第一話 お邪魔します!
【この小説は、アンリ様主催《クリスマスプレゼント企画》参加作品です】
白い家が建っている。周りには花壇や小さな畑があり、人工の小川の音が耳に届いてくる。まるで眠気を誘うような音と風景。その家にはMINIのオープンカーが止まっていて、車好きの私は思わず内装を覗き込んでしまう。
屋根は仕舞ったままで、運転席に少し花壇の花びらが舞い込んでいた。なんとシャレオツなのだろう。そして少し煙草の匂いもした。エンジンはまだ熱を持っているようで、ほのかに傍にいるだけで暖かい。きっとこの車の持ち主は、煙草を吸いながらドライブを楽しみ、この可愛いお家に帰ってきた所なのだ。
「ちょっとお邪魔しようかしら」
私は意気揚々と玄関へと向かい、インターホンを。すると、小さなスピーカーから声が。
『問題です。日本の歴史上、最も治安が良かった年代は? 西暦で答えよ』
突然謎の問題が始まった。しかし私は日本人ではない。ノルウェーからはるばるこの地へやってきたばかり。でも叔父が日本人だったため、拙いながら日常会話なら問題はない。
そして私は、突然出された問題へと素直に回答を。
「それは……たまごかけごはんです」
『……その心は?』
「こころ? 暖かいごはんに穴をあけて、その中に生卵を投入……そして少しの醤油を垂らすだけの、日本のソウルフード……つまり、こころはご飯の中にあるのです」
『…………』
するとガチャリ、と玄関の鍵が開錠された。
私はその扉の中を覗き込むようにしながら、恐る恐る中へ。
白くて可愛いお家の中は、よく言うとすっきりしていて、悪く言うと殺風景。隅の方には、ほこりが「こんにちは!」と存在を主張していて、少しだらしない人間の家だと察する事が出来る。
きっとこの家の持ち主は……髭ヅラのおっさんだろう。さっきインターホンから聞こえてきた声も渋かったし、可愛いお家だったから興味をそそられたけど、期待外れだったかもしれない。
人の気配がして、私はリビングらしき部屋へと。するとそこには……
「いらっしゃい。あら、可愛い子が来たわ」
なんとなんと、黒髪ロングの美女がそこに居た。エプロンを付けていて、リビングの隣の台所からテーブルへと料理を運んでいる。頬にクリームをべったりつけている辺り、先程の私のだらしないという印象からは外れていない。しかし髭ヅラのおっさんではなかった。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。こんな日にこんな可愛い子がやってくるなんて。クリスマスの魔法かしら?」
私はサンタではないが。ノルウェーからやってきた……魔法使い兼、メイドだ!
「お姉さま」
「えっ、あ、はい」
「私、ここで働く事になりました、ヨランダと申します、よろしくです」
スカートを摘まみあげて、お辞儀をする私。カーテシーと呼ばれるヨーロッパで広く認知されている礼儀作法だ。
私の見事な礼儀作法に呆気に取られてしまったのか、黒髪のお姉さまは首を傾げながら
「えっと……私は人を雇った覚えはないんだけど……」
「日本人は物忘れが激しいと叔父から聞かされています。忘れてしまっても問題ありません、私が覚えています」
「ちょっとその叔父ここに連れてきてくれる? 日本人を代表して床に埋めるわ」
「わかりました」
私は懐からニンテンドースイッチを取り出し、インターネットで画面の向こうに叔父の姿を映し出した。それをテーブルの上へと置く。
「どうぞ、叔父です」
「世の中便利になったわね……も、もしもし?」
ソファーに座りながら、画面の向こうの叔父と話し出すお姉さま。
叔父はどうやらカップ麺を食べていたようで、ズルズルと啜る音を立てながら……
『うお、ヨランダ? いつのまに黒髪に染めたんだい? 僕は金髪の方が良かったなぁ』
「違います。私は柊 真琴と申します。実はそちらのお嬢さんが突然私の家に訪ねてきて……」
『あぁ、それはご迷惑をおかけして……今すぐ迎えに行きますので、少しお待ち頂いてよろしいでしょうか』
叔父はオールバックに眼鏡、スーツに身を包んだサラリーマン。腕にはアップルウォッチ。
「分かりました、では住所を……」
と、その時……インターホンが鳴り響いた。黒髪のお姉さまは忙しそうにインターホンへも対応。
「はい、どちらさまで……」
『むかえにきましたー』
ギョっとするお姉さま。すぐにニンテンドースイッチの画面を確認すると、そこに叔父の姿は無い。当たり前だ、叔父は今、玄関の前に居るのだから。
「……え、えっと、どちらさまですか?」
『あぁ、今ニンテンドースイッチで話していたものですー。ヨランダ、帰っておいで、ご迷惑をおかけしてはいけないよ』
黒髪のお姉さまは訳が分からない、と混乱気味。
仕方ない、ここは私が一肌脱ごう。
「玄関を開錠するスイッチは……これですか?」
「え? あ、そうだけども、ちょっと待っ……」
「ぽちっとな」
おいぃぃぃ! とお姉さまの叫び声と共に、玄関は開錠される。
そしてリビングへと、のっしのっしと歩いて来たのは……
「どうもどうも、姪がご迷惑を……」
二メートルを超すシロクマ。
わぁい、おじさんだぁー!
※シロクマ一名ご案内ー!




