15.自由曲の振付と理事長と食事
加奈子のバレエのコンクールと並行して、生徒会選挙も忘れてはならない。
加奈子の推薦人という名目で、高校で生徒会で活躍している。
加奈子のバレエを見てから、僕は本当にすらすらと推薦の演説の内容を書くことができた。
「橋本君。すごく良くなったよ。やっぱり加奈子ちゃん、バレエを彼に披露させた方が良かったでしょ。」
瀬戸会長は、加奈子に言う。
「はい。」
加奈子は瀬戸会長の言葉にうなずく。
「さてと、私たちも考えなきゃね。私たちは、生徒会で活動しているから、そっちをメインに演説のスピーチを言わないとだね。」
瀬戸会長は葉月と目を合わせる。
「はい。そうですね。バレエのアピールは輝君に任せちゃおう!!私も言おうと思ったのだけど。」
葉月はそう言いながら、僕の肩を叩く。
「伴奏も、演説も頼んだよ~。まあ、輝君なら、大丈夫だけど。」
葉月はそう言って。生徒会の仕事を続ける。
ここ数日は、学校、生徒会、バレエスタジオのリズムだ。
そして、加奈子のバレエも、自由曲の振付を急ピッチで完成させている最中だった。
「ここは腕を目一杯広げて。」
原田は僕のピアノを確認しながら、加奈子と相談しながら、振付を仕上げていく。
荒削りの段階から、みるみる急ピッチで完成していく様子に驚いた。
「まあ、加奈子ちゃんは、私と一緒に、他のクラスの振付をしているくらいだからね。小さい子たちの先生でもあります。勿論、バイト代も出してます。」
原田はウィンクする。
「ああ。ごめん。輝。言い忘れていたけど、花園学園は、基本的に、バイトしてもOKなことになっているから、私はここで、バイトしています。バレエ講師として。だから輝も必要だと思ったら、バイトして問題ないからね。だけど、赤点が何科目か続いたり、部活によっては、部のルールで、出来ないところもあるから、バイトする前には確認取ってね。」
なるほど、加奈子先生なわけだ。
「それはすごいですね。加奈子先生のレッスンも見学してみたいです。」
加奈子は急に顔が赤くなる。
「え?べ、別にいいけど・・・・・。」
「おー。少年。加奈子ちゃんの魅力をまた一つ知ったね~。」
原田はそう言いながら、笑っている。
「まあ。今はコンクールが近いので、自主練メインだけれど、コンクールが終われば見せてあげるよ。まあ、たぶん否応なしにも見る機会はあると思うからさ。」
原田はウィンクをしながら言った。
「えっ?」
僕は、最後の否応なしの意味が解らなかった。
見られるのならばうれしいが、一体どういうことなのだろう。せめて、演説会の材料になればと思ったのだが。
「自分で考えろよ。少年!!まあ、見せてやるさ、加奈子先生を。」
原田は、これからも、ピアノ伴奏者として、輝が必要だという言葉をあえて言わなかった。
「ヨシッ。では完成した振付を通しでやってみようかな。勿論、少年は加奈子に合わそうとするなよ。ショパンコンクールに出場する、凄腕のピアニストと同じようなテンポで頼むぞ!!」
原田にポンポンと肩を叩かれ、加奈子の合図を待つ。
加奈子が頷き、僕は自由曲である。ショパンの『大円舞曲、Op42』を弾く。
本当に綺麗だった。
「ヨシッ。何とか間に合ったな。後はコンクールまでに総仕上げということで。まあ、間に合うと思って、自由曲を変更したのだけど。」
原田は満足そうな表情で、今日のレッスンを終えた。
その帰り道だった。
僕のスマホがなる。
【加奈子のレッスン終わったかな?よかったらこの後、ご飯、一緒に食べない?パパが話をしたいといっているので、加奈子を誘わず、一人で来てほしいんだけど・・・・・。】
葉月からのラインだった。
なるほど、そういうことか。
そういうことなら、OKですということで、返事を書いて送信した。
バレエスタジオからの帰り道。
やはり百貨店の信号前にたどり着き。
「すみません。理事長が、家で、僕に話があるということなので。これで。」
「ああ。そうなの。それじゃ。今日もありがとう。理事長の家、葉月の家は分るよね?」
加奈子はそう言って、僕に気を遣う。
「そうですね。わかります。」
「そう、それならよかった。じゃ、また明日ね。」
そういって、加奈子は先に家の方に帰っていった。
僕の方は伯父と伯母に、【今日は遅くなる、理事長先生の家で食べてくる】とラインをしておく。
【了解。誘ってもらって、よかったね。理事長先生によろしくね。】との伯母からのラインがすぐに帰ってきた。
理事長の家。つまり葉月の家のチャイムを鳴らすと、理事長の慎一と葉月が温かく迎えてくれた。
そして、家には、理事長の妻、つまり葉月の母親の姿もあった。
「どうも、挨拶が遅くなってしまいまして、申し訳ありませんでした。この度は何とお礼を言っていいのだか。」
葉月の母親は深々と僕に頭を下げるが。
「そんな、頭をあげてください。当然のことをしたまでですから。」
とこちらも丁寧に対応する。
さすがに、丁寧な態度には丁寧にしないと気まずい。
「お礼といっては何ですが、お食事を用意しましたので、食べて行ってください。」
母親が丁寧に案内して、理事長、葉月、弥生と食卓を囲んだ。
当然、弥生の隣には、赤ちゃんもおり。
「そういえば、この子は、光輝と名付けました。輝君の名前を取って。輝君みたいな優しい人になって欲しいと。光り輝く。という意味で。」
光輝はキャッキャと笑っている。
弥生は笑いながら話している。
「いやいや。少し恥ずかしいです。」
僕は顔を赤くする。
「そんなことはないぞ、輝君。自信をもっていい。堂々と君にはしてほしいんだ。」
慎一は言った。
「そうですか。本当にありがとうございます。」
僕は頭を下げる。
「さあさあ。どんどん食べてください。」
食卓には本当に豪華な料理が並んでいた。
「どうですか?輝君。慣れましたか?」
慎一、理事長は改めて、僕に質問する。
「はい。最初は元女子校でやっていけるのか不安でしたが。葉月さんたちが居てくれたおかげで。本当に、ありがとうございます。」
僕は緊張していたが、同時に安心していた。
「そうか、それはよかった。今年から共学ということで、来年には男子生徒をもう少し増やしたいと思って、男子の誰かを生徒会にと思ったとき、すぐにピンときました。君しかいない。君しかいませんと。」
理事長は頷く。確かにそうかもしれない。
「本当にありがとうね。輝君。パパもママも、お姉ちゃんも、私も本当に感謝してるんだよ。」
葉月が言った。
光輝もそれに応じて、キャッキャッと笑っている。
ありがとうと言っているように、一番澄んだ綺麗な目をして、笑っていた。
その表情を見て、目頭が熱くなる。
「どうしたの?」
それを見た葉月が聞いてきたが。すんなり、答える。
「いえ。赤ちゃんってかわいいなと。この表情を見たら、当然のことをしたまでと思いましたが、本当にやってよかったと思います。」
皆がそうだよ!!と答える。
「これからも、困ったことがあったら、相談してくださいね。全力でサポートしますから。」
理事長はそう言って、僕と握手を交わした。
食事を終えての帰り道。
心配だからといって、葉月が途中まで送ってくれることになった。
「本当にすみません。葉月先輩の方が、夜は危険なのに。」
外はすっかり真っ暗。やはり女性である葉月の方が心配だ。一人で外に出るなんて。
「大丈夫だよ。途中、本当にすぐ近くまでだから。」
葉月はそう言いながら、夜の道を僕と二人で歩く。
街灯はあるとはいえ、ここは閑静な住宅街だ。お店とかの明かりもない。
こういうところを見ると以前、僕が住んでいた町の方が東京近くに会ってより明るく見える。
「輝君。どう?加奈子ちゃんとは。」
葉月が質問してくる。
「そうですね。上手くやれてます。いろいろと推薦人のスピーチが出来そうでよかったです。」
僕は葉月の質問に答える。
「そう。あの子、やっぱり、凄いよね。興味のあるところはとことんストイックにやっていく子だもの。」
葉月は少し遠くを見ながら言った。
「先輩も、いいところはたくさんありますよ。元気なところとか、こう、優しいところとか。生徒会に勧誘するときだって、教室まで来てくれて、一番初めに声をかけてくれたじゃないですか。」
僕は言った。そう。葉月にもいいところがたくさんある。
確かに、ここ数日は加奈子の魅力に気づかされてばかりだが、すぐにポンポンといいところが浮かんでくるのは葉月だ。
それだけ活動的な人なのだろうと僕は思っている。
「ありがとう。輝君は優しいね。」
葉月は少し微笑む。
僕と葉月の視線の先には、城址公園がある。
すっかり桜は散って、今は葉桜の状態だ。
「私も、あのバレエスタジオに通っていたんだ。それ以外にもいろんな習い事をしていたのだけど。すぐに辞めちゃって。」
葉月はそう言いながら、少し寂しそうだった。
「まるで、あの桜の花びら見たいに、咲いてはすぐ散るように。入ってはすぐ辞めてを繰り返したかな。」
葉月は深くため息をついて言った。
「だから、続けられる、加奈子や、輝君がうらやましい。バレエやピアノ、ずっと続けて、とてもうまくなって。」
葉月は僕のことをうらやましそうに見ていた。
「ははは。そうなんですね。僕は応援してくれる人が居るから続けられているのかなと。加奈子先輩みたいに、必要としてくれる人が居たから。ほら、小学校のときなんか、クラスの合唱とかでピアノ伴奏とか、指揮とか。正直、この町に引っ越してきてからは、伯父のおかげで、農業の方が好きになって、これからピアノは趣味程度であまり弾かなくなるのかなと思ってました。」
僕は思ったことを言ってみた。
確かに、安久尾たちの手によって、退学させられた時は本当にピアノをやめたいと思ったし、全部をやめてしまいたいと思った。だけれども、今は、伯父や、葉月、加奈子、瀬戸会長、みんなのおかげで、もう少し、頑張ってみようと思っている自分がいる。
「先輩も、加奈子先輩のために全力でサポートしようとすることろ素晴らしいと思います。裏方で、声掛けするところ本当に重要かなと。」
僕は、本当にそれが答えかわからなかったので、一息で早口のように言った。
「ふふふ。ありがとう。よ~し。明日からまた、がんばるぞ~。輝君のおかげで元気が出た!!」
どうやらいつもの葉月に戻り、少し安心する僕が居た。
やがて、城址公園を抜けて、百貨店前の交差点に出る。
「ここまでで、大丈夫かな?」
葉月はそう言った。
「はい。勿論です。ありがとうございました。」
僕は葉月に頭を下げる。
「うん。また明日ね。」
葉月はそう言って、僕を、自転車に乗ってみるみるスピードを上げていく僕を見送っていた。
「ありがとう・・・。そして、ごめんね。輝君。本当は、もう少し二人きりで、一緒に居たくて、送って行ったの・・・。」
葉月はそう呟いていた。
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