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いわゆる普通の家政婦ちゃん!  作者: 久城のカワウソ
承の章
43/60

エスケープ、しちゃいますか?①

「本当に、妹に会えるのか?」


「そうだって言ってるだろ」


 先程から何度も残火人のこりびとが聞いてくる。

 嬉しいのは分かるが、短時間のうちに三十回以上も聞いてこないでほしい。 


「ただ、俺と同じで前世の記憶はないけどな」


「それでもいい!」


 ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ残火人。つい先程まで殺気を放っていたとは思えないくらいの変わりようである。


「セラのやつ、上手くやっていればいいけど」


 もうすぐ日が暮れる。千代ちよも帰ってきて、上手くいっていればそろそろ完成するころだろう。ちゃんと教えたはずだが、セラの下手さ加減を見るにどうしても心配になる。


「何を上手くやるのだ?」


 スケヒトの独り言を聞いて、残火人は首をかしげる。


「あっ、いや、こっちの話」


 うっかり心の声を漏らしてしまった。この作戦は残火人にバレると効果が薄れる可能性がある。危ない危ない。


「そうか……ま、妹に会えることに比べたら些細なことだ、気にするまい」


 少しばかり怪訝そうな顔をしたが、残火人はすぐに納得してくれた。いまは妹のことで頭がいっぱいのようだ。


「そう言えば先程から随分と歩いているが、お前の家にはいつ着くのだ?」


「んー、あと二時間くらいかな」


「まだそんなに歩くのか!」


 ここへ来たときに降りた駅まではまだ距離がある。ついさっき、廃墟があった山を下山したところだ。まだ街中にすら入れていない。


「家に着くのは七時過ぎだろうなー」


 腹を空かせた千代が、頬を膨らませて待っているのが目に浮かぶ。このままだと、なじみだけではなく千代からもケーキを請求されそうだ。


『ゲフッ』


 残火人と一緒になって、セバスチャンも落胆の鳴き声を上げた。ちなみに、いまはスマートフォンから竹刀袋、もとい輪廻刀りんねとう袋に変身し、スケヒトの背中に背負われている。


「お前、その声どっから出してんだよ!?」


 袋のくせにどこから音を発することができるのか、はなはだ疑問だ。もしかして、袋に口でもついているのだろうか。そうだとしたら、これ以上服によだれがつかない場所であることを祈りたい。


「二時間も、そんなに歩いて大丈夫なのか?」


 セバスチャンと話していると、残火人が心配そうにたずねてきた。もう一度言うが、数時間前までの残火人と現在の残火人が同一人格だとは到底思えない。


「心配すんなって。傷も浅いし、たっぷり昼寝もしたからもう大丈夫だ」


「体の方は?」


「痛くないと言ったら嘘になるが、多分問題はないはず。ありがとな」


 スケヒトが笑いかけると、残火人は急いで顔をそらした。


「べ、別に心配などしておらん! お前に何かあったら、妹が悲しむと思っただけだ!」


「はいはい。そうですかい」


 なじみの前世が死んだのは十七歳。だからいま話している残火人も、年齢的には十七歳と言うことになる。そのせいもあってか、打ち解けさえすれば話しやすい。


「おっ、ちょっとあそこ寄っていこう」


 話しながら歩いていると、ときが経つのが早い。駅まではまだ遠いが、住宅地には到着していた。目の前には小さな公園がある。


「もう人目にもつくだろうし、顔を洗わせてくれ」


 山からここまでは、民家もまばらで人に会わなかった。けれどこの先、街の中に入っていけば必ず人と出会うだろう。だから顔面血だらけのまま歩くわけにはいかない。


「そっちもその膝、洗いなよ。セバスチャンも喉が渇いただろうし、一回休憩にしよう」


 なじみの膝は、廃墟で転んだせいで擦り剝けている。いい加減洗わないとバイキンが入ってしまう。


「そんな姿で私の心配をするのか」


 残火人は苦笑いしながらスケヒトを見る。残火人は膝を怪我しているだけで、他は特に目立った外傷はない。付け足すとすれば服が少し汚れている程度だ。

 一方スケヒトは顔面血だらけで服もボロボロ。この日暮れ時に見ると、より一層ゾンビ感が増す。何もしらない人に目撃されたら、即通報されてしまうだろう。


「そりゃ、まあ。なじみ(あなた)に何かあったら、困るのは俺だからな」


「……!」


 なじみが自分でコケたとは言え、これ以上怪我の具合が悪くなるのは避けなければ。今回の件で気づいたが、どうやら自分は幼馴染が傷つくのを見たくないらしい。


「分かったら早く行こうぜ。まだ先は長いんだ」


 そう言って、スケヒトは足早に公園へと向かう。既に日は沈み、辺りは薄暗くなっていた。


「おーい、早く来いってば!」


 先を歩くスケヒトが振り返って残火人を呼ぶ。


「……馬鹿ものが」


 薄暗さと二人の距離のせいで、顔を赤くした残火人がそう言ったことをスケヒトは知る由もなかった。

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