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いわゆる普通の家政婦ちゃん!  作者: 久城のカワウソ
承の章
46/60

エスケープ、しちゃいますか?④

 スケヒトは河川敷から出て、街灯のまばらな住宅地を歩いていた。


「ったく、重いったらありゃしない」


 気絶しているなじみ――残火人のこりびとをおぶったスケヒトは文句を言う。ちなみにセバスチャンは再び輪廻刀りんねとう袋となり、残火人に背負われている。


「ケーキの食い過ぎなんじゃねえか」


 なじみはケーキが好きだ。特に働き始めた喫茶店のケーキがお気に入りで、バイトを始めたのもケーキ目当てなんじゃないかと正直思っている。


「早くセラ来ないかなあ」


 先程の電話で迎えを頼んだのだ。きっとセラのことだから、いまごろこちらに向かって走って来ているだろう。女子に重いものを持たせたくはないが、そこは勘弁してもらいたい。


「……おい、誰が重いって?」


 後ろから声がした。それと同時にスケヒトの首が締まる。


「ちょっ、何すん――!」


現世こいつの悪口は私の悪口でもある。よくも乙女に対して重いと言ったな」


「ギブギブギブ!」


 スケヒトは必死で残火人の腕をタップする。


現世こいつとてお前のために努力しているのだぞ、人の気も知らんで」


 残火人がスケヒトの背中から飛び降りて言う。

 加減と言うものを少しは考えていただきたい。死を覚悟してしまったじゃないか。


「起きてたのなら言ってくれよ! 本当に重かっ――」


 ギロリ。


「――たんじゃなくて、心配したんだぞ」


 目で殺された。中身がなじみであろうと残火人であろうと、やはり幼馴染には敵わない。


「本当は河川敷を出たあたりで起きていた」


「そうだったんなら早く言ってくれ!」


「背負われるのは久しぶりでな、少し甘えさせてもらったのだ」


「……!」


 懐かしそうに微笑む残火人を見て、スケヒトは文句を言うのをやめた。

 いまのなじみを見ていると、なんだか胸がむずむずする。


「そ、そんじゃ行くか」


 残火人を見ていられなくなって、急いで歩き出した。


「ちょっと待て」


「ん?」


「いいから止まれ」


 先程とは打って変わって、低い声で残火人がスケヒトを制止する。


「いきなり何だよ。どうしたんだ?」


「……囲まれてる」


「何にさ」


 残火人があごでスケヒトの後方を示す。後ろを振り向いたスケヒトは驚いた。


「おいマジかよ」


 暗闇から歩いてくるのは、暗視ゴーグルのようなものを装着した迷彩柄の人間。見ると、屋根の上や電信柱の陰など四方八方に同じようなやつらがいる。そいつらが誰なのか、一瞬で分った。


「完全に忘れてたぜ……」


 管理局所属、残火人強制浄化部隊『スクワット』。その名が何の略なのか謎な部隊である。色々あったせいで、いままで存在を忘れていた。


「俺ならもう大丈夫だ。こいつだってもう暴れたりはしない」


 説得を試みる。だがすぐに、むなしい結果となった。


「いっ!」


 乾いた音がして、頬を温かいものが流れた。触ってみると、手には鮮血が付いている。頬に焼けるような痛みを感じ、それが自分から出た血だと理解した。


「人は撃てないんじゃないのかよ……」


「黙れ! 黙って手を後ろに組め!」


 隊員らしき人物が前方から歩いてくる。銃口をスケヒトに向けながら街灯の明かりの中に入ってきた。


「貴様は任務を妨害しただけでなく残火人と手を組んだ。よって我々は、貴様を敵と認定する。次、一歩でも動いたら撃つ」


「管理局は俺を護るんじゃなかったのかよ!」


「現場の判断だ」


 せっかく残火人を救えるというところまで来たのに。ここで強制浄化されるわけには絶対にいかない。


「セラの携帯も、輪廻刀だって取り戻した! スクワットの出る幕は終わったはずだろう!」


 全てはセラが戦闘不能と管理局に判断されたことによって起こった。しかし、いまは違う。全て丸く収まりつつあるのだ。


「あいにく、我々に撤退命令は来ていない」


「っ!」


 それを聞いて、スケヒトは唇を噛む。

 管理局はセラが電話に出なかったことで、携帯が盗られたことを知った。だったら、携帯を取り戻せたということを管理局はどうやって知るのだろうか。それはセラが携帯を使って管理局に連絡を入れるしかない。


「――何をする!」


 後ろで残火人が声を荒らげた。振り向くと、セバスチャンともども地面に押さえつけられている。


「なじみっ!」


 目の前に気を取られていたせいで、残火人なじみに接近するやつらに気づけなかった。


「動くな!」


 なじみのもとに駆け寄ろうとしたスケヒトを、スクワット隊員が止める。

 どうしよう。これでは手も足も出ない。誰か助けてくれないものか。


「誰か助けて、か」


 スケヒトがぼそりと呟いた。

 どうしようもなくて、誰かを頼るしかない状況。まるであのとき――初めて黒い女に遭遇したときのようだ。


「……しょうがない」


 腹は決めた。どうせ近所の住民はスクワットによって眠らされでもしているはずだ。だから、少々大きな声を出したって迷惑にはなるまい。

 スケヒトは胸いっぱいに息を吸う。


「貴様もひざまずいて降伏しろ」


 あのときは誰かだった。助けてくれるなら誰でもよかった。けれどいまは違う。自分には助けを求めるべき相手がきちんといる。

 笑顔の似合う少女の顔を思い浮かべながら、スケヒトは思いっきり叫んだ。


「セラーーーーっ!」


 夜の街にスケヒトの声が響き渡る。


「貴様!」


 スクワット隊員が引き金に指をかけたそのとき、空から人が降ってきた。隊員の脳天にかかと落としを食らわせながら着地する。


「私の名前、初めて呼んでくれましたね! とっても嬉しいです!」


 その場に合わない、弾んだ明るい声の天使がスケヒトの前に降り立ったのだった。

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