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第3話:不自由のマル

「君の名前はマル。今日から僕と過ごす。いいね?通じてないとおもうけど・・・マル・・・君はマルだ。僕はた・・・いや、キウリだ。キウリ。そしてこっちはチュビヒゲ、言ってみて?」


「・・・Jes.」



「はい、じゃなくて・・・名前・・・僕、キウリ。君、マル。おーけい?」


「・・・Jes.」




僕は目の前で無機質に返事をする小さな少女(・・)”マル”を眺めがら、結局どうしてこんなことになったのかグチグチと考え込んでいた。




「まあ、とりあえずこれでも食べるかい?」



手に乾燥肉を持ちながら。







ー1時間前ー




クエストから帰った僕は報酬を受領するよりも先に奴隷商のところに駆け込んだ。一番小さな木箱はあいかわらずテントの奥、一番薄暗いところに置かれていた。



「おや、お若いの。へへ、わかってますとも・・・1枚。金貨1枚でいいですよ。」



 奴隷商は息を切らした僕の顔を見るなり、人差指を立ててニヤリと笑った。それと同時に金歯が1つぎらりと光る。僕は無言で頷いて、踵を返しギルドに直行した。

 


 ギルドには貸金業を営む部署がある。魔物を相手にする冒険者は一般的に報酬がいい。この世界がいかに剣と魔法の世界といえども、大半の人は平和な暮らしを望み、なるたけ安全な仕事を望んでいる。



すなわち、冒険者というのは比較的金回りのいい職種だと見なされているため、ギルドには独自に貸金業が発達していた。ちなみに金貨1枚は最底辺冒険者が60日で稼ぐ報酬くらいに相当する。僕は即座に金貨1枚を借りると、奴隷商の元に再び向かった。



「コレ、従魔法の契約譲渡印ね。左手出して・・・なんだ、右手しかないのか。じゃあそっちでいいよ。・・・ハイ。へへ。これであんたのモンだよ。あーお若いの、わかってると思うけどね。」




 僕は紙から右手の甲に転写された鎖と目を象った赤い文様が徐々に透明になっていくのを眺めながら、なんだか取り返しのつかないことをしたような焦りを感じていた。



「獣人を人目に触れるところに行かせちゃいけませんぜ?ほら、気をつけないと、没収・・・いや、処分されちゃうからね。」




ホーマの国はホーマ以外に厳しい。混血すら断固として認めない排斥的な社会だ。そのことは、以前から知っていたものの、いざとなるとどうしたらいいのか皆目わからなかった。




「しかし若いのにあんたも・・・好きだねえ?出来損ないの()の獣人なんて・・・おっと、失礼、お買い上げ感謝しますえ。ごひいきに。」





ー男?なんだこいつ?からかってるのか?






____




それから、宿に帰ってくるとハーピィとホーマの混血である獣人に、僕は『マル』という名前をつけた。女の子らしい見た目であったが、なんとなく可愛いらしい名前をつけるのはためらわれた。なんというか、そういう目的で買った様に見られる気がして気が進まなかったのだ。




 マルが部屋に来て最初に試したのは精神魔法のテレパシーであったがこれはダメだった。

会話が通じないなかで最初に苦心したことはお互いの名前を確認しあうことで、そうは言ってもお互いに慣れてない新しい名前を確認しあうのは我ながら変な感じに思えた。



 とかく僕の渡世の名である”キウリ”、そして”マル”という名前をこの小さな新しい連れに言わせることに苦心した。あと”チュビ”という名前も。




そんなこんなで今はお互いに無言で乾燥肉を食べているところだ。




「マル・・・何かしたいことある?・・・」



「・・・?」



明るい場所で見るマルはどことなくアライグマを彷彿とさせる小動物様な顔をしており、ゴマだれのような黄色〜茶褐色の髪をしていた。肌の色が薄いこともあり、顔を近くで見れば全体的にふんわりと金色の産毛が覆っているのが眼についく。獣人のミックスであるためだろうか?赤っぽい色の目が多いこの国には珍しく緑色の瞳であった。最も大きな違いは耳がなく、毛で覆われた穴があるだけであることだったが、これは髪で隠れてそうそうバレやしないものと思われた。




「それにしても・・・うーん、ああ・・・ダメだ・・・通じねえよなあ・・・」




「チュビ チュビ」



チュビヒゲはさすがと言うべきか、新入りに興味津々で顔の周りをブンブンと飛び回ると、マルの頭の上に陣取りヒゲでぺしぺしと叩いた。いわく「仲間 仲間」だそうだ。




ーとりあえず、マル用の服でも買ってくるか・・・。




僕は服を買いに出かけるために、扉のドアノブに手をかけた。



扉を少し開ける時、振り返る部屋で騒ぐチュビヒゲと乾燥肉をかじるマルの姿に何故か見惚れてしまう。理由はわからないが、胸に温かいお湯が注がれるような気持ちがして目頭が熱くなっている自分にハッとした。



「いや・・・そう、結局寂しいのは僕の方だったんだよな。」



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