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いわゆる普通の家政婦ちゃん!  作者: 久城のカワウソ
承の章
18/60

ルート分岐、そりゃもう一択!⑥

 夕飯がテーブルに並んだころ、ちょうど千代ちよとセバスチャンが帰ってきた。千代が手洗いうがいを終え、スケヒトの隣に座るのを待って食事を始める。


「へー、この肉じゃがなじみちゃんが作ったんだー。おいしーねー」


「たっ、卵焼きはどうでしょうか!?」


「形は変だけど、まあまあおいしーよー」


 千代は溶けかけのスライムのような卵焼きをつつく。これを作ったのがセラだということは、言うまでもない。


「一番格好よくできたものを選んだつもりなのですがね……」


 十二分の一の確率でしか卵をちゃんと割れない、その言葉は本当だった。だから卵はスケヒトが割ってあげたのだが……。


「ゲフッ、ゲフッ」


 スケヒトの足元で、セバスチャンはむせているのか鳴いているのか分からない声を発する。絶叫しているスライムのような卵焼きを必死になって食べていた。


「……(頑張ってくれ)」


 そう気持ちを込め、無言でセバスチャンをおがむ。子犬のような見た目でも、ケルベロスなのには変わりない。そうそうくたばることはないだろうが、果たしてセラの卵焼きと亡者、どちらのほうがおいしいのだろうか。


「そう言えばプレゼント、なじみちゃんに渡したー?」


 なじみが作った肉じゃがを取りながら、千代が聞いてきた。


「今日も渡しそびれたよ。なじみのやつ急いで帰っちゃったからな」


「なじみちゃんが急いで帰るなんて、珍しいこともあるもんだー」


「観たいドラマがあるらしくてな」


「ふーん。うちで観てけばいいのにねー」


 残火人のこりびとの分身を見たせいで帰ったなんて言えるわけない。

 何も知らない千代はじゃがいもを口に運び、咀嚼そしゃくする。


「でも、明日はちゃんと渡したほうがいいよー。せっかくお兄ちゃんが選んだんだから。なじみちゃんも待ってると思うしさー」


 口腔こうくう内の物をごっくんと飲み込んでから、千代は言った。確かに明日こそは渡さなければならない。本当ならば昨日渡してこその物だったのだから。


「何をプレゼントなさるのですか?」


 きんぴらごぼう(スケヒト作)をつついていたセラが首をかしげる。


「ハンカチだよ、ハンカチ」


「どうしてまた」


「あいつ、昨日が誕生日だったんだ」


「そうなんですか! おめでたいです。それじゃあ、昨日は誕生日ケーキとか食べたんでしょうね」


「そう……だな」


 ケーキと言われて気が付いた。


「まさか、俺が忘れてると思って……」


 なじみの分のケーキを買わされた理由はそれかもしれない。今日のことといい、昨日のことといい、明日は朝一でなじみに謝らなければ。


「それにしても、うらやましいです」


「何が?」


「お誕生日を祝ってもらえるなんて、うらやまし過ぎます!」


「そ、そうか?」


「はい! だって一回も祝われたことないんですもん!」


 そう言えば、年齢という概念は存在しないとか言っていた。誕生日がないのでは、土台無理な話だ。


「誕生日じゃなくても、祝われたことくらいはあるだろ」


「いいえありません! 私は基本単独行動ですので」


「友達は?」


「……」


 そっぽを向くセラ。その反応が答えと言えよう。


「いないんだな」


「そっ、そんなにはっきり言わなくても!」


 セラはうわーんと言って、白飯をかっ込む。そして自分の作った卵焼きを食べて盛大にむせていた。


「わたしはセラお姉ちゃんのともだちだよー」


 涙目になっているセラに千代がそう声をかける。千代ににっこりと微笑ほほえみかけられたセラは、


「大好きですよぉ、千代ちゃぁん! 結婚しましょぉう!」


 と言って、わざわざこちらに来て千代に抱きついていた。


「友達は結婚するような関係じゃないぞ……」


 それは友達ではなく恋人だ。まあ、それくらいうれしかったのだろう。


「くすぐったいよー、セラお姉ちゃん」


「大好きですぅぅぅ!」


 セラにほおずりをされ、くすぐったがる妹。もしかしてとスケヒトは思う。

 セラが家政婦だと強調するのも、家事を頑張るのも、なじみともっと話したがったのも、全ては友達が欲しかったから。そうなのかもしれない、と。


「ゲフッ」


 足元でセバスチャンが鳴いた。口元に卵焼きスライムの残骸ざんがいをつけながら、スケヒトを意味ありげに見つめている。それはまるで娘を心配する父のよう。セバスチャンが何を言いたいのか、スケヒトにはすぐに理解できた。


「安心しろって……」


 今日だって朝から色々なことがあったのだ。喫茶店に行ったり、一緒にご飯を作ったり、洗濯物を干したり。しかも昨日なんて自分の部屋に泊めている。そんなやつを、ただの家政婦だなんて乾いた関係で片づけるつもりはない。


「セラはもう、大丈夫だから」


 あとは分かるだろ、とアイコンタクトで伝える。きちんと伝わったのだろうか、セバスチャンは無言で食事に戻っていく。そして、


「ゲフッ!」


 と、了解の返事なのかむせているか分からない声で鳴いた。

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