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33.結花の次なる課題


 週末の土曜日は久しぶりに何もない一日になった。

 いつもは加奈子のバレエの練習のため、一日中バレエスタジオに顔を出すことになっていたのだが、コンクールが終わり、次の曲が決まり次第しばらくお休みということだ。


 ということで、僕の家に結花と葉月がやってきた。

 史奈は部活。加奈子はバレエの次のレッスンのためのミーティングということで、あとから合流することになる。


 結花が来た目的は一つで、指揮の練習だ。

 葉月も一緒に付き合う。


 「今日はみっちりできそう。」

 結花はそう言って、ご機嫌だ。


 まずはスマホを取り出し、今までの復習から。

 動画サイトにある音源に併せて、指揮を振っていく。

 というより、基本の段階なので、僕が教えた錨の模様を夢中で描く結花の姿がそこにある。


 「うん。自由曲はこれでOK。そしたら次は校歌だね。」


 僕は基本ができてきたようなので、次は課題曲、校歌の指揮。


 「ヨッシャ―!!」

 結花の嬉しそうな表情がうかがえる。


 「校歌も、基本的には、同じで問題ないんだけど。実際に歌ってみよう。というよりピアノがあるので、実際に伴奏してみようかな。葉月、1人で歌える?」

 僕は葉月に声をかける。


 「自信ないけどやってみる。」

 葉月はそう言いながら、ピアノの前に立つ。


 「じゃあ、結花、ちょっと待っててもらっていいかな。」


 僕は葉月に耳を貸して、というサインを送る。


 「僕のピアノに併せて歌ってもらっていい?結花の指揮はとりあえず無視して。」

 「OK、頑張ってみる。輝のピアノなら心強い。」

 葉月はうんうん。と頷く。


 「じゃあ。同じ要領で、やってみようか。合図は指揮に合わせるのでいつでもどうぞ。」

 結花は、同じように錨の模様を描くように指揮を振った。


 僕は校歌の伴奏を弾き、葉月も実際に歌う。


 どうだろう。

 案の定。結花は困った顔をしている。

 だが、要領は掴めてきているようだ。


 「ハッシー。何で、あたし、腕を振るのが速くなってる。」

 そういいながら、結花は僕の伴奏と葉月の校歌に最後までついて行った。

 結花の不満そうな表情も伴奏を弾いている間は無視する。


 校歌の伴奏を最後まで弾いた僕。

 不満そうな結花がそこにいた。


 「なんで?なんで?手の動き、なんで早くなるの?ハッシー、止めてくれないし―。」

 結花は不満をぶちまけるが。これも想定通り。


 「そうだよね。実はこれは想定通り。実際にやってみて気づいてもらいたかったから。」

 僕は不満そうにしている結花をなだめる。


 「一体どういうこと?」

 結花は僕の顔を見る。


 「結花はテンポってわかる?単純に言えば曲の速さ。」

 僕は結花に聞いてみる。


 「わかる。」

 結花は頷く。


 「そしたら、課題曲は、自由曲よりも、テンポは速い?遅い?」

 僕はさらにクイズを出す。

 さっき指揮を振ったからわかるだろう。


 「は、速い。」


 結花は即答。少し緊張しているが、さっきの実体験があるからすぐに答えられる。


 「正解。」

 僕は頷く。


 「つまり、テンポの速い曲は、それに比例して、腕の振り、つまり指揮の振りも早く振らないといけないんだ。さっき、無理やりにでもついて行ったからすぐできるはずだよ。少し早く腕を振ることを意識して。」


 「ああ~。」

 結花は僕の説明に納得のいく表情を見せた。


 「わかった。ヨシッ。ハッシー。もう一回やらせて~。」

 結花は僕の言ったことに気を付けながら、今まで身に着けた指揮の動きを少し早く振った。


 それに合わせて校歌の伴奏をする。

 葉月も今度は結花の指揮に併せて歌った。


 「ね。曲になったでしょ。」

 伴奏が終わり、葉月も校歌を歌い終わると、うんうん。と楽しそうな表情をしていた。



 「すごい。すごい。すごいよ。ハッシー。本当にありがとう。これで合唱コンクールで指揮ができる。」

 結花は飛び切り笑顔になる。


 「うん。自由曲で基礎を実践した分、課題曲はこれで合格だね。だけど・・・・・・。」

 僕は少し表情を変える。


 「だけど・・・・・・。」

 結花が聞く。


 「まあ。コンサートとかで、片手で、ずっとさっきの錨の模様を描き続ける指揮者はまずいないかな。結花も見ててわかるんじゃない。」


 結花は頷く。


 「あ~。そうだね。確かに。両手を使っている先生とかがほとんどだったー。」

 結花は気付いてくれたようだった。


 「そうだね。もっと気づくところはない?中学校までのクラスで歌を歌ったときとか、吹奏楽部とかの演奏を見に行ったときとか。そうだな。結花だったら、好きなアイドルのコンサートに行ったときとか。まあ、好きなアイドルはダンスだけど、ダンスを見てて思ったことはない?」


 「指揮?ダンス?なんで、ダンスが出てくるの~。」

 と、疑問に思う結花。

 

「まあ、指揮とダンスは違うけれど、音楽の基本的なものは変わらないので具体例を出したのだけど。」

と、僕がアドバイス、ヒントを出す。


 「あっ。そういえば、曲のサビとか、盛り上げるところとか、大きく腕を振ったり、体を使って、ダンスの人も動かしていたような気がするー。」

 結花が突然ひらめいたように言った。


 「ピンポーン!!大正解。そうだよね。大きく出て欲しいところは、大きく腕を振ったりしてたよね。そして、プロの指揮者になると、腕だけでなく。こーんな感じで。」

 僕は少し指揮の動きをする。

 腕だけでなく、全身で表現してみる。


 「あっ。あっ。すごい。ハッシー。本物の指揮者みたい。」

 結花はとても感心した表情だった。


 「そうだね。ということで、結花の次なる課題は。この部分。指揮を使って表現してみよう。ということだね。」


 僕は結花に優しく語り掛けた。


 「ヨーッシ。頑張るぞー。」

 結花は張り切っている。


 「まずは、さっき描いた、錨の模様を、手だけでなくて、全身で描くイメージを持つ。そして、それを頭の中、心の中、体の中で感じながら。こんな感じで。1、2、3、4。2、2、3、4。・・・・・・・・・。」

 4拍の中で腕を回したり、体を傾けたりというような動きを見せる。

 そして。


 「だんだん、大きく、盛り上がっていくよ~。」

 僕は言った通り、大きく腕を回したりして見せた。


 「すごい。すごい。ハッシー。私もやってみる~。」

 結花はそう言いながら、僕と同じように腕を回したり、体を揺らしたり、4拍のリズムの中で上手に動きが取れるようになってきた。


 僕は指を立てる。


 「それじゃ、僕の伴奏に合わせてやってみようね。盛り上がるところとか注意して。やってみよう。」

 僕はそう言って、課題曲の校歌。自由曲の『瑠璃色の地球』を弾いていく。


 だんだんと基本が身についてきたな。

 僕は手ごたえを感じる。


 結花もだんだんと笑顔を見せるようになり、僕もそれにつられて表情を軽くする。さらに曲調が柔らかくなる。

 「うん。よくできました。」


 「ありがとう!!ハッシー。指揮。出来る気がする。」

 結花は得意げな表情を見せる。

 自信を持ってくれたみたいだ。


 「よかった。まあ、表現に関しては、いろんなやり方があるし、正解はないので、曲を聞きながら、自分なりのやり易い動きをいろいろ試して、見つけてね。これが出来たら、最終段階に行きましょう。」

 僕はそう言いながら、今日の練習を終え、ピアノ、つまり電子キーボードの電源を落として、楽譜を片付ける。


 「うん。輝君。教えるの上手ね。私も見てて、指揮。やってみたくなっちゃった。」

 葉月も見ていて楽しそうにしていた。


 「葉月はやらないの?生徒会メンバーだし、まとめるのも上手いし、もっと言うと、加奈子も。加奈子こそ、表現ができる子だと思うんだけど。」

 

 僕の質問に、葉月は笑顔で首を振る。


 「大丈夫!!うちのクラスにはコーラス部のエースがいるから~♪だから負けないよ♪」

 葉月は得意げになって葉月、つまり加奈子のクラスの自慢をする。


 「そうなんだ。それは楽しみだね。」

 僕は緊張もあるが、もちろん楽しみな部分の割合が多かった。


 そして、葉月は勢いよく、僕に近づく。

 「とにかく、輝君。お疲れ様。ピアノもよかったよ。頑張った輝君の指。きれいにしてあげるね♪」

 葉月はそう言って、僕の右手の指、一本、一本を葉月の口の中に入れる。


 「あ~。ずるい。あたしも~。」

 結花も近づき。僕の左手の指を、葉月と同じように、一本、一本、結花の口の中に入れた。


 「ふふふ。どうもありがとう♪」

 そういいながら、葉月は僕の唇に彼女の唇を重ねる。

 「あたしも、本当にありがとう。」

 結花も同じように僕の唇に結花の唇を重ねる。



 ふう。とため息をついて。僕は笑顔になる。

 少しドキドキしたが、そうだよな。ここは、僕の家、つまり、伯父の農家の離だった。


 そんなこんなで、時間が過ぎて、お昼時を迎える。


 「折角、葉月も結花もいるしどこか食べに行かない?」

 僕は提案すると。


 「「賛成!!」」


 葉月と結花は笑顔になる。

 僕たちは早速、離を出て、自転車をこぎだした。

 


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