第43話:それから逃げて往くだけ
見立てではアライテルは完全に魔法系の能力に特化している。もしも攻撃の魔法が届かないのであれば、この結界の内部では僕に有利だ。
ー構成逆転・・・以外に楽勝か?
「調子に乗りすぎです。結界の上塗りは常套手段です。その前に、はやく転移魔法です。」
ー上塗り可能なのかよ!先言えって!もう一個、魔法結晶・・・あ、これとか良さそう。動いてるし。
僕は、目の前に落ちている小さな蜘蛛のような紫の石を手に取った。
「まさしくそれです。詠唱はSOLVU EN LA MONDON-(世界に解けよ)-です。ですがまずは見つけないとです。」
ー何その詠唱!かっこよすぎん?ってかどうやって見つけるのさ?
「目視でも、念話でも、なんでもいいのです。座標があればいいのです。」
ー座標?というのがよくわからないけれど・・・アニキやグプタが来れる程度に近くにいるというのなら・・・。
(ネティマス、聞こえますか!)
(これは・・・タイラ殿ご無事で!少々少ないですが、チュビヒゲのおかげでいくつか魔力結晶を手に入れました。どちらに?)
(今から、転移させます。大丈夫ですか?)
(なんと・・・ということはすでに奴と交戦中ですか?)
(ええ、とにかく・・・一瞬・・・じっとしていてもらえると嬉しいです。)
「タイラ、今です。」
「えっと・・・SOLVU EN LA MONDON (世界に溶けよ)!」
蜘蛛のような魔法結晶が溶け出していく、魔力が手元に滾ったかと思うと、身体中に銀色の液体がまとわりついた。それは僕の目の前でどんどん薄くなると視界をうばった。
意識がぼうっとする。思考の端で微かに光が揺らめいて、何かが波のようにそよいで消えた。
「あれ?今、一瞬・・・意識が・・・飛んだ?」
「ちゅび?」
目の前で、銀色の丸い球体が浮かんでいる。そしてそれが人型をかたどると、一瞬で弾けてネティマスとその角にしがみついたチュビヒゲが現れた。二人とも身体中にダメージを負っており、チュビに至っては飛ぶ力さえないようだ。
(これは・・・タイラ殿、転移魔法が使えたのですか?おや・・・腕が!)
(今はとにかくあれを・・・。)
ー説明は後だ・・・。
「くそ、お前、どうなってる!ステータスにない魔法ばかり使いやがって。」
即座にネティマスは手に持っていた複数の魔力結晶を僕の前に置く。明らかに、頼みましたよ、と言いたげに首をコクリとうなずいてアライテルを見た。僕はすぐにそれらを服のポケットにしまった。
「貴様がアライテルか!!!」
ネティマスの表情がこれまでにないほどに歪んだ。普段のポーカーフェイスから想像できない程に牙を剥き、目を見開いている。手には既に弓が握られていた。
「へえ、珍しいディアブルじゃないか。でもまあ、これで終わりだよ!君達全員、面白いコレクションになるよ。」
アライテルの手に、白い光と、紫の光が徐々に混ざり合って四角い形をかたどっていく。
「聖魔法と外道魔法、そして結界魔法を合わせた俺オリジナルの魔法・・・君達は手も足もでないだろうね!・・・PULA SANKTEJO -(浄域)-」
アライテルが詠唱すると、部屋中を真っ青な光が覆った。目を閉じてみてもまるで防げない。眩しすぎて目が焼き切れそうになるのを必死に手で押さえる。
光が収まると、壁中を張っていた黄色の糸ーータイラの作った対魔法用結界ーーが全て剥がされ、琥珀のような結晶とともにボロボロになって霧散した。
代わりにそこにあったのは、水のように青い液体、それが空間を覆っていた。
「この中では君達は魔法も使えないし、攻撃もー」
{キン}
アライテルの前で、ネティマスが放った矢ーーこれまでみたことのない様々な色の鉱物が付いた特製の矢のようだったーーが何かに弾かれた。
「あははは!!ねっ!あーあ、この高そうな矢、いろいろ付与してあるんだねえ!・・・もらっとくね!」
ーうーん、結界っていったら、これだよな・・・ATフィールド的な・・・。
(ネティマスさん、アニマさん!ここはまずい!魔法も使えないとなると、仕切り直しだ。とにかく外に出よう!)
僕はアニマーー困ったことに炎で焼けて全裸だーーに肩を貸して、一番近い扉まで歩く。その距離は20歩もないだろう。
「ひぃぃぃぃ!」
ーあ、忘れてた。
我々よりも先に、へたっていたアニキが扉に向かって走っていく。
ーそれでいいアニキ。巻き込んですまなかったな・・・それにしても・・・なんだ?アライテルが笑っているだけで、何もしてこない?
「やってみなよ(ボソ)。」
アライテルが何かを言っているがそんなことに構っている暇はなかった、とにかく、外に。結界の外に・・・
「あ・・・。」
アニキがドアに触れたその瞬間。全く同じその瞬間に彼が飛び退いた。
「いっつうううう・・・手が!手がああ・・・・」
ドアノブに触れたアニキの指先が蒸発したのだった。
(タイラ殿!これは・・・結界の?)
「あははは!!!!どう?どう?どう!?すごいだろう?この魔法!!出ようとすると、分解しちゃうんだ!最高じゃない!?」
ーまじかよ!グプタ!なにか、何か抜け道は!?
「・・・」
グプタは口を開かずに、アライテルの方を見ている。何を考えているのかまるでわからない。僕は苛立った。
「グプタ!!」
「タイラ、勝つことはもう諦めるです。ここが死に場所です。」
ーな!なぜ、いきなり弱腰!グプタなんかあるだろう!こういう時の対抗魔法とか!!
「・・・」
ーくそ!なんでここにきて突然黙るんだよ!せめて、一発でも殴れたら・・・。
僕はアニマをネティマスに預けると走ってアライテルに向かった。
「へえ!面白いね!きみ!おもしろいねえ!!もっと、もっとちょうだいよ!!!」
アライテルは何もしてこない。それだけこの結界魔法の効果を信頼しているのだろう。
ーくそ、こちとら異世界人だ!こんな世界のルールに縛られてたまるか!!
アライテルとの距離は2m近くにまで迫っていた。
{キン}
アライテルに向かって思いっきり放った頭突きが空中で止まった。にも関わらず、おでこからは血が出ている。
「くそ・・・」
「もう終わりなの?あれだけ威勢がよかったのに?ほら、お得意の魔法でも使いなよ!!」
ーグプタ!!頼むよ!!なんかないのかよ!!!
グプタは何も言わず、アライテルをジロジロと見ながら、僕の周りを回るだけだった。
「なんなんだよ!ここまできて!!なんなんだよ!!!」
{キン・・・キン・・・キン・・・キンキン}
僕はなんどもアライテルと僕の間にある結界を殴った。特には頭突きや、体当たりや、ケタグリや、噛み付いたりしてみたりもした。
「ははは!!楽しいねえ。やっぱり、こういう感情って強者の特権じゃない?最後は結局・・・強いものが勝つんだよ?」
「だめだ・・・ここで負けちゃ・・・ダメなんだ・・・。通れ・・・通れ・・・通れえええ!!」
ー何かないか・・・何か・・・
「そうだ・・・確か・・・そうだ・・・僕のスキル・・・」
<解釈<力への意志>>
{キィィィン}
「う・・・おげええ・・・・」
視界が明滅するのに加えて、凄まじい吐き気がやってくる。それと同時にほとんど力の籠もらぬ手が、結界をすり抜けた。
「ち!また!これか!!ぐふ・・・。」
意識が飛んだせいで、まともな威力でなぐれなかった。感触としては、振り上げた手が当たった程度。こちらの世界の感覚では、普通に殴られた程度に相当するだろうか。
ー・・・やったか!?
「・・・・お前もそうか・・・俺を殴るんだな・・・なんで・・・なんで・・・俺ばっかり・・・」
目の前で色も形もない結界が揺らぐのが感じられた。そこで初めて、アライテルの目には先程までの怒りではなく恐怖が満ちていることに気づいた。
「こいつ・・・怯えてる?」
ーなんだよあれだけ人には酷いことをしておいて、自分がやられるとこれかよ・・・。
「タイラ・・・今のうちに転移で逃げるです。」
ーえ、どうして?この解釈のスキルと、グプタがどかーんと強い魔法を使えば、倒せるだろうに?
「魔力結晶が消費しているです。使い切る前に逃げる方が賢明です。」
ーえ、あ、マジだ・・・ポケットの魔力結晶が1つ消えてる!まさか今の・・・解釈で?
アライテルが再び結界を紡ぎだした。恐れのせいか、先程までの喚き散らすような態度が消えて顔には冷静さが戻っている。
「ああ・・・なんか興ざめだよ・・・嫌なことばっかりだ・・・こっちにきてまでさ・・・・」
ーこの冷静さはかえってまずいな。何をするつもりだ・・・。
(ネティマス、転移魔法で撤退します!サジャーロを撤退させて!)
(なぜです!タイラ殿の攻撃ならこいつを倒せるはずでしょう!)
僕は急いで退くとグプタを介して転移魔法の準備をした。
ーああ・・・くそ、何もかもボロボロだ・・・何しにきたのかわからない・・・
「でも、誰も死んでないです。」
ーグプタ・・・
(ネティマス!頼む!!次は必ず!)
ネティマスはらしくないそぶりで僕の襟を着かんだ。
「次があるとお思いか!」
ーネティマスの顔がまるで別人のようだ・・・これが憎しみってやつか。
「頼む!!生きていれば、次があるんだ!!」
グプタを介して、魔力の網が僕とネティマス、盗賊のアニキ、チュビヒゲそしてアニマをつないだ。
「はあ・・・・逃げるんだろう?いいよ、自由にしてやるよ・・・。」
ーん?あっさりと諦めのか?
アライテルがまっすぐに見ている先には、アニマがいた。
「なんかわからんけど、まずい!転移、早く転移を・・・」
「・・・”Malamataokulo”、従属の法魔法のもとに命ずる。」
ー詠唱は。。。。そうだ,
世界に解けろ・・・
「SOLVU EN LA MONDON !」
あたりを銀の液体が包むと同時に、結界が干渉する。液体状の青い魔力が間に割り入ってこれを蝕むのが見えた。
ーまずい。。。たのむ効いてくれ・・・<解釈ー力への意志ー>。
左手に持つ魔結晶が一つ消えると同時に、僕の視界が暗転する。その一瞬のみ結界の干渉が一時的に止まり、転移の魔方陣が成るのを感じた。薄れゆく視界の中でアライテルが何かを呟くのか聞こえた。
「・・・全ての記憶を対価に我と汝のこの契約を履行する。」
そして、僕の意識はそこで途絶えた。
・・・・・・・・・
「くそが!!!!!くそがああああ・・・・あいつ・・・なんなんだ・・・この感じ・・・なんだってんだ!!!」
アライテルは目の前で倒れる2体のキメラを蹴り飛ばして起こした。
「お前ら・・・弱すぎ・・・。」
二体キメラが頭を垂れるのをもうなんどもなんども蹴り飛ばした。足だけで飽き足らず、槍や剣を召喚すると、かまいなくキメラをさす。うめき声ひとつあげず、2体のキメラはこれを耐えた。
「あいつ!!あいつ!!!あいつ!!!!」
そして、アライテルは2人のキメラを重力魔法で肉塊にした。
「くそが・・・くそが・・・。フィーファ!!!」
アライテルが名前を呼ぶと、最初に隣にいた、羽の生えたキメラが隣に転移してくる。フィーファと呼ばれたキメラはアライテルの頰に手をおくと治癒魔法をかけた。アライテルはそのまま、フィーファを慰めに使う
。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・あ?なんだ?」
アライテルが床に落ちている白い象牙質の首飾りを拾い上げる。周囲にピタピタと触手のようなものが伸びて絡みつく。そして目の前には半透明の幼女が浮かんでいる。
「あなたが新しいニンゲンです?私の名前は魔導器グプタです。魔法のことならなんでも任せるです。」
アライテル教との一次面接はこれにて終了です。
二次選考の案内は後日弊社より連絡いたし・・・。




