38.練習の成果と最後の課題
早織は、自信をつけて、僕の家を後にしていった。
それと同時に、葉月、加奈子、結花も僕の家からそれぞれの家の帰路に就く。
やはり、自分の家で授業の予習などを行いたいようだ。
いつもの南大橋手前まで、皆を送って行き、僕も家に戻り、次の週の予習をして、今週末の予定を終わらせた。
再び、新たな1週間が始まる。
次の期末試験に向けて、淡々と勉強をこなす日々。
そしてまた、音楽の授業に入る。
授業内容は勿論、『合唱の練習』だ。いよいよ、結花の練習の成果が試される日。
みんな全員、列に並んで、歌いだす瞬間を今か、今かと待ち構える。
それを正面で見る。結花。
ものすごく緊張している。様子がうかがえる。
「大丈夫。大丈夫。結花が動かないと何も始まらない。みんな、私についてきなさい!!という気持ちで良いからね。」
結花の傍で、ピアノの準備をしている僕。
結花はこくりと頷く。
「い、行くよ、ハッシー。」
結花は僕に合図をくれる。
淡々と指揮を振る結花の姿。
何もわからないときよりはいい動きをしている。
だが、クラスが結花の指揮になれていないのだろうか。若干曲の入るタイミングがずれている人が何人かいる。
やがて、曲が終わる。
初めての指揮ということに関しては高評価だろう。
だが、クラスのほとんどが、おそらく、途中から結花の指揮ではなく、僕のピアノに合わせてはいった感じがする。
「よしよし。橋本君は合格だね!!北條さんは、雰囲気はものすごくいいんだけど、最初の入りをわかりやすく指示してみようか。今だとみんな橋本君に合わせに言っている感じがするから、本当は指揮がリードして、ピアノや合唱もそれに合わせないとなんだけどね。頑張ってみて。」
音楽の藤田先生は結花に優しくアドバイスをする。
結花は、藤田先生のアドバイスに耳を傾け。
自分なりに、修正していった。
だが、結花の指揮で揃って入るためには、もう少し練習が必要だった。
そんなところで、今日の合唱練習は終了。
「今週は、ここまで。来週はもう少し揃えられるといいな。まあ、でも大丈夫。北條さんも橋本君も今週もう一度あるから、そこで2人は特訓しましょう。」
と、藤田先生はそう言いながら、笑顔で今日の授業を終わらせた。
「ハッシー。どうしよう。ダメだったぁ~。」
結花は肩の力を抜いて、僕のもとへと駆け寄る。
「大丈夫。初めてにしてはよく頑張ったよ!!そしてごめん。ネタ晴らしするけど、藤田先生も言っていたように、入りを揃える。皆の演奏を揃える、これが最後の課題なんだよね。」
僕はそう言いながら、結花の肩をポンポンと叩く。
「えっ。そうなの~?」
結花は少し安心した。
「そうだね。とにかく、初めてにしては上出来だったよ。橋本君も良く、ここまで北條さんを教えられたね。流石は、ピアノコンクールの優勝者ね。」
藤田先生は笑顔で言う。
「あとは、私と一緒に北條さんを指導できれば何とかなりそう。クラスも賞を取れるし、二人なら、最優秀指揮者賞と伴奏者賞だって狙えるわね。今週の次の授業で、特訓しましょう。」
藤田先生は意気込んでいる。
その口調に、結花の表情が緩む。
そして、今週、2回目の音楽の授業。
1年B組のクラスの人数が少し減っている。
それもそのはず。言い忘れていたが、クラス全員で合唱の練習をする、音楽の授業は、【総合学習】という科目の授業だ。
本来の音楽の授業は【芸術】という教科で、その中から、【音楽】と【美術】と【書写】が選択でき、クラスの残りの人数は、この時間は【美術】と【書写】の授業を受けている。
つまり、今日が本来の【音楽】の授業。
ちなみに、【総合学習】は学期やテスト期間ごとに、やる内容が変わり、1学期は、生徒全員に校歌を覚えて欲しい、という狙いから、校内合唱コンクールに向けての音楽の時間となっている。
なので、藤田先生はこの時期はとても忙しいようで。
「合唱コンクールが終われば、スケジュールに余裕ができているから、お姉ちゃんや茂木先生と一緒に橋本君のピアノ指導も見てあげられるかな。まあ、2学期も、部活がいろいろあるから、少ししか無理かもしれないけど。」
藤田先生はそう言いながら、笑っていた。
「さて、1年生のこの時期なので、今日は、少数精鋭で合唱コンクールの練習をするよ!!【美術】や【書写】の子たちをリードしてあげなきゃね。」
藤田先生はそう言いながら、先ずは、パートごとに集まって、各自で練習するように指示した。
僕のクラスにも、コーラス部や吹奏楽部など、音楽系の部活のクラスメイトがいるようで、パート練習は、そのクラスメイト達がパートリーダーとなって、中心にやってくれている。
「さてと、橋本君と北條さんは私と、最後の調整ね。」
藤田先生はそう言いながら、結花の元へと駆け寄る。
「北條さんの課題は、皆の演奏を揃えることだけど。これは、本物のプロの指揮者でも難しい。でも、簡単な解決策があって、最初の入りをわかりやすく合図すること。これで、大体行けるかな。」
藤田先生は僕の方を見る。
「北條さんも、ものすごく知っていると思うけど、橋本君はピアノって、上手い方、下手な方?」
藤田先生は、わかり易そうな表情で、結花の瞳を覗き込む。
「もちろん。上手い方!!」
結花は即答。
「そうだよね。だから。最初の前奏や間奏は、橋本君に任せちゃおう。任せちゃっていいんだよ。橋本君、弾いてみてもらっていい?」
僕は頷き。藤田先生は合図を出す。
僕は前奏を弾く。
前奏の部分は指揮を振らない藤田先生。
そして、最初の入りの部分から、指揮を振り始める藤田先生。
「こんな感じで。北條さんも前奏を聞いていいんだよ。そして、わかりやすく、皆に指示を出す。」
「おおぉ。」
結花は目を丸くする。
藤田先生の教え方はまさに完璧だった。
おそらく、僕も指揮を振るときは、最初の前奏は伴奏者に任せて、入るところから指揮を振り始める。
結花も同じように実践する。
僕は何度もピアノを弾く。
まだまだ、修正できそうな部分はあるが、前回よりも大分良くなった。
「よし。すごく良くなったよ。それじゃ、みんなで、合わせてやってみようか。」
藤田先生は集合をかけて。みんなを集めた。
一呼吸入れて、緊張の瞬間が訪れる。
結花の合図は前回よりも、わかりやすかった。
前奏を弾く僕。
彼女の緊張している表情はそこにはなく、僕のピアノ伴奏を心から楽しんでいる様子だ。
みんな行くよ。という表情に変わり、一気に歌い始める。
課題曲も、自由曲も本当に声がそろってきた。
みんな拍手をする。
「結花、すごく良くなったよ!!」
結花の取り巻きたちが発言する。
「うんうん。よくできました。これなら、今、ここに居ない、【美術】や【書写】を受けている子たちも、全員で歌うことができると思うよ!!」
藤田先生も太鼓判を押すような一言と表情だった。
そして、この授業は終わる。
「ハッシー、やったよ。見てた、見てた?」
結花は飛び上がるような動きと表情を見せる。
「うん。とても良かった!!」
僕はそう言いながら、結花とハイタッチする。
「お疲れ!!」
「うん!!」
何よりも今日の功労者は藤田先生だろう。
「先生、ありがとうございました。」
結花は元気よく、お礼を言った。
「あ、ありがとうございました。」
それにつられて、僕も藤田先生にお礼を言った。
「良かったね。初めてにしてはとても良かったよ。橋本君もここまで、良く教えられたと思うし、橋本君の指揮も見てみたいな!!」
藤田先生はそう言った。
さあ、本番までもう少し、この授業以外にも、僕と結花は、また再び、週末、僕の家で練習をすることになるのだろう。
結花の顔が自信に満ちているのが分かった。
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