12.加奈子の魅力
大きな部屋に案内され、葉月はお菓子を取りに出て行く。
確かにこの部屋の壁際には大きなテレビモニターがあって、おそらく、DVDをセットできる大きなDVD、ブルーレイデッキがある。
いくつか本棚があって、難しそうな書物が並ぶ。
さらに、棚の上には骨董や絵画が並ぶ。
きっと高いのだろうなと思いながら、骨董と絵画を見る。
そして、リビングのようにくつろげる、これまたアンティークなテーブルと椅子が、テレビモニターの前に置かれている。
そして、一番気になったのが。
スタンウェイのグランドピアノだった。
ピアノ、そして音楽が好きだからわかる。
とても美しい音色が、このピアノからは奏でるのだろう。
きれいに手入れされている。
僕はピアノに見入っていると、葉月がやってきた。
「お待たせーっ!!」
そういいながら、紅茶とお菓子が、アンティークのテーブルの上に置かれた。
「そして・・・・・。」
葉月はDVDを取り出す。
「ジャーン!!パパの部屋からとってきたのだぁ。」
葉月は得意げになって、そのDVDをセットする。
生徒会長選挙の演説会が始まった。
「少し恥ずかしいわね。私のスピーチですもの。」
瀬戸会長はそう言いながら、あまり見たくないような雰囲気で、紅茶をすすっている。
去年の演説会。つまり瀬戸会長の演説がここにある。
「会長の推薦人の演説を見てみましょう。」
そういいながら、葉月はそこまでDVDを早送りする。
そうして、瀬戸会長の推薦人がスピーチをした。
一緒にバレーボール部で活躍している同級生だろうか。
チームのムードメーカーをアピールし、そして、バレーボールに対する熱意。チームメイトを気遣う力など、エピソードを交えながら、熱心に語っていた。
「そうか、具体例かぁ・・・・・・。」
僕はそう呟きながら、この演説を聞いていた。
「そうだね。こうして、一緒に遊ぶ機会を作るから、もう少し、さっき話した内容を詳しくできるといいわね。」
瀬戸会長は恥ずかしながらも、僕に語っていた。
「と、言うわけで、輝君が少し吸収できたので、おまけで、瀬戸会長のスピーチを見ましょう。」
そういいながら、葉月はDVDを早送りして、瀬戸会長のスピーチの個所へ回す。
「ちょっと、やめて。葉月ちゃん。」
瀬戸会長は、さらに小さくなったようだ。
しかし、堂々と、丁寧に話す瀬戸会長の言葉はとても重みがあった。
これは納得だ。
スピーチが終わるころ、僕はDVDの中から聞こえる、会衆の拍手と一緒に拍手をした。
「はーい。瀬戸会長でした。」
葉月は得意げになりながら、DVDの映像を止めた。
僕は頷きながら、やっぱり瀬戸会長はすごいと思う、と感じる。
一方の会長は、少しうつむいたままだ。
僕たちは、紅茶を飲みながらお話をする。
「と、言うことで、輝君はもっと私たちと過ごして、加奈子の魅力を知ってもらわないとだね。」
葉月はそう言いながら笑っている。
僕も頷いている。
「そうですね。皆さんありがたいです。」
僕はそう言いながらも、部屋にあるスタンウェイのグランドピアノが気になる。
先ほどのDVDを見たときもそうだった。
「橋本君。どうしたの?」
瀬戸会長がそわそわした僕に気付いたのだろう。
少し落ち着いて、やっと我に返ったようだ。
「ああ。あれはスタンウェイのグランドピアノですよね。とても綺麗に手入れされていますので。」
僕はそう言いながら視線をピアノに向ける。
「よくわかったね。おばあちゃんが弾いていたの。五年位前に、に亡くなる直前まで。おばあちゃんは、花園学園の先代理事長だよ。それ以来、おばあちゃんを思い出しながら、お手入れしているんだ。手放したくないし、この部屋に置いておくだけでもきれいだしね。」
「なるほど。きっと、生前、お祖母様は大切にされていたのですね。綺麗な音を出していたのが伝わってきます。」
僕は頷く。
「ねえ。ひょっとしてピアノ弾けるの?」
葉月が僕に聞いてくる。
「まあ。習ってはいました。」
僕は応える。
するとキラキラと輝く、3人の瞳があった。
「本当?弾いて見せてよ。」
葉月が言う。
「私も聞きたいわ。」
瀬戸会長が言う。
うんうん。と加奈子。
だが、無口に頷いているが、加奈子が一番興味のある表情をしている。
「まあ。いいですけれど。何かリクエストとかは?弾けない曲ならすみませんですが。」
「うーん。じゃあ。今まで習ってきた中で、一番難しい曲。」
葉月が得意げにリクエストする。
「そうね。少し聞かせてもらうだけでいいから、その難しい中でも、短めの曲で。」
瀬戸会長が笑っている。
そして、加奈子も、うんうん。と頷いている。
一番難しい曲。短め。
リストとかにしてもいいが、そういう、難しい曲となると、やはり楽譜を見ないと弾けない。
暗譜で弾けそうなのは、ショパンだろうか。
僕は、頷きながらピアノへと向かう。
そして、向かっている間に何を弾こうか考える。
瀬戸会長、葉月、加奈子の三人は、ピアノの前に座る僕を囲うかのように立っている。
ショパンのワルツにしよう。
『ワルツ第5番Op42 「大円舞曲」』。
導入部分を弾き始め。
メロディーを弾いていく。
3人の目の色が変わる。
さらにワルツの部分になると、さらに3人の目の色が輝き始め。
一気に曲が盛り上がっていく。
最後のフィニッシュを決めると。
大きな拍手が3人から沸き起こる。
「すごい。指、私と同じ数だよね。」
瀬戸会長が言う。
「輝君。どこかで習っていたというレベルじゃないよね。プロだよ。本当にすごい。」
葉月が言った。
そして、一番ときめいていたのは加奈子だった。
顔を赤く染めながら言った。
「輝・・・・・。これ・・・・・・。ショパンだよね。」
加奈子は興奮している。
「そうですね。ショパンですね。」
僕は、加奈子の質問に答える。
「じゃあさ、じゃあさ。これは弾ける・・・・・。えっと。」
加奈子は深呼吸する。
「♪タララ、タララタタタ、タララッタラ、タララッタラ♪というやつ。」
加奈子のメロディーはもちろん知ってる。
『ワルツ11番、Op70-1』
僕はああ。と頷きながら、加奈子のリクエストを弾く。
再び拍手が沸き起こる。
加奈子は再び。興奮して。
「じゃあさ、じゃあさ。これは・・・・・・。」
再び、加奈子は深呼吸をする。
「♪タタタタタタタタタタタタ♪、えっとマズルカっていうやつなんだけど。」
もちろん知ってる。
『マズルカニ長調、Op33―2』。
「もちろん知ってますよ。そして、弾けますよ。」
そういって、鍵盤に触れようとしたが。
「待って!!私が合図したら弾いてくれる。」
加奈子はそう言って、ピアノから離れていき、この広い部屋の、テーブルも置かれていない、周りに何もないようなところに移動する。
「ど、どうしたんですか?加奈子先輩。」
僕は聞いてみるが。
「ふふふ。輝君。加奈子の魅力を存分に楽しんでください。」
葉月は得意げに、ニヤニヤ笑いながら言った。
「ついに目覚めちゃったわね。橋本君のピアノで、加奈子ちゃん魅力が。それじゃ、ピアノを弾きながら楽しんでね。ビックリすると思うわ。」
瀬戸会長も、葉月と同じようにニヤニヤしながら言った。
僕は加奈子の方を見る。
瀬戸会長と葉月は、僕に加奈子しか見えないようにしようとしたのか、僕の視界を一気に開けてくれた。
加奈子は頷く。
「いつでもいいよ。」
僕は、ショパンのマズルカを弾く。
そして、加奈子を見る。
加奈子を見た瞬間、慌てて、曲のテンポを落とそうとした。
「テンポはそのままでいいよ!!」
加奈子は大きな声で言って、僕のテンポに合わそうとしている。
美しかった。
加奈子が僕に見せたもの、バレエだった。
手足を大きく、動かし、華麗に舞っている。
本当に美しい。きっと、本物の衣装を着たら、それはそれは・・・・・・。
この日。僕は、美しい人に出会った。
マズルカを弾き終わる。
一番楽しいピアノ演奏だった。
思わず、弾き終わり拍手をする。
加奈子のバレエは本当に綺麗だった。
なるほど、バレエをやっているから細身の綺麗なスタイルだったのだ。
そして、髪の毛を伸ばした時、普段はまとめている痕跡が残るのもうなずける。
葉月、瀬戸会長も拍手を贈る。
「ありがとう。輝。」
加奈子はそう言いながら、笑っていた。
「素晴らしかったよ。そして、わかったかな。加奈子の魅力が。」
葉月が言った。
「はい。」
僕は頷く。
「そうね。加奈子ちゃん。普段はおとなしいんだけど、自分の得意な所、好きな所では本当に活発になって、周りの人を盛り上げて行ってくれるのよね。バレエも4歳くらいの時からやってるのよね。」
瀬戸会長は、加奈子にウィンクしながら言った。
「はい。」
加奈子は、先ほどのバレエの舞いの時とは打って変わって、普段通りのおとなしい表情に戻っていた。
「ダメじゃない。そこを推薦人に伝えなきゃ。橋本君がピアノ弾ける、しかも本当にうまい人で良かったわ。初めての人でも、自己紹介はちゃんとしなきゃ。」
瀬戸会長は、加奈子に向かって言う。
「はい。ごめんなさい。」
加奈子は、シュッとした表情になってしまった。
だが、加奈子は、すぐに目の色を変えた。
そう、バレエの舞を披露する時のあの目の色だった。
「輝。お願いがあるの。」
加奈子は改まって、僕に言った。
「ゴールデンウィークに私が出場する、バレエコンクール。その伴奏者になってください!!」
今までに聞いたことの無いくらいの、加奈子の大きな声だった。
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