第40話:欲望の奔流
大変お待たせしましたサボりまして、すいません。
いやもう、本当にすいません。
目の前にはアライテルがいた。
ーちょ、ま、予想と違う。本人が直々にお出迎えかよ。。。
・・・・・
大きな開けっ放しの門をくぐりーー両脇には長い蛇のような体に人間の頭と手足が無理矢理に付けられたキメラの門番がただこちらを見つめていたーー、宮殿に入れば、目の前には広いダンスホールのような空間があった。そしてなによりも、今まさに、目の前にはアライテルがいた。
<解釈>!
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名前:*******(-*******-)
種族:ホーマ
性格:無垢
合計魔力量: 50,100/580,981
体重:7.47kg
状態:認識阻害
魔法: 精神魔法 召喚魔法 治癒魔法 蘇生魔法 重力魔法 空間魔法 時間魔法 合成魔法 属性魔法(火・土・雷・水・光・闇・麻痺・毒・石化・風化)外道魔法 聖魔法 結界魔法 法魔法 (認識不能)(認識不能)
能力:「叡智」「魔力吸蔵」「並列思考」「解釈」(認識不能) (認識不能)(認識不能)
加護:「捨てる者」「覇者」
アドバイス:「触らぬ神に祟りなし。」
<叡智:認識した魔法を全て習得する。>
<鑑定:対象を正確に把握する。認識可能な魔力・習得魔法・能力を把握できる。>
<捨てる者:拾う神あらば捨てる神あり>
<覇者:言動が周囲の人間の精神に作用する>
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ーう、うそだろ?なんだよこの魔力量に魔法!?スキルもやばいことになってるし。完全にラスボスだこいつ!!そもそも認識不能ってなんだよ・・・現代知識を持ってしてもわからないとなると、想像もできない魔法ということだよな。
アライテルの周りには、天使のような羽の生えた女性型のキメラと、戦士を思わせる鎧をきたキメラが二体いた。
ーくそ・・・どうすればいい?完全に負けてるよな。体重以外勝つとこないとか、自慢していいか全然わからないし・・・。どうやって負かしたたらいんだよ?加護も意味不明だし・・・。
「(ゴクン)」
「ふううん。なんだ・・・固有スキルも大したことないね。”解釈”くらい僕だってもってるよ。」
ーしゃべった!みためのわりにかわいい喋り方してる!
その刹那、両側から目に追えぬ速さでアライテルの従僕と思われるキメラが動いた。どちらも羽の生えたホーマ型のキメラで、2対のキメラは1人が僕の腹を、もう1人が僕の膝を蹴り飛ばしーーその足は人間のそれではなかったーー僕は膝まずかされた。
「「ツッ!!」」
ー痛って!?まじかよ、地球人クオリティでもダメージ通るじゃんか。いや、むしろ向こうの方が痛がってはいるか。
キメラは苦悶の表情を一瞬で消して膝をついた僕の首を抑えると、両腕を目にも留まらぬ速さで金属の錠にはめた。
「なるほどね。もとの世界のモノはこちらのものとは少し違うね。こいつらに蹴られたら普通のホーマはさ、引き縮れちゃうのにさ・・・うん・・・よし、君を飼ってあげるよ!安心していいよ!記憶も消すからさぁ!」
アニマはチラリとだけ僕の方を見ると、何事もないかのように無言でアライテルに寄っていった。
「え?アニマ?・・風、なんでもいいからアニマを止めろ!!」
ームカつくなあこいつ・・・くそ!!なんで、なんで魔法が使えないんだよ!!!!
僕の体から発する魔力がうまく収束せず発動しない。この鎖のせいであることは察するに難くなかった。
(アニマさん!アニマさん!!)
(・・・)
ーだめか・・・。
「アニマさん!!」
アニマのツノが微かに反応した。
「あ・・・お前それ、こいつの名前か?軽々しく俺の”物”に話しかけないでくれるかなあ!?」
アライテルが右手を僕に向けたその途端、ひどい頭痛が脳を襲った。
ー痛い痛い痛い!!お、オエエエ・・・
僕は嘔吐した。
「ぜ、ぜえ・・・はあ・・・・アニマさん・・・アニマさんはそれで・・・いいのですか?」
アニマはピクリともせず、歩いていくと、アライテルの前でひざまづいた。
「主様、ただいま帰りました。遅くなりましてー」
{ブン}
ーな!お前!
アライテルは喋りかけるアニマの頬を拳で殴った。
「うるせえな!喋るなよ。気色の悪い声が・・・耳に障るんだよ。お前が口を開くのは、”しゃぶる”ときだけだろうが。」
おそらく誰にも聞こえなかっただろうが、僕の頭の中で何かが切れる音がした。
「・・・お、お前!・・・お前!おまえ!おまえぇぇぇ!!」
「お?うわー日本語だよ。おもしろ!!ん?なんだよその目。お前、こんなモノに恋でもしてるのかよ?なんだよ・・・ああ、まさか、ヤッタのか?」
{ガリッ}
僕は冷静さを失って睨み返す。歯を食いしばりすぎて奥歯が割れた音がした。
ーどういつもこいつもそればっかりだ! "ヤッタ”とか、怪物だとか、モノだとか、アニマをなんだと思ってるんだ。
「おい・・・彼女には、意志がある!」
「へえ!?なんかよくわからないけど、本気なんだ!!ウケる!!ってか”イシ”ってなんだっけね?もう忘れちゃったよ!!その日本語!」
「・・・だから、彼女を自由にしろよ。」
「はあ・・・自由?なんで?僕が作ったんだよ?ゴミだけどね。・・・でもさ、とるに足りないひとかけらでも、人にくれるのは惜しいものだろ?それに、そんなごみを欲するお前を笑うのも楽しいしさあ!!」
アライテルはそういうと、がさつに彼女の頬をついで体をさわり始めた。
アニマはほんの少し身をこわばらせただけでーーそれが嫌悪感なのか、恐怖なのか、あるいはありもしない罪のせいかはわからないがーーなにも言わずなすがままにしていた。僕はうつむいてそれを見ずに話し掛ける。出来るだけ冷静さを装って、アニマに聞こえるように。
ーアニマが僕に念話の精神魔法を発動させていれば理解されるはずだ・・・。いや、だめか?ええい、ままよ!!
「なあ、アライテルさん。こんな話を知ってるか。ある操り人形の話さ。」
「操り人形・・・ああ、こいつらみたいな?」
ーち!しゃくに触るなぁ!
「・・・お爺ちゃんが心を込めて作ったその人形は人間のように動き、感情をもつっていう童話のこと。聞いたことあるだろ。」
「あいにく知らねえよ。何が言いたいかわからないし、日本語もいくらかわすれちゃったしさ、まあ、聞く気もないわなぁ。」
そういうと、目の端でアニマのローブが落ちるのが見える。これはきっとアライテルの挑発なのだろう・・・。そんなことを無視してでも、僕はどうしても確かめなければならなかった。
いっそう声を張り上げる。
「その人形は、人間よりも人間のように振る舞うんだよ!優しくて、そして嘘をつくんだ。でも嘘をつくたびに鼻が伸びて妖精に怒られちゃうんだよ!でもおかしいよな!嘘をつくなんて、人間にしか出来ないと思わないか!・・・・なあ、アニマ!!!」
彼女はこちらを振り返った。
ーああ・・・よかった。
彼女の目は確かに悲しそうな目をしていた。良かったよ、それだけ見られれば僕はこの気持ちが一人よがりじゃないんだって思える。
「幸せになりたいんじゃなかったのかよ!」
我ながら恥ずかしいことをいった気がする。でもこれでいい、やることはひとつに決まった。
「はあ!?おまえ、きもいよ・・・無えよ!幸せなんて!どこにもねえんだよ!!!」
そういうと、あからさまに激昂したアライテルはこちらに手を向けた。明らかに魔法の発動を意味するものだった。僕は身を構えるばかりで、とっさに反応ができないというよか、反応する時間すらなかった。
{ズウウウン}
ー重力が重くなった!?
「くそ!!なんだよこれ!!」
「知ってるかよ!重力魔法はホーマには使えない魔法なんだぜ。俺を除いてな。」
重力が明らかに先ほどの数倍は重い。姿勢を間違えるとそれだけで骨が折れそうになる。体の中では内臓が一箇所に寄っているのを感じる。態勢を屈めても一向に楽にならない。
ーグフ。。。う、気持ち悪い・・・。痛い・・・。苦しい。。。だけど、アニマがこちらをみている、何か、何か言わなきゃ・・・
「、、、ぃ、、、きていれば、た、たのしいこともあるだろうら・・・」
「は?」
ふっと眼前に黒い影が落ちる。目の前にいたのは、アライテルだった。
「お前みたいな、能天気なやつが一番腹がたつ!! ”幸せ”に育ちやがった輩がさぁ!!!」
アライテルが拘束された右手の小指に足を掛ける。不覚にも指を開いていたのが仇となってしまった。重力をうわのせした足は確実に小指を踏み潰した。
{ゴリッ}
「う、うああああ!!!!いたい・・・いた・・・ぇ・・・」
ーいてぇぇぇぇ!!くそ、くそ、くそ!!!
とっさに、指を握って拳を丸めるものの、あまりの痛さに声も出なくなる。
「いいねえ。いいよぉ。決めた。君の反応、もっと、もっとくれよ!」
アライテルが僕の顔に手を伸ばす。重力魔法をかけたまま、触れた箇所だけの重力を”逆向き”にした。
「いてて!!いでええええ!!!!やめろ!!!やめr・・・・!!」
ーよわい・・・どうしておれはこんなに・・・よわいんだ・・・・覚悟・・・覚悟が足りないってのかよ・・・
{ブチ・・・ブチ・・・}
首から下は下向きの重力、首から上は上向きの重力で、今にも首がちぎれそうな音を立てている。実際、いくつかの毛細血管が切れる音が脳に響いた。その瞬間、ふっと体が軽くなった。
「えっ?」
僕の体は気づけば宙に浮いており、アライテルが僕を見上げている。
ーなんだ、次はなんなんだ。。。
「やめろ・・・。もうやめてくれ・・・」
「いいねえ♪いいねえ♪まだほんの序の口なのにねえ!!」
視界の端でアライテルの手が動くのが見える。
ー次は。次は一体なんだ・・・
「主様、ご報告があります。」
アライテルの手が止まる。
「だぁあからぁぁ!お前は喋るな!!!」
アライテルのもう一方の手が、アニマに向けられた瞬間、アニマのお腹に突然黒い円形の靄が見えた。
靄が二、三度収縮するとそこには、後ろの壁が見えるばかりの、大きな風穴が空いていた。
ーう、うそだろ?
「アニマ?」
アニマが膝をついて倒れると周囲に血が広がり始めた。それはどこまでも鮮やかな赤色をしていた。
「アニマぁ!!そんな、そんなあああ!うわあああああ!!嘘だ!嘘ダァああ!!」
アライテルが満面の笑みを浮かべている。
「いい!!いいよ君!!!」
ーアニマが!アニマが死んじゃう!!穴を穴を埋めないと!!!!
「ダメだ!ダメだダメだそれはダメだ!!!!違う、違う!!こんなの違う!!!」
ー違う!違う違う!!こんなストーリーあってたまるか・・・。
「あ、ああああああ。違う・・・違うんだ・・・・アニマ・・・アニマ!!!」
痛みのせいだろうか、アニマの目がこちらを向くとその目に涙が溜まっているのが見えた。
そして何故だかそれは笑っているようにも見えた。
いきなりクライマックス!(cry MAX)