5.新しい入学式
■改訂履歴
・初めて出てくる登場人物、固有名詞にフリガナを入れました。
桜が満開のこの時期。
僕は、高校の制服に身を包んでいた。
今日は高校の入学式だった。
今日までの出来事を少し遡ると。
助けた、妊婦さんの父親が改めて、伯父の家にお礼にやってきた。
「改めて、本当にありがとうございました。私は花園慎一と申します。」
慎一は改めて、名刺を差し出してきた。
名刺には、【花園学園理事長】と書いてある。
「あら、花園学園の理事長の方。どうも御足労頂きありがとうございます。」
伯母は、慎一を部屋に通す。
世間話をした後、慎一はこう切り出してきた。
「ところで、輝君は年はいくつでしょうか?」
「あ、あの、16歳になります。」
「珍しいですね。娘が倒れて、一緒に病院へ行ってくれた日は、確か、平日でしたね。学校とかは通信制の高校とかですか?」
と、慎一が切り出して来る。
しまった、学校の理事長がここへ来るとなると・・・・・・。これも話さないといけないのか。
「どうされたのですか?別に怒るわけではありません。貴方は娘の命の恩人ですし、今の時代、生き方は色々ありますから。」
慎一は僕に対して、優しい目をしてきた。この人は怒っているわけではない。優しそうな眼で、少し気になったのだろう。
正直に話してみようかな・・・・・。僕はそう思った。
ゆっくり、ゆっくり、ここまでの経緯を話した。
「なんと、そんなことが、許せませんね。その、安久尾という方は。」
慎一は少し考えた。
そして。
「輝君、どうでしょう。私ども【花園学園】に来ませんか?おそらく、1年次の初めで退学なさっているので、もう一度、この年、1年次をやり直す形にはなるのですが・・・・・。追加募集という形で、入学試験を実施しますので、どうでしょう。君みたいな、優しくて、優秀な生徒に来てほしいのです。」
慎一は、頭を下げた。
伯父、伯母は、願ってもみないチャンスだと思った。
僕も、また、安久尾みたいなやつに、いじめられそうだと、少し不安だったが、同時に、何か希望の色が宿ったそんな気がした。
「私がサポートしますよ。君は、私の家族にとって、命の恩人ですから。」
最後は、慎一の後押しで、一歩踏み出そうとしている僕が居た。
だが、その一歩がなかなか踏み出せなかった。
そこで切り出してきたのが伯父だった。
「輝。この際だからはっきり言わせてもらう。お前は十分この農家に役に立っているし、継いで欲しいと思っている。農家の資質は十分ある。だがな、農家を継ぐにはそれだけでは足りない。継ぐための条件を言おうと思った。」
伯父は言った。
「それは、何らかの形で良いから、高校を卒業すること。高卒認定だろうが、何でもいい。高校は出てもらう。今の時代中卒は厳しい。農家といってもいろいろな人と取引をするし、お金のこと、法律の知識も必要になってくる。いいか、これは願ってもないチャンスだ!!理事長先生もサポートするといっている。」
僕は熱意をもって諭す伯父の顔をしっかり見た。
「輝、もう一度、もう一度、行ってこい。何かあったら、俺達も力になるからな!!」
伯父は、そういって、僕の肩を叩く。
僕は、伯父と、伯母の顔を見合わせ、互いに頷いた。そして。
「はい。よろしくお願いします。」
と声をそろえて言ったのだった。
そうして、僕は、追加募集の入学試験を受験、英語、数学、国語の3科目だったが、手ごたえは十分あったし、面接試験も、慎一、つまり理事長が直々にやってくれたため、世間話をする程度に終わり、見事、合格通知を受け取ったのだった。
そうして、僕は、【花園学園】の門をくぐった。
久しぶりの高校だった。
一度退学になり、もう一度一年次から入学することにはなったが、本当に久しぶりだ。
クラス分け名簿を僕は確認する。
僕、【橋本輝】の名前は、1年B組の一番最後にあった。
珍しいな・・・・・。五十音順でも、ハ行で、最後だなんて。
学年に一人くらい、山本さんとか、渡辺さんとか、いるのだと思ったのだが。
僕はそう思いながらも、入学式に参加する。
理事長の慎一の挨拶、そして、担任の紹介。ここまでは順調。
そして、クラスに移動するが、ここで初めて、あることに気付く。
僕のクラスって、女子しかいない?男子は、僕一人だけ・・・・・。
入学式は、全校生徒の中に混じっていたので、あまり意識していなかったが、クラスに移動してみると、まさかの出来事に初めて気づく。
担任の先生に、教室に案内され、席について、あたりを見回すが、クラスメイトは全員女子だった。女子しかいなかった。
「えーっと、担任の、佐藤恵子です。科目は英語を担当します。名前を確認するので、出席を取りますね。」
担任の先生も女の先生だった。年齢は少し若く、30代、40代くらいの雰囲気だ。
佐藤先生は、出席を取っていく。
出席番号順に取っているようなので、僕は当然最後になる。
そして、佐藤先生はマ行の生徒の名前を読み上げる順番になった。
これですべてを察した。
このクラスで、男子生徒は僕だけだと言うことを。
おそらく、女子が出席番号上先に配置され、その後の出席番号に男子が来るのだろう。
つまり、男子で一人である、僕が必然的に出席番号が最後ということだ。
「橋本輝。」
先生に名前を呼ばれる。
「・・・はい。」
少し小さな声で、自信がなさそうに、緊張しているような返事をした。
先生は頷く。
「クラス唯一の男子だ。緊張しているかもしれないが、そのうち慣れるさ。よろしくな。みんなも仲良く接するように。」
先生は、そうまとめて、ホームルームを淡々と進める。
入学式初日ということもあり、今日は早めに終了となり、教室を出る。
教室を出るとすぐに、見覚えのある顔と接触し、安心する。
「やあ、輝君。初日はどうでしたか?」
理事長の、花園慎一が、声をかけてくれる。
「あ、あの・・・・。これは一体?」
僕は、正直な気持ちを理事長にぶつけた。
クラスに男子が僕だけしかいないという旨の質問をしてみた。
「あっ、ごめん。そうだ、君は確か、ほかの県の出身であそこの農家にいるのは、伯父さんと伯母さんでしたよね。そしたら、わからないですよね。すっかり地元出身だと思って、そういう理解をしていると思って声をかけてしまったのだけれど。」
慎一は、思わず声をあげていた。
僕の肩に慎一は手を乗せる。
「実は、花園学園の去年までの名称は。花園女子学園高等学校という名前でした。つまり、今年から男女共学になったのです。」
なるほど、男女共学に今年からなったのか。だからクラスに男子は僕しかいないわけだ。まだまだ、共学になった認知度が低いらしい。
「しかも、花園って、僕の苗字なのですが、なんか、女の子っぽい感じでね。だからね。男子の募集が少なかったので、男子のみ追加募集をしていたところ、君に巡り会えたということなのです。間違いないと思って、お誘いして、やっと、各クラスに男子が一人ずつ、揃ったのですが・・・・。そうでしたね。あまりこの経緯はお話していませんでしたね。申し訳ありません。」
慎一理事長は頭を下げる。
「あの、理事長は悪くないです。頭をあげてください。」
僕は、必死に、慎一に頭をあげるように説得する。
「どうですか?この高校でやっていけますか?」
慎一の言葉に、僕は少し考える。
少し考えたが、確かに、ここの高校で頑張ってみる方がいいのかもしれない。
ここに居れば、理事長のサポートも受けられる。少なくとも、僕の味方が一人いる。
しかも、高校の理事長という最高の味方が。
安久尾に退学にさせられた経緯を僕は振り返る。
地元での立場を利用し、安久尾に騙され、理事長も教師も、地域住民もみんな、僕の敵になって追い出されたじゃないか。
ここは、学校の責任者である、理事長が味方してくれる。
別の高校に行けば、安久尾のような人間と遭遇して、再び悪いことが起こるかもしれない。
可能性は低いが、一度、その経緯を経験している僕にとって、無いとは言い切れなかった。
その分、ここに居れば安全に高校生活が保障される。
女子と仲良くなるには、かなりハードルが高いが、勉強して、卒業すると言うことであれば、何の問題もない。
僕は頷いた。
「はい。もしかすると、理事長のサポートが必要になるかもしれませんが、勉強して、卒業すると言うことであれば、ここでやって行けそうです。このまま入学します!!」
僕は理事長に向かって、そう言った。
「ありがとう。出来る限りサポートします。僕を信じて。」
慎一は、僕の肩をポンポンと叩いた。
高校で初めて、優しいぬくもりに触れた。
そんな瞬間だった。
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