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第1話:放浪のツゲ


 カラコール国内では、いたるところに”タイラ”、”アニマ”、”ネティマス”それと盗賊の”アニキ”の手配書が顔つきで貼られ、捕獲報酬は一人当たりカラコール金貨100枚、立派な家が5棟は余裕で立つほどの金額がかけられていた。


 僕はアニマたちの住むディアブルの里を離れ100日余り、ムーサさんからもらった銀貨や盗賊の持っていたお金を切り崩し、なんとか実質的にアライテルの支配下になりつつあるカラコール国を抜け、ホーマの住む西南一帯、”ウェン・ペモシリ国”へと逃げ込んだ。最初は試しにアライテルの離宮の近くまで行ったものの、まるで以前と違って、今ではもうスラム街の様相を呈していた。


 ならず者や罪人が憚ることなく唯一自由に暮らせる町それすなわちアライテルのお膝元というわけで、人口が流入してきたのだ。ちらほらとキメラの姿も見える。彼らは皆一様に、白い刺繍の入った黒い服を着ている。そして彼らは何かの問答の後、何のためらいもなく人を殺めていた。


ちょうど、こんな会話の後で、


「子供が一人消えた、お前しってるな?」


「あ?俺を誰だと・・・あ・・・あんた・・・使徒(・・)様か・・・ちょっと待ってくださいよ、こ、子供?お、俺が知るわけないじゃないですか、やだなあ、そんな目、あ、ああ、ヒイイ・・・・」



「子供には手を出させるなと仰せつかってる。だから、お前はもう死んでいい(・・)。救済のあらんことを。」



 以前からいた子供や村人はあくまで人質扱いなのか、キメラの護衛付きでなんとか生きていた。なんとかと言うのは、街に溢れるゴロツキたちが攫ってはいい様に使ってしまうからで、攫われるものにとっても攫うものにとっても油断のならない街であるらしい。僕はそれ以上確認できないことを悟るとロクな情報もないままに離宮を後にした。



ーうん、話を総合すると、ここ数週間アライテルは動きを見せてないということか。城の近くでグプタに呼び掛けても返事はないし、きっと置物として仕舞われているはずだ・・・。動物の小便があるかないかの違いで、ずっと放置されてたわけだし、まあ何れ奪還すればいいんじゃないか?よし、そういうことにしよう。




僕は自分の力不足をだれよりも理解しているつもりだ。いつか必ずグプタを取り返すと誓ってその場を後にした。






_______



 言葉が通じないこともあり、道中では時に騙されたり、寝ている間に危うくアライテルの手下のキメラに引き渡されそうになったりもした。逆に言えばこれである程度やつらの目をホーマ領に向けることができたとも言えるだろう。



以前の戦いから相手がキメラであっても遅れは取らないことを知ってもなお、道中のカラコール国内では至る町にいるキメラの刺客に気は一時も抜けなかった。下手をするとすぐにアライテルが出てくる。グプタがいなく、転移の魔法もろくに使えない今ではそれ即ち死、略して即死だ。


そんなわけで無論、日中に出歩くことは難しく畑や民家から食べ物を盗むことも厭わなくなり、盗賊がいれば喜んでカモにした。面倒ごとは全て避けた。それは言うなれば誰とも会話しないということであり、常に周囲に気を張るということだ。積み重なった寝不足と焦燥感から、気づけばすっかり喋らなくなっていた。


 そんな日々が殆どなんの色もなく目に映り足早に去っていく中、気づけば100日以上が経っていた。

唯一の良いことといえば魔法がいくらか上達したくらいだろう。そのおかげもあって今はカラコール国の西に位置するウェン・ペモシリ国最大の工業都市”ミントル”で初心者冒険者ーーこちらの世界では要するに何でも屋ーーをしていた。


この街はアライテルの居たカラコール国と仲が良くないこともあり手配書などはないのだ。とは言え街で黒服に白い刺繍のキメラを見かけることがあり、まったくの安全というわけではないのだが・・・。



 とかく、冒険者としての生活が徐々に板に付いてくる頃には通り名がつく。



 僕は墓返りのキウリ(・・・)と呼ばれている。片腕で何も喋らず常に俯いて歩いていることから、まるで自分が死んでいることを忘れた死人のようだと言うところから来ているのだろう。ボサボサで乱りに切り揃えた黒髪も一役買っているのかもしれない。


ー魔法があろうとなかろうと、持たざるものにとって世界は退屈だ。生きるだけで精一杯で、欲しいものには手が届かない。一人じゃ・・・一人じゃ・・・。僕は何もかも中途半端で、結局何ひとつ成し遂げるもノアなんてなくて、死んでいくんだ。。。

 


「・・・それで?今日もそうやって飲めない酒を飲んで過ごすってわけですかい?」



「っ!」



「チュビ チュビ」



チュビヒゲは僕が飲みきれない酒を飲み干すと酔っ払ったのか、ヒゲを指に絡めてはスリスリと身を寄せてくる。今では唯一の友はチュビヒゲだけになってしまった。



「ええ、ええ。言わなくても分かってますよ。ここ数十日お目にかかってるわけだからねえ?失恋ってわけだろうさ。え?ズボシ?え?え?あんたみたいな若い人が、せっかくの休みに昼間っからこんな場末の酒場に来るなんて、そう相場が決まってるってね。」




「・・・。」



「え?そんな単純じゃないって?まあまあ、そうムスッとしなさんな。いい話があるってわけですよ。近くの裏路地にね、流れの奴隷商がいてね。可憐で珍しいー」




{ゴトッ}




僕はカウンターに銅貨を数枚置くと無言で店を出た。




「まあ、そうかカッカしなさんな。それこそ、図星だっていってるようなもんですよ?」


 

 やかましいこの男は”ツゲ”、旅人、そして乞食を生業にしているらしく各地を転々としているらしい。まったく気づかないうちに隣にいて浸っている(・・・・・)時なんかに茶化す手合いだ。そして、こちらから話しかけたことは一度もない。話し方の割に見た目は僕よりも若く10代のように見え、服はいつでも灰色のマントとすら言えないボロボロの袈裟を羽織っている。

 まともに会話することはない。僕自身こちらの言葉を未だに碌に喋れないし、馴れ合うつもりもなかった。最初はアライテルの手先を疑ったが、どうも違うようだ。おそらく読心術の類のスキルを持っていて何故か興味を持たれた。何も考えないためには何も話さない方がいい。警戒は続けるべきだろう。


「そうそう、ほらそこを曲がると奴隷商ですよ。」




「チッ・・・。」



付き合うつもりもなかったが、ツゲが指差した場所は自分のおんぼろ宿に唯一繋がる人通りの少ない通りだった。




 僕がツゲに会ったのはこの街に入る少し前のことだ。



ウェン・ペモシリ国の村を転々とし、どうにか仕事につけないか途方にくれてるときのこと。

たまたま道ですれ違った男ツゲは、目が合っただけで不気味に笑い突然に馴れ馴れしく話しかけてきたのだ。



 それ以来ずっとこの調子でまるで離れる様子がない。野宿をしても宿に泊まっても、朝になって気付けば道路ですれ違う。いい加減にうっとおしく、威嚇しようにも、そそくさと消えては次の日にはまた・・・という始末だ。


しかし『よそ者でもお金が稼げるのはやはり人口の多いミントルしかないやなあ。』とはツゲの言葉で、それを参考にこの街を拠点にしたのだから、その点に関しては救われたとも言える。




「ほら、ここここ!昼過ぎからテントを広げてね、ホーマだけじゃなくて、獣人(・・)もいるみたいですよ?あ、エルフは流石にこんな末端には出回りませんけどねえ。えっ?えっ?もしかして美少女エルフ期待してました?えっ?えっ?」




「・・・。」



ツゲは口うるさい奴だがどこか確信をついたことを言う時がある。確かに一度エルフを拝んでみたいと思わないでもない。



「チュィ〜」



「チョッ・・・!」



酔っ払ったチュビヒゲが奴隷商の方に飛んで行く。仕方なく後を追うと横長のテントの中には手のひらほどの四角い穴が開けられた木箱が並べられていた。どうやら、手元の光で照らして中を見るスタイルらしい。 


「チュィ・・・チュビ・・・」



チュビヒゲが留まったのは一等小さい、人間が立って入ってるとすれば幼稚園生くらいの背丈の木箱だった。



ー随分小さい・・・。



僕の頭の中を悲惨な妄想がぐるぐると回った。



「お?お若いの、その小さいのに興味があるのかいね?残念だけど、ご趣味(・・・)にはそぐわないとおもいますね。なんたってこれは・・・ちょっと訳ありでねぇ。」



この国では奴隷商は違法ではない。しかしそれはホーマの売買に限った話である。奴隷商の看板にも表向きは借金のカタにされたホーマを売っているという旨が書いてあった。



 奴隷商は脂ぎった鼻を2、3度さすりながらと僕とチュビヒゲを見つめると何かを確信した様な目でこちらを見た。



「ふむ、お兄さんだけに教えますけどね、この子は期待(・・)の獣人でしてねぇ。せっかく珍しいハーピィの混血なのにみんな気味わるがって買いやしないもんで。歳も15歳そこらでしょうけど、成長が止まってるんですわ。」



 紫色の趣味の悪いスーツのような服に身を包んだ奴隷商の男は火の出ないカンデラで箱の中を照らした。



中でサラシ一枚を巻いて体育座りをしていたのは、15歳ーーこちらの1年は600日だーーとは到底思えない、背中に小さな羽の生えた幼稚園〜小学生くらいの女の子だった。



ー見た目だけだとしても・・・腹の飢えているボロボロの園児とか見たくねえよ。




僕は殆ど無意識にステータスを覗いていた。


________________________________________

名前: ー********ー(-******** -)

種族:ミックス(ホーマ+ハーピィー)

性格:不信

魔力保有量: 1,300/1,300

体重:0.99 kg

状態:認識阻害

魔導:属性魔法 (風) 治癒魔法

能力:(認識不能)

加護:「アノマリー」

アドバイス:「それでも生きることにどんな意味がある」


<アノマリー:周囲の環境に依存して生命力に補正:(-90%)>

________________________________________ 


ー認識不能の能力(スキル)にバッドステータスの加護か・・・。



 女の子はこちらに目を向けることさえない。そのため表情はわかりにくいが、体全体から醸し出される雰囲気は無気力そのものだった。まるで生きることも死ぬことも考えていないかのような目。彼女の背中に生える緑色の羽は明らかに体に比較して小さい。それは飛ぶこともできずそして彼女が奴隷になるきっかけであるところの羽。彼女の人生を象徴している枷であるかのように思えた。




「・・・。」



 僕が不機嫌そうにジロジロと少女を眺めていると、奴隷商は慌てて話題をそらそうとした。



 この国では法律によって獣人や魔族の人権はおろか居住が認められていない。”飼育”に関してはグレーゾーンで、もしも仮に僕がへんな正義感や亜人に対する嫌悪感から通報でもすれば、奴隷商にとっては面倒ごとになってしまうとでも考えたのだろう。実際、街で獣人を見かけたことは一度もない。



「ささお若いの、どうせならこっちの商品もみていってくださいよ。そこそこに若いホーマもいるんですからお気に召すとおもいますよ。」


 


僕はチュビヒゲを強引に腕で回収すると足早に店を立ち去ろうとした。気がつけばもう”ツゲ”は見当たらず、それに僕は少し腹が立ち、八つ当たり気味にぶっきらぼうに手を振ってテントを出た。




「ああ、お若いのっ!・・・いやはや、なるほど・・・。へへ、またのお越しをお待ちしてますよ。」


後ろを振り向くことはなかったが、僕は奴隷商が下卑た笑いを浮かべてるのを背中に感じた。




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