表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔石の夢

作者: 音川 メジロ

時はサナ歴455年王国建国の日。貴賤を問わず、国中が沸き立つ日。夜には大きな宴会が城の大広間で開かれる。この宴会に招待されることは大変な名誉であり、特に高位の少女たちにとっては人生における大きな一歩を踏み出す日でもある。この国の最高位たる王の眼に触れたその瞬間から、彼女達はもう大人。そう、つまり、今で言うならば、デビュタント。穢れ一つない色を纏った少女たちは皆、期待と緊張に顔を強張らせ、始まりの時を待っていた。どの少女も人生で最高潮の緊張を味わっていた。そんな少女達の中、今日一番の大役を務めると言っても過言ではないはずのミイナは、全くの無表情である。ひときわ目立つ銀髪の彼女は大きく息を吐くと、諦めたような顔で前を向いた。その時、宴会の始まり合図が高らかに鳴り響く。続いて晴れやかな演奏が辺りを包んだ。


ミイナの登場に広間中の視線が一気に集まる。謎に包まれた一族の少女。ほとんど誰もその姿を見たことがないと言われる彼女の家系が大衆の前に姿を現すのは後にも先にも人生で一度きり、自らの成人を迎えるこの宴会だけである。支配層でも無いどちらかと言えば忌み嫌われる身分でありながら王族と一番に踊る権利を持つ異形の彼女に、女性達は嫉妬の、男性達は奇異の眼を向ける。纏わりつく視線には目もくれず、ミイナは前へと進んでいき、王族の御座す眼前で完璧な挨拶をし、その優雅さに思わず息をのむ者もいた。しかしその表情は、美しい所作とは相容れない、凍てついたものだった。

「流石、魔の一族。人と違って感情がないんだわ。」

「気味が悪いほどに完璧だ。眼に魔石を埋め込んだ、魔法人形なのだろう。」

彼女に対する噂話は勿論、ミイナの耳にも入ってきたけれど、家でも外でも聞き飽きた、とるに足らない雑音でしかなかった。次々と、白いドレスを着こんだ少女たちが挨拶を済ませ、広間は白い花々で華やかさを増していく。暫くすると、曲調に変化が現れ、メインイベントである踊りの時間が始まった。既に成人の儀を終えた男性たちが次々と少女たちの手を取っていく。ミイナの手を取ったのは、王子であるアーサー。輝く金髪に高貴な紫眼、まるで人外のように美しいと評判の彼の登場に人々は見とれた。


「ミイナ・ラ・チェランスタ嬢。僕は美しい貴方と最初のダンスを踊りたい。この手をとってくれますか?」

「はい、喜んで。」


ミイナは王子の手を取る。それを合図にしたかのように演奏が再度始まった。二人はステップを踏み、ミイナは王子の腕の中でふわりとまわる。ミイナとアーサーのダンスはこれが初めてとは思えないほどに息がピッタリで、これ以上ないほどに魅力的だった。彼女の銀色の髪がさらりと動くたび、広間の光を集めて輝く。先ほど噂話をしていた者たちも踊る二人を前にして、言葉を出すことができなかった。そして、二人が踊りながらこんな話をしていたことなど誰も知る由もなかった。


「ミイナ嬢。今宵はあなたと踊ることができて、僕はとても幸せ者です。」

ミイナ以外の少女なら、その場で茹ってしまいそうなその言葉にも、ミイナは愛想笑いを浮かべながら平然と受け答える。

「私にはもったいなきお言葉ですわ、殿下。こんな異形の穢れに塗れた女と踊って、殿下の評判に傷がつくことが心配で。」

そこまで言うと、万人を虜にするような王子の表情が一瞬で曇った。

「なぜ、あなたは自分を卑下するのですか。あなたを、あなたの家族を悪く言う人達など放っておけば良いこと。あなたが彼らを基準に自分を評価する必要などない。」

「殿下。無礼を承知で申しますが、彼らが私を忌み嫌うのは当然のことなのです。私は、穢れた一族の出でありながら、この世で最も高潔な方の御手を図々しくも取っているのですから。」

「なぜ、あなたの一族が無ければこの国は成り立たないというのに…。」

「私がどれほど卑しい存在であるか、きっとこの後に嫌というほどおわかりになりますわ。」

ミイナは笑顔でそう言い放ったが、アーサーにはどうしてもその笑顔が諦めを含んだ寂しげなものに見えた。


まもなく最初のダンスは終わり、二人は何事もなかったかのように礼をし、王子は次のダンスへ向かうため、ミイナは別の目的を話すため、それぞれ別の場所へと向かっていった。ミイナは漸く一つ目の重荷が下りたと小さく息をつき、次の大仕事を、彼女の一族に生まれたものの宿命を果たさなければと気合いを入れ直した。まず、彼女は髪飾りに手を伸ばすと、髪をほどいた。その飾りを左手につけるとき、ふと先ほどまでこの手を取っていた王子の面影が脳裏に浮かんだ。何を浮かれているのだとその残像を振り払う。もう二度と関わりあうどころか御目に触れることも叶わないであろう相手だ。冥途の土産位に思って忘れておこう。今からやるべきことに集中しなければ。髪飾りを外し左手につけた者はダンスに誘ってはいけないとしきたりで決まっているため、二回目のダンスをミイナに申し込むものは誰もいない。だが、男たちは今かと彼女を好奇の目で見る。彼女は広間の片隅にひっそりと作られた、小さなくぼみのような暗い場所へ向かう。そこで、魔石色の眼を細め何かを唱えると、周囲を靄が漂い始めた。これによって、広間でミイナを見ることができるのは魔力の強い者達のみとなった。今から彼女がすべきことはただ一つ、魔力の強い男たちに身を売ること。魔石は、精と共に強い魔力を身に受けることで初めて作れるようになり、子を産むと同時に作れなくなる。その間に、次の世代がまた新たに魔石を作れるようになるまでに必要な量の魔石を作り続け、子を産むと力尽きて亡くなってしまう。彼女の一族はそういう生き方をしてきたのだ。そして今まさに、ミイナの人生の終わりが始まろうとしているのだった。この国の歯車であるラ・チェランスタの伝統。そこに彼女の感情など入る隙など無かった。


「よう、俺には嬢ちゃんが見えるぜ。」


わらわらと男たちが靄を超えて彼女の周りに集まってくる。ニヤニヤとした笑みを浮かべながらこちらに向かってくる彼らの眼は獣のようで恐ろしいと思った。一人の男が自分の身体に触れようとするのを感じ、気持ち悪いと思った。しかし、その感情すら自分のもののように感じなかった。ああ、今からもう自分の身体は魔石を作るためだけの機械になるのだな。いっそ、本当に感情など持たない魔法人形だったら良かったのに。どこか遠くで起こる出来事のように思いながら、ただただ早くすべてが終わってほしいと望んでいた。


「お前たち、ミイナ・ラ・チェランスタに何をしている。」


もうすべてを諦めて、なされるがままになっていた彼女のドレスに手をかけていた男は、その声を聞き、ハッと彼女から手を放す。この穢れた場にいるはずのない高貴な声がもう一度あたりを包む。


「ミイナに触れるな。今すぐ離れろ。どこかに消えろ。」


彼の紫色の眼が妖しく光る。誰もがその圧倒的な力に言うことを聞かざるを得なかった。あっという間に彼女と彼だけが靄の中に取り残された。


「ミイナ・ラ・チェランスタ。あなたはもうこんなことをする必要は無いんだ。」

「…殿下。私に情けをかけても意味はありません。私は所詮身売りの一族。殿下が関わって碌なことなどございません。そして、今の殿下の行いで、この国の魔石が失われるのです。殿下の気の迷いで、軽率どころでは済まない大惨事が引き起ります。私は歯車。この国を動かすに欠かせない使い捨ての駒にすぎません。」

「他にも方法があるはずだ。僕が亡国の愚王になるならそれまで。でも、僕はこれ以上誰かに犠牲を強いたくないんだ。ラ・チェランスタ、魔石の一族。自らを国のために捧げてきたことは知っていた。でも今まで内実は知らなかった。今、僕は一端を見てしまった、知ってしまったんだ。もう見捨てることなんてできない。僕たちで終わらせよう。」


アーサーはそう言った。ミイナが口を開こうとする前に、ぶつぶつと何かを呟いた。彼女は眠りに落ちた。眠った彼女の目尻から一筋の涙が頬へと伝った。彼はその涙をそっと指ですくい取り、彼女を抱きかかえた。魔法の結界を強固なものにし、彼女の傍らに居続けた。その体は、かなり細く、そして冷え切っていた。今までどれほど一人で耐えてきたのだろうか。彼女の境遇を思うだけで、その中で強く振舞っていた今日の宴会での姿を思うだけで心が痛くなった。宴会が終わり、その喧噪が静まるまで、彼女を抱きしめ続けた。


☆☆☆


王子と魔石の一族の当代の少女の失踪は、翌日には王居中に知れ渡ることとなった。この件は内密にとの通告が出されたものの、すぐに広まり、「魔石の一族が王子を連れ去った」「魔石の一族は悪魔の化身だ」などと噂されることとなった。懸命な捜索が行われたが、彼らは見つからなかった。王居は悲痛な空気に包まれていた。


国中に敷かれた捜索網を搔い潜り、アーサーはミイナと共に逃げ続けた。ミイナには、なぜアーサーがそこまでして自分と共に居るのかわからなかった。何度も説得はした。しかし、どんなに、お互いの道を進もう、自分は自分でやらなければならないことをすると言っても彼は聞き入れなかった。その度にアーサーは悲しそうな顔をして、「君はそんな宿命を背負わなくていいんだ。」と言うだけだった。ミイナはもうあきらめた。なるようになれと思った。今の彼女には、もちろん、魔石を作る能力はない。魔力は平均より少し高いくらいしか持っていない。ミイナの知る限りでは、魔石を作る能力を得ないまま大人になったものは居ない。このまま本自分がどうなるのか全くをもってわからなかった。どうせ無いものと思っていた自分の未来がどうなっても構わないと思っていたけれど、自分の宿命を一瞬でも嫌だと思ってしまった弱い自分に手を差し伸べてくれたこの王子が悲しむのは嫌だった。このまま王子はどうするつもりなのだろうか。いつまで経っても逃げ続けているだけの日々に疑問をもった。魔法の形跡をたどられないために徒歩で逃げていた。丁度、王都を抜けた時、ミイナはアーサーに尋ねた。


「殿下には何か考えがあるのですか。」

「殿下って呼んでいるのを誰かに聞かれるとまずいから、アーサーって呼んでほしいな。」

「っアーサー、様、何か計画は…?」

「とりあえず王居及び関連施設にあった魔石もしくは魔石の一族についての本を今集めているところ。」


そう言うと彼は指を鳴らした。みるみるうちに沢山の本が彼らの前に積みあがった。


「今のところ集められそうなのはこれだけみたい。」


そこからは森の中に魔法で作った小屋の中で手分けしてひたすら本を読む作業が続いた。日中は我武者羅に本を読み、夜になると、それぞれ本から学んだことを教えあう。特に何もない日々だったけれど、ミイナにとっては初めての心安らぐ日々だった。魔石のことだけを考え、魔石のことを学び続け、魔石のために死ぬはずだった運命が大きく変わり、魔石という軛から解き放たれたこの時間は彼女にとって夢のようだった。ミイナから見てアーサーはいつも冷静で穏やかに見え、とても頼もしく感じていた。今まで、魔石の一族に使える使用人以外とほとんど話したこともなく、彼らにも内心では蔑まれていることがわかっていたため、孤独だったミイナにとって心から安心できる相手というのは初めてだった。一方、アーサーは魔石の一族がどのようにして魔石を作る能力を得ていたかについて知った時、心からミイナを助け出すことができて良かったと思ったとともに、今まで一族多くの少女達を辱め見殺しにしてきた王家をはじめとした支配層たちに怒りを覚えた。二人でどんなに文献を読み進めていても、どのようにして魔石の一族が生まれたのか、魔石はいったいどのような条件でできるのか、この二つについてはわからなかった。


「もう最後だね。」


沢山積みあがっていた本も、残り2冊になっていた。しかし、これらにも目新しい情報は乗っておらず二人は落胆した。


「建国時から魔石の一族は存在すること。ずっと女性が生まれ続けること。あとは魔石作成能力の得方。どれだけ探してもこの情報しかないね。」

「そうですね。アーサー様。」


既に彼らの失踪から一か月が過ぎようとしていた。まだ前世代の魔石が流通していたため国自体に影響は少なかったが、そろそろ底を尽きようとしていることをミイナは肌で感じていた。胸の中で何かが疼く、それが日に日に強まっていた。あの日、あの場でアーサーの手を取り踊らなければ、この様な日々は無かった。魔石が尽きようとしている今、それが良かったのか悪かったのかミイナにはわからなかった。ただあの魔石の一族に許された王族と踊るという特権が無ければこのような事には絶対にならなかったのだ。そこまで考えて、ふと浮かんできた疑問を口にした。


「なぜ、私達の一族は王家と全く関りがないはずなのに、建国の日の宴会で真っ先に王族と踊ることができるのでしょうか。」


ハッとアーサーは顔を上げた。


「もしかしたら、関りがあるのかもしれない。僕は君を見た時、初めて会った気がしなかった。君を見た時、心が浮き立つように感じた。もちろん、君のことを大切に思っているのはそんな感覚的な理由だけではないけれど、僕の魔力と君の魔力の親和性が高いのは間違いないよ。」


アーサーはそう言うとそっとミイナの手を取った。ミイナは驚いて顔を上げた。アーサーのきれいな紫色の瞳が揺れた。


「僕はもうこれ以上我慢できない。もう言わせてもらうね。」


「僕は、あの時、あなたと手を取り合ったあの時からずっとあなたのことを愛しています。あなたのその学びに対する真っ直ぐな姿勢も、孤独の中一人戦ってきたその強さも、強さに隠された弱さも、何もかも、尊敬しています。僕は君を本当の意味で救うことはできていないのに、今こんなことを言うなんて卑怯だっていうのはわかっている。でももう限界なんだ。」


ミイナは何といえばいいかわからなかった。愛という感情どころか、親愛の情すら知らなかった彼女には、言葉にできる術が無かった。でも彼女にはきっとこれが好きということなのだろうということはわかった。


「私もアーサー様と出会えて本当に良かったです。そして、アーサー様と離れたくないと思います。私は魔石を生み出すためだけに生まれてきた存在、それ以外の意味は無かったはずなのに、あなたが私の生に意味を与えてくださった。本当にありがとうございます。私も、アーサー様のことを…」


ミイナは固くアーサーに抱きしめられた。


「君は、君は何でそうなんだっ。僕が君の生に意味を与えたんじゃない。ミイナが自分でつかみ取ったんだ。それだけじゃなくて、僕の人生までこんなに鮮やかなものに変えてくれたんだ。君はなんでいつもそんな謙虚なんだ。もっと我儘になったっていいのに。なにかしたいことはないのかい。」


「では、一つだけ我儘を。もう一度一緒に踊って頂けませんか。私はこの先どうなるかわかりません。魔石が尽きたら死ぬかもしれない。でもあの夢のような時をもう一度それまでに味わいたいです。」


「ああもちろん、喜んで」


ミイナとアーサーは手を取り合って滑るように踊りだした。音楽も全くない中で、身体に染みついた動きでステップを踏み、まわり、軽やかに舞う。誰かほかに見ている人があったならば、何十回と二人で踊ってきたと思うだろう。踊りながらミイナは不思議な感覚にとらわれていた。勝手に何も考えなくても身体が動き、体中に力が漲ってくる。アーサーと触れ合っている手を通じて、魔力が循環しているのを感じた。踊っている間に、先ほどまで感じていた胸の疼きが和らいだ。


「ミイナと踊っていると今までにないほど強い魔力を感じる。」


アーサーもそう感じているのか。ミイナは自分だけじゃないことに安心し、その後も二人で踊り続けた。踊りがひと段落した時、おもむろにアーサーが口を開いた。


「もう一回ちゃんと言わせて。僕は何があってもミイナと一緒にいたい。愛している、ミイナ。」


アーサーの唇がゆっくりとミイナ唇に重なった。それはとても優しかった。


口づけし合った時、ミイナははっきりと何かがはじけ飛ぶ音を聞いた。アーサーも驚いたように顔を上げた。


ミイナ。アーサー様。二人は同時に口を開いた。


「「今すぐ、王居へ!」」


お互いの力で強化された魔法を使って一瞬で王居まで向かった。


☆☆☆


約一か月もの間、失踪していて、どこにいるか手がかりすら無かった王子が何の前触れもなく突然戻ってきた。しかも一緒に消えた当代の魔石の一族の少女もいる。城内の慌てっぷりは凄まじいものだった。まず、少女は王子融解の犯人とされていたので、兵たちが捕縛をしようとした。詳細は知らないまでも、魔石の一族の掟を破り、王子と共に失踪したのだ。まず疑われて当然である。しかし、強力な魔法に弾かれてしまった。


「ミイナに手を出したら、その時点私の命が尽きます。そのことをお忘れなきよう。」


誰にでも穏やかなアーサー王子とは思えないほど、怒りに満ちた声が響いた。王居の者たちは皆驚いた。


「長期間、姿を消した挙句、何も言わずに突然戻ってきたことは本当に申し訳ないと思っています。ミイナは何も悪くない、寧ろ、僕の我儘に付き合ってくれただけですから、彼女を罪に問うことはしないでください。罰なら僕がすべて受けます。」


そこまでアーサーは一気に言い切ると、王との謁見を今すぐ調整するように求めた。もちろん、ミイナと共に。王からはすぐに謁見の許可が下りたので、謁見の間へと向かう。豪奢な作りの部屋だった。ミイナとアーサーは王に挨拶をすませ、王は彼らに座るように言った。それから、王はアーサーより少し薄い紫の瞳をミイナに向けた。警戒の色が浮かんでいた。


「魔石の少女よ。何のつもりだ。まだ能力を獲得していない上に、なぜ我が息子と失踪した。」


ミイナは意を決したように顔を上げた。


「私をどのような罪に問うて頂いても構いません。だからこれだけは言わせて頂きます。


なぜ、魔石の一族、私の母、祖母、さらにその上の先祖たちのみこの様な屈辱的な目にあい、なぜ若くで亡くなってきたのか。

なぜ、一方は国を統べて権力を我が物にし、もう一方は命を削り続け蔑まれてきたのか。


私達とあなた方は同じ枷に繋がれていたはずです。なぜ片方のみに全ての重しを押し付けたのか。


陛下、私の一族とあなたの一族の呪いを今解くべきではないでしょうか。」


「何というデタラメを言う。悪魔の化身は大したものだ。これを早く投獄しろ。」


王はミイナに向かって魔法を繰り出した。ミイナはとっさに自分の魔法で弾き飛ばした。その隙にアーサーは王の動きを魔法で止める。


「我が息子まで、悪魔に洗脳されたのか。出来損ないめが」


「父上、この呪いを今解かなければいずれ我らもこの国も滅びることとなるでしょう。神儀の間へ向かいます。さらば。」


アーサーはそう言うとミイナの手を取り、神儀の間へと向かった。謁見の間のさらにその奥。王位についている者のみが入れる場所、たとえ家族であっても、次期王であっても立ち入ることが決して許されない場所へと向かった。行ったこともないはずの、地図にも載らないその場所への道がなぜか手に取るようにわかった。誰も彼らを追ってくることはできなかった。二人は半ば導かれるようにしてそこにたどり着いた。そこは大きな祭壇以外に何もない真っ白の空間であった。ミイナは床に落ちていた一片の石の欠片を拾い上げた。


「今なら、魔石が作れる気がします。」


ミイナはそう言って、拾った石に呪文を唱えながら魔力を込め始めた。みるみるうちに透明だったその石はミイナの瞳と同じ色に輝きだした。ミイナが覆っていた手を放すと一層輝きが増し、殺風景だった空間の様子が変わっていった。石は一人でに浮かび、アーサーの手の中に納まった。アーサーも見よう見まねで魔力を込めると、二人の瞳の色が混じったかのような色に輝きだし、大きくなって弾けて消えた。次の瞬間、ミイナの首とアーサーの首に、大きな黒い蛇がそれぞれ巻き付いているのが見えた。目の前の祭壇の上には美しい輝きを放つ本があった。本は語りだした。


『魔石は持てる神の力により自らを削り作るもの。その首に巻き付く蛇は契約の蛇。

昔々、神々の力を求めた人間は、天から降る恵みの魔石を集めていた。

でも人間は欲深い生き物。一度与えられた物はもっと欲しくなる。

魔石を求めて争いが起きた。一人の少年が彼らを鎮め、彼らを治めた。

うら若き女神は彼に恋をし、求められるがまま彼に無尽の魔力を与えた。

無尽の魔力を得た彼は、神の世界をも統べることを夢見た。

神と人との戦いは神によりすぐに抑えられた。

戦いの原因を作った若き女神は人間にされた。そして、彼女と彼は互いの存在を忘れさせられた。

そして、神は告げた、いつかその魂が自ら試練を乗り越えるまで、その首に契約の枷をつけようと。

枷により力を抑制された彼らに課せられたのは、互いを思い出し愛し合うこと。

一生に一回のみ共に踊ることを許された。しかし、彼らは互いを忘れたまま、別の者たちと子を成した。

彼の子は彼女の子に権力を奪われることを恐れ、彼女の子孫の魔力を奪い、彼女に枷を押し付けた。

彼の子が統べ、彼女の子は搾取された。

今その枷の解かれる時。かの魂が契約を達成す。』



蛇が瞬く間に金色に変化し、竜のような姿になり、本の中へと消えていった。本の輝きは消滅し、いたって普通の本へと変わった。空間も祭壇以外何もない殺風景なものに変わった。しかし、さっきまでと異なり、祭壇の上には魔石の山が積まれていた。ちょうど、ミイナが一生かけて作るはずだった量と同じくらいに見えた。


「ミイナ、あなたを愛しています。一生の伴侶として、共に人生を歩んでください。」

「ええ、もちろん。私もアーサー様を愛しています。あなたとずっと一緒に居たいです。」


彼らはまた口付けを交わした。気付かぬ間に彼らの指には揃いの魔石のついた指輪が嵌っていた。

彼らは魔石と本を持って、神儀の間を後にした。


☆☆☆


神儀の間に呼ばれた者が王となる。この国ではそのようにして王位の継承がなされてきた。新たな王が神儀の間に呼ばれると、前代の王は神儀の間にいくことができなくなる。前代の王が存命中に王位交代が行われることが少なかったため、その規則は忘れられかけていた。しかし、アーサーとミイナが、大量の魔石と明らかに神秘的な力を放つ本を神儀の間から持ち帰ったことで王位交代の声が高まり、王の退位とアーサーの即位が決まった。かくして、魔石の一族(ラ・チェランスタ)王族(ラ・サーナ)は統合し、神の加護の厚い国として大きな力を持つようになった。ミイナとアーサーは、後世においても、国中の誰もが憧れる夫婦であり、誰もが尊敬する王と王妃であった。彼らが揃いでつけていたことから、恋人同士で魔石のアクセサリーを交換する習慣が生まれたともいわれている。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

初めての作品で、拙いところもあると思いますが、もし良ければ感想や評価、ブクマ等、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ