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いわゆる普通の家政婦ちゃん!  作者: 久城のカワウソ
承の章
10/60

もしかして、フラグですかね?④

 カランコロンと音を立てて、喫茶店のドアが開く。コーヒーのこうばしい匂いに鼻をくすぐられつつ、スケヒトとセラは入店した。千代ちよは宿題があるそうで、セバスチャンと家に残っている。


「ううう、虎の子をゲットし損ねてしまいました……」


 席について注文を終えてもなお、セラは肩を落としていた。こんなに落ち込まれると、罪悪感がしないでもない。


「そんなに行きたかったのか、あそこ」


 おしぼりで手を拭きつつ聞いてみる。するとセラはお冷を飲み干し、思いっきり息を吸った。そして、堰を切ったようにしゃべり始めた。

 

「そりゃそうですよ! こういうときにしか行けないんですから! 知ってますか? 輸入では限定版が手に入らないんです! 百歩ばかしゆずって通常版だとしても、輸入品となると一年待ちとかざらなんですよ! 新刊だってそうです! 気になる終わり方されてこっちはうずうずしてたはずなのに、手に入ったときには内容忘れてるんですよ! 忘れないように何度も読んだって無駄です! 作品への愛が足りないんじゃないかと泣きながら前の巻を読み返すむなしさと言ったらありません! 深夜アニメだって、一体何クール遅れていることか! 映画だって拡大上映されないと絶対に来ませんし! その上、入場者特典つかないんですよ! 分かりますか、いえ分からないでしょうねこのつらさがっ!」


「分かった、分かったから……とりあえず、離れよう」


 テーブルに乗り出し、鼻息を荒立てて熱弁するセラ。軽い気持ちで聞いたことを後悔した。スケヒトはおしぼりを使い、顔に飛んできたつばぬぐう。


「行きたかったのは分かった。そのつらさも少しは想像できる。けどな、いまは任務中だろ?」


「うっ!」


 痛いところを指摘されたようで、セラは胸を押さえた。


「明日は学校がある。今日確認するべきは通学路なんじゃないか?」


「ううっ!」


「それに俺、青い店のポイントカードしか持ってないんだ」


「うううっ! って、最後の何ですか!」


 ツッコミをするセラはもう元の調子に戻っていた。落ち込んだり、興奮したりとなかなか忙しい少女である。


「失礼しまーす。ブレンドコーヒーとケーキセット、お持ちしましたー」


 ちょうどいいタイミングで注文の品が運ばれてきた。セラは笑顔でケーキとクリームソーダを受け取る。スケヒトも店員からコーヒーを受け取ろうとしたのだが、そこで絶句した。店員も目を見開いてフリーズしている。


「ん? どうかしましたか、スケヒトさん?」


 ホイップクリームを口の周りにつけて、何も知らないセラが首をかしげる。

 青天の霹靂へきれき。スケヒトは応答することができない。


「スケヒトが……なんでここに」


 ウエイトレス姿の少女がそうつぶやく。その表情は驚きで満ちていた。


「なじみ……」


 スケヒトは少女を知っていた。少女ももちろんスケヒトを知っている。正確には保育園時代から互いに知っていた。


「こんな所で働いているなんて、聞いてない」


「んなこと……言った覚えない」


 顔を赤く染め、そう答えるポニーテールの少女。店の制服には『天月あまつき』と書かれた名札がついていた。


「お知り合いですか?」


 もぐもぐとイチゴを頬張ほおばりながらセラが聞く。なじみ、セラを視認。


「ねえスケヒト」


「はい、なんでしょう……?」


「この女、誰?」


 蛇ににらまれた蛙。ここでうかつな発言をすることは厳禁だ。もし失言でもしたら、天月家からのおすそ分けが断たれるかもしれない。


「えーっと」


 適当な返答じゃダメだ。明日になればセラが居候していることはバレる。居候している理由、何かいい理由はないものか!


「私はセラと言います」


 考えているうちにセラが話し始めてしまった。やめろ、変なことは言うな。そう必死に目で訴えるも、セラはウインクをして続ける。


「スケヒトさんのご両親に拾われ、いまは家政婦として朝霧あさぎり家に居候しています」


「はあ、居候!?」


 やばい。これ以上おかしなことを言われると、色々と面倒になる。


「ジャングルの奥地で軍隊に捕まっていた私を、お二人は助けてくれたのです。クリスタルな頭蓋骨をめぐっての戦い、未知との遭遇、友人との別れ、そんな映画一本分の大冒険がありました」


 虚空こくうを眺め、セラはほら吹く。どこから出したのか、年季の入ったハットもかぶっていた。なじみはと言うと、


「……それは、大変だったわね」


 すんなり信じていた。


「え? いまの信じんの?」


 誰が聞いてもすぐ分かる嘘。それを信じた幼馴染が信じられない。誤魔化すことに成功していたにも関わらず、聞いてしまった。


「そりゃ、おじ様とおば様だもの。信じないわけないでしょ」


「俺の両親の認識、どうなってるんだ……」


「んー、考古学馬鹿?」


 うちの両親も両親だが、なじみもなじみだった。

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