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彼女は幸せになれないー巻き込まれ転移男の異世界奇譚ー  作者: 赦す内燃機関
第2章:ニラは焼かないでは食べられない
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第35話:孤独のムーサ


・・・


ーふう・・・。なんかめちゃくちゃ緊張した。やっぱり怪しまれているよなあ。


(タイラさん。この街、すごいですね。日本でも変な機械がいっぱいありましたけど。ここも変わったものがいっぱいあります。)


「たしかに、どう言う仕組みかわからないが、あれは明らかに自動二輪だよな。どうやって動いてるんだ?やっぱり、蒸気機関なのか?」


(ジョウキキカン?)


「あ、ほら、水を加熱して動力にする機械のことです。」


ーグプタはしらない?


「私の知識にはないです。」


ーなるほどな、魔法を元に発展した技術ってわけか。見たところ電気はないみたいだし。これが技術の方向性なのかな?


「とにかく、このヨモギを売りに行こう。」


街中を散策すると、一軒の薬屋が目に入った。見た目はとてもボロく、どう考えても偏屈な店主がやってそうな場所だったが、それ以外の綺麗な薬屋ではヨモギの買取を断られてしまった。


「いらっしゃい。おや?・・・まあいいかい。」


ー店頭にいたのは、やつれた顔の老婆だった。


「薬草を売りたいのですが。」


「マグワートだろ?見せな。」


僕は挨拶がわりに会釈をして、麻袋からヨモギの束を取り出した。


「ふん、まだあるだろう?」


ー売り物にはしないもっともいい品質のヨモギは自分用だったんだけどな。


僕が出そうかどうかためらっていると、アニマが間に入って説明してくれた。


「なんだい。舐められたもんだね。この低級品じゃあ、そうだね、全部で銀貨1枚さね。そっちの乾燥したやつも加えるなら銀貨2枚だ。どうだい?」


アニマと僕が見つめあってると、老婆が口を開いた。


「いいかい、余所者のあんちゃんたち。この街で泊まろうと思ったら、どんなに安くても銀貨1枚はくだらない。2人なら、銀貨2枚だ。言ってる意味、わかるだろう?」


僕はため息をついて、1房のヨモギを抜き取ってそれ以外を老婆に渡した。


「まあ、良いだろう。ほら銀貨2枚だよ。」


ーはあ、やっぱりお金を稼ぐのは甘くないな。ご飯も食べたかったんだけどな・・・。


「あんたら、ホーマじゃないんだろう?」


ーちょ、まてまて、この婆さん只者じゃないパターンかよ・・・。


「安心おしよ、通報したりはしない。お嬢ちゃんは・・・キメラかい?匂いでわかる。でもそっちの坊ちゃんは・・・一体どこから来たんだい?」


(アニマさん、まずい、早く店をでましょう!)


(ええ、でも一体どうしてわかったんでしょう?)


横を見ればグプタは何故か嬉しそうに宙をクルクルと回っている。


ーグプタは一体何が楽しいんだ?


「まあ、お待ちなって。私の名はムーサ。話を聞くのが趣味なんだ。どうせ金もないんだろう?ご飯くらいは振る舞ってやるさ。食べてきなよ。」


ーえ、あー。うーん、これはなんか信用して良い気がしてきた。


グプタが得意げにこちらを見て、口を開いた。


「あの人、ホーマじゃないです。」


ーまじで!?


<解釈>

__________________________________________________________

名前: ームーサー( - Musa-)

種族:ミックス(ホーマ+エルフ)

性格:現実主義

魔力保有量: 20,100/20,300

体重:6.9 kg

状態:ー

魔導:属性魔法 (火・土・風・水・光・麻痺・毒) 精神魔法 治癒魔法 合成魔法

能力:-

加護:「送る者」

アドバイス:「思い出は狩の角笛」


<送る者:見送る度に強くなれる。>

_____________________________


ーつええ、ここにきてダントツの魔力保有量と魔導の習得量だ!これなら、念話も・・・。


(もしもし、初めまして、タイラと申しますが・・・)



「・・・」


(聞こえてるなら返事を〜。)


「・・・」


(この世界の人、だいたい聞こえてるのに返事しないからね。)


「なんとかいったらどうだい?」


ーできないんかい!





・・・




「別れはいつでもかなしいものさ。」


僕らはお店の二階にある老婆のテーブルーー3人掛けのーーに料理を運んでいるところだ。


僕もアニマも自分の出自を言い淀んでしまい、とにかく”東の果てから旅暮らしをしている”とだけ伝えると納得したようにこんどはムーサ自身の話を始めてくれた。


ーこの人も話し相手が欲しかったんだろうな。ちょっと冗長だけど、ご馳走も奢ってくれたし、話し相手の一つくらいなってやるか。


ご飯はシンプルに草と赤い野菜の牛乳っぽいスープ、身まで灰色をした焼き魚、それに硬いクッキーのようなビスコッティだった。そしてどれも絶妙な味のバランスで申し分のない食事だった。


「ほらチビちゃんの分もあるよ。」


「チュビ!チュビ!」


ご丁寧にもムーサはチュビヒゲの分のスープを小さなボウルに用意してくれた。


「仲間を一人また、一人失って、あたいとメルローは引き際ってのを悟ったのさ。その時にはもう母も無くなっていたしね。」


食事の間ムーサは妙に饒舌だった。話の内容は、昔旅した洞窟のことや、冒険者〜薬屋を始めた経緯なんかだ。エルフの血を引く父は、生まれてからあったこともないらしい。危険な冒険者稼業は母を養うためにやったようだった。



「薬屋は楽しかったよ。子供も可愛くてねえ。毎日が陽だまりのように温かったもんさ。でも、メルローがいなくなって、それでもあたいはまだ元気だった。だから余計に寂しかったのさ。あたいの日々はこれまでどおりなのに、それなのにいつでもバカな話を言ってたメルローがもういない。」



ー 人の別れを真剣に考えたことなんて、あまりなかったなあ、胸に迫るこの感じは、安っぽい感傷というやつなのだろうか。僕はムーサと会ったばかりだと言うのに。


「そして、ムジカもいなくなった。この前の戦争でね。そして、本当にもう何もいないのさ。」


僕は”戦争”の言葉が出た時に、アニマの方を横目に見た。アニマは少しだけ下を俯いて、こちらに気づくとメガネを直すふりをしてごまかした。


「別れはいつでも悲しいものさ。だから、あんたらもまた来るんだよ。いいね?」


そう言うとムーサは懐から小さながま口の財布を僕にくれた。緑色の皮でつくられた使い込まれたがま口だった。中身を確認すると、中には銀貨が30枚程入っていて、僕は慌てて突き返した。


「い、いくらなんでも悪いですよ!」


「聞いたことない言葉だよ・・・本当に遠いところから来たんだねぇ。だけど、その目を見ればわかる。あんた、水臭いことを言うんじゃないよ。」


僕は困惑した表情をして僕はアニマにがま口の中身を見せた。


「ムーサさん、そんな大金を頂くのは悪いですよ。」


「バカだねえ、大したこと金額じゃあないよ。お小遣いみたいなもんさ。老人の介護だと思えばいいじゃないか。」


「で、でも・・・。」


「だけど、一つ頼みがあるんだよ。」


「頼み・・・ですか?」


「あたいの葬儀を頼まれてくれないかい?」


アニマを見つめると彼女もまた腑に落ちない顔でこちらを見ていた。


「ムーサさんの葬儀?」



「メルローや、ムジカだけじゃない。もう、あたいを知る人はほとんど残っちゃいないのさ。冒険者だった時の仲間も、長く住んだこの街の隣人たちもね。」


確かにムーサさん長生きしすぎた。もう、仲がいいと呼べる人もほとんど残っちゃいないと言うのも頷ける。


ーだからって、通りすがりの僕らにそんなことを頼んで良いのか?


「ま、まだしばらく死にゃあしないけどね。」


ーあ、そうか。ムーサさんは、僕たちを気遣って、わざとこんなことを。


「だから、あんたらも死ぬんじゃないよ。」


Jes(はい)。あ、約束・・・ってなんていうんだろう。」


僕がいいよどむとアニマが口を開いた。


「わかりました。死ぬときは私とタイラさんでお見送りします。約束です。でも。」


「でも?なんだい?」


「その前にまた、ご飯を食べに来ますからね。」


ーアニマ、やるー!


アニマは実際に食いしん坊だ。そして優しい人だった。今は僕も全く同じ気持ちだ。


Mi ()amas() via loko(ここが好きです). Musa.だから、Promeso(約束) です。」



「約束ねえ・・・ふん。ほら、もう寝る時間だよ。水浴びならそこの突き当たりで浴びると良い。服はどうせ替えなんてないだろう?置いてあるタオルでも体に巻いて使いな。ベッドは二階の突き当たりの2部屋だよ。少し埃っぽいだろうが、そこはまあ我慢さね。」


「そんな、寝るところまで! あ。アニマさん。」


「寝るところまで借りるのは流石に悪いかと・・・。」


「いいんだよ。どうせ空いてるんだから。」


僕は麻の袋に突っ込んだ銀貨を弄りだした。


「じゃあ、せめてこの銀貨を2枚・・・これは・・・一応・・・僕らの稼いだお金ですし。」


「ええ、それに、洗い物は私達がやります。」


僕が銀貨を二枚差し出すと、ムーサは素直に受け取って、すこしカビ臭い匂いのする奥の部屋へと消えてしまった。アニマと僕は見つめあって、ただ頷きあった。




・・・




僕とアニマが洗い物をしている間、チュビヒゲがは机の上でひげを交差して枕にし眠っていた。そして、もう一人の仲間であるグプタは沈黙を破って話し掛けてきた。


「あの人、全部気づいてるです。」



ーうーん、それはつまり、アニマはおろか僕のことも?



グプタが首を縦に振るのを見届けると、横で泡を流すアニマと目が合ってしまった。



「アニマさん、ムーサさんは僕らのこと全て気付いているかもしれません。」



「モシ・・・そうかもしれませんね。すごい魔法使いだったみたいですし。」



ムーサさんの息子さんは間違いなくアライテルとカラコール国との争いにまきこまれた死んだものだろう。それはつまりムーサさんだって、配下であるキメラ、アニメを恨まないとも限らない。



「でも、約束しましたから。ムーサさんとまたご飯を食べるって。」



「え、うん?でも・・・。」



ームーサさんの頭の中のことなんて僕らにはわからない。今はただ、彼女が言った言葉をそのまま受け止めるだけだ。


「いや、そうですね。じゃあ、そろそろ寝ましょうか。」


アニマの水浴びが済むと、前回とは違いタオルを羽織った状態で話しかけられた。僕は一人安心して、先に寝てるように伝えた。


水浴び場には桶に不思議な魔法陣が描かれた金属が備え付けてあり、それに魔力を通すだけで水が生成されて水が溜まった。


ー魔法具ってやっぱり面白いなあ。いつか自分でも作ってみたいもんだけど。


固形の真っ赤な石鹸?と思われるもので、僕は体だけだなく服の汚れや、”魔導器”の汚れを落とした。考えてみれば”泥仕合”になってから多少は雨と水魔法で綺麗になっていたとはいえ、まとめに風呂どころか洗濯もしていなかった。


日本では考えられない汚さだ。もちろん、グプタは外で待機してもらい、お礼の声だけが引き戸越しに聞こえた。体と服を風と火の属性魔法で乾かすと、僕はムーサが言っていたように大きなタオルを胴体から足にかけて、ぐるりと巻いてパジャマがわりにして、寝室へ向かった。


「あれ、アニマさん扉の前でどうしたんですか?先に」


「タイラさん、どうしましょう。このふかふかの敷物の使い方がわかりません。」


「え・・・あ・・・はい。」


アニマにベッドの使い方を教えるとーー寝るだけだーー、一瞬のうちに眠りについた。ひさしぶりに柔らかいベッドの上で寝た僕は、一欠片の夢を見ることもなく熟睡した。よそ様の布団では寝れない性格であったが、やはりおふとぅんの魔力は偉大だ。


そして翌朝、いや昼過ぎになると、やや呆れ気味にムーサに起こされたのだった。



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