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いわゆる普通の家政婦ちゃん!  作者: 久城のカワウソ
承の章
22/60

なんですか、イベントですか?④

 ホームルーム終了のチャイムが鳴って、山田担任は教室から出て行く。それと共に生徒たちも動き出した。


「ねえねえ、好きなアイドルとかいるー?」


「アイドルですか、そうですね――」


 隣に座るセラの周りには女子生徒が多数集まっていた。彼女たちはセラの机を取り囲むようにして色々と質問をしている。セラは楽しそうに笑いながら、質問に答えていた。


「――おいスケヒト、聞いてんのか! お前ばっかりずりーぞ!」


 一方、スケヒトも男子生徒に囲まれていた。


天月あまつきさんがいながら、なんてやつだ!」


「あんな美少女と同じ屋根の下とは、この変態が!」


 隣のお茶会のような雰囲気とは一変、こちらでは会話という名の糾弾が行われている。スケヒトは愛想笑いをしながら、事態の収拾に努めていた。


「まあまあ、落ち着けって」


「これが落ち着いていられるかぁ!」


 男子生徒Aに胸ぐらを掴まれ、前後に振られる。火に油を注いでしまった。一刻も早くなじみのところへ行きたいのだが、これでは動くことができない。


「悲しいことだがしょうがない。シスコン連盟からの除名処分を言い渡す」


 眼鏡をずいっと上げ、令状を差し出してくる男子B。

 よく見ると、彼はワイシャツの下に『妹LOVE!』と印刷されたティーシャツを着ていた。ちなみに言っておくが、シスコン連盟などに入った覚えはこれっぽちもない。


「幼馴染愛好会からも追放とする! うらやましいなぁ、ちくしょう!」


 泣きながらしわくちゃの紙を突きつける男子C。

 彼がこんな性癖を持っていたとは知らなかった。言うまでもないが、この組織にも加盟した覚えはない。


「分かった、分かったから! 一旦落ち着けって!」


 一応そう叫んでみるも、やはり誰も耳を貸してくれない。逆に事態は悪くなる一方だ。男子生徒たちはスケヒトを押しつぶす勢いで迫ってきている。


「くそっ、どうすれば……」


 スケヒトが途方に暮れかけたそのとき、


「こっちだ、こっち」


 という声が机の下から聞こえてきた。見るとそこには、こんがりと焼けた肌の少年がいる。


「はっ、羽田はねだー!」


「しぃー! 黙ってこっち来い」


 思わぬ救世主の登場に思わず叫んでしまった。

 羽田は口に人差し指を当てながら、スケヒトを机の下に招く。


「いいか、よく聞け」


 スケヒトが机の下に潜ると、そこでは羽田が待っていた。羽田は四つん這いになり頭だけを机の下に入れている。


「この混雑で、やつらはまだお前がいなくなったことに気づいてない」


 上を指さす羽田。上ではスケヒトがいなくなったにも関わらず、いまだに糾弾が続いていた。


「この場は何とかしてやるから、俺をくぐってここから逃げろ」


 羽田は笑いながら親指を立ててグッドのポーズをする。スケヒトにはその笑顔が太陽よりも眩しく見えた。


「その代わり、天月さんにちゃんと渡してこいよ! 話はそれからだ」


「いやしかし……」


 それでは羽田に迷惑がかかってしまう。変に味方すると彼も裁かれかねない。


「いいから行けって! 俺のことは心配すんな、多分死にゃしねえから」


 羽田は懸命に逃走経路を確保してくれている。ここで逃げなければ彼の努力は無駄になってしまうだろう。


「……分かった! ありがとな、羽田。絶対に死ぬんじゃねえぞ!」


「おうよ!」


 スケヒトは急いで机横の鞄から包みを出す。なじみへのプレゼントをしっかりと持ち、男子からの圧力に耐えている少年の下をくぐった。


「羽田、お前の死は決して無駄にしないぞ」


 人だかりの外に出て、隠れながら教室のドアを目指す。こんなことではセラの護衛もあったもんじゃない。

 壁伝かべづたいに四つん這いで教室を進む。ここで見つかっては犠牲になった羽田が浮かばれない。下を向き、顔を隠しながら慎重に前進する。


「もう少しで、外に出れる……」


 さっき教壇の後ろを通過したから、後はこのまま進むだけだ。頼む、見つからないでくれ!


「スケヒトさん、何してるんですか?」


「ひっ!」


 前方の机の下からセラが出現した。思ってもみない場所からの出現に、スケヒトは危うく絶叫しかける。


「お化け屋敷じゃないんだから、驚かせるなよな」


 スケヒトは小声でセラに言う。


「すみません」


「何してるって、男子どもから逃げてきたんだよ。それより、そっちは?」


 セラのほうはいたって平和だったはず。それなのに何故、自分と同じ体勢で教室を這っているのだろう。


「スケヒトさんあるところに私ありです!」


 にっこりと笑いながら敬礼するセラ。


「で、本心は?」


 自己紹介の件もあって、スケヒトは疑り深くなっていた。


「警察に捕まりそうになった怪盗が、機動隊の足元をくぐって脱出するってやつをやりたかったんです。人に囲まれるなんてことは、いままでなかったもので」


「そんなこったろうと思った」


 張り切って本懐を語るセラをおいて、スケヒトは先に進む。


「さっ、さっきのも本当ですからね!」


 後ろではセラが必死になって弁明していた。


「なあ、どうやって脱出したんだよ」


 ふと疑問に思ったことを聞いてみる。羽田の力を借りなければ、男子の群れからは出られなかった。だったらセラはどうやって女子たちから逃げたのだろう。


「とある人に助けてもらったんです。その方は四つん這いになって脱出経路を作ってくれました」


「誰がそんなことを?」


 羽田のようなやつが女子にもいたとは驚きだ。


「名前は分かりませんが、男性でしたよ」


「え、男!?」


 驚きのあまり、後ろのセラを見てしまった。

 女子の足元に潜り、セラを助けた男子とは一体誰だろう。セラにとっては勇者だが、女子にとってはただの変態だ。ただでは済むまい。


「色黒で、鼻筋に絆創膏ばんそうこうを貼っていましたね」


「……」


 無事、教室の入り口に到着。スケヒトは無言で立ち上がる。


「少し汚れちゃいました」


 遅れて立ち上がったセラは、スカートのゴミをほろう。そんなセラに向かってスケヒトは言った。


「教室の中を向いて、手を合わせるんだ」


「……?」


「合掌っ!」


 羽田が本当に死んでいないか、とても心配になった。

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