吊り橋効果、マジすごいです!④
「私は!」
スケヒトに斬りかかりながら、残火人は叫ぶ。
力任せに袈裟斬りを繰り出してきた。しかし、それはセバスチャンのバリアによってスケヒトには届かない。
「腐っていた世の中が、」
見えない壁に攻撃が阻まれても、残火人は刀を止めない。いくら刀が弾かれようとも、それでも斬りかかってくる。
「偽の正義を振りかざしたお前たちが、」
セバスチャンはあとどれくらい持つのだろうか。さっきから、結構やられている。
「そして、妹を護れなかった私自身が――」
残火人が大きく叫んで、黒刀を大きく振りかぶった。
「――憎くてたまらない!」
いままでに聞いたことのない音とともに、刃とバリアが衝突する。その衝撃はスケヒトにも伝わってきた。
「くっ!」
残火人が、持っていた刀を地面に落とした。どうやらなじみの体が先に悲鳴を上げたようだ。落とした黒刀をもう一度持ち上げようとするも、上手く掴むことができない。
「くそっ!」
助かったとスケヒトは思う。
メーターの残りはもうほとんどない。あのまま攻撃され続けていたら、きっといまごろバリアを突破されていただろう。
「――!」
胸をなでおろしたのもつかの間、スケヒトは天井を見て驚愕する。
黒い女が破壊し、穴の開いた天井。その天井を走る亀裂が先程よりも広がっていた。もういつ落ちてきてもおかしくない状況だ。
「なじみっ!」
天井がその重さに耐えきれず、とうとう落下してきた。天井に気が付いていなかった残火人は、回避することができない。ガラガラと音を立てて、なじみに瓦礫が降り注ぐ。
「――……うっ!」
頭に激痛が走った。
「……何故だ」
スケヒトの顔を、押し飛ばされた残火人が目を見開いて見つめる。
「何故って、そりゃ……」
頭がくらくらする。呼吸も荒くなっているし、少しむちゃをし過ぎた。
「なじみを、ここで死なせるわけには……いかないからな」
スケヒトの体に瓦礫が重くのしかかる。
両腕、両足ともに動かない。だが、なじみを――残火人を助けることができて、本当によかった。
「お前は本当に愚かだ」
スケヒトの額に赤い雫が流れる。どんどん流れて、床に赤い水たまりを作り始めた。
「愚かすぎて、笑えもしない」
足元に転がっていた輪廻刀を杖の代わりにして、立ち上がりながら残火人は言う。そして輪廻刀を引きずりながら、よろよろとスケヒトのもとへ歩いてきた。
「私を助けて自分が犠牲になるなど……何のつもりだ」
倒れたスケヒトに輪廻刀の切っ先を突き付ける。
「……俺は犠牲になるつもりなんて、ない」
「何を言うか!」
「だって――」
スケヒトはわざと残火人が聞きたくないであろう台詞を口にする。
「――妹が家で待ってるからな」
「っ!」
残火人の持つ輪廻刀が震える。荒くなった呼吸から、残火人が動揺したことをスケヒトは悟った。
「あなたのためも、俺は死なない」
「……私のため、だと?」
「そうだ」
ここで死んでしまっては、残火人を救えない。千代のためにも、残火人の妹のためにも、そして頑張ってくれたセラとセバスチャンのためにも。絶対に生きて家に帰るのだ。
「あなたは俺に死んでほしい、そう言った。だが本当に、それが本心なのか?」
「そうだ!」
「だったら、一回しか言わないぞ! よく聞け!」
瓦礫に押しつぶされて息が苦しい。けれど、精いっぱい思いっきり叫ぶ。
残火人に自分の気持ちを気づかせてあげるのはいましかない。
「俺を殺したって、あなたの妹は戻らない!」
「っ!」
「あなたはただ、もう一度妹に会いたいだけなんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい……うるさい!」
残火人が輪廻刀を垂直に持ち上げる。切っ先がスケヒトの首筋を狙った。
「お前に何が分かる! 妹を残して死んだ私の何が!」
「分かんねえよ! けど、妹を思う気持ちなら痛いほど分かる!」
スケヒトが言い切った刹那、残火人の絶叫とともに刃が落とされた。




