心音がそう聞いてくるので。
「いえ。とくには大丈夫です。夏休みの補習とかに参加できれば。特にすることもないので。今のところは。」
僕は心音にそういうと。
「そう、よかった。急なお願いだったから無理しないでね。
ああ。そういえば、顧問の藤田先生が会いたがっていたから、今度は藤田先生がいるときに来てね。あの先生、他の音楽系の部活の顧問と兼任もしていて、いろいろ忙しいから、1学期は合唱コンクールもあったし。」
心音はそう言って、夏休みの打ち合わせを終えた。
そうか。藤田先生か。そういえばピアノのことも話を進めておかないとな。今度は、藤田先生が居てくれるといいな。
僕はそう言いながら、練習を終えて、生徒会室の方へと向かう。
「またよろしくね。橋本君。」
「あ、あの・・・・・。今日は、ありがとう。」
心音と風歌に見送られ、音楽室を出て行く。
何だろうか、少しいい汗をかいているのが背中に感じる。
少し緊張したのだろうか。そして、先ほどの打ち合わせにもあったように、今週末には1学期の終業式があり、その後は夏休みだ。
いろいろなことがあった。密度の濃い、数か月だった。
緊張が少しほぐれ、生徒会室の扉をノックする。
今日はもう少し遅めの時間。誰も居ないだろうか。と思い扉をノックした。
「すみません。遅くなりまして。」
僕はみんなに頭を下げると。
「ああ。輝君。本当にごめんね。心音たちが無理して誘っちゃって。伴奏のことも、加奈子のコンクールのことも話しちゃって。予定が結構タイトだよね。」
葉月は僕に申し訳なさそうに謝ってくる。
「本当に、ごめん。私の方の予定もあるし、心音たちの予定にも合わせてくれて、輝が少しでも休めればいいのだけど。」
加奈子も同じで、頭を下げる。
「そんな、そんな。頭をあげてください。僕は夏休み期間中こそ、このままいくと何も予定がなさそうなので。」
僕はそう言いながら、葉月、加奈子をなだめる。
「よかった。で、どうだった。コーラス部のエース。私たちのクラスの桐生心音と、緑風歌は?」
葉月はそう言いながら、僕に聞く。
「ええ。とても、いい人でしたし。音楽、好きなんだなあと。心音さんはまとめるのが上手いし、風歌さんは符めくりとか、サポートしてくれました。」
僕はそのままの印象を伝える。
「よかった。風歌もピアノ伴奏のイメージがあるけど、歌も結構上手いんだよ。校内合唱コンクールはあの二人にみっちりしごかれてきた。」
ヘッヘンという感じで、ドヤ顔をする葉月。
さすがは金賞クラスの威厳だ。
「はい。これ、今日の議事録。ハッシー本当にお疲れ様。」
結花から、今日の生徒会の打ち合わせの内容を渡される。秋の文化祭、体育祭の議事録だ。
「今日から打ち合わせが始まったって感じ。」
とてもきれいな字で、議事録が書かれている。
正直言うと、結花の字ではなさそうだ。
「ああ。これ、実は八木原さんが書いてくれたの。」
結花がそう言いながら、笑って話す。
「そうなの。少し手伝ってくれることになって。議事録の方を書いてくれたの。すっごく丁寧で良い感じだったよ。夜のお店の準備ということで、輝君を待たないで帰っちゃったんだけど。」
葉月が補足する。
なるほど、早織も手伝ってくれるようになると、少し生徒会としてはありがたい。
「詳しくは夏休みが終わってからもしばらく準備することになるから、今は、コーラス部のお手伝いに専念してくれて、大丈夫だよ。
そういう意味で言うと、生徒会は夏休み期間は活動はないからゆっくり過ごしてね。」
葉月は笑顔で言う。
「はい。ありがとうございます。皆さんは夏休みの予定は?」
僕はみんなの予定を聞く。
「私はひたすら、勉強とか、遊びとかかな。結花もだよね?輝君も都合が合えば誘うね。」
「まあ、うちもそんなかんじかなぁ。」
葉月と結花はそんな感じで応える。
おそらく、史奈はバレー部の手伝いに気が向いたら行くだろうし。早織は店の手伝い。
そうなると、義信は。
「ああ。俺も、長期休暇中は、爺ちゃんと婆ちゃんの手伝いをしに行きます。というわけで課長、先ずはコンクールのピアノ伴奏、頑張ってくだせえ。」
義信はそう言って、ガタイがいい割にはものすごく威勢のいい顔で応える。
「義信君のおじいさんとおばあさんは、すごいんだよ!さっきその話で、盛り上がったんだけど。話を聞いていると、温泉街で、ホテルを経営していてね。露天風呂とかがあるんだよ。」
葉月が得意げになって言う。
「ええ。課長も是非、遊びに来てくだせえ。予約、押さえときますよ。まあ、夏休み期間中は、生徒会メンバーの人数だと、大方埋まっちゃっているのですが、冬休みや紅葉のシーズンも奇麗なので。」
義信の声のトーンはいつもよりずっと明るい。
ホテルのことは勿論なのだが、きっと、祖父母たちに愛されて育ったのだろう。
爺ちゃん、婆ちゃんというワードの時だけ、さらに声のトーンが上がるのが分かった。
「ああ、是非遊びに行きたいよ。」
「あい。ありがとうございます。」
義信はニッコリ笑顔で、それに応えた。
そして、加奈子は。勿論。
「私は、勿論、バレエかな。輝にお願いしたいことがあるんだけど。」
加奈子はそう言いながら、僕に歩み寄り。
いくつかの紙を渡す。
「県の合唱コンクールが終わった直後の日程で申し訳ないんだけど、私たちのバレエ教室の合宿に参加してほしくて。これ、しおり。」
ああ、何だ、そういうことか。発表会の本番ということだと、連続していてきつそうだが、合宿なら・・・・・。少し緊張もするが、内心はドキドキしていた。
これが加奈子からお願いしたいことのようだ。
「ああ。勿論、大丈夫ですよ。だから、心音さんたち日程調整してくれたんですね。」
「まあ、もともと、ここはコーラス部の練習も無いので、原田先生と調整して、誘ったんだけど。」
合宿の日程は、まさにコンクールが終わった直後の日付。7月末日から、8月3日までの日付が書かれていた。
少し忙しくなるが、特に問題はないし。引き受けることにした。
「ありがとう。輝。忙しい中、申し訳ないのだけど。合宿前に、一度、私たちのバレエ教室に来てくれると助かる。打ち合わせしたいから。」
そういって、加奈子は笑顔で言った。
勿論これにも頷く。
「忙しい中、ごめんね。心音たちのことも、私からもお礼を言わせてください。その代わり、夏休みの後半はかなりスケジュールが空いているからゆっくり過ごしてね。」
葉月がそう言って、加奈子と一緒に、頭を下げてきたので。
「いえいえ。大丈夫です。ありがとうございます。」
そういって、二人に頭を上げさせ、打ち合わせを終えた。
その後はいつものように他愛のない話、大方、コーラス部の様子を聞かれたが、かなり楽しく盛り上がり、生徒会活動は終了になった。
そうしているうちに、1学期の終業式を迎えた。
中間試験も、期末試験も10位以内に入っている僕の成績は、そこまで悪くなく。むしろ、上から数えた方が速い順位に入っているとのことだった。
「問題は、体育だな。保健とかの筆記、頑張れよ。まあ、お前ならやれると思うけど。」
担任の佐藤先生もそう言いながら、成績表を渡してくれた。
勿論、そんな話を笑いながら言っていたし、きちんと、佐藤先生のコメントも、『校内合唱コンクール、最優秀伴奏者賞おめでとう。生徒会の活動も含めて、2学期期待しています。』と書かれていた。
家に帰宅後、僕は1学期の出来事に、思いを馳せる。
最初はどうなることかと思ったが。
今年から共学になった元女子校に男子の僕が入学した。
飛び切りカワイイ生徒会メンバーと、ドキドキな関係になり、僕が今いる、この部屋でも、そして、部屋に置いてある、ベッドでも。生まれたままの姿を見たことがある。
バレエのコンクール、校内合唱コンクール。演説会。本当に恵まれた。
そのせいで、少し忙しい夏休みになるが、何もない方が僕にとっては窮屈な気がする。
そして、全て、僕のことを必要としてくれる人からの誘いだから、本当にありがたかった。
さあ、明日からはとりあえず、コーラス部のメンバーと県のコンクールに備えよう。
そう思って。僕はベッドに潜った。
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