16.資料準備とプリンセスとの出会い
そこから数週間が過ぎた。
あと2日過ぎれば、ゴールデンウィークに突入し、5連休となる、4月末。
生徒会は、連休明けに始まる選挙に向けて、大忙しだった。
瀬戸会長と僕で、立候補に関する資料を作成したり、準備したりする。
さらに、それと並行して、加奈子のバレエのコンクール予選も大詰め。
明後日の、5連休の初日と2日目に地区予選が開催される。
加奈子の出演日である、高校生部門は2日目の午前だ。
生徒会の立候補を含め、かなり忙しくしている加奈子であるが、同時に充実している雰囲気が出ている。
僕も同じだ。
僕は瀬戸会長に頼まれて、会長と2人で手伝いをしている。
今日は資料の確認だ。
届け出に使う資料は問題ないか。立候補の想定人数分、届け出の用紙は存在するか。
などの確認をしている。
数の確認ももちろんだが、必要事項の漏れも確認する。
名前、生徒会長になったらやりたいことなど。いろいろな項目が用意されている。
「よし。こんな所かな。後は、選挙活動が開始されてから業務を始めましょう。」
瀬戸会長はそう言って、今日の作業を終わらす。
「本当にありがとう。橋本君。」
瀬戸会長は笑いながら頷く。
そして、翌日、連休前の最終日の生徒会の作業。これが大変だった。
「よいしょ。よいしょ。」
やはり僕は瀬戸会長と、2人で作業をしている。
掲示板用のボードと衝立を運ぶ。
これがかなり重く。校内の数か所に設置しなければならない。
さらに、風で倒れないように固定する。
このボードと衝立に、生徒会長の立候補者のポスターを掲示するのだった。
届け出と告示は連休明け最初の日なので、今日はその準備のみ。
さらには、今週は、今日までに、生徒会長の立候補者の募集のポスターを掲示したりした。
そして、今日も改めて、そのポスターを衝立に張り付ける。
「ふう。やっと終わった。橋本君、本当にお疲れ様。生徒会室でゆっくり休もっか。」
瀬戸会長はハアハアといいながら、生徒会室に戻っていく。
確かに運動部に在籍している女子生徒でも、この作業を実施するのは大変だ。
さらには重い衝立とボードを持ちながら、階段の上り下りも実施したのだ。
本当に共学化される前は誰がやっていたのだろうと思う。
僕は男子ではあるが、運動部に所属していたことがないため、おそらく、瀬戸会長と同等かそれ以上に、ハアハアと息遣いが出そうだった。
生徒会室に戻って、僕たちは椅子に座る。
葉月が先客で居るようだったが、帰り支度をしている。
「会長、輝君。お疲れ様。大変だったでしょう。」
葉月は労っている。
「ええ。そうね。でも誰かがやらないとだもの。」
瀬戸会長は、そういいながら、葉月の言葉に応える。
「本当、女性の方でしたら、もっと時間がかかりますよね。」
僕は瀬戸会長や葉月に同情するように言った。
「ほんと、橋本君が入学してくれて助かったわ。」
瀬戸会長が頷く。
「葉月ちゃんもありがとね。戸締りしておくから、先に帰って大丈夫よ。加奈子ちゃんは、コンクールに備えて、仕事が終わったら、先に帰ったかな?」
瀬戸会長が言った。
「はい。そうですね。私も仕事が終わったので、帰ります。加奈子は会長のいう通り、コンクールに備えて、先に帰りました。」
葉月の言葉に会長は頷く。
加奈子が先に帰ったということで、僕も急いで席を立とうとするが。
「輝君。加奈子からの伝言で、『衝立とボード運びお疲れ様。輝君に関しては、少し休んでから、バレエスタジオに、来てください。少し遅くなっても構いませんし、むしろその方が今日はありがたいです。』とのことです。会長と、少し休憩していてください。それじゃ、お疲れ様でした!!」
葉月はそう言って、笑顔で生徒会室を出て行った。
やはり明日から連休だからだろうか。飛び切りの笑顔で、生徒会室を出て行く。
「お疲れ様。」
「お疲れさまでした!!」
会長と僕は葉月に挨拶をする。
ふうっ。と、僕は改めて、深呼吸をして、休憩を取る。
その瞬間、僕の頬に、冷たい感触があって。
「はい。橋本君。4月の活動。お疲れ様。高校に慣れない中で、ここまで手伝ってくれて本当にありがとう。」
そういいながら、瀬戸会長は、ペットボトルのリンゴジュースを渡してくれた。
さっきの冷たい感触はこれだった。
「すみません。ありがとうございます。」
僕はリンゴジュースを受け取り、ペットボトルを開ける。
「本当に、橋本君に入ってもらってよかった。」
瀬戸会長は、嬉しそうだが、どこか寂しい目をしている。
その目の理由をすぐに察する。
「あの、会長。生徒会の選挙が終わったら・・・・・。」
僕は申し訳なさそうに、この言葉を言い終わった後すぐに下を向いていた。
「そうね。新しい会長にバトンタッチで、私は引退・・・・・。」
瀬戸会長は少し下を向いたが。
「あ、あの・・・・・。」
僕は瀬戸会長に声をかけようとしたが。
「なーんてね。別に新しい会長になってもここに私は遊びに行くわ。というより、元生徒会長として、生徒会役員をサポートして、秋の文化祭も、体育祭も、その他いろんな行事も、お手伝いしちゃうよ。なんたって、生徒会役員は何年生でもなれるのだから~。」
瀬戸会長は、いつもの、てへぺろという表情を僕に見せる。
「はい。よかったです。僕も、そうしてくれるとありがたいです。あ、でも受験とかで忙しくなるのであれば・・・・・。」
僕は慌てて付け加える。
「ふふふ。大丈夫よ。橋本君にこう言ってもらえて、すごくうれしい。毎日行こうかな。」
瀬戸会長はニヤニヤと笑う。
僕も笑い返す。
本当に笑顔が絶えない人だ。
「美味しいです。これ。ありがとうございます。」
会長が差し出してくれたリンゴジュースを飲む。
「ふふふ。これは自販機で買ったものだよ。頑張ってくれた、ささやかな奢り。気に入ってくれてよかった。」
確かに、高校の玄関に設置されている自販機の物だが、それはそれで、一仕事した後の味は特別だった。
僕は笑いながら、会長と話をする。その後も他愛のない会話で盛り上がっていった。
「さて、そろそろ時間かな?私は、バレー部がまだやっているなら覗いていくけど、橋本君は加奈子ちゃんを待たせるのも申し訳ないわね。」
瀬戸会長は残念そうに言った。
「そうですね。そろそろ、いくら何でも行かないと。」
そういって、僕たちは会話を切り上げて、生徒会室を出て行く。
「それじゃあ、橋本君、お疲れ様。連休はゆっくり休んでね。といっても、コンクール迄は気が抜けないと思うけど。私も、葉月ちゃんも見に行くからね。」
「はい。ありがとうございます。」
僕は会長に頭を下げる。
会長も飛び切りの笑顔で笑っている。
「それじゃあ、またね。」
「はい。お疲れさまでした!!」
会長は手を振って見送ってくれる。
「ああ。楽しかったな、頑張ろう!!橋本君・・・・。輝君からまた元気をもらっちゃった。」
瀬戸会長はそう言いながら、バレーボール部へと向かって行った。
僕は自転車をこいで、バレエスタジオに向かう。
スタジオに着くと、講師の原田が待っていてくれた。
「よっ。少年。お疲れ~。加奈子ちゃんから話は聞いているよ~。というわけでいつものレッスン室で待って、自主練でもしていてくれ。今日は私からのスペシャルサプライズの日だ。」
そういいながら、原田はレッスン室に僕を通した。
レッスン室の電気をつける行為をして、部屋に招き入れる動作を見ると、そこには加奈子は居ないようだ。
「じゃ、ピアノを弾いて、待っていてくれ。」
そういって、原田はレッスン室の扉を閉めた。
スー。ハ―。と、深呼吸をして、ピアノを弾く。
誰も居ないということで、指の練習曲を今日は入念に実施した。
その後は、簡単なポップスの曲を弾いていく。
今日も指はいつも通り動くみたいだ。
準備が整ったところで、僕は一人、加奈子のコンクールの曲の練習をしていた。
しばらくすると。
トントン、とレッスン室をノックされ、原田が入ってくる。
そのタイミングで、演奏を止めた。
「ヨッ、少年。待たせたな。」
そういいながら、原田は珍しくニヤニヤしている。
「キミに見せたいものがある。最高のプリンセスを、キミに見せてあげよう。」
原田は誰かを入るように促す。
次の瞬間、原田のいう通り、最高のプリンセスが目の前の現れた。
再び、美しい人と出会った。
いや、その時とは違う、その時とは比べ物にならない、私は姫と出会った。
加奈子はバレエの衣装を着て、僕の前に現れた。
白地の生地に、青いベストと刺繍が入っている。
髪の毛を綺麗なアクセサリーで止めて、化粧は薄いが、依然と比べてはっきりとした顔立ちになる。
ほうっ。と僕は息を吐く。
だが、あまりにもきれいで、それ以上は何も言えなかった。
「どうした少年。何をぼーっとしている。何か加奈子ちゃんに言うことはないのか。」
原田は僕に向かって問いかける。
「す、すみません、あまりにも綺麗で素晴らしかったから、何も言葉は出ませんでした。」
僕は、素直に言った。
「そうか。そう言うことなら、別にいいか。明後日はこれを着て出てもらう。キミも見とれずに、しっかり演奏してくれよ。」
原田は僕の肩に手を乗せる。
加奈子は微笑んでいた。
「ありがとう。輝。本当にありがとう。」
加奈子は優しそうに言った。
どこかの、城のプリンセスなのだろう。こういう衣装を初めて近くで見る。
「それじゃ、課題曲と自由曲を1回ずつ弾いてもらおう。ただし、今回は決勝で披露する、マズルカも弾いてもらいたい。仕上がりはまだかも知れないが、今日は演奏して、練習してもらう。大丈夫かな?」
原田はそういうと、僕をピアノに促す。
僕は原田の指示にうなずき、課題曲の『ワルツOp70-1』、『マズルカOp33-2』そして、自由曲の『ワルツOp42』を1回ずつ弾き、加奈子は改めて、バレエのダンスを通しで稽古していく。
「ヨシッ。『マズルカ』は決勝用の課題曲なので、仕上げはもう少し伸びしろがあるとして、コンクールは最高の形で、行けそうだな。そしたら、少年。改めて、礼を言わせてくれ。最高の伴奏者になってくれて、うちのプリンシパルの魅力を最高の形に引き出してくれて、ありがとう。」
原田は握手を求める。
「そんな、お願いされましたので、当然のことをしたまでです。」
僕は原田の握手に応える。
「輝。本当にありがとう。」
加奈子も僕の肩を上品に叩いてくれて、握手を求めてきたので、それに応えた。
「では少年。15分ほど休憩していてくれないか?15分したら、また迎えに行くので。」
原田はそう言って、レッスン室を出て行く。
改めて、バレエの衣装に身を包んだ加奈子を見る。
「本当に綺麗です。さっきは何も言えずにすみません。」
僕は照れながらだが素直に感想を改めて行った。
「いいの。とっても、嬉しい。輝とコンクールに出られるなんて。」
加奈子は嬉しそうに、目には嬉し涙を浮かべて僕に言った。
「ピアノは久しぶりなので、自信はないですが、頑張ってみますね。力の限り。」
僕はそう言った。
どうしよう、言っている傍から緊張している。本当にこういうコンクール、今回は加奈子がメインにもかかわらず、緊張している。
加奈子は僕の両手を取る。
「大丈夫。出来るよ!!私を信じて。」
加奈子の両手は僕の両肩に乗る。
さらに両手は背中に少し回る。
僕はドキドキした。
両手は完全に背中に回らず、僕と加奈子の間にわずかな空間ができるところで止まった。
お互いに微笑み返して、離れる。
「ありがとうございます。」
「私も、ありがとう。」
そういって、お互い深呼吸した。
少し、加奈子と距離を縮められた、そんな瞬間だった。
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