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いわゆる普通の家政婦ちゃん!  作者: 久城のカワウソ
承の章
40/60

吊り橋効果、マジすごいです!④

「私は!」


 スケヒトに斬りかかりながら、残火人のこりびとは叫ぶ。

 力任せに袈裟斬りを繰り出してきた。しかし、それはセバスチャンのバリアによってスケヒトには届かない。


「腐っていた世の中が、」


 見えない壁に攻撃が阻まれても、残火人は刀を止めない。いくら刀が弾かれようとも、それでも斬りかかってくる。


「偽の正義を振りかざしたお前たちが、」


 セバスチャンはあとどれくらい持つのだろうか。さっきから、結構やられている。


「そして、妹を護れなかった私自身が――」


 残火人が大きく叫んで、黒刀くろがたなを大きく振りかぶった。


「――憎くてたまらない!」


 いままでに聞いたことのない音とともに、刃とバリアが衝突する。その衝撃はスケヒトにも伝わってきた。


「くっ!」


 残火人が、持っていた刀を地面に落とした。どうやらなじみの体が先に悲鳴を上げたようだ。落とした黒刀をもう一度持ち上げようとするも、上手く掴むことができない。


「くそっ!」


 助かったとスケヒトは思う。

 メーターの残りはもうほとんどない。あのまま攻撃され続けていたら、きっといまごろバリアを突破されていただろう。


「――!」


 胸をなでおろしたのもつかの間、スケヒトは天井を見て驚愕する。

 黒い女が破壊し、穴の開いた天井。その天井を走る亀裂が先程よりも広がっていた。もういつ落ちてきてもおかしくない状況だ。


「なじみっ!」


 天井がその重さに耐えきれず、とうとう落下してきた。天井に気が付いていなかった残火人は、回避することができない。ガラガラと音を立てて、なじみに瓦礫が降り注ぐ。


「――……うっ!」


 頭に激痛が走った。


「……何故だ」


 スケヒトの顔を、押し飛ばされた残火人が目を見開いて見つめる。


「何故って、そりゃ……」


 頭がくらくらする。呼吸も荒くなっているし、少しむちゃをし過ぎた。


なじみ(あなた)を、ここで死なせるわけには……いかないからな」


 スケヒトの体に瓦礫が重くのしかかる。

 両腕、両足ともに動かない。だが、なじみを――残火人を助けることができて、本当によかった。


「お前は本当に愚かだ」


 スケヒトの額に赤い雫が流れる。どんどん流れて、床に赤い水たまりを作り始めた。


「愚かすぎて、笑えもしない」


 足元に転がっていた輪廻刀りんねとうを杖の代わりにして、立ち上がりながら残火人は言う。そして輪廻刀を引きずりながら、よろよろとスケヒトのもとへ歩いてきた。


「私を助けて自分が犠牲になるなど……何のつもりだ」


 倒れたスケヒトに輪廻刀の切っ先を突き付ける。


「……俺は犠牲になるつもりなんて、ない」


「何を言うか!」


「だって――」


 スケヒトはわざと残火人が聞きたくないであろう台詞を口にする。


「――妹が家で待ってるからな」


「っ!」


 残火人の持つ輪廻刀が震える。荒くなった呼吸から、残火人が動揺したことをスケヒトは悟った。


「あなたのためも、俺は死なない」


「……私のため、だと?」


「そうだ」


 ここで死んでしまっては、残火人を救えない。千代ちよのためにも、残火人の妹のためにも、そして頑張ってくれたセラとセバスチャンのためにも。絶対に生きて家に帰るのだ。


「あなたは俺に死んでほしい、そう言った。だが本当に、それが本心なのか?」


「そうだ!」


「だったら、一回しか言わないぞ! よく聞け!」


 瓦礫に押しつぶされて息が苦しい。けれど、精いっぱい思いっきり叫ぶ。

 残火人に自分の気持ちを気づかせてあげるのはいましかない。


「俺を殺したって、あなたの妹は戻らない!」


「っ!」


「あなたはただ、もう一度妹に会いたいだけなんだよ!」


「うるさいうるさいうるさい……うるさい!」


 残火人が輪廻刀を垂直に持ち上げる。切っ先がスケヒトの首筋を狙った。


「お前に何が分かる! 妹を残して死んだ私の何が!」


「分かんねえよ! けど、妹を思う気持ちなら痛いほど分かる!」


 スケヒトが言い切った刹那、残火人の絶叫とともに刃が落とされた。

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