13.バレエスタジオ
生徒会メンバーとお出かけした、翌日の日曜日。
加奈子に連れられて、加奈子が通う、バレエスタジオにやってきていた。
「君?加奈子ちゃんを虜にしたと言う、天才ピアニストは。」
バレエスタジオの先生はそう言って、僕を出迎えてくれた。
「はい。橋本輝と申します。」
僕は頭を下げる。
「よろしく。このバレエスタジオの責任者で、加奈子ちゃんのバレエの先生の原田です。昨日加奈子ちゃんから、突然、興奮冷めやらぬ声で連絡があって、話はよ~く聞いているよ。」
原田が握手を求めてくる。
年齢も若く、パワフルな感じで圧倒されてしまう。
そして、加奈子と同じで、細身の体を存分に生かすようなファッションをしている。
早速、講師の原田の前で、ピアノを弾かせられて、リクエスト通り、ショパンのマズルカをもう一度弾く。
「うん。完璧!!これじゃあ、伴奏者に指名しても問題なさそうね。」
原田はウィンクしながら、親指を立てる。
「あの、先生、それと自由曲も変更したいです。輝の得意な、ショパンのワルツに。昨日弾いたやつやって。」
加奈子のリクエスト通り、ショパンの、『ワルツOp42「大円舞曲」』を弾く。
「ヨッシ、自由曲変更っと。というわけで橋本君。加奈子ちゃんをヨロシク!!」
再び原田が親指を立てて、ウィンクをする。
「あ、あの、そんなあっさり変更していいのですか?」
僕は原田に聞いてみるが。
「うん。今度のコンクールは、1週間前までなら、変更を認められているの、曲目の変更とか色々ね。」
原田はそう言った。
「あの、制度的な問題ではなく、原田先生としてです。助言とかやらなくても・・・・・・・。」
僕はそう言って、原田というバレエの先生に向かって言う。
そんなあっさり、先生が曲目変更を認めてくれるのか。と思う。
「なーに。細かいことは気にしないの、加奈子ちゃんは、うちのプリンシパルは、この教室みんなの憧れだもの。むしろ初めてよ。ここまで加奈子ちゃんを自由に開放してくれたのは。うん。二人ならきっといいところまで行きそう。去年よりもすごきいい成績を期待しちゃう!!」
原田は笑いながら言う。
「プリンシパル・・・・・。と言いますと。」
僕は原田に言った。
「うちの教室のトップダンサーという意味。それが加奈子ちゃん。橋本君、君の罪は重いよ~。」
原田はニヤニヤしながら言った。
「罪・・・・。罪と言いますと・・・・。」
僕が言った瞬間、原田は僕の肩をバシッと叩く。
「うちのプリンシパルをここまで火をつけさせたんだ。こうなったらもうだれにも止められない。君には最後までコンクールの面倒を見てもらうからね。」
原田は一息で言った。とても楽しそうに。
そして、原田は、ふうっ、とため息をつく。
「それに・・・・・・。」
「それに?」
僕は原田を見る。
「おーっと、この先は自分で考えな。男の子でしょ。君。眠れる森の美女も、くるみ割り人形も、いろーんなバレエの作品もやっぱり王子様が、ガツンとね。」
原田は僕にウィンクする。
「じゃ、一時間くらい経ったら、もう一度見に行くから、それまで加奈子ちゃんをヨロシク~。」
そういって、原田は部屋から出て行った。
レッスン室に取り残された僕と加奈子。
「ご、ごめんね。あんな感じの先生で。」
加奈子は僕に向かって言った。先ほどとは打って変わって、かなり恥ずかしそうな様子。
「う、うん、別に大丈夫ですけど、加奈子先輩は良いのですか?僕が伴奏で。」
「何を言ってるの?いいに決まってるじゃない。輝の伴奏がいいの!!」
加奈子はうんうんと頷き、僕の手を持つ。
「お願いしてくれるかな・・・・・・。」
加奈子は僕の目を見て言う。
「わ、わかりました。」
僕は、言った。
その様子をドア越しに、原田に見られていることも知らずに。
原田はドア越しに見ていた。
「早く気づけよ~。少年!!」
そういいながら、ふう。とため息をつき、別のクラスのレッスンに向かった。
一方のレッスン室。
「とりあえず、コンクールの内容を説明していただけますか?」
僕はそう言って、加奈子に説明を求める。まずはそこからやらないと、話が進まない。
「うん。私が出るコンクールは、丁度、生徒会長の選挙と日程が被っていて。ゴールデンウィークに予選。で、中間試験と決選投票が終わって、丁度、6月の初めの週末に地区大会の決勝という感じなの。」
そういいながら、コンクールのチラシを見せてくれた。
「コンクールでは課題曲と自由曲の2つを披露します。課題曲は、ショパンの『レ・シルフィード』の中から、2曲選んで、選んだうちの1曲を予選。もう1曲を決勝で披露します。昨日、葉月の家で私がリクエストして、弾いてくれた、『ワルツ』と『マズルカ』はそれに含まれています。その二つを課題曲としてやろうとしています。そして、自由曲は、予選と決勝で同じものを披露するのだけど。私の場合、他の人と差をつけようということで、『レ・シルフィード』の中にある、もう一曲を自由曲にしようと思っていたのだけど・・・・・。」
加奈子は息を飲んだ。そして。
「輝と出会って、こっちのショパンのワルツの方が躍りたいと思ったから。」
加奈子は一息で言った。
「なるほど、そうなのですね。ちなみに変更前は、一体何の曲を?」
僕は加奈子に尋ねる。
「ターンタタターン、タタタンタタタンタタタタ―ン、って始まるやつ。」
もちろん僕は知っている。『華麗なる大円舞曲』だ。
「それも弾けますけど、昨日の、ワルツで良いんですか?一応、『華麗なる』の文字をとって、『大円舞曲』と呼ばれていますが・・・・・・・。」
僕の質問に加奈子が頷く。
「うん。そっちでお願い!!」
加奈子は僕に頼んだ。
「音源とかは・・・・・。特に伴奏は・・・・・・。」
僕はさらに尋ねる。
「ピアノのみ、生の伴奏者をつけることが認められます。ピアノ音源、オーケストラ音源を使う人も居るのだけど。私は輝がいい。」
加奈子の熱意溢れる目に、改めて、僕は覚悟を決めた。
「わかりました。頑張ってみます。」
僕は頷き。
「ありがとう。輝。絶対、絶対私を信じて。後悔させないから!!」
加奈子はそう言って、練習を始めた。
予選で踊る課題曲は、『ワルツOp70-1』に決め、マズルカの方は、決勝で披露することになった。
「いつでもいいからね。」
加奈子はスタンバイをして、僕はピアノを弾いた。
やはりワルツの方も、加奈子を見ていると、テンポを落とそうとする僕がいるが。
「テンポはそのまま!!私が合わせる!!」
加奈子の強い言葉に圧倒され、テンポを落とさずに弾くがやはり気にしてしまう。
「テンポはそのままでいいの。これをものにしたいの。私は気にしないで!!」
弾き終わると、そう言いながら、加奈子は振りの仕方を復習しようとしている。
重心をしっかりとるために、柔軟運動を演奏の合間、合間に行っている。
しかし、どうしても加奈子の方に目が行ってしまい、テンポがどうしても気になる。
その度に。
「テンポはそのまま!!」
「また、テンポ!!」
そういいながら、加奈子は僕に向かって強い口調で言ってくる。
何かいこれを繰り返しただろうか。
何回目かで、曲が一通り弾き終わったとき。
「輝、すこし、休憩しよう。」
加奈子が言った。
「輝、お願い。昨日の勢いのまま、ピアノを弾いてほしいの。休憩で、少し落ち着いて呼吸を整えてきてくれる。練習にならない。」
加奈子は僕に向かって言ってくる。
こういう時の加奈子は逆らえないオーラが出ており、仕方なく、休憩を取る。
そう、加奈子先輩に言われても・・・・・・・。
という心情が僕の答えだ。
加奈子の動きを見ると、どうしてもテンポを合わそうとしてしまう。
僕は、加奈子に言われた通り、休憩をするために、レッスン室を出て、バレエスタジオの正面入り口に出る。
正面入り口には大きなソファーがある。おそらく、送迎の保護者のために用意されたスペースだろうか。
そのソファーに座って、持っていたスマホを取り出し、耳にイヤホンを着け、動画サイトを開き、『レ・シルフィード』と検索する。
そこから聞こえてくる音源は、明らかに、僕が今まで弾いていた。ピアノ単体のテンポと違っていた。
テンポが普段弾いているときとずいぶん遅く、3拍子のリズムをしっかり刻み、バレエのための、踊るための工夫がなされている。
いくつかの音源や動画が上がっていたので、比較してみる。
やはり多少、振り付けは違うが、曲のテンポはほぼ一緒だった。
「やっぱりなぁ。」
僕はため息をつく。
「加奈子先輩はああ言い張るけど。もう少し合わせに行かないと・・・・・・・。」
ふうっと。僕は一息ついて、テンポをイメージしながら、持っていたペットボトルを開け、水を飲んだ。
気づけば指が動いていた。
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