114.関東ピアノコンクール個人部門、その1
さすがに、夜、全ての時間を僕の部屋で、しかも生まれたままの姿で、過ごすのは、この時期だと寒くて体調を崩してしまう。
数時間ほど、愛おしい時間を過ごしたら、加奈子と風歌は自分の部屋に戻って行った。
そして、僕も思いっきり熟睡して、朝日を見ていた。
ピロ~ンというlineの着信。
【輝君、おはよ!!よく眠れた?】
葉月からの着信。
【おはよう。大丈夫、ぐっすり寝た。】
返信を送るとすぐに既読がついて。
【良かったぁ。昨日の夜、すごく寂しかった・・・・・。】
葉月からの返信。
【ごめん。】
【べつに良いよ。輝君が元気ならそれで。だから、今日は私からモーニングコール。だって、加奈子と風歌は・・・・。】
確かに、朝起きるのが少し苦手な加奈子。風歌も似たようなものだから、まだ寝ている可能性が高い。
葉月や史奈たちにもお礼しないといけないなあと思う。
僕たちのためということで、昨日、いつもと違うホテルの夜を我慢してくれたのだから。
しばらくののち、普段着に着替えて、僕は朝食の会場に移動する。
そこには、元気よく手を振る葉月の姿。
「おはよ!!良かった。」
少し安心する葉月。
朝食のテーブルにはすでにみんなの姿が。
自由に座っていいということなので、4人掛けのテーブルに座り、僕は葉月の隣。向かい合わせには史奈と結花という生徒会メンバーでテーブルを構成した。さらに隣のテーブルには早織と藤代さん、心音の姿も。
みんな僕が元気そうで安心したようだった。
朝食はビュッフェ形式のバイキング、各々が好きなものを食べる。
ウィンナーや、ベーコン、オムレツ、パンを多めにとる史奈。
洋食をバランスよく取る葉月と結花。
食べ慣れた、和食とサラダを持ってくる僕。勿論、僕は、ご飯多めで。
そんな時に。
「ふぁぁぁ。遅くなりました~。」
「おはようございまぁす。~。」
眠そうな目をした加奈子と風歌が遅れてやってきて、一番端のテーブルに座る。
そんな光景にニコニコ笑う。
まあ、生徒会主催の、学校のイベントとかではなく、僕のために2人は来てくれているようなものなので、遅くなったことに関しては、誰も責める人はおらず、ニコニコと笑っていた。
だが、二人が一緒だったら、確実に普段の学校でも遅刻しそうだなと思ってしまう。
「ついにこの日が来たね。輝君。」
葉月はにこにこと笑いながら話しかける。
「うん。ありがとう。ここまでしてもらっちゃって。」
僕はお礼を言うが。
「大丈夫よ。さあ、しっかり食べましょ。私も、試合の朝はいつも通りにしていたものよ。まあ、それが、試合に出ない日でも。」
史奈がニコニコ笑って、そして、ガツガツと朝食を食べる。
僕も、それを見て、しっかり食べるようにする。
そして。
「朝食を食べ終えたようだね。」
茂木の言葉に、僕は頷く。
「うん。それじゃあ、最大の関門だが、その足で、受付に向かおうとしよう。受付が終わったら再び部屋で待機。君の出番は午前中だから、部屋に居て良い。チェックアウトの延長料金も予約して、払っているから。」
茂木はうん、うんと深く頷く。
そして、岩島先生、加奈子、風歌、そして、原田を連れて、ホテルを出て、会場のホールに向かい受付へ。
大人数だと思うが。
「人数が多いことに越したことはないさ。大丈夫だ。少年。必ず守って見せるから。」
原田はいつにも増して真剣な表情。
おそらく、バレエの時以上に真剣な表情。
とても頼もしい。
「輝、絶対大丈夫だからね。」
その表情を見て、加奈子も負けないと、真面目な表情。
流石は、生徒会長で、学年トップ。原田と比べて、少し幼さはあるが、その瞳の色は原田と同じか、原田よりもキリッとしている。
「ひ、輝君と一緒にいるから。」
風歌も、これから自分の発表があるのに、それは棚に上げて、僕のことを心配していた。
それにはさすがに僕も。
「ありがとう。でも、風歌は大丈夫だから、自分の演奏に集中して。」
「うん。でも、輝君が無事でいてくれれば、同じ感じで、私もできるって信じてるから。」
風歌は笑っていた。
ホールにたどり着き、僕と風歌の受付を済ませる。
昨日のうちから予約していた、個人の練習時間も変更はなく、時間通りに会場のホールの建物に併設されている、レッスン室に行けばいいことになり、僕たちはそのままホテルに戻った。
ホテルのロビーにはすでに、先客がいた。
「は、橋本さん、おはようございます!!」
「お、おはようございます。」
緊張気味の赤城兄妹の姿。そして。
「ひかるん、おはよう。珍しく、部活も大会もない日曜日だから。来ちゃった。ちょっと怖いけど。」
ドキドキしているマユこと熊谷真由子。
彼女もまた、安久尾建設の犠牲者。安久尾の上司の反町の都合により、僕と同じで、県外の高校に進学した人物。
出くわす可能性もあって、緊張している。
「ありがとう。マユ。そして、赤城さん達も・・・・。」
何だろうか。僕も少しドキドキしている。
「全員揃ったようだね。」
茂木はニコニコ笑っている。
「すごいな、少年、幸せ者だな!!」
原田はバシッと僕の背中を叩く。それで、少し目覚めた僕、笑うようになった。
そうして僕は、再びホテルの部屋に戻る。
「ゆっくりしてろ、時間になったら迎えに行くから。」
そんな原田の言葉を聞いて、少し安心して、ホテルの部屋で待機することになった。
舞台用の衣装に着替え、ベッドに座って目を閉じる。
ベッドだと、寝てしまうので、移動して、机と椅子に座って少し目を閉じた。
スーッ、ハーッ。
この動作を何回繰り返しただろうか。
だんだんと集中力を高めることができた。
そして。
ピロ~ンとlineが鳴る。
【少年、そろそろ、時間だ、準備は良いか?】
原田からのメッセージ、最後の調整の時間だ。
僕は部屋を出て、原田の元へ。
そして、ロビーで待機しているメンバーに挨拶をする。
「それじゃあ、行きます!!」
何だろうか、これから戦争にでも行く、戦時中の出来事のようだ。
「うん!!頑張ってね、輝君なら大丈夫だよ!!」
葉月の優しい、元気溢れる声。
「大丈夫っすよ、部長、何かあったらいつでも読んでくだせぇ。」
義信は両手で拳を作る。
「行ってらっしゃい。きっといい結果になるわ。」
ニコニコ笑う史奈。
「気を付けてね、ハッシー!!いつもと同じで。」
結花も元気よく笑っている。
「ひかるん、頑張れ。久しぶりに、ピアノが聞けるの楽しみにしてるから。」
マユはとても楽しみな表情。
「行ってらっしゃい、輝君。」
自分のことのように、ドキドキしている表情が伝わってくる早織。
「頑張ってね、輝君なら大丈夫よ、ホラ、風歌も!!」
心音はニコニコ笑いながら、風歌に合図をする。
「ひ、輝君、一緒に、頑張ろっ。」
風歌は緊張しているが、精一杯大きな声で、笑っていた。
「橋本さん、くれぐれもご無理なさらにように、原田先生もいますので。」
藤代さんは丁寧にお辞儀をした。
「は、橋本君、頑張ってください。」
「き、きっとできます。」
最後に赤城兄妹がニコニコ笑いながら言った。
「み、みんな、ありがとう!!本当にありがとう。」
僕は皆に頭を下げる。
「大丈夫、輝は責任もって、守るから。今度は、私の番。」
加奈子はポンポンと肩を叩く。譜めくりスタッフとして、僕の弾く曲の楽譜を丁寧に抱えていた。
「うん。」
僕は頷く。
「それじゃあ、行こうか、少年。」
原田の言葉に僕は頷く。
皆に見送られ、原田、吉岡、加奈子、茂木、岩島先生と一緒にホールへと向かって行った。
何だろうか、少し落ち着くことができた僕だった。
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3.只今、構成中。近日アップします。