35.定食屋の事情
森の定食屋での昼食のひと時。
店員のアルバイトをしている、クラスメイトの早織がデザートを運んでくる。
デザートが運ばれてくると葉月も結花も驚いている。
「マジ映えんじゃん!!」
結花は早速写真を撮って、SNSでアップロードしているようだ。
デザートはチーズケーキと季節のシャーベットだった。
どれどれ・・・・・。
僕も一口食べてみる。
するとどうだろう。まさに、絶品。心に染みる。ほっぺたが落ちるとはこのことのような気がする。
「すごくおいしい。」
僕は素直に、本当に素直に感想を言った。
「本当?嬉しい。まだ、デザートしか任せてもらえてないんだけど・・・・・。もっと頑張ってみようかな・・・・・。」
八木原さんの言葉に僕たちは驚愕する。
「デザートしか任せてもらえないって・・・・。」
僕はまさかと思った。それは葉月と結花も同じだ。
「これ、八木原さんが、自分で作ったの?」
葉月は驚きの表情を隠せない。
「そうだけど・・・。ごめんね。なんか。気を悪くしちゃったかな?」
早織は僕たちに向かってうつむいてしまう。
「「「全然違うよ。むしろその逆!!!」」」
僕たちの声が一斉にハモる。
「八木原さん、こんな才能があったんだね~。」
結花が驚きを隠せない表情をしている。
「うん。とてもおいしかった。」
僕はそう言いながら、早織に笑顔で言う。
「あーあー。また身近な誰かに負けちゃった~。料理だけは、誰かのサポートするという意味でも、自信があったのになぁ。」
葉月は少しため息。
確かに、葉月もクッキーを作ったりして持ってきてくれる。
そういう意味で、とても悔しい思いがあるのだろう。
「葉月のクッキーもすごくおいしいよ。また食べたい。」
僕は少し慰めるように言った。
「本当?それならまた作って持ってこようかな。」
葉月は少し表情が柔らかくなる。
「ふふっ。御世辞じゃないよ。みんな、正直な気持ち。」
結花は早織の手を取り、笑顔でうなずく。
早織も、「ありがとう。」といって。結花の手を少し握った。
「でも・・・・。自信がなくて・・・・・。」
早織は結花の手を離すと、少しうつむいたように言った。
どうしたのだろう。こんなにすごいデザートが作れるのに、一体どうしたというのだろうか?
「そんなに悲しまないでよ。本当に美味しかったよ。あーあー。私も本当に、毎日のように料理するけど、八木原さんには及ばないよ~。」
葉月はそう言いながら、少し彼女を妬むような気持もあったが、素直な気持ちを伝えた。
「私から見れば、花園先輩がうらやましいです。いつも楽しんで、料理をしているんだなぁと。」
早織はそう言いながら、掌を裏返して、僕たちに店の雰囲気を見るように促す。
僕たちは早織の手の方向を意識して、早織に促された方向を見る。
店内すべてが見渡せる感じだ。
「どうしたの?」
「どこも変わっていないように見えるけど・・・・・。お店の雰囲気もいいし。」
葉月と結花が素直に感想を言う。
僕も同じ感想を最初は持った。
だが、早織は表情を暗くする。
そうすると僕は、何か店の雰囲気に違和感を感じる。
何だろう。この違和感・・・・・・・。
あっ。と僕は気付く。
そういえばこの店。僕たちが入ってきてから、僕たち以外、他の客の姿を見かけていない。
誰も入店してこない。
週末土曜のお昼時、こんなに美味しい店なら、誰か来てもおかしくないのだが・・・・・・・。
僕はそれに気づき、表情を変える。
「そうだね。こんなに美味しいのに、もっとお客さんがたくさん来てもいいのに。」
僕は早織に向かって言った。この店の悩みの核心に触れるので、なんとなく、細心の注意を払いながら僕は言った。
僕の言葉に葉月と結花は目を見開く。
「言われてみれば確かに。」
「そうだね。しかも今日は週末よ。もっとお客さんが来てもいいのに。」
「・・・・うん。ありがとう。みんなの気持ちがわかって、すごくうれしい・・・・・。」
早織は少し涙目になる。
僕はそれを見守る。そして。
「良かったら。話してみない。ここに座ってさ。」
僕は早織を席に座らせるように促す。
僕たちが座っているテーブルは4人用のテーブル。
僕と葉月と結花の他にもう1人着席することができる。
「・・・・。あ、ありがとう。クラスの子だから。大丈夫だよね。」
早織は僕たちのことをお客さんと思っているようだが。
「もち。クラスメイトとしてお話をきくよ~。」
結花がそう言って、早織を席に促す。
早織が頷き席に座らせる。
「このお店はね。ママと、おじいちゃんと、おばあちゃんが切り盛りしているといったよね。」
早織の言葉に、僕たちは頷く。
「以前はね。お客さんがたくさん来て、それこそこの時間は外に入りきらないくらいの人がたくさん来たの。それこそ順番を待ってもらって。」
早織は以前の様子を楽しそうに話し始める。
僕たちもその様子を容易に想像できる。
このお店はとても内装もよく、料理も本当に美味しい。たくさんのお客さんがこの席に座って、たくさんの料理を食べたのだろう。
「10年位前にはテレビでも放映されて、本当に。おじいちゃんも、おばあちゃんも、ママも。楽しく料理を作ってた。」
納得だ。本当に納得だ。
「でもね。」
早織の表情が暗くなる。
「・・・。おじいちゃん、病気で倒れちゃって、入院しちゃったの。」
早織は一気に涙目になる。
「「「あっ。」」」
と驚く僕たちの表情。
「本当はすぐに戻れる予定だったの、でも、その病気が引き金で、次から次にいろいろ悪いところが出てきちゃって。結局1年過ぎちゃって。」
早織は少し涙目ながらも、頑張って話す。
「・・・・・・。」
僕たちは何も言うことができない。
「おじいちゃんはね。京都の料理屋で若いころは修業をしていて。職場のホテルでおばあちゃんと出会って結婚して、和風、洋風の合わさった定食屋を開いたんだ。だからね。おじいちゃんが倒れてから、‘この店の味が変わった、特に和食。’そんな口コミが多くなって。それと比例するように。
‘待ち時間が長い。’という口コミも広まって。おじいちゃんが元気だったころは稼働が速かったんだけど。」
なるほど、それは大きな痛手だ。
「そして、どんどん、客足が減っちゃって。バイトの従業員さんとかいらっしゃったんだけど、売り上げも減って、給与も減って、次々辞めちゃって。こんなになっちゃった。以前はメニューももっとたくさんあったんだよ。」
ああ、そういうことか。
この店の悲しい現実を目の当たりにする僕たち。
確かに、早織の腕前は本当に見事だ。だけど、結果というものは重くのしかかってくる。
腕が見事でも、先代と比べられてしまえば・・・・・・。
「私も、頑張って練習しているんだけど。お弁当、自分で作ったりして・・・・。そういう意味で、家庭科部に入って、家庭科部でもいろいろ料理したりして。」
早織はそう言いながら、うつむいた表情になる。
「すごい。お弁当も自分で作れるんだね。」
僕が早織に言うが、どうしよう。何の励ましにもならない。
「ありがとう。」
早織は元気がなくそれに応える。
「うん。それに家庭科部に頑張っている子が入ったって、誰かが言ってたな。」
葉月はそう言いながら、早織を見る。
早織は少し自信を取り戻したように思えた。
「ねえ、ねえ。輝君。」
葉月が僕に向かって言う。
「輝君の家で何とかならないかなぁ・・・・・・。」
葉月が僕に向かって言った。
結花がひらめいたように僕を見る。
「そう、そう、そうだよ。ハッシー。ハッシーの家なら、畑の野菜とかいっぱいあって、新メニューとか作れそうな気がするよ!!」
ニコニコしながらの結花の提案に、その手があったかと思う、僕たち。
「僕たちで、何とかなるかもしれない。頑張ろう。八木原さん。」
僕は早織に向かって言った。
「本当?ありがとう・・・・・。」
早織は少し希望の光が見えた。そんな表情をした。
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