42.バレーボール部の試合
期末試験明けの、7月最初の土曜日、さらに次の土曜日は2週続けて、登校日だった。
この日は模擬試験の受験。そして、次の土曜日は合唱コンクールだ。
授業時間を確保したいということなのだろう、こういう行事などは週末に実施する。授業ではなく、行事というくくりであれば話は別。生徒も教員もウィンウィンな関係だ。
だが、この日は模擬試験の受験ということで、先ほどの話とは別。少しダルさが残るクラスの雰囲気だ。
勿論、運動部で、土曜日となると試合の生徒もいるので、そう言った生徒は今日のような模試の場合は別日に受験するなど配慮されている。
僕たち1年次は、習ったところまでの内容が少し難しく出題される。
僕の方も若干間違えた個所はあるが、おおむね良好な感じがする。
「まあ、6割取れれば優秀さ。この時期はまだまだ、普段の勉強、予習と復習に力を入れる時期だ、頑張れよ。」
そういいながら、担任の佐藤先生は模擬試験後の僕たちに声をかけて、今日の登校日は終わった。
そして、次の日の日曜日。この日は生徒会メンバーと約束していた場所に行くことになった。
約束して集まった場所は、市の体育館だった。
バレーボール部の試合が行われている。
つまり、史奈たちの試合だ。
「運動部の試合の見学も生徒会役員としての大切な役割よ。私たちの生徒がどんなところで頑張っているのか見ないとね。」
加奈子は僕たちに言う。
僕と結花、義信はうんうんと頷く。
いくつかの学校が体育館に集まる。
すでに今日までに史奈たちバレーボール部は、いくつかの学校に勝ち上がってきたのだという。
僕たちは、見学席に案内され、試合を見る。
見学席からは保護者の応援が飛び交う。
本当に必死だ。
勿論、応援の生徒もいるようで、いくつかの応援団の姿もうかがえる。
1試合が終了する。
そして、電光掲示板には『花園学園』の文字が表示される。相手高校の名前もそれと同時に表示されるが。
結花と義信、そして葉月、加奈子までもが顔の表情が少し変わる。
彼らは少し緊張している顔の表情となる。
「大丈夫かなぁ。」
結花の声。
「大丈夫っすよ。元会長なら。」
義信がフォローする。だが義信の瞳の奥にも緊張感が漂う。
「弱気になっちゃだめですよ。頑張って応援しなきゃ。」
僕は、皆に声をかける。
「輝君。流石ね。ありがとう。そうだよね。」
葉月は表情が一変、明るい表情を浮かべる。
「そうっすね。係長。ホント、そうっすよね。」
義信も思いっきり気持ちを切り替える。
「ハッシー。そうだね。私も頑張るね。」
結花も少し前を向いたようだ。
それを見た加奈子。
「輝。ありがとね。私も、わかっていたことなんだけど。」
加奈子はそう言いながら、僕の肩をポンポンと叩く。
「輝は、高校からこっちに引っ越してきたから一応説明すると。」
加奈子の話によれば、今日の相手は、県内でも1位、2位を争い、全国大会常連の強豪校らしい。
史奈が、【大事な試合】と言って居たのも、今日のことのようだ。
なるほど、だから、皆少し緊張していたのだ。
だが、バレーボールのベンチに立つ史奈が見える。相変わらず、彼女はマネージャーポジションなので、画板をもって記録係をしているようだが、その表情はいつもの調子の史奈だった。
そして、ユニフォームに身を包んでいる、花園学園のメンバーも真剣そのものの表情をしていた。
それを見たら、僕たちの思い何て、吹き飛んだ。このチームを応援しないと・・・・・。
お互いに整列をして頭を下げて、試合が始まる。
25点先取で先に2セット取ったほうの勝ち。
やはり、相手は強豪校だけあってか、鋭いアタックをしてくる選手がいる。
僕たちはそのアタックに息を飲むが・・・・・・。
リベロポジションの人だろうか、ナイスレシーブを見ることができた。
そのタイミングで、同じようなポジションを経験している史奈。
「やった!!」
そんな息遣いでガッツポーズを見せる。
「すごいね。」
「本当。私ならあれ、手も足も出ない。」
葉月と加奈子のやり取り。
「うわぁ、マジでスゲー。私も助っ人やってたけど、あれは本当に。点を取られてもいいはず。」
結花が僕に話しかける。
僕は頷く。
・・・・・・。頑張れ・・・・・・。頑張れ・・・・・。
僕は心の中で、そう叫ぶことしかできなかった。
加奈子も同じで、声には出さず、無言で、楽しく、真剣にその試合を見届ける。
だが、やはり、相手は流石強豪校。同じような手は仕掛けないようだ。今度は先ほどのアタッカーではなく、別の人のアタックが入る。
ブロックで阻止しようとするが、見事に決められて相手に点が入ってしまう。
「頑張れ。食らいつけ!!」
史奈の真剣な声。
体育館で響くのだろうか、それ以外にも、選手の声が響く。
「はーい。」
「こっちこっち。」
そんな真剣な声が響く。チームプレイ。
そんな力が実を結んだのか、こちら側にチャンスが回ってくる。
そして。
見事に決まって、点が入る。
「やった!!」
「決まった。」
僕たちは互いに手を取り合い喜んだ。
この時は、僕も加奈子も、声を出して喜ぶ。
そうして、競った試合を展開する。
本当に、史奈の声出しが良かったのか、花園学園バレーボール部は、強豪校相手に、食らいついて行った。
長いホイッスル。
21-25。相手高校に1セット目を取られてしまう。
コートチェンジをして、2セット目。ここで相手高校がこのセットを取れば、相手高校の勝ちだ。
だが、全国の常連に、ここまでしぶとさを見せるのも勇気が要ることだろう。
「次のセットも同じようなテンションで、いければワンチャンあるかも。」
結花が興奮した状態で、次のセットを見届ける。
それは、僕はピアノ、加奈子はバレエの芸術系出身者の二人にとって、解説をしてくれているようだった。
結花の言葉に僕と加奈子はお互い顔を見合わせる。表情が少し和らぐ僕と加奈子。
だが、すぐに無言で見届けることになった。
後半まで体力が持つか、スタミナが持つかどうか・・・・・・。
すぐにその心配事は杞憂に終わる。
次のセットも、花園学園は、県内の強豪校について行っている。
「本当に、瀬戸会長。すごい。」
葉月はそう言いながら、試合を見届ける。
僕は葉月の方を向いた。
「数年前まで、この高校と相手をすればかなりの点差で負けていたのに・・・・・・・。今は少しずつではあるけれど競った試合を展開できる。瀬戸会長が入ったからなんだよね。ああいう、明るい性格、皆をまとめられる性格。身長の低さとかいろいろな要因で、レギュラーは掴めなかったけど、すぐに切り替えて、生徒会長に立候補して。バレー部の皆も、そういう瀬戸会長の性格があったから、すぐに推薦人になって。」
葉月は僕に説明する。
「バレー部は、ここ数年で、一番進化した部活なんだよ。だから、皆から認められて、選挙で当選できた。本当に、生徒会長になってくれて私も感謝しているんだ。」
葉月の口元は笑顔だったが、同時に史奈に対する、うらやましさもあった。
なるほど。確かに、彼女たちは楽しそうに試合をした。
そして・・・・・・。
長いホイッスルが鳴る。18-25のスコア表示。
「ああ。やっぱり、最後はスタミナが相手の方が上手だったね。」
結花はそう言いながら笑顔でうなずき、拍手をしていた。
まさにそうだった。結花のいう通り、18点まではとったり、取られたりを繰り返していたが・・・・・・。
そこから、スタミナが尽きかけてきたところを相手に一気にたたみこまれ、連続で点を取られて、ゲームセットという流れだった。
「負けちゃったけれど、良かったね。」
葉月の言葉に僕は頷く。
こういう負け方は悔しいだろうな、と思い、僕は無言で見届けていた。
加奈子も同じように息を飲み、深呼吸していたが。
「かなり見ごたえのある試合だったね。」
そういいながら、笑顔で見つめる加奈子。
「どう?これが、花園学園の部活。他にもいろいろな所で頑張っている人がいるから、生徒会役員として、ばっちりサポートしないとね。」
葉月はウィンクしながら、僕たちに語り掛ける。
「そうっすね。」
義信が悔し涙をこぼしながら言った。
「はい。頑張ろう!!」
結花も切り替えが速いのだろうか、すごく元気に頷く。
僕たちは応援席を後にして、体育館から出てくる史奈を待った。
今日は現地解散になるらしい。
やがて、史奈が体育館から出てきた。
「お疲れさまでした。瀬戸会長。」
葉月は声をかける。
「「「「おつかれさまでした!!!」」」
僕たちは声をそろえて言った。まるで運動部のよう。
「あらあら、来てくれたの。ありがとうね。負けちゃったので、あまりいいところを見せられなかったのが、残念だわ。」
史奈がそういうと。
「そんなことはないですよ。」
僕が史奈の肩をポンポンと叩く。
皆も頷く。
「はい。強豪校を相手に立ち向かっていく姿は感動しました!!」
義信がそう言いながらガッツポーズを見せる。
「そう。よかった。ありがとうね。みんなに伝えとくね。」
史奈はそう言ったのちにゆっくり深呼吸して、ため息をつく。
「ふう。」
大きなため息。見ていてなんだかうっとりしてしまう。
「これで私も引退かあ。」
史奈はそう言いながら、全ての疲れが抜けたように、僕にもたれかかってきた。
「「「「あっ。」」」」
結花、葉月、そして加奈子が同時に声を漏らす。
義信はそれを見て笑っている。ニヤニヤと。
「ちょっと会長。ずるくないですかぁ~。」
葉月がそういうと。
「春高の県大会まで残らないんですか~?残る人も居るって聞いてますけど。確か、まだまだ、先ですよね?春高って。」
結花が質問してくる。
「春高って?」
春高という意味を知らなかった僕は結花に聞く。
「ああ、バレーの大きな大会。全国大会が1月くらいで、県大会が11月くらいかな。それまで残る3年生もいるって聞いてるんだ。」
結花はそう言うところには詳しい。おそらくそういう友達がいるのだろう。
「よく知ってるね~。でも私はぁ~。マネージャーの記録係だしぃ。もう引退~。」
そう言って、史奈は両腕をさっきよりもきつく僕の背中に回してくる。
まるで、肩の力が抜けたような史奈。少しドキドキする。
それが顔に出たのだろうか、僕の口元が少し緩む。
「そんなこと言っても、絶対に生徒会もバレーボール部も顔を出すんですよね。暇だからとか言って、一緒にサポートしたりして。まあ、私たちにとっては、文化祭のサポートとかいろいろやってくれるので、ありがたいのですけど・・・・・。ほら、輝もドキドキしているし・・・・・・。」
加奈子は複雑な顔で言う。
「うんうん。ピンポーン。よくわかったね~。加奈子ちゃんがそういうし、生徒会もバレー部も顔出しちゃおう。そして、輝君から、今日も元気をいただきましたぁ。」
立ち直りの速い史奈。
「よかった。少し安心しました。」
僕は史奈に向かって言う。
「ふふふ。ありがとう。輝君。」
史奈はウィンクで応える。
「「「あ~。」」」
「やっぱりずるい。」
「はい。」
「ずるいです。」
葉月、加奈子、結花の声がそろう。
そういいながら、夕暮れの帰り道を僕たちは足早に駆けて行った。
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