後片付けは、お任せください!④
「――それでは失礼します」
十分ほど話して、セラは電話を切った。
「ふいー、少し疲れました」
机に突っ伏し一休みする。
「それで、処分の方はどうだったんだ?」
電話している最中、セラは何度も頭を下げていた。管理局をクビになっていなければいいのだが。
「私と残火人さんの処分は追って通達するそうです。あっそうそう、スクワットは撤退いたしましたのでご安心を」
「……そうか。それならとりあえず、一段落ついたな」
「はい、私の任務もこれで終了です!」
そう言って、セラはぐいーっとお茶を飲む。
セラの任務はスケヒトを残火人から護ること。しかしその残火人がスケヒトを狙わなくなったいま、セラが朝霧家にいる意味はない。
「色々と片付いたら、ここから出て行っちゃうのか?」
任務が終わったという言葉を聞いて、何故だか悲しい気持ちになってしまった。セラがいないのが当たり前なのに、早く日常に戻ってほしいと思っていたはずなのに、いまはこのときがずっと続けばいいと思ってしまう。
「まあ、そうなりますね。スケヒトさんのご両親も近々帰国されるでしょうし」
「それなら、学校はどうするんだよ」
「処分が決定するまでは通います。その後は管理局が……」
ここまで言って、セラは口ごもってしまう。
「管理局が何なんだよ?」
「いえ、やっぱり何でもありません」
「何でもないことはないだろ」
セラが嘘を言っているのかどうかはすぐに分かる。なじみやクラスメイトは騙せても、この三日間ほとんど一緒にいた人間のことは騙せない。
「……実は」
スケヒトに見つめられて、セラは観念したように話し始めた。
「全ての片が付いたら、皆さんの記憶を操作することになっているんです」
「記憶を操作……」
「私が転校してきたという事実を知る人は一人もいなくなります。だから学校に行かなくても大丈夫なんですよ」
「学校のやつらは大丈夫でも、千代には何と言ったら。いきなりいなくなったら悲しむと思うぞ」
悲しいのは千代だけではない。
「それも大丈夫です」
「大丈夫って、まさか」
「……だから言いたくなかったんですよ」
管理局は一人残らず記憶操作をするのだと、セラは悲しそうに言った。それはスケヒトと千代も例外ではないらしい。
「てことはつまり、俺は……」
セラを忘れてしまう。
可愛い笑顔も、おちゃらけた明るい性格も、コスプレが好きなところも、料理が壊滅的に下手なことも、天使のように自分を助けてくれたことも……全て忘れてしまうのだ。
「そんなに悲しい顔をなさらないでください」
セラは悲しそうな笑顔でスケヒトに言う。
「スケヒトさんが私のことを忘れてしまっても、私は絶対にスケヒトさんを忘れたりしませんから」
「そんなこと言ったって」
「それにほら、私の処分が決定するまで時間があります。それまでたくさん遊びましょうよ! とりあえず、明日の放課後はアニメショップに行きましょう!」
「それだけは譲らないのな」
「そりゃもちろん!」
机にバンッと手をつき、セラは勢いよく立ち上がる。それはまるで、重い雰囲気を断ち切ろうとしているかのようであった。
「さてと、お風呂にしましょうか!」
「……!」
張りきったセラを見て、スケヒトは驚く。
いきなり大きな声を出さないでいただきたい。
「怪我をしてしまったみたいですし、今日は私がお背中を流して差し上げます!」
「それは遠慮したい」
「えー、そうですか」
つまんないのと言って、セラは唇を尖らせる。
妹や残火人がいるのに、そんなことをしてもらうはずがない。それにこの家にはセバスチャンもいるのだ。朝風呂事件に加え、掃除用具入れの中でのことも撮られてしまっているし、これ以上弱みを握られるわけにはいかない。
「俺の背中を流すより、千代と風呂に入ってやってくれ。何なら残火人と三人で入ってこいよ」
うちの風呂は無駄にデカいのだ。たとえ三人で入浴したとしても、スペースにはまだまだ余裕があるだろう。
「でも、一番風呂はスケヒトさんが」
「俺は最後でいい。だから千代を頼む」
「……分かりました。それではヒロイン三人で入浴するとしますかね! まさか終盤になってからお風呂回が来るとは思いもしませんでしたよ!」
「お風呂回って」
「いいですか? 私がうっかりしてこの『悪用禁止透視ゴーグル』を置き忘れたとしても、絶対に使っちゃダメですからね!」
言いながら、どこからか取り出した透視ゴーグルをテーブルの上に置くセラ。
「んなもん使うかぁ!」
小学校に潜入したとき使った広範囲索敵ゴーグルと言い、やはりセラはロクなものを出してこない。
「せっかく来たるべきお風呂回に備えて買っておいたのに……」
「知るか!」
「じゃあ私がこれつけてお風呂に入っちゃいますから!」
「一体何を透視するんだよ……」
「んー、確かに骨しか見えませんね」
「骨を見て楽しいか?」
「美少女なら骨も可愛いんじゃ……今宵は新たな萌え――そう、『骨萌え』を開拓してきます!」
「ああ、もう好きにしてくれ……」
セラに呆れつつも、こんな会話ができなくなると思うととても寂しかった。




