111.出発の刻
史奈の誕生日会から、さらに一週間後の、10月最後の週末を迎えた。
早朝。原田のバレエスタジオに、僕と加奈子と風歌、そして、原田と吉岡、岩島先生と茂木が集まっていた。
「おはよう。よく眠れたか?少年。」
「はい。ありがとうございます。車を出してもらっちゃって。」
僕は原田に頭を下げる。
今日は、ピアノコンクール関東大会の当日だった。
土曜日に連弾部門と個人部門の一部。日曜日に、個人部門が行われる。
移動の関係もあって、土曜日の個人部門は近隣の在住者から発表されていく仕組みのため、別の県の出身者の僕たちは土曜日に風歌とともに連弾部門をやった後、日曜日に個人部門の発表となる。
土日のホテル代は一定の額がそれぞれに支給される仕組みだった。
勿論、一定の額より高いところに泊っても構わないし、安く抑えても構わないようだった。
僕たちは。というと。
「合唱コンクールの一件もあったから、会場の目の前のホテルを押さえてあるから・・・・。ここに居る皆、そしてあとから電車で応援に来る生徒会諸君の皆、全員で泊まって、出番直前までホテルのロビーで待機できるように手配しているからね。その分、宿泊費は支給された額をかなり超えちゃって、君にも徴収することになるのだけど・・・・。」
茂木は僕にそう言ってきた。
「すみません、ありがとうございます。」
僕は茂木に頭を下げた。
「気にしなくていい。今度は私たちが傍に居るから。」
茂木は大きく頷く。ここに居るメンバー全員も一緒だった。
この日のために最後の調整をしてきた僕たち。
文化祭期間中も、それ以降も、風歌の連弾の練習も一層はかどり、加奈子とともに、自由曲『英雄ポロネーズ』の練習も加奈子は譜めくりをしながら、バレエの練習も上達していったのだった。
ばっちりと調整した。やれるだけのことはやった。
改めて、皆にお礼を言って、深呼吸する。
「準備できた?輝。」
「大丈夫か?少年。」
加奈子と原田の言葉に頷く。
忘れ物がないかもう一度鞄の中を少し開ける。
大丈夫そうだ・・・・・。
勝負の時。その、出発の刻を迎えた。
「行くぞ!!少年!!」
原田と吉岡は車を出してくれ、僕は原田のワンボックスカーに乗り込んだ。
原田の車は、予定通りに高速道路に入る。
料金所を通過し、車を東京方面へと走らせる。
胸の高鳴りを押さえられない僕。
車のミラー越しに原田が頷き、ニコニコと笑う。
「遠慮なく言ってくれよ。時間はたっぷりあるし、必要があればサービスエリアに寄るからな!!」
原田はそう言いながら、車をさらに加速させ、進路変更して、追い越し車線へ。
車を何台か追い抜く。
「まあ、少年、お前のために、少し余裕を持たせてもいいだろう。ヨッシーも場所判っているし、後ろからついてくるだろうし。」
原田はそう言って、車を走らせていった。
ちなみに、原田の車には、僕と、風歌、譜めくりを担当してくれる加奈子が乗っている。
吉岡の車には、大人たちがこぞって乗っていた。
「ありがとうございます。今日は・・・・。調子は大丈夫です。明日が心配ですけれど・・・。」
僕は原田に伝える。
「そうだな、今日は、風歌と一緒に連弾部門だ。アイツと出くわす可能性があるのは、明日だな。」
原田は僕の言葉で一気に表情を変える。
うん。おそらく、安久尾と出くわす可能性が最も高いのは明日だ。
今日はそう言う意味で少し気が楽になる。
「そ、そう、だね。今日は、私と一緒に、頑張ろ。」
風歌がニコニコ笑っている。
「輝、大丈夫よ、明日も、私がいるから。」
加奈子が僕の肩をポンポンと叩いてくれた。
少し気が楽になったところで、原田はぐんぐんと高速道路を飛ばしていく。
「少年の気分が少し落ち着いてきた、今のうちに進める所まで、車を発進していくからな。」
原田はそう言って、再び追い越し車線へ。
遥か前方に走っているトラックを抜いていくようだ。
原田はそう言いつつも、車のミラー越しに僕の表情を気にしつつ、いざ、会場が近づくにすると再び緊張してしまったため、今まで貯金してきた分、サービスエリアでゆっくりと休憩を取ってくれた。
「大丈夫か?」
僕は頷く。
「やっぱりトラウマが激しそうだな。これ、飲みな!!」
原田は水を買ってきてくれ、僕に差し出す。
「ありがとうございます。」
「もうちょっとで着く。まだまだ、時間に余裕があるから、着いたら受付を済ませて、ホテルに荷物を預けて、そのまま出番の直前まで、ホテルで待機しよう。」
原田はうんうんと頷き、再び高速道路を飛ばした。
雲雀川から休憩を挟んで、2時間弱で、目的の場所にたどり着いた。
会場のホールの駐車場に車を止める僕たち。
ちなみに、コンクール出場者であれば、この駐車場は今日と明日の2日間無料だそうだ。
「ヨシッ。着いたぞ!!」
原田はエンジンを止めて、ドアを開けて車を降りる。
「ありがとうございます。」
僕もそういって、頭を下げて、車を降りた。
会場のホールが嫌というほど、視界に入ってきた。
深呼吸する僕。
「大丈夫だ。今回は私たちがついてる。そのために来たんだから。」
原田は僕の肩に手を乗せる。
「はい。ありがとうございます。」
「何度も言うが、少年、お前も、バレエスタジオの大切な生徒であり、仲間だ。仲間を傷つける奴は私だって許さない!!深呼吸、もう一度しようか。」
原田の言葉に頷き、深呼吸する僕。
大丈夫。やれるだけのことはやった。
加奈子、風歌と顔を見合わせ、頷く。
「「うん。」」
僕たちはコンクール会場へと向かった。
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3.只今、構成中。近日アップします。