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第6章:慟哭のべへモート

「じゃ、マルとチュビはここで待っててくれな。ギルドに入るとややこしいから。」


僕は背中におぶったマルをギルドの前で降ろすと、チュビヒゲと共に待機してもらうように身振り手振りで伝えた。どうも今日はギルドが騒がしい。それはすなわち厄介ごとの予兆だ。


ギルドの前には人混みができており、その中心には大きな鉄格子と荷馬車があった。さしずめ何かの魔物を捕獲したのだろう。


ーそれはそうと・・・そうだな・・・今日は森の鹿でも取ってくるか。


僕はギルドボードに貼られた森での鹿駆除の依頼を手に取ると人混みをかき分けてカウンターに行く。

無言で紙を置くと、奥からそれに気づいた受付の男性がめんどくさそうに来るのが見えた。


「森の鹿・・・ね。はい、後で処理しますよ。戻ってきたらまた言ってください。なんせ今日は大物が入って、、ギルド中忙しいんです。あの”竜攫い”のトランプが魔の山から”ベヘモート”の子を連れてきたんですよ。わかるでしょう新人さん。」


ー竜攫い?トランプ?ベヘモート?


そう言うと受付職員は指で一人の大柄な男を指差した。


ーなんか横柄そうなやつではある。


ホールの真ん中いっそう騒がしい冒険者に混じって派手な甲冑に身を包み、背中に身の丈もある大剣を担いだ男が昼間から酒を飲んでいるのが見えた。僕は興味もなく目をそらし蒸気二輪の鍵を受け取った。


Kio(何?), Behemoto(べへモート)?」


僕がベヘモートを知らなかったのが予想外なのか、職員が興奮気味にベラベラと話し始めた。


「いくら新人とはいえ、ベヘモートも知らないのはやばいですよ!?ベヘモートは大昔の書物にしか出てこないドラコ(竜種)の上位種で、漆黒の羽に大きなツノ、何より違うのは鱗ではなく体毛で覆われていること。その中でも最も強い個体は背中に特殊な”輪っか”があるとされてるそうですよ!今回捕獲されたのはまだ幼生で輪っかはないですけど、文献にある通りで、ほぼ間違いなくベヘモートなんですよ!?わかります!?伝説の生き物が今!目の前にいるんですからね??」


「Jes・・・jes.・・・」


僕は顔を赤くしてまくし立てる職員を尻目に、そそくさと外に向かって歩き出した。


ーベヘモート・・・ドラコの上位種か・・・でも、子供がいるって事は親もいるんだろう?攫うってのは”竜攫い”ってやつはその辺どうしてるんだろうか。


僕が出入り口に着く直前、広間の中心、人混みの真ん中で一際大きな声がした。


「んぁ?おい!なんかお前ら、臭わねえか?・・・人外の匂いだ?なあ、そうだろう?」


ー人外?まあ、そりゃベヘモートなんとかがいりゃあ獣くさかろうよ。


「可愛らしい人の皮を被った人外さまがよお?」


ー・・・やべ、まさか、マルか!?


僕は慌てて人混みをかき分けて声の方へと進んでいく。いくら屈強な男達ばかりといえど、このフィジカルーー質量ーーに物を言わせれば余裕だった。


「そうだろうおめえ。ほらフードを脱ぎな、お嬢ちゃん(・・・・・)?」


目の前では、煌びやかな銀色の甲冑に身を包んだ赤毛の大男ーートランプと呼ばれた男だーーと、鼠色のフードを被った小柄な冒険者が対峙していた。フードの冒険者は道を他の冒険者に阻まれ逃げるに逃げられないようだった。


「この竜攫いのトランプが脱げって言ってるんだぜ?さっさとしな。」


ーうわああ・・・トランプトランプしてるよ。・・・どれどれ・・・<解釈>



___________________________

名前: -トランプ-

種族:ホーマ

性格:慢心

魔力保有量: 3200/4140

体重:10.90kg

状態: ー

魔導:属性魔法(火・水・麻痺) 治癒魔法 武法:拳  

能力:「気配察知」

加護:「棚ぼた」

アドバイス:「最後に残ったものが勝ち」


<気配察知:周辺の生物の位置と状態を把握できる>

<棚ぼた:無駄に運がいい>

___________________________


「うーん・・・大したことない気がする。」


僕がぼそりと呟くのと小柄の冒険者がフードを脱ぐのがほぼ同時だった。人々の注目がそちらに向く中で、僕の声に注目したのは今まさにフードを脱いだ・・・金髪の髪をたたえたイタチのような顔立ちの若い女性だった。つまり一人の凛とした表情の女性ーー渦中の女性ーーがこちらを向いていた。


ーえ、なんで僕?


女性の意識が僕に向おうとも、依然として群衆とトランプの注目は女性に向けられたまま、むしろ皆の眼差しはその華やかさにいっそうに熱を帯びたとも言えるほどだった。


「ほう、なんだ知らねえ顔だなあ。あんまり無愛想なもんで人外かと思ったぜ!おい!無視かよ!!おまえ、なかなか良い面してるじゃねえか。今日はめでたい日なんだ。俺の相手をさせてやるぜ。なあ?こっち来いよ。」


目の前のトランプはいかにも下卑た笑みを浮かべると、金髪の女性に手招きした。


ーう、そういう展開か・・・。やっと理解できた・・・まずいな、助てもいいけれど・・・あの冒険者のステータスは・・・<解釈>


{パキン}


ーあっ!<解釈>ができない!?


「せっかくのお誘い、ですがお断り致します。私はこれから領主様にお届けモノをするところですので。」


領主の名前が出たところで周りがざわついた。いくら冒険者といえども、領主の客に手を出すわけにはいかないと察するには固くないのだろう。一瞬の沈黙を破ったのは他でもないトランプだった。


「プハッ!それがどうした?あのヘボ領主に手出しなんかさせねえ。姉ちゃん、その予定は明日にズラしな。」


周りを囲む下っ端たちが一斉に歓声をあげる。


「そうですか。なら仕方ありませんね・・・。そこのあなた。」


金髪の冒険者が指差したのは何故かやはり僕だった。


「少し前に屈んでもらえるかしら。」


訳も分からず僕が前に屈むと、金髪の冒険者は素早い身のこなしでこちらに向かって走り寄り、そしてー


{ダンッ}


ーな、俺を踏み台にぃぃ?


僕の背中を踏み台に一足飛びに出入り口まで跳躍し、走り去っていった。


「な!あいつ!てめえら、あいつを連れ帰ったやつに金貨を一枚くれてやる。さっさと探してこい!それからおめえ。」


ーお前って・・・もしかして僕ですか?


「間抜けヅラ晒してやがるお前だよ。てめえ、最近来たっていう”墓戻り”だろ?顔・・・覚えたからな。」


僕は困惑した表情のままーーできればもっと澄ました”顔”を覚えて欲しかったーーなるたけ平静を取り繕って部屋を出た。周りの取り巻き冒険者たちの視線が痛い。しかし、外野にどうこう言われる筋合いはないわけで・・・。


ー僕はいいことをした・・・と思う。踏み台になっただけだけど。


ギルドを出ると、ベヘモートと思われるカゴには黒い布がかけられていた。眠りの魔法かはたまた鎮静剤の類か、明らかに生き物の匂いが香るにも関わらず物音は一つも聞こえなかった。姿形は気になりつつも、今は一刻も早くここを去りたい僕はマルと合流し森へと向かった。



・・・



森に向かった僕らはすぐに鹿の魔物を見つけた。彼らも例にもれず人を見かけると攻撃を仕掛けてくる。突進に加えて水属性の魔法を使ってくるため意外と厄介だ。最初の戦闘で数匹を倒した後、僕は作戦を変更することにした。


ーうん、数も多いしマルにも手伝ってもらうか。


「マル、戦闘してみるか?」


「ん?なんて?・・・えっと・・・剣?・・・剣をとれってこと?」


僕はマルに自分の使っていた剣ーー安物の片手剣ーーを渡すと、戦うように促した。


「う、重い・・・使ったことない・・・。」


マルは両手でこの剣を持つと、僕は後ろから手を取り剣の振り方を教えた。なに、遠心力を使うだけだ。特にトドメの刺し方を入念に教えるとマルは嫌がりながらもこれを繰り返した。


「じゃあ行こうか。一人じゃ、やれる数に限りがあるからね。僕が足止め、マルがトドメ、OK?」


「何言ってるかは分からないけど・・・なんか分かる・・・」


「チュビ!」


ーごめんごめん、チュビも遊撃手ってわけね。


・・・


僕たち二人と一匹で森の奥に進む。意外にもマルは生き物を殺めることにあまり抵抗がなく、次第に自然と殺めることができるようになっていた。僕は殆どがんじがらめーー文字通りチョークスリーパーみたいにしたこともあったーーに鹿の動きを抑えて、マルは鹿の中枢神経に刃が刺さるように突き刺すという形だ。


「うまいよマル!ほら次!」


僕が使う魔法はここ数ヶ月で練習した土魔法の一種、大地から針状の突起物を出して相手の動きを止める魔法が多かった。マルのトドメが浅い時には自分でも先の細いナイフで神経を突いた。


「ハア・・・ハア・・・もう休もうよ・・・」


かれこれ4時間くらい狩りを続けた。依頼は鹿の魔物5体であったはずなので、そろそろ終わりといったところだろう。決して簡単ではなかったが、なんとかやれたという感じだ。冒険者生活はそんなことの連続だった。討伐の証明は鹿の額にある小さな魔石だ。幾らかの死体は肉屋に卸すために持ち帰ることにした。


「マル。血抜きはこうやってやるんだ。いいね?」


「う・・・うえ・・・」


この世界では生き物が死ぬと時間経過で腐るのと同時にぼろぼろになってやがて消えていく。そういえば昔、アニマが魔力として霧散していくとかいう話をしていたような気もする。とは言え、魔力の流れが遅い場所では一ヶ月ちかくかかるので、食料としては問題ないわけだ。


「じゃあ、そろそろ帰ろう。と、あれ・・・チュビヒゲは?」


「ん?チュビヒゲ?なら向こういったよ?」


マルが指差す先では森の奥深く、傾斜が厳しくなり魔物も強くなるという魔の山に繋がる山道があった。


ーああ、そういえば、ベヘモートの子を連れ帰ったってのは魔の山か。この山道もその通り道かな?


チュビヒゲを探しに行こうと足を踏み出した瞬間、地震かと見まがう振動と爆音が鳴り響いた。


{グララァァァァアガァァァ}


「う、地震?マル!」


僕はマルの手を取ると音のする方向に目を凝らす。よくみるとチュビヒゲがこちらに飛んでくるのが見える。


「チュビ!!! チュビィィ!!!」


「・・・え、チュビヒゲ、今なんて?」


「チュビィィ!!」


ー大きい?


{グララァァァァアガァァァァァァ}


一際大きい地響きがすると、目の前の木々がなぎ倒され辺り一体を影が覆った。影とほとんど一体化したような漆黒の輪郭、そこには旅客機並みの大きさの一体の魔物がいた。


ーな、なんだこいつ・・・<解釈>。


___________________________

名前: -?-

種族:ベヘモート

性格:尊大

魔力保有量: 2,100,008/5,111,000

体重:5,020.13kg

状態: ー

魔導:精神魔法 幻影魔法 治癒魔法 蘇生魔法 重力魔法 属性魔法(風・雷・光・闇・麻痺・毒・風化・石化) 聖魔法  結界魔法 (認識不能)

能力:「物理耐性・絶」「魔法耐性・絶」「状態異常耐性・絶」「治癒力倍加」「鑑定」

加護:「威光」「神域の獣」

アドバイス:「生まれながらの勝者」


<威光:敵対する生物全般に対して負の能力補正>

<神域の獣:認識した空間からの魔力を吸収する>

___________________________



「これがベヘモート!?」


そこにいたのは黒っぽい銀色の体毛に覆われた四脚に、無数の禍々しい黒い羽と赤い角、背中の上部に浮遊した銀の輪宝をもつ龍とも牛とも言えぬ神の化身だった。

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