117.登場、加奈子の父親
『金賞1位 安久尾五郎(全国コンクール出場)』
そして、2位以下には安久尾とともに同じ県で勝ち上がってきたメンバーが名を連ね。
『同率最下位 橋本輝』
『同率最下位 緑風歌』
関東コンクールピアノ個人部門の、表彰の掲示板には、そう書かれていた。
つまり、これが関東コンクールの結果だった。
「おめでとう、おめでとう。」
「やっぱり、五郎様は違いますね。」
「ハハハッー!!どうだ、これが俺様の実力だ。」
遠目で安久雄が喜んでいる姿が確認できる。
そして。
―お疲れっした。じゃあな。二度と俺の前に姿を現すんじゃねーぞ。橋本!!―
そんな目をしながらニヤニヤと僕の方を向いて、手を振り、去っていく、安久尾と取り巻きたち。
その取り巻きたちを去っていくのをただただ見ている僕と風歌。
悔しい。また負けた。
「涙を拭け!!少年。」
原田はティッシュを差し出してくれる。
「輝君はとても良く頑張ったよ。偉かったね!!」
葉月は抱きしめてくれる。
「輝。輝。」
加奈子は涙目になって、葉月と同じように抱きしめた。
しばらくの静寂、その静寂を破るかのように・・・・。
「橋本君、君に聞こう。」
茂木が深呼吸して言った。
僕は茂木の方を見る。
「橋本君、悔しいか?」
僕は黙って頷く。
「緑さんも、悔しいか?」
茂木は風歌の方に向かって同じように言った。
風歌も黙って頷く。
風歌も涙を浮かべながら、泣いていた。
「わかった。最後の仕掛けを行おう!!」
茂木はそう言って、辺りを見回す。
改めて、安久尾と取り巻きたちが居なくなったのを確認する。
「桐生さんと、北條さん、それに、双子の赤城さんだよね。こちらへ・・・・・。」
茂木は、心音と結花、そして、赤城兄妹を呼び寄せる。
心音、そして、赤城兄妹の双子の兄、隼人は茂木の指示のもと、張り出された結果をスマホの写真に撮った。
そして。
【私の友達。風歌。何で、ピアノ連弾部門は上位なのに、個人部門は最下位何だろう・・・・・。それでも、お疲れ様と心から称えてあげたい。】
心音のスマホにはSNSの画面が映っている。
昨日の連弾部門の結果と、個人部門の結果、両方の画像付きで、今まさに、SNSに送信しようとしているところだ。
隼人のスマホには、文化祭の僕たちの映像がある。【花園学園グランプリ】の動画だ。
【伴奏をしてくれた、私の友、結果はどうであれ、今は労をねぎらおう。忙しい中、私たちのために伴奏をしてくれたことに感謝の気持ちがいっぱいである。】
今日の結果も添えて、YouTubeにアップしようとする画面だった。
「これをSNSにアップするが、良いかな?」
茂木はそう言って、僕と風歌に確認を取る。
僕と風歌は頷いた。
「わかった、それじゃあ、本人からの許可が出たので、アップして良いよ!!何があっても私が保証しよう。」
茂木は心音と隼人に頷く。
二人はSNSにそれぞれアップし、結花はそれを確認すると、心音の方の投稿に。
【二人とも連弾部門に力を入れていたからじゃないっすかねー?】
と心音の投稿を、引用して、シェアしたのだった。
「さあ、みんなお疲れ様。帰るとしよう。」
茂木の言葉にみんなは頷いた。
改めて、一緒に同行してくれたみんなに頭を下げて、皆と別れて、原田のワンボックスカーに乗り込む僕。
往路と何事もなかったかのように、原田は夢中で車を運転し、高速道路を勢いよく飛ばして、僕が住んでいる、伯父の家へ。
伯父の家の農家を確認して、ワンボックスカーを停車させる原田。
「ふう。まだ日は出ているから、この間よりは走り易かったよ。」
原田は安心していた。
オートロックを外し、ドアを開ける原田。
「じゃあな、少年。今日はゆっくり休めよ!!行きにバレエ教室の前に止めてあるお前の自転車は、明日にでも取りに来ればいいから。」
「輝、本当にお疲れ様。」
「輝君、ありがとう。ゆっくり休んでね。」
一緒に乗っていた加奈子と風歌もにこにこと笑って手を振っていた。
「ありがとうございました。」
僕は改めて、皆に頭を下げる。
その様子に気付いたのか、伯父たちも迎えに出て来て。
「輝、お帰り!!」
「お帰りなさい、輝!!」
伯父と伯母が迎えてくれた。
「先生、ありがとうございました。」
伯父は頭を下げ、お礼に、恒例の畑の野菜の箱をたんまり原田に渡したのだった。
「いえいえ、本当にいつも助かってます!!」
原田はそう言って、伯父と伯母に頭を下げ、車のドアを閉め、ワンボックスカーを発進させた。
ハンドルを握りながら手を振る原田。
僕は頭を下げ、伯父と伯母も頭を下げた。
伯父と伯母に、簡単な報告を済ませた後、僕は離屋に戻る。
離屋に入った瞬間、疲れを覚え、ぐっすりと寝息を立てた。
そうして、朝を迎えた・・・・・・。
ピロ~ン、ピロ~ン。
スマホの通知音が激しくなっている。
それで目が覚める週明け、月曜日。
昨日はコンクールから返ってきてそのまま寝てしまったようだ。
それにしても、通知がけたまましく、騒がしく鳴っている。
一体?
【ハッシー大変、SNS見て。】
【は、橋本さん、どうしましょう・・・・・。YouTubeが・・・・・。】
結花のline、赤城兄妹の兄、隼人のlineがひっきりなしに来ていた。
そして。
【輝、今日は、伯父さんの家まで、迎えに行くから。私から次に連絡があるまで、離屋から出ないで。】
加奈子からのline。
一体どうしたのだ・・・・・・・?
試しに、結花のいう通り、SNSを開く。
昨日、心音と結花が投稿したもの・・・・・・・・。
僕の目が一気に見開いた。
「えっ!!」
かなりの数の、シェア数、お気に入り数が表示されている。
その数、1万件以上。
一体何が起きている?まさか。
YouTubeを開く。
『赤鬼メイド』と検索。『赤鬼メイド』は赤城兄妹のアカウント名。
文化祭の動画。
再生回数10万回以上。
今まで投稿してきた動画の再生回数を一気に上回った。
しかもたった一夜でだ。
「ひ、輝、大変よ!!」
伯母の声。
「どうしたの?」
僕は大きな声で、叫ぶ。
「とりあえず、朝食を持ってくるから今日は離で食べなさい。井野さんというお友達から、こっちの母屋にも電話があって、指示通り動いているけど。学校の支度を済ませて。」
伯母はソワソワと離屋に朝食を持ってきた。
いつもは離屋を外に出て移動して、母屋で朝食を食べるが、今日は違った。
そうして、制服に着替え。
ピロ~ンと加奈子からのlineの通知。
【輝、お待たせ、外に出て来て、いい?驚かないでね。】
僕は加奈子の指示通り、外に出た。
すると。
「うあぁっ!!」
いきなり無数の光を浴びる。
何だ?
それは、沢山のカメラのフラッシュだ。
テレビカメラを持った人も居る。
「橋本輝君ですよね?」
「お話を少しお伺いしても・・・・・。」
カメラやテレビカメラを持った人が一気に僕を囲んだ。
「あの、えっと・・・・。」
僕は戸惑う。一体・・・・・。
遠くの方に、加奈子の姿が、加奈子は僕に向かって大きく手招きをする。
「輝、こっち、こっち。」
人混みの輪をかいくぐって、加奈子の元へ。
「すみません、あとででも、良いですか?」
そういって、僕は早足で、加奈子の元へ。
大急ぎでそれに付いてくる、カメラを持った人々達。
無我夢中で早歩きし、加奈子の元へたどり着く僕。
加奈子の傍には一台の黒塗りの高級車が止まっていた。レクサス、だろうか。
車から出てきたのは1人の男性。
黒の、いかにも高級そうなスーツを着ている。
カメラを持った人は驚く。
「あ、あなたもお話を、是非・・・・・。」
そういって、さらにカメラのフラシュが一気に点滅する。
「申し訳ありませんが、彼、橋本君は初めてお会いする皆さんに刺激が強すぎるようです。まずは、彼を学校に登校させていただけないでしょうか?本日の15:00に彼の学校、花園学園にて、皆さんとお話が出来るように手はずを整えています。勿論、そのお話には私も同席させていただきますので。」
スーツの男性は頭を下げる。
僕も、その男性につられて頭を下げる。そして、加奈子も一緒に頭を下げた。
「どうぞ、橋本君、今日は君を学校にお送りするためにお迎えに上がりました。乗ってください。」
男性の指示のもと、僕は黒塗りの高級車に乗り込んだ。
それは、何とも素晴らしい高級車だった。
革張りのシート。本当にすごい。
カメラを持った人たちは、僕が頭を下げると、それ以上近づいてこなくなり、車は無事に発信することができた。
「ふう。良かったですね。初めての光景で驚かれたと思いますが。」
スーツ姿の男性は安心したような表情だった。
「紹介するね、輝。私のパパ。」
加奈子はスーツ姿の男性を僕に紹介した。
「は、初めまして、橋本輝です。」
僕は急に緊張してしまった。
加奈子の父親の登場に。
「そんなに、かしこまらなくてください。加奈子の父の井野宏司と申します。」
加奈子の父、宏司はそう言って、僕に名刺を差し出してくれた。
だが名刺を見て、さらに驚く、僕。
さらに背筋が凍った。
名刺にはこう書かれていた。雲雀川市市長。と。
「も、申し訳ありません、市長さんの娘だなんて。」
僕は頭を下げる。
「頭を上げてください。むしろお礼を言わないといけないのはこちらの方です。うちの娘を、直接的ではないにしろ、2度も助けてくれたのですから。」
宏司はそう言って、頭を下げた。
2度・・・・・・。2度というと・・・・・。
実感がない、1度目は確かに実感がある。それは加奈子のバレエのコンクール。
では、2度目は、むしろ、助けてもらったのだけれど。
「実感がないですよね。説明しますね。1度目は実感してますよね。娘のバレエのコンクールです。市長の仕事が忙しく、娘の発表会になかなか行けないのですが、かけがえのない友人と出会ったと聞いています。そして、2度目ですが・・・・・・。」
宏司は、声のトーンを低くした。
「実は、加奈子は、今年の夏休みに、ある方とお見合いをする予定だったのです。まだ、年齢的にも結婚は認められていませんが、将来的にお互いに社会人になったら結婚するという、そのお見合いの候補者に入っていたのです。その相手の方は、安久尾前外務副大臣の息子さん。安久尾五郎さんでした。」
「・・・・・・っ、そ、そんな・・・・っ。」
宏司の言葉に絶句する。
すべてを悟った、加奈子は、僕のために。こんな大切なことを黙っていて・・・・・。
「橋本君、顔をあげてください、どうか謝らないでください。間一髪、加奈子が、あなたと出会えたおかげで、安久尾のご子息の、素行を知ることができました。加奈子が、泣きながら、断って欲しいと、スマホで、あなたのピアノで、加奈子の踊っている動画を娘が見せながら、断る理由を語ってくれました。娘の断る理由に私も絶句したのです。さっきの君と同じように。」
宏司は涙目になる。
「そして、私は変わることができました。変えようとする努力をしようと心から思いました。今まで、市議会議員をやって、市長をやって、忙しく、家にもあまり帰らない仕事をしていました。しかし、ようやく、私は決心できたのです。娘のために、家族のために、これからは頑張ろうと・・・・・。だから、速攻で、お見合いを断ったのです。あからさまな理由をつけてでも、大切な娘を渡せないと。」
宏司は頷く。
「ひ、輝、輝。本当にありがとう。このままだったら、私、私。」
加奈子は僕を抱きしめる。
加奈子の本当の涙を見れた。
「輝のおかげで、バレエが続けられた。パパとも仲直りできた。」
加奈子は涙目になっていた。
「ありがとう、橋本輝君。そして、私も許せませんでした。安久尾たちがあなたにしてきた数々のことを。」
宏司は決心したかのように言った。
「だから私は、行動したのです。その証拠に、今朝、君の家にも来たはずです。マスコミの人達が。」
僕は納得してきた。
なるほど、あの人たちはマスコミの人達だった。
「おそらく、君の同じ同郷の幼馴染の元にも、マスコミの人達が来てると思いますよ。Line見て見てください。」
宏司は、僕のスマホを確認させるように言った。
そう、スマホには、マユからもlineが来ていた。
結花たちのSNSに気を取られて、最後まで見られなかった。
確かに今朝、沢山通知が鳴った。
【ひかるん、大変、マスコミの人達がわんさか来てて、ひかるんのところにもきた?】
マユは大慌てでlineの文章を送信した感じだ。
「その顔は来ているようですね。」
宏司の言葉に僕は頷く。
「でも、なんで、マスコミの人達が?」
僕は宏司に聞く。
「あの人たちは話題が大好きですからね、なりふり構わず、いろんな人の立場の人に話を聞きに行くのが趣味です。順を追って、説明しましょう。それに、説明を最後まで聞いた方が安心できますしね。」
宏司は頷いて、理由を説明してくれたのだった。
それは本当に驚いた。そして・・・・。
最後まで、ご覧いただきありがとうございます。
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本当に、皆さんのリアクションが励みになっています。ありがとうございます。
●現在執筆中の別作品もよろしければご覧ください。
1.忍者翔太朗物語~優秀な双子の兄だけを溺愛する両親のもとで奴隷のような生活をして育った忍者のお話~URLはこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n1995hi/
2.元女子魔道学院に異世界転生した男子の僕が入学するとどうなるのか?⇒なかなか更新できず、すみません。
https://ncode.syosetu.com/n7938ht/
3.只今、構成中。近日アップします。




