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第5話:花畑のマル

「マル行こう。」



「・・・。」



昨晩は2人して泣き疲れるように眠った。


先に目を覚ましたのはカーテンからこぼれ落ちる朝日に敏感に反応したマルだった。その動きにビックリして僕も起きると、目の前にいるマルとしか呼べない新たな付き添い人は、ビクビクとしながら腕の間を抜けていった。



何も言わないマルを引っ張り、切り刻まれた布団や枕もそのままに僕らは朝食を食べに出かけた。




「確か・・・ここらへんに市場が・・・。」



市場になんて来たことはなかったものの、冒険者の会話で時々聞いた通りを目指して歩いていく。チュビヒゲはマルを警戒して僕の頭に止まったまま睨みを利かせている。時々振り返るマルは、僕の後ろを俯いたまま歩いてついてくるばかりだ。





_____




 市場はまだ肌寒い朝方だというのに活気付いていた。魚だけでなく肉からなにやら得体の知れない魔物の内臓、スライムの計り売りなんかもしている。あれはあれできっとなにか調味料になるのだろう。





「お父さん!そこの子連れのお父さん!ほら、見てってよ・・・あ、お父さんてば!」

「兄弟でお使いかい?朝から偉いねえ。ほら、このお野菜とかどうだい!?今なら・・・」

「お嬢ちゃんほら、この甘い棒はどうだい?一度食べれば病みつきだよ???なんならもっと大きい・・・」

「ってかお兄さん頭にでっかい虫止まってるよ?大丈夫?」





ーやっぱり人混みは、鬱陶しいな・・・。わざわざ<解釈>するまでもなかったかもな。


 

 客引きに声をかけられようが僕もマルもまるで表情を変えずに付かず離れず歩いていく。その姿は親子というよりも、仲の悪い兄弟がしぶしぶ買い出しに生かされているというふうに映るかもしれない。マルは何も聞いてもどの店にも目をくれず、結局お店の間を抜けて寂れた通りまで出てきてしまった。



「うーん・・・何食べたい?」



「・・・」



「いやまあ通じてないんだけどね・・・僕も正直どれがうまいかとか・・・ん?」



 木造の建物が並ぶ市場の外れで、石造りのお店が朝早くから煙を黙々と煙突から出しているのが見えた。

なにやら香ばしい匂いと店の雰囲気、何より看板の文字に惹かれた。



「TAPIOKO・・・タピオコ・・・もしやタピオカ??」



僕は日本で無駄にはやっていたタピオカが実は結構好きだった。もしかしたら別物かもしれないけど、あの黒いブツブツがまた食べれるのなら儲け物かもしれない。そんな思いで強引にもマルをつれてお店に入った。



Hej,(やあ) bonvenon(いらっしゃい) !」



「えっと、うんと・・・あ、Saluton」



ー僕が知っているニラヤカナヤの言葉といえば、挨拶ぐらいが関の山だ。<解釈>のおかげで聞き取るだけならいくらでもできるのだけど。

 

 お店の主はひょろっこい長髪の青年で、なんとも覇気がない印象ではあるものの、前掛けの適度な汚れ具合には非常に好感がもてた。壁に書いてあるメニューも簡単なイラスト付きで、付け合せの野菜やソーセージの説明まで丁寧だ。



「Rekomenditaj(おすすめの) menuoj(メニューは) estasKrespo(クレープ) |Tapioka kajTeo(お茶) Tapioka。」



ーつまり芋料理の店ってことか?



マルは席に着くと無言で机を見つめたままだった。


ーうーん。まあ壁にあるミルク入りのお茶も頼んでおけばどっちかは飲むだろっ。



Du(2つ) Krespo, Teo kaj Lakuto(ミルク)Tapioka.」



Bone !(たしかに!)



「Du?Por mi(僕の分) ?・・・Kiuri・・・kiel・・・?」



「そりゃ、一人で食べてもおいしくないし・・・えっと、あれ?お腹空いてない?」



「オナカスイテナイ?」



ーいや、これだけ痩せてて腹が空いてない訳があるまいな。



「・・・まあまあ。」



それから無言のまま10分ほどが経ったろうか。厨房の奥から料理が運ばれてきた。



「あ、マルはミルク?お茶?どっち?」



タピオカ入り茶と、手に持ったタピオカ入りミルクを交互に確認する。


マルが目線を3往復くらいしたところで僕はミルクとお茶とを両方を差し出した。マルはストローから両方を一口づつ飲むと、只のお茶の方が気に入ったらしくそちらにもう一度口をつけた。


僕はマルにお茶入りを譲り、ミルクのタピオカを一口で5個吸い上げるとくにゃりくにゃりと味わった。



ーん、やっぱりうまい。甘みもあるし風味もいい。硬さもいい感じだ。やるじゃん異世界。



マルは僕がストローでチューチューとすする僕を眺めると聞こえないようなか細い声で何かを言った。



Ĉiuj(みんな) ・・・malamas・・・(嫌がるよ) ĝin(それ)・・・。」



ーあれ、もしかして、間接キスとか気になってた?



「あ、回し飲みダメな人だった?・・・て、伝わらないか・・・えっと・・・何のこと?」



僕が大げさに首をかしげると、マルは自分の体を指で指して俯いたまま口を開いた。



Mi(僕は)・・・ne kreskas(大きくならない)・・・kaj(それに)・・・ne normala(普通じゃない)Ĉiuj(みんな) malamas(嫌がる) tion, kion(どんなものでも)・・・mi tuŝas(私が触ったら)!!」



ーん、あ・・・ああそういうことか。



「・・・Ne 。」



僕はなるたけ真剣さが伝わるようにゆっくりと首をふった。それをみて、マルは急に早口に、ほとんど聞こえないか細い声で何かをいった。それは判別できず、僕は<解釈>を全開にして、それを理解しようと試みた。


「ねえ・・・何故・・・僕を買ったの。僕は死ねばよかったんだ。あんた・・・なんなんだよ。・・・それにその言葉・・・僕のと違う・・・なのに僕の言葉はわかってる・・・なんで・・・なんで・・・何もわけがわからないよ!・・・僕は・・・僕は・・・・。どうすればいいの?」



ーお、なんか色々と喋るじゃん。それってすごいいいことだよ。だけどまずは。



「ほら、顔を上げて・・・。マル。最初にこれ、食べないとね。」



目の前には湯気を立てるクレープとそこに乗った目玉焼きや太いウィンナー、それからポテトフライのようなものーーおそらくキャッサバのフライだーーが鎮座してる。その奥でマルが上目遣いで少し不服そうにこちらを見ている。



ーそんな目をしたってダメさ。とにかく最初は腹ごしらえっていうだろう。



 僕はマルを差し置いて食指を伸ばした。何故だろうか昨日の夜のことを差しおいて、今日は少し気分がいい。


いつもは無体にする食事も、今日はどれもこれも程よい塩味に素材の味を楽しめた。ウィンナーの味は豚とは少し違って野味があるが、香辛料がこれをうまくアクセントに変化させてる。タピオカのクレープもホクホクとしつつほんのり甘みのある素敵な味だ。



ーこれだ!これだよ。異世界ではなかなか味わえない繊細な料理。




「やっぱりこの店は悪くないぞ!」



1人がっつく僕を前に、マルはやや引き気味で鍬のようなフォークでゆっくりと口に運んだ。



「マル・・・おいしい?」


「・・・Ĉio(みんな) estas bongusta(おいしい).」



一口ずつ味合うように食べるマルは、なんだかんだ満足しているのだろう。困ったように眉を寄せたまま、口元がほんの少しゆるんでいる。



「そうか・・・Bongustaっていうのか・・・。うん、そうだね。Tre (とても) bongusta !」



 突然に少年のようにテンションを上げて食事をする僕と、落ち着いた表情でゆっくり一つ一つを丁寧に食べるマルの構図は人から見れば体格さに合間ってチグハグにうつったかもしれない。しかしその時その実、僕らの心は同じところにあったのだと思う。




ーそう、それすなわちTAPIOKAだ!



「ごちそうさま!」


「ゴチソウサマ?」



「うん。」



「ゴチソウサマ・・・ゴチソウサマ・・・。」



僕ら2人は行きよりもすっかり元気になって店を出た。



Aye,(アイ) ĝis revido(またきてね)!」


ー午後からはクエストでもしよう。



「その前にまるさんや、花畑でも見に行かないか?」


「・・・?」  



僕は半ば強引にマルの手を引っ張って、町の隅にある花畑の公園に歩いて行った。マルの体温は僕と比べるとややも冷たい。されどアニマよりは少し暖かいようだ。




ーいやいや、アニマのこと、どんだけひきづってんだよ・・・。




 まるは顔を引き()ったまま仕方なくという表情で手を握られるのを許している。あまり人に触れられるのはいやなのかもしれない。もう次はやめておこうと思わせるには十分な程の嫌な顔だ。



「ほら、着いたよ。」



ここの花はおそらく、チューリップやガーベラの類だろう、中には幻想的な氷の結晶のような花もある。



「なかなか素敵じゃないか。」



マルは一等綺麗な花を手にとって目を見開いた。しばらくそれに見惚れたかと思うと、一度僕の方を見てそれを握りつぶした。



「えっと・・・マル?」


「Kiuri・・・Ĉi tio(これ) ・・・estas bela(綺麗)・・・。」



ーあの、言ってる事とやってる事が違うというか・・・



「kaj, estas facile(簡単に) rompi(壊れる)。」


次にマルは別の花に駆け寄ると、足でそれを踏み潰した。


「ちょ、ちょっとマル?」


「Kiuri・・・mi malamas floro()


「うん?」


ーマルはやはり本心をしゃべるときには小声になる。僕は耳をすませ、そしてスキル(<解釈>)を研ぎ澄ました。


「・・・こいつら、自分が綺麗だって・・・愛されるって・・・疑いもなく生きてる。だから花が・・・大嫌い。」



僕がマルに手を伸ばすとマルは手をつなごうとはしなかった。


僕の開いた手とは対照的に俯いて拳を握りしめていたマルの前に屈むと、僕は黙って頷いてそれから背中を見せた。



「ん、おんぶ。」


「Kiel?・・・Vi traktas(扱うというの) min(私を) kiel(まるで) infanon(こどもみたいに)?」



「いやそのなんていうかなあ・・・例えば歩きたくなければ僕が背負うし、見たくなければ目を伏せてもいいと思う、だからもっと色んなところに行こうよ。自分を許せるまで・・・うんまあ、伝わらないとは思うけど・・。」



「Mi ne scias(わからないよ)!!Pri kio(それら) Kiuri(キウリ) parolas(言ってるの)、Mi ne scias tute(何一つ)!!!」



僕は背中越しにコクコクと頷きながら、首で催促する。



「ん。」



「Uuu・・・abomeninda(むかつく)!!」



そう言いながらマルが背中に体を預けるのを感じる。僕はその冷たい体のうちに流れる激流に生を感じながら、ギルドへゆっくりと歩いて行った。

単語と文法がわからなすぎて、僕も<解釈>(スキル)頼り・・・。

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