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第2話:眼に映る命の重さ

 日も沈み切らないうちに宿に帰ると、僕は常備してある乾燥肉を数口かじってベッドに倒れた。最近では食事もおざなりになってしまっている。どうせ何を食べても同じ味にしか感じなかったからだ。



「奴隷・・・ハーピィの子か・・・。」



なんでもないフリを装っても頭のどこかではひっかると言うことはよくある。こちらの世界での15歳、すなわち地球で言えば30歳くらいの小さな女の子のような生き物。種族的に生育が遅い可能性もあるが、奴隷商の言葉からはおそらくこちらの世界でもなんらかの障がいを抱えた子だということなのだろう。


こちらの世界で一人で旅をするようになってからというもの、久しぶりに他人の人生について思いを馳せた。



「あの子の雰囲気・・・どこかアライテルに会った直後のアニマに似てたな・・・。」



ーいや、アニマなんていない。今はもうアニマだった別人が・・・あの里で楽しく暮らしているであろうキメラ”アマタオクロ”がいるだけだ。



僕は無くなった左手をさすると、無理矢理に眠りについた。




・・・



 次の日は朝早くから人もまばらなギルドに行き、街はずれの工場予定地の魔物退治をかねた柵の設置のクエストを受注した。


 移動にはギルドが貸し出しているバイクのような蒸気二輪(・・・・)を借りることができる。動力は魔力であり構造もどちらかと言えば自転車に似た簡素なものだ。左ハンドルの魔鉱石に魔力を注ぐと、水が生成し右ハンドルの魔鉱石からは熱が生まれる。この水蒸気でタービンを回して車輪が回ると言う仕組みだ。速度も乗り心地も馬やその他の生き物の方に劣るものの、手軽さから広く街中の庶民に親しまれてる。




「害獣駆除のクエストですね。ではこちらを確認していただいて、ここにサインを。」



僕は無言で首だけを縦に振って、同意を示す。簡単な文字ならばいくらか書くこともできる。異世界とは言ってもそこは人間の社会ーーホーマの社会ーー、仕組みは地球にいた時のアルバイトとそこまで変わらない。愛想もなしに仕事内容を確認するとすぐに出発した。





_____



「ここ・・・だね。」


移動すること1時間、街から街道を少し走りまばらに木の生えたひらけた場所につく。魔物といっても正直大したものはない。この辺りで気をつけなければいけないのは土属性の魔法を使うリスのようなものだけだ。動物と違う点は彼らがいずれも雑食性で人間だろうと獰猛に襲いかかってくる点だけであり、人間の都合で動物と魔物とに分けられているに過ぎないのだそうだ。



仕事として仕方なしにそれらを殺すものの、やはり人間が彼らの生態系を侵食するという感覚が拭えなかった。



ーどっちが害獣だか・・・どこに行っても人は業が深いよ。




 昼過ぎまでに狐やリス型の害獣駆除も柵の設置もおおよそ終わり、お昼休憩にと乾燥肉と魔法で作った水を飲む。本当は小川の水の方がおいしいのだがこればかりは仕方ない。倒した魔物のうち売れそうなものを蒸気二輪の荷台に積むと、あとは仕上げに魔除けの薬を撒いて仕事は終わりだ。




「チュビ?」



「・・・え?鳥がなんだって?」



暇を持て余したチュビヒゲが宙を旋回して戻ってくると林の奥を指差した(ひげさした)。そこには、緑色の羽を魔法で射抜かれた鳥が今まさに大きめのリスに食べられんとする瞬間が広がっていた。




ーまあ、弱肉強食だわなあ。



 必死に強く羽ばたこうとする鳥は最後まで生きるのをあきらめようとせず、風魔法らしきものでリスを近づけまいとする。これに向き合うリスは躊躇なく石の礫を飛ばし弱らせていく。その様子になぜか自分の胸が熱くなるのを感じた。



ー最後まで生きようとする生き物・・・生きるのを諦める人・・・。




頭の中には昨日の獣人のことがよぎっていた。



「チュビ!!」


「あっ!ダメだよチュビ!これが自然の摂理なんだから!」



 チュビヒゲは居ても立っても居られないといった風情で飛び出すと鳥の加勢に行った。リスの魔物とてバカではない。動けない鳥から標的をチュビヒゲに替えると小さめ石礫を無数に飛ばす。チュビヒゲがそれを躱しながら風の刃を纏って体当たりを試みるも、石の弾幕に遮られて近づけないでいた。




ーどうする・・・どうする・・・。




僕はチュビヒゲを手伝うのをためらっていた。




「・・・一体何を迷っているんだ?」





ー生態系?弱肉強食?正義?そんなのも、最初から僕にあったか?僕は自分勝手に正義を振りかざして、自分の目的のためにアニマを傷つけて、失って、やさぐれて、生きるために魔物を狩って・・・それで・・・それで・・・




「だから・・・何を迷ってるんだ?」



{バン!}



僕は気づけばリスの魔物に向かって水の弾を放っていた。

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