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44.放課後の屋上


 合唱コンクールを終え、教室に戻る僕たち、1年B組。


 「やったね。ハッシー。おめでとう!!」

 結花は教室に入った瞬間に声をあげる。


 「さっすが、橋本君。結花が見込んだだけのことはあるね。」

 「ホント、ホント、尊敬しちゃう。」

 結花の取り巻きたちが、そういいながら、僕に詰め寄る。


 クラスの仲間からも、僕に声をかけてくれる。

 何だろうか。やっと、クラスの仲間に認められたような気がする。


 それはそれは、次から次へと声をかける。


 そうして、一番最後に声をかけてきたのは、黒ぶち眼鏡をかけた少女。八木原早織だった。

 やはり、引っ込み思案な所があるのだろうか。


 「あ、あの。橋本君。」

 早織は少し緊張しながら、僕を見つめる。

 そして。


 「放課後、時間ある?その時に話そう。」

 早織は少し緊張しながら、小さい声で言う。


 「もちろん。」

 僕は少し笑う。


 そして、クラスメイト達に拍手に包まれて、僕の席に向かう。


 「よーし。みんなお疲れ。そして、橋本、『最優秀伴奏者賞』おめでとう!!あそこまでできるとは、本当に感動したぞ!!みんなもよく頑張ったな、賞はとれなかったが、来年はそれぞれ、優勝目指して頑張ってくれよな!!」

 佐藤先生はそう言いながら今日のホームルームを終わらせて、クラスを解散させる。


 「本当に、橋本君、すごかったね。」

 「そうだね。」


 クラスが解散しても、そんな声がクラス中から響く。


 「またね。橋本君。」

 「バイバイ。」

 そんな声が聞こえてきて、僕はクラスメイトひとり、ひとりに手を振った。


 僕も結花と一緒に教室を出る。

 生徒会メンバーで、合唱コンクールの片づけがあるのだそうだ。

 片付けといっても、すぐ終わる作業なので、この後約束をしている早織には少し待ってもらうように言って、足早に片づけ作業に向かった。


 会場となった、体育館に生徒会メンバーが集結する。

 といっても、花園学園の体育館は体育館棟といって、普段の授業で使う体育館は2階。

 1階部分はホールや講堂があり、ピアノも備え付けられている。故に椅子も備え付けられており、審査員席用の小さな机、足りないときのための予備のパイプ椅子、そしてマイクのコードを片付けて終了だ。

 ちなみに言い忘れていたが、この間の生徒会選挙の演説も、この1階のホールの部分で実施した。


 「やったね。輝君。最優秀伴奏者賞、おめでとう。」

 葉月は嬉しそうに言う。

 「うん。コーラス部のエースもこれには負けたと言っていたわ。」

 加奈子はそう言いながら僕に笑っている。


 葉月と加奈子は、金賞クラスの2年C組。ありがとうと、おめでとうを言って、すぐに片づけを終える。


 「係長、本当にすごかったっすね。これからは課長と呼ばせてください。課長!!」

 義信はそう言いながら、大きな声で、もう一度『課長』と叫ぶ。


 「ふふふ。おめでとう、昇進ね。」

 やはり史奈も手伝いに来てくれていた。

 ほっこりする片付けのひと時、僕はこの後、人を待たせているので、何だろうか、すぐに終わらすことができた。


 「それじゃあ。お疲れ様です。」


 「うん。お疲れさまでした。」

 そういって、僕は体育館、つまり、1階の講堂部分を後にする。

 

 


 僕は教室に再び向かう。

 早織が待っている。

 そして、放課後になって、しばらくしたからだろうか、早織の他に教室は誰もいなかった。


 「ごめんごめん。八木原さん。待った。」


 僕はそう言いながら、少しハアハアと息が上がりながら早織の名前を言った。


 「ううん。今みんな帰って、さっき私が一人になったところ。やっぱりコンクールの余韻に浸っていたんだろうね。」

 早織はそう言いながら笑っている。


 「呼び出してごめんね。」

 改めて、早織は頭を下げる。


 「そんなことないよ。用事の内容、話せる?少し待った方がいい?」


 僕の問いに、早織は少しドキドキする。


 そして、少し間を開けて早織の口からは。

 「うん。そうだね。場所変えたいんだけど、いい?」

 早織はそう言ってきたので僕は首を縦に振る。


 廊下を歩く僕たち。

 他のクラスの教室にはまだ、生徒が何人か残っているようだ。


 早織は少し緊張している。

 僕たちは校舎の階段を上がっていく。

 早織は人気のないところを探しているようだ。

 そうしてたどり着いたのは、屋上だった。


 屋上は空いていた。

 「すごい。始めてくる。」

 僕は少し感動する。

 本当にいい景色が広がる。

 遥かに霞む山々。雲雀川の流れ。市役所くらいしか高い建物がないからだろうか、遠くまで見渡せる。


 「私はよく来るかな。あまり人も来ないし、1人になりたいときとかに。」

 早織は笑っている。


 僕たちは屋上のフェンスまで進む。

 この場所は早織と二人きりだ。


 「その、改めて、橋本君。最優秀伴奏者賞、本当に、おめでとう。」

 早織はそう言いながら、少し照れたように笑う。


 「あ、ありがとう。八木原さん。」

 僕はそう言うと、早織の顔はさらに赤くなる。


 「あ、あのね、そして、新メニューも、本当にありがとう!!」

 僕たちは早織の店の新メニューも考えた。本当にそれはよかった。


 「ああ、あれね。喜んでもらえてよかった。」


 「あれから、お客さんも上々で、以前より売り上げも良くなったし、おじいちゃんも元気になってきているし。本当に、橋本君のおかげだよ。ありがとう。」

 早織は目に涙を浮かべながら嬉しそうに微笑んでいる。


 「ああ、そうなんだね。本当に良かった。」


 「だからね・・・・。その、えっと・・・・・・・。」

 早織の声が急に小さくなる。


 「どうした?大丈夫?」

 僕は早織の眼を、早織の瞳を追って、大丈夫かどうか聞く。

 彼女の瞳は少しきょろきょろ動かしている。緊張しているのだろうか。


 早織の顔がだんだんと赤くなっている。

 まずいと思った僕。


 「大丈夫?保健室に行く?」

 そういいながら僕は早織の手を取るが、次の瞬間。早織は僕の背中に両腕を回す。


 「私・・・・。橋本君のこと好き。」

 早織はゆっくり自分の気持ちで伝えた。


 「ずっと、こうしていたい。」

 早織はぎゅっと両腕に力を込める。


 僕もどうしたらいいのかわからない。

 しかし、葉月や史奈、加奈子に結花。彼女たちの顔が浮かぶ。

 まずい。早織の思いはありがたいが、ここは断らなければならない。


 泣き出してしまうのだろうか、心配だ。


 だが、生徒会メンバーを悲しませるのはもっと、心に傷を負ってしまう。


 我に返った僕は、慌てて、彼女の両腕を離そうとする。

 だが、何だろう、早織の力の方が強いのだろうか・・・・・・・。


 彼女の両腕が離れない。


 「いいよ、ハッシー。そのままで。」

 「ああ。そう。そうだよね・・・・・・。」


 僕はとっさの声に反応し、彼女の腕を離そうとするのを辞めたが、急に背中が震えだす。


 さっきの声は結花の声。

 そして。僕の周りには、結花は勿論、史奈に、加奈子、そして葉月が居た。


 驚く僕。

 早織も、周りにいる人物に気付いたのが急に我に返り、両腕を離した。


 「ご、ごめん。これには深いわけが。」

 僕はすぐにみんなに頭を下げる。


 「や、八木原さんごめん、気持ちは嬉しいけど、僕には・・・・・・。」

 僕は早織にも頭を下げる。


 「ふふふ。大丈夫よ。輝。許してあげるわ。気持ちを伝えただけだもんね。八木原さん。」

 史奈はそう言いながら、僕を優しそうに見つめ、早織の背中をポンポンと叩く。


 「そうだね。女の子はこういう時、恥ずかしくなるもんね。それに、今の言葉で、輝君の私たちの気持ちもわかったし。」

 葉月は笑っている。


 「うん。私も、八木原さんだったら、同じことするかな。私も、皆が居なければバレエの発表会からずっとそのままだったと思う。」

 加奈子も笑顔で笑っている。


 「というわけで、ごめんね。ハッシー、全部こっそり見ていました。ハッシーが教室に戻ってから一部始終を全部。」

 結花がウィンクしながら、僕を見つめる。


 「ああ、そうなの、ごめん。結花。」

 僕は結花に頭を下げる。


 「いいって、いいって、別に。これは八木原さんの気持ちだから。ハッシーが浮気しているわけじゃないし。それに、八木原さんがハッシーにプレゼントしたときから、うちらマークしてたんだよね。」

 結花はお互いの顔を見回す。


 そうして、頷く、史奈、葉月、加奈子。


 ポンポンと、今度は早織の肩を強くたたく。史奈。


 「というわけで、ごめんね、八木原さん。私たち生徒会メンバーも輝君のこと好きなの。そして、輝君に将来、誰をパートナーにするか決めてもらってるんだ。」

 てへぺろという感じで、ニコニコしながら言う、史奈。


 「八木原さんが、それでも輝君のことを諦めないというのであれば、私たちと一緒に、私たちのルールの中で、行動してもらおうかと思います。勿論、誰にも言わない前提で。」

 史奈はさらに続ける。何だろう、何か怖さを感じる。


 「えっ、えっ。」

どうしたらいいのか戸惑う早織。


 「八木原さんはどうしたい?このまま一緒に行けば、輝君と一緒になれるかもしれない。だめかもしれない。でも、ここは元女子校だし、男の子と出会うことなんて、かなり少なくなると思うよ。高校にいる間は私たちと、青春を一緒に楽しんでもいいんじゃないかな?ねえ。どうする。」

 葉月の提案に、さらに困惑する早織。


 だが、早織は最初こそ、戸惑っていたが、だんだんと冷静になっていく。


 「そ、その。私は、橋本君が好きです・・・・・・。でも、その。橋本君に選ばれたいです・・・・。だから、その・・・・・・。」

 早織の言葉を僕たちは聞く。


 「はい。決まり。それじゃ、これからよろしく。八木原さん!!」

 早織の言葉にいち早く反応した結花。


 史奈よりも強く、早織の背中をバシッと叩く。


 「えっ。きゃあ。」

 早織はその衝撃で前のめりになり、そして・・・・・。


 かけていた黒ぶち眼鏡が下に落ちる。


 「えっと、眼鏡。眼鏡。」


 その姿を見た僕たちは目を疑った。

 何だろう。僕の鼓動が速くなる。そのまま、瞬きもせずに立っていた。



 僕たちの視線の先には。

 清楚で、とてもかわいい、大きなクリクリッとした瞳をして、額にはニキビもなく色白の美少女だった。


 「えーっ。八木原さんマジ?」

 結花は驚く。


 「うっそ。八木原さん・・・・・。すごくかわいい。」

 加奈子はとても驚いている。


 「ふふふ。輝君、すっかり、惹かれているようね。私も負けないようにしなきゃね。」

 史奈はそう言いながら笑っている。

 葉月もそれに頷いている。


 「八木原さん、絶対、眼鏡外してコンタクトにした方が絶対いいよ。絶対!!」

 結花は得意げな表情で、早織に言った。


 「えっ。そ、そうなのかな・・・・・・。」


 「「「「うん。絶対そっちの方がいい!!」」」」

 生徒会メンバーが大声で揃った声が、屋上の空一杯に響いた。


 こうして、僕たちの輪に、1年B組、家庭科部員の八木原早織が加わった。



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●現在執筆中の別作品もよろしければご覧ください。

 1.忍者翔太朗物語~優秀な双子の兄だけを溺愛する両親のもとで奴隷のような生活をして育った忍者のお話~URLはこちら↓

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 2.元女子魔道学院に異世界転生した男子の僕が入学するとどうなるのか?※このシリーズの異世界転生編です。

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