21.演説会本番
さて、そんな選挙戦もいよいよ終盤。
といっても校内の選挙戦なので、国会議員の出口調査のように、誰に投票するなどの回答はないため、本当に、開票されるまでドキドキな瞬間だ。
担任の佐藤先生は、ホームルームを実施する。今回の内容は、開票に備えて、開票作業を行う選挙管理員の選出だ。
「さてと。生徒会選挙が盛り上がっているが、重要なことを決めなければならない、このクラスから代表者2名。選挙管理委員を選ばないといけない。やることは開票作業のみなので、そこまで負担はならないだろう。すでに承知の通りだが、橋本は今回の立候補者の一人の推薦人のため、橋本以外で2人だ。誰かやりたい人はいるか?」
一瞬クラスの皆が僕の方を見たが。それもほんの一瞬。へぇーというような感じだ。
結花だけは。頑張れってね!!という表情をする。
そして以外にもすんなり決まり、結花のグループに所属している、1軍女子2人が手を挙げていた。
「決まりだな。よろしくお願いします。」
そういって、佐藤先生はホームルームを終わらす。
僕は引き続き、加奈子のために、選挙活動を行う。
加奈子もバレエをやりながら頑張っている。
そして、瀬戸会長も、この時期は本当に試合が多く、バレーボール部の部活をやりながら、僕たちをサポートしてくれている。
といってもレギュラーではないので、マネジメントがメインなのだが、それでも忙しさは変わらないのだが、元気よく頑張っているので、こっちも明るくなれる。
それを見ている葉月も。
「私が選挙、一番頑張らなきゃだね~。」
と言いながら、スケジュール管理をたくさんしてくれたり、縁の下の力持ちとして本当にサポートしてくれた。
「まあ、これが私のやりたいことだからね。気にしないでよ。輝君。」
葉月はそう言いながら笑っている。
そうして、選挙戦の最終日、演説会の日がやってきた。
演説の原稿を僕は葉月と瀬戸会長、そして、加奈子に見てもらった。
「うん。うん。よくできていると思うよ。明るく話してね。女子ばっかりで緊張するかもしれないけれど。」
瀬戸会長は相変わらず、落ち着いた雰囲気で僕に語り掛けてくれた。
「間違ってもいいし、アドリブも入れていいからね。大丈夫!!」
葉月はそう言いながら僕にウィンクする。
「さあ、まとめは加奈子ちゃんにやってもらいましょう!!」
瀬戸会長はそう言って、加奈子に締めの一言をお願いする。
「あの・・・。えっと、輝。そして、会長、葉月。その。ここまで、ありがとうございました。よろしくお願いします。」
加奈子もいつも通りだった。
口数が少なく、真面目な所も加奈子らしい。
全校生徒が体育館に集結する。
ざわざわする体育館。
ほかの候補も、当然推薦人も僕を除いて全員女子。
これにはこの間のバレエコンクールより緊張してしまう。
しかし、葉月と加奈子はこの状況を理解できたようで。
葉月は、彼女の手を、ポンと僕の肩を乗せてくる。
「大丈夫。輝君は実はとても有名なのです。私のクラス、学年で。」
「そうだよ。結構頑張ってくれて良かったね。とみんなから言ってもらってる。」
葉月と加奈子の言葉に少し自信が持てた。
「それでは只今から生徒会長選挙の演説会を始めます。」
司会の声で始まった。
今回の司会は選挙管理委員が務めている。
初めに候補者の紹介が行われる。
加奈子も壇上に呼ばれて、紹介された。
「それでは、演説に入りたいと思います。最初の候補者からです。」
司会の言葉に促されて、最初の候補者の推薦人の演説が始まった。
推薦人、そして、会長候補の演説が一人、また一人と終えるたびに僕の出番が近づいてくる。
呼吸を整えながら、加奈子、葉月、そして、瀬戸会長の顔を見回す。
「それでは、続いての候補者です。2年C組、井野加奈子さん。まずは推薦人のスピーチです。1年B組。橋本輝君。」
僕は黙って、立ち上がり。壇上へ進む。
「大丈夫よ。」
瀬戸会長は手を振ってくれる。
「トップバッター。いってらっしゃーい。」
葉月は笑顔でピースサインを送る。
「輝・・・・・。うん。私を信じて。」
加奈子は僕を見た。とても真剣なまなざしで。
壇上のマイクにたどり着き、深呼吸した。
何だろう、つい先日、バレエの発表会でピアノ演奏をしたからだろうか。
最初は緊張していたが、何でも話せる自分がいた。
「皆さんこんにちは。推薦人の橋本です。」
僕は挨拶をする。
不思議とざわついていない。
「知っている通りに、この花園学園は、今年から共学となり、男子生徒も入学するようになりました。しかし、いまだクラスに、男子が一人ずつ配属されたこの高校は、僕にとって、少しドキドキしています。」
やはり、周りを見回しても、女子しかいない。
しかし、どういうことだろう、確かに先日のバレエも、やはり女子しかいないような場所なので、不思議とこの場所に立つのは初めてじゃなさそうだった。
「そんな時に声をかけていただいたのが、この生徒会のメンバーの一人、井野加奈子先輩でした。」
少し喉が渇いてきた。だが、乗り切らないと。
「加奈子先輩は、真面目に仕事をして、こんな僕にも丁寧に教えてくれ。あたたかく迎え入れてくれました。本当に、真面目に仕事をする、素敵な人です。今までの仕事面に関しては、これから演説がある、あとのお二人に任せるとして、僕が一番驚いたのは、習い事で、バレエをやっているときです。ダンスの振付、練習に、ストイックに取り組み、先日のコンクールでも予選を通過し、他にも様々なコンクールで良い成績を収めています。
本当に、好きなこと、得意なことには、ひたむきに努力して、真面目に仕事をされる方なのだなと思います。」
どうだろう。少し早くなっていないか。もう少しゆっくりでも。
「そして、加奈子先輩がバレエを踊るように、生徒会の仕事がとても好きなんだなと、入学して、間もないですが感じています。きっと、いい学校にしてくれると信じています。」
僕は心の中でうなずく。
そして、最後に深呼吸して。
「だから、これからも、加奈子先輩と一緒に、生徒会の仕事を僕はやってみたいです。どうか、先輩に清き一票をよろしくお願いします!!」
僕は頭を下げた。
そして、会場からは拍手が、今までの候補者や推薦人の人達と同じように、沸き起こる。
それを確認した僕。
大丈夫だ。これで、きっと、大丈夫だ。
壇上を降りていく。
「ありがとう。輝。」
加奈子はグータッチで迎える。
「大変よくできました!!」
葉月はピースサインをして、僕を迎える。
「よく頑張ったね。橋本君。」
瀬戸会長はニッコリ笑いながら、僕を席に促した。
「あとは私たちの番ね。」
てへぺろと、笑いながら、瀬戸会長は推薦人の演説に向かう。
葉月も、瀬戸会長も、僕よりも何倍もはっきりした声で、推薦の演説をした。
そして、加奈子の番。
「皆さんこんにちは。2年C組の井野加奈子です。私が生徒会長を目指そうと思ったのは・・・・・。」
その声のトーンは明らかに普通の時の声とは違っていた。
僕は驚くが、そんなことは一瞬だった。
加奈子の目を見ればわかる。
「さすが加奈子ちゃん。やっぱりね。」
瀬戸会長は、最初は心配していたが、声を聞くと頷いた。
「やっぱりね。だから、生徒会長は加奈子しかいないと思って、私はあきらめて、サポートする側に回ったの。」
葉月はそう言いながら、笑っている。
加奈子は、高校をどうしたいのか、どう取り組みたいのか、はっきりとした声で伝えた。
そう。加奈子の瞳はバレエをしているときと同じ瞳の色をしていた。
生徒会の仕事が大好きで、いつかは自分もと、きっと思っていたのだろう。
「ね。普段は、クールで、おとなしいけど、好きなこと、やりたいと思ったことには全力で向かうでしょ。」
瀬戸会長が僕に向かって言う。その顔はとても笑っていた。
「はい。本当に。すごいです。」
僕はそう言いながら、安心したかのように見る。
<テンポ>
<またテンポ!!>
<輝、私はこの曲を、輝のピアノで踊りたいの!!>
そんな言葉が、再び思い起こされる。
演説を終えた加奈子は、やり遂げたような顔をしていた。
それを見た僕は確信した。加奈子ならきっと大丈夫と。
そうして、僕たちの生徒会の選挙活動は終わった。
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