第32話:何一つ分かり合えなくても
数十秒、熱風に耐えながら、なんとか建物のある区域まで逃げ込めた。あとは反撃するだけだ。
(じゃあ、私は回り込んでリーダーのあの子を、タイラさんは魔法の射程をうまく避けながら、手下を巻いてもらうといいことでいいですか?)
(お願いします。いくら泥を塗っても、風上であの熱風に当たったら、一瞬で持ってかれそうです。アニマさんもどうか気をつけて。)
(タイラさん、武器は?)
(え?えっと、なんとなく、僕は素手の方がよさそう気がします・・・なんとなくですが・・・あはは・・・)
(何かあれば念話で。)
(はい。)
アニマがサッとその身を翻し、建物の背後に隠れながらアネゴに迫る。向こうの様子はー
「手下四人は建物の間に散らばってるです。アネゴは・・・ノロマと一緒に開けたところから動かないです。」
そう、グプタレーダーによって丸わかりなのだ。僕が動き始めると、すぐに手下の一人と会った。小柄な体型でこんぼうを持ったやつだ。
「ハン!見つけたぜ!丸腰の魔法使い!さっきも守られてた!お前なんざ余裕だよ!」
「うーん、話し合ったりはできないものですかね?」
「なんだよ・・・おまけに言葉もまともに喋れねえのか。」
この世界では、言語は一つといっていい。すなわちニラヤ=カナイ語にあらずは、言葉にあらずだ。無論、日本語などは通じない。こちらが”解釈”する一方である。その間にも、盗賊はこんぼうを片手にもって、軽やかに直進してくる。
「タイラはどうするです?」
「あ、ああ、そうかグプタは知らないのか。たぶん、殴れば勝つと思うんだけど・・・どうかね。」
「は!なんだその腰!てんで素人かよ!おらよっと!」
{バキイィ}
僕の目先で振り上げられこんぼうはまっすぐに頭に落ちてくる。僕は相手が予想したであろう通りに、左手を上げてそれを受けた。結果は単純だ。こんぼうがへこんだだけだ。
「は?お前・・・身体強化系か!?」
「タイラ、魔法なんて使ってないです?」
「ま、まあ、地球生まれは頑丈なんだよ。」
あとは一方的だった。こんぼうがいくら振られようと、少し衝撃が来る程度でまるでダメージがない。おまけに、1回ポカっとなぐれば、相手はそれだけでのびる。同じように残りの四人も、一対一で戦って、ぽかっと殴り、あっと言う間に勝った。金属の棒や、槍のようなものもあったが、結果はいずれも同じである。
ーなんか”良く無い”成功体験を得てしまった気がする。
「タイラ、強いです。」
空中ではねるグプタをよそに急いで、アニマの様子を見に行く。アネゴが手を目の前で合わせ火魔法を使うところだった。
「燃えるべくして燃えるものを! ”BRULIGU”ー(燃えろ)ー」
アネゴの”詠唱”はヴァルマのそれより短く、勢いも低い。しかし直撃すればただじゃいられないだろう。
{シュッ}
アニマはとっさに、腕を振り払いローブで顔を隠した。
「このまま燃え尽きちまいー」
{ドスッ}
「痛っ!」
アネゴの手には、アニマが腕を振り払いざまに投げたダガーが刺さっていた。必然、気を取られて魔法が中断する。アニマは瞬時に肉薄した。
「ふん!小賢しい真似をしてくれるね!でも、あんたに武器はもうないよ!」
アネゴが包丁を構えると、乱暴な手つきでアニマの顔を狙って振り回す。二人とも素人とはいえアネゴの手振りにはためらいがない。本気で殺しにかかっているものと見えた。アニマはかわしながら、手元を狙っている。
「最後にお訊きしたいことがあるのですが。」
「アンタらに話すことなんてないよ!」
「・・・どうしたら許してもらえるでしょうか?」
アネゴの手が止まる、手が震えている。その目はまっすぐにアニマを見つめたまま。
「ふざけるのもいい加減にしろぉぉぉ!!もう、2度と、もう2度と、失ったものは帰らないって!知っているくせに!!」
ーまずい、あの距離で一度立ち止まってしまったら、急にはよけれない!
「だからせめて死ね!!」
アニマの顔に包丁がまっすぐに伸びた。
{カラン・・・}
「アニマさん!!」
「モシ?」
ーあれ?
アネゴはそのまま、立ち尽くして、手から包丁を落とした。体に力が入らないのか、プルプル震えている。
ーあ、そのダガー・・・麻痺が付与されているんでしたっけ?
忘れがちな設定ってやつだ・・・第1章の9話にしかでてないじゃないか・・・。
アニマの肩にポトリと小石があたる。見れば、少し離れたところから、ノロマが石を投げている。
「・・・アネゴぅ!!・・・」
アネゴが殺されると思ったのだろう。
「こ・・・ろせ・・・さっ・・・さと・・・殺すが・・・・いいだろ・・・。」
ーふむ、殺すことはないよな。これ以上、もう彼等が失う必要なんてないよな。
「あ、アニマさん、もう行きましょう・・・。彼女たちは”救済”は望んでないと思いますよ?」
アニマはゆっくりとアネゴに近づいて、態勢を仰向けにしてやった。手にはふたたびダガーが握られている。
「苦しみから解放するにはこれしか・・・。」
ぼくはさっと近づくと無言で手を握る。アニマは時間をかけて振り返ると僕の目を見た。
「・・・。」
アニマの耳元で質問をする。二言三言話すと、僕はアネゴに向き直って歩いた。
「Mi esperas al vi felicon. ・・・。えっと、なんでしたっけアニマさん?」
(Gis revido です.)
「ああ、G《^》is revido !」
ーなんてことない別れの挨拶で別れたい。僕らのことなんて見たくもないだろうけれど、どうか彼らには幸せになってほしいよ。
「ッ!!!お前!!・・・消えろ!!・・・2度・・・と・・・2度と!・・・・私たちの・・・前・・・現れるな!」
アネゴの目を僕はまっすぐ見た。決して、冷やかしたのでもない。蔑んだのでもない。憐れんだのでもない。僕は僕の無力が悔しかったのだ。せめて、本当の気持ちを伝えたかった。もしかしたらそれはあまりに傲慢なのかもしれないけれど。
そして僕らは逃げるように足早に、とても重たい足取りで魔法アカデミーを後にした。
僕はなんとなく寂しくなってアニマの手を繋いだ。いつも想像よりも冷たいその手は、そのいつもより冷えているように感じた。アニマは少しだけ驚いて、それでもいやがりはしなかった。
(巻き込んでしまいましたね・・・。ごめー)
「あの!!」
「モ、モシ?」
「謝ったりはしないでほしいです。」
アニマをアニマ足らしめている気高さが今、揺らいでいるような気がする。主人への絶対的信頼と、目の前の苦しみと、アニマ自身の中のためらい。だけどその何一つも、アニマの罪だとはどうしても思えない。願わくは、どうか、その中で自分が良いと思う道を、自分も他人も許す道を見つけてほしい。
「残酷な話・・・かもしれませんけど・・・ね。」
次の目的地の街まではあと数日だ。そこからアライテルのところまでは村を1つ挟んで、そう遠くない距離にある。それまでに色々と、ゆっくりと、答えが出ればいいと思う。
「あのう!魔道器グプタを置き去りです?」
ーん。いや、今回の展開的にはそうだが・・・・グプタを連れ出したのだから、うーん・・・これは言葉の綾だ。
「まあ、空気の読める魔道器グプタとしては、おとなしくしてるです!」
ーなんだ、気を使ってくれているのか。本当すごいなグプタ。
「できればまた、ちゃんと見てみたいな、あそこ。」
僕が独り言気味にそういうと、他の二人もそれに応える。
(そうですね。前時代のこともわかるかもしれませんし。もしかしたら、帰る方法も・・・。)
「んー私はもういいです。」
ーまだお昼の12時前だというのに、なんだこの神妙な空気は。。。それにこの絵面・・・うん、なんか、家族旅行みたいだ。一人浮いてるけど。・・・物理的に。・・・ん、なんか面白くなってきちゃった。。。
「ぷは・・・ごめんなさい。笑うとこじゃないんだけど・・・ぷはは。」
「「??」」
「ともかく、もうしばらく宜しくお願いします。不束者の地球人ですが何卒。」
「モシ?」
「何の話です?」
アニマとグプタがこちらをみる。
(やっぱり地球人て)
「やっぱりニンゲンて」
(変ですね。)
「頭オカシイです。」
ーそれは言い過ぎだろう!
破れかぶれな展開で、僕たち3人は連れ立って歩き出した。
結局、フィジ・・・。




