父と友
えっ?アルトくん「朱雀」じゃない?
おいおい、まじかよ。どーなってんだ?
〝あの〟アルトが「朱雀」に選ばれない、か。
周りの声がやけに遠く聞こえる。何が起きてるのか
理解できなかった。帰って父になんといえばよいのか。
これから先俺はどうすれば•••なんてことを考えて
呆然とする俺に近づいてくる3人の姿が見えた。
彼や彼女らは俺と同じく代々家で〝名付き〟を
授かっている者達で、成人の儀が終わったら
共に背中を預けあうことを誓った仲間だ。
エドワード、アンスリア、シャルロッテ
それぞれアル、エド、アンリ、シャルの愛称で
呼び合っていた。そんな彼らはすでに
「青龍」、「白虎」、「玄武」の刀を手に持っていた。
なんて声をかければいいのか。そう思い
口を開こうとしたが。
「よぉ、カイト!「朱雀」を授かったらしいな!
これからみんなで飯食いに行くんだがどうだ?」
「そうね、これから背中を預けあう仲間に
なるんですもの。親睦を深めましょう?」
「ん。カイト。これから私たちと共に戦う。
これからの予定、立てる。」
彼らは俺を素通りしカイトに声をかけていた。
どうして!?なんで俺じゃなくてカイトを誘うんだ!
たくさんみんなで連携の訓練や、魔族を倒す旅の
計画を立てたり、共に飯を食べ、遊び、将来を
誓ったのに!そう言おうとしてふと気づいてしまった。
彼らは俺を。アルトを仲間と思っていたわけ
じゃない。彼らの仲間は「朱雀」を持つ者だったのだ。
3人はカイトを誘い食事の約束をして神殿を出ようとする
カイトは俺を一度見て、何を言うことなく3人の後を
ついて行った。
その日はどうやって帰ったから覚えてない。
父には「朱雀」はカイトが授かったと伝えた。
父はだだ、そうか。と言うと、続けて
「これからカイトに「朱雀」の使い方、魔族と戦いに
ついて仕込まなきゃならない。お前は今日は
もう休んでこれからどうするのか、自分で考えなさい」
それだけ言うと部屋を出て行った。
ああ、そうか。父もそうだったのか。
もう俺にはなにもない。家族も友もみんな「朱雀」を
授かる〝予定〟の俺だから親しくしていたんだ。
「朱雀」を授からなかった俺は、なんの価値もないんだ。
その日のうちに俺は荷物をまとめて家を出た。
この家にいても何もない。俺は「朱雀」を持ってない。
「朱雀」しか目に入らない奴らはもう家族でも
友でもない。いや、あるいは最初から〝ただのアルト〟
には、なんの感情もなかったのかもしれないな。
能力はわからないがこの刀とて、〝名付き〟のはずだ
あいつらが俺を切り捨てたんだ。この刀で最強になって
見返してやる。そしてもしあいつらが縋ってきたら。
今度は俺があいつらを切り捨ててやる。