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いわゆる普通の家政婦ちゃん!  作者: 久城のカワウソ
承の章
13/60

ルート分岐、そりゃもう一択!①

「こんな感じでよろしいですか?」


 フライパンの中にはまっ赤なソース。煮だったそれをかき混ぜるのは、エプロンを着たセラだ。


「オッケーオッケー。じゃあ次はパスタの投入といこう」


 ソースと並行してでていたパスタをスケヒトが取り出す。今日のお昼ご飯はセラが主体で作ることになっていた。スケヒトはあくまでもアシスタント役にてっする。


「パスタなら何とか、一人でも作れそうです」


 麺とソースを混ぜ合わせながらセラがそう言った。ひたいの汗を拭いつつ懸命に料理をする姿は、庇護欲ひごよくをかき立てるものがある。実際にまもられているのはスケヒトのほうなのだが。


「そりゃよかった。んじゃ、最後に盛り付けといこうか」


「はーい!」


 セラが慎重に盛り付けをして、料理は終了。なかなか上手にできた。スケヒトは先にサラダを運ぶ。


「はやく、はやくー」


「ゲフッ!」


 テーブルには既に千代ちよがついていた。待ちきれないらしく、フォークを持ってスタンバイしている。セバスチャンのほうも千代の足元でお座りをして待っていた。


「この犬、パスタも食べるのか……」


「亡者を食べていたくらいですから、パスタくらい食べますよ」


 パスタを運んできたセラがさらっと恐ろしいことを言った。セラはそのパスタを千代とセバスチャンの前に置く。


「え、そんなもん食べんの?」


「昔の話ですよ。だてに地獄の番犬はやっていません」


「腹を壊しそうだな、それ」


 変な鳴き声の小さい犬。見た目は弱そうだが、そういえばケルベロスだった。


「それより早く残りのサラダとパスタ、運んじゃいましょう! お腹がすいて、内に秘めし獣が暴れだしちゃいそうです!」


 甘いものは別腹という話は本当らしく、セラのお腹はぐぅーと鳴る。


「ほらっ! 言ったじゃないですか!」


 腹が鳴ったのが恥ずかしかったらしい。セラは顔を赤らめて腹を押さえながら訴える。その姿を見たスケヒトは思わず笑ってしまった。


「わっ、笑わないでください!」


「ごめんごめん。面白くって、ついな」


「むぅー。それより早く運びますよ!」


 エプロン姿の少女に手を引かれ、スケヒトは歩き出す。絆創膏ばんそうこうだらけの手は温かく、そしてやわらかかった。


「それじゃあ、手を合わせてください。いただきまーす!」


「「いただきまーす!」」


「ゲフッ!」


 スケヒトが音頭を取って食事が始まった。セラたちが家に来てから、食事の時間はとてもにぎやかなものとなっている。千代と二人の食事もよかったが、やはり大人数で食べたほうがおいしく感じる。


「初めて作ったので、自信はないですが。どうですか、おいしいですか?」


 目の前に座るセラが不安そうな顔で聞いてきた。お腹がすいたと言っていたにも関わらず、パスタにはまだ手をつけていない。


「うんっ! おいしーよ、セラお姉ちゃん!」


「本当ですか!?」


 千代の感想に驚くセラ。目をうるうるさせて、今度はセバスチャンを見る。


「ゲフッ!(肯定)」


 セバスチャンはそう元気に鳴き、再び食べ始めた。

 セラは最後にスケヒトを見る。唇を引き締め、大きな銀の瞳でスケヒトを見つめている。その表情は真剣そのもの。お世辞を言えるような雰囲気ではない。だから、スケヒトは感じたそのままを伝えた。


「さすがは家政婦さん。とってもとっても、おいしいよ」


 セラの張りつめていた気持ちがゆるむ。そして、


「よかったです!」


 嬉しそうににっこりと笑った。セラの笑顔を見て、思わずスケヒトも顔がほころぶ。


「自分でも食べてみ。ただし、ソースは飛びやすいから気をつけてな」


「はいっ!」


 エプロンを着たままパスタを食べる少女を見て、スケヒトは思う。この楽しい時間は、自分が狙われているからこそあるのだと。残火人のこりびととの因縁があるからこそ、少女はここにいるのだと。


「兄ちゃん、ティッシュー」


 そう言われて妹を見ると、胸にソースが飛んでいた。服には縦一線に赤く染みがついている。それはまるで返り血を浴びたようだった。


「ありゃりゃ、これは洗濯だな」


「ご飯のあとのお洗濯も、私にお任せください!」


 口にソースをいっぱいつけて、セラがそう言ってきた。妹にティッシュを渡すついで、セラにも一枚とってあげる。


「とりあえず、口拭け、口」


「おっと、これは失礼しました!」


 まっ赤なソースを拭く妹とセラを見て思う。どうして自分は前世で人を斬ったのだろうかと。


「おいしいんだけどなぁ」


 ソースが血のように見えて、仕方なかった。

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