第38話:僕と僕でないものと彼の境界線
幸いにして、アニマの傷は中程度の治癒魔法で治る範囲のものだった。だからといって殴られる過程の心の傷は決して消せる類の傷ではない。気丈に振る舞うアニマを置いて、僕は一人心が痛くなった。
「私のことは大丈夫です。よくあることですので。」
ーそんなわけ・・・あるのかもしれないけど・・・。くそ!おかしいだろ!!
アニマの目が一切の嘘を付いてないのが余計に悲しかった。
「それよりタイラさん・・・。」
ーん?なんだその目線・・・あ。
今は僕も裸でアニマも裸、お互い生まれたままの姿でくっつき合う格好になっている。
ーこれは良くない。精神衛生的に良くない。
・・・
全てが元通りになったんたどれほど良かったか知らない。とにかく服を着てから、奪われたものを全て取り戻した、ネティマスに丁重にお礼を言った。傷は治ったものの苦しそうなアニマを簡易的な布でつくったベッドの上に休ませてから、盗賊の生き残りである”アニキ”と呼ばれる男を縄で縛ってから起こした。
(ネティマスさん、僕の言うことを通訳してほしいのです)
(御意に。)
「な、なんだよてめえ。で、ディアブルじゃねえぁか・・・。俺を食おうってのか?」
(質問に答えてほしい。)
「質問に答えてほしい。」
「は!だれが悪魔なんぞに・・・」
{ドス}
僕は無言でアニキの腹に軽い”腹パン”を入れた。
「グエエ・・・オロオロオロ・・・・」
ー軽く入れたつもりなのに、情けない・・・。お前らだって同じことをアニマに・・・。
{ドス}
僕はもう一発軽い腹パンを入れた。
「オエエ・・・ハアハア・・・」
(お前たち盗賊はアライテルの手下なのか?)
「お前たち盗賊はアライテルの手下なのか?」
「違う・・・俺様は誰にも尻尾を振らねえ。殺すならころせ。」
(ちかくの村はどうなってるんだ?)
「ちかくの村はどうなってるんだ?」
「村か?ハハ!あそこはひでえよ。イカレタ領主様に何から何まで搾取されてる。食べ物も、金も、人間も、何もかもだ。そしてそこから逃げようとする奴は・・・俺様の餌食って・・・」
{ドス}
「グフッ・・・も、もう吐き出すものがねえ・・・。そろそろやめ・・・」
{ドス}
僕のタガはすでに完全に狂っていた。
(アライテルは離宮からでることはあるか?)
「アライテルは離宮からでることはあるか?」
「ね、ねえよ・・・。キメラどもなら年貢の取り立てにしょっちゅう来てるがな・・・。」
(これが最後の質問だ。お前は土葬と火葬のどっちがいい?)
「これが最後の質問だ。お前は土葬と火葬のどっちがいい?」
「どっちも興味ねえ。その辺の魔物にでもくれてやればいいだろうが。」
流石に盗賊なだけあって、肝が据わっているものと見える。睨みつける目には闘志が みなぎっているのがわかる。
(それならこの先、俺たちと一緒にアライテルの離宮までこい。)
「それならこの先、俺たちと一緒にアライテルの離宮までこい。」
「は?冗談だろ!?囮になれってのか?あいつに気に入られた人間がどうなると思ってやがる!?痛めつけるなんてやさしいもんじゃねえ。原型がなくなるまで、いたぶられるて、それでも死ねねえんだぞ?」
盗賊の目には確かに恐怖があった。
ーああそれなら、なおのこといい。お前にも苦しんでもらわないと気が済まない。
(よし、決まりだな。)
「よし、決まりだな。」
「PERDU CONCIOUS - 失神せよ-」
ーあ、成功した。
会話が終わると僕は実験も兼ねて、気絶の精神魔法をアニキにかけた。
ーさて・・・。
「ネティマスさん、アニマさん、明後日にはいよいよアライテルの城に着きます。僕とアニマは直接に奴の元へ、ネティマスはその隙に潜入してあるものを奪ってほしいのです。」
「「あるもの?」」
ーアライテルがどれほど強いかは正直分からないが、こちらには最強の兵器がある。ああ、そうだその名も
「兵器じゃないです。魔導器グプタです。」
ーそう、魔導”兵”器グプタさ。
「特大の魔法を打つこむための、魔力結晶です。」
・・・
「タイラ殿それは、”ハカ”でしたか?」
「そうです、お墓ですよ。僕が殺した・・・盗賊たちの。」
ーあれは確かに正当防衛だった・・・。自分や大切なものを守るために仕方なくやったことだ・・・でもそう思うほど、心のどこかで殺さなくても良かったんじゃないかという思いがぬぐいきれなくなる。他の道が、彼を許してやる道が。
「彼らはどうしてこんな悲惨な死に方をしなければいけなかったのかと・・・考えてしまって。その・・・僕が殺しておいて、なんですけど・・・。例えばどうして盗賊になったのかとか。」
「ニラ=ヤカナヤでは、それは珍しいことじゃありません。特にこの国は、政情が不安定で、統治も決してうまくいっているわけではないですから。」
ーやっぱり、上に立つものが無能だから、力のないものが苦しむんだ・・・。
「やっぱり・・・奴らは最低でしたけど・・・でも・・・死ぬことはなかったのかもしれない・・・。」
ー彼らも人だった・・・僕と同じ・・・僕よりも不運な・・・僕よりも弱い人だった・・・そしてそれを僕が殺した。
「ああ・・・後味悪いなあ・・・もう・・・」
僕はヨモギの葉を巻いで火をつけた。
「それはなんですか?魔力が回復するようですね。」
ーえっと、なんていってたっけな・・・よもぎ・・・はこっちの言葉では・・・ハリポタに出てきそうな名前だったとおもうんだけど・・・
「マグワートです。」
ーああそうそう、
「マグワートのタバコです。」
「タバコ?ですか?チキウ人は不思議ですね。」
ーみんなそれ言うなあ。あ、そうだ・・・おすそ分けだ。
僕はおまけにヨモギの葉を2枚丸めて、作ったお墓に1本ずつ指して火をつけると、手を合わせた。
「せめても、死後は・・・。」
僕らは血だらけに小屋で自分たちが使えそうな物、食料や多少の銀貨をいただくと、残りを村に寄贈することにした。もともと、今は亡くなった村人や、旅人のものなのだろう。彼らもこれが本望と信じる。




