第31話:被害者の故に
目まぐるしい展開。
「モシ、そうです。詠唱は命令形の方が、精密な制御ができるのです。」
「なんだって!!」
「「「「しらなかった」」」」
「・・・なかった・・・」
”ノロマ”の治療を終え目を覚ました盗賊の一団とアニマが会話をしている。会話の内容は主に魔法のこと、彼等が出会ったひどいホーマ達のことだった。
盗賊達は珍しいことにアニマを毛嫌いすることもなく、外見を不思議そうにみつめるにとどまっていた。彼らの言葉を聞いて解釈することはできるものの、困ったことに僕と彼等との間では念話が通じないので、何をするにもアニマを介さなければいけなかった。
解釈のことはまだ誰にも伝えていないため、甲斐甲斐しくもアニマはこちらに説明を挟んでくれる。僕の貸したメガネが重いのか、振り返るたびにメガネをクイとあげる動作が非常に可愛らしい。
ーうむ、ツボを押さえてらっしゃる。2度手間かもしれないけれど、もうしばしこのままでおなしゃす !
「タイラの性癖です?」
ーぐふ・・・グプタ・・・ストーリーテラーキラー・・・ていうかその言葉どこで覚えたし・・。ええと、と、とにかく盗賊のステータス拝見!
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名前:アネゴ ( ? )
種族:ホーマ
性格:慈母
合計魔力量: 99/560
体重:2.1kg
状態:ー
魔導:属性魔法 (火・風) 精神魔法
能力:ー
加護:「憐憤」
アドバイス:「団結した我々の前に屈しないものはいない」______________________________________________________________________________
ー(あれ?”アネゴ”って呼ばれてたはずだけど。それそのまま名前にもなってるのか。)こんなに小さいのに、すでに三つも魔法を使いこなしていると・・・。他の人はっと・・・
・・・
ーあ、子分達は月並み・・・というか魔導も能力もないや。これは完全に”アネゴ”のマンパワーで動いてるな?
「ところでアンタ、なんでそんな目をしているのさ?ディアブロにだってそんな種族、図鑑になかったよ。」
アニマの目は黒い網膜に金色の瞳をしている。僕はそれがとても”尊く”感じるのだが、こちらの世界では如何せん気味悪がられているらしい。
ーこの尊さがわからないとはな。
「それは、主アライテル様がくださったものです。」
{ザザッ}
ーなんだなんだ?ばか!ノロマは安静にして無ければだめだろう!
アニマがアライテルの名前をだしたその瞬間、先ほどまで和やかだった空気は一変して、不穏なものに変わった。アネゴの目には明確に殺意が湧いている。手には脇に差していた包丁のようなものを持っている。他の子分も木の棒や、鉄と思われる棒を各々手に取っていた。ノロマでさえも一拍遅れて目だけでこちらを威嚇している。
「ああ、そういうことかい・・・。魔術師だったあたいの親は、アライテルとの戦争に出兵した!どういうことか・・・わかるね!」
ーこの昔話を唐突に始めるパターンはやばいって!
「そう。骨一つ帰って来なかった!こいつらもそうさ!なああんたら、どういうことか!分かるかい!」
僕はとっさに荷物を手にする。
「そりゃ私たちをゴミのように扱う、街の大人達には腹が立つよ。でもね!奴らなりに必死なのはわかってるつもりさ!だから、あたいたちも必死で奪う。お互い恨みっこなしさ。生きるためだからね!!」
ー・・・。
「だけど、アライテルは違う!ただ、好き勝手に殺しただけさ!あたいは命をかけてでも、アライテルを殺す!分かるかい!あんたに!!キメラのあんたに!!!」
ここからではアニマの顔が見えない。先ほどまでのどこか楽しそうだった表情が今どうなっているのかもわからない。なのにアニマが落ち込んでいるようにも見えるのはきっと気のせいじゃないはずだ。何も言わず、アニマはアネゴの顔を見つめている。
「ギリッ。あんたらやっちまいな!アライテルの手下に感謝なんてくれてやるこたあないよ。」
「「「「そうだ!」」」」
「・・・だ。」
僕は急いで念話を送る。
(アニマ!まずい、逃げないと!落ち込むのも分かる。でもとにかく、今回は運が悪かったよ。僕らは助けたいからそうしただけだし。とりあえず逃げよう!)
僕らには既に魔力が殆どない。戦闘になればいくら子供達とはいえ、多勢に無勢で本当に殺されてしまうかもしれない。事実彼らの目には確かに殺意が見て取れた。
(はい。)
念話で届く声は平静のアニマのそれだった。僕はアニマの顔を見たいと思った。だけどそれよりも早く、手を引っ張って走り出すことに決めた。
「逃すか!!あんたたち、先回りして囲んでしまいな!」
ーまずい。。。ノロマはともかく、他の4人は小柄なこともあって、動きも早い。小さいとはいえ、さすがは盗賊といったところか・・・。まずい・・・っまずいまずいまずい。グプタ、なんかいい案ない!?隠し通路とかさ!
「あーそれなら・・・あの左手の倉庫の中に・・・も無いです。大人しく逃げるです。」
ー無いのかよ。少しだけ期待させる意味は?
「アンタ教えてくれたよねぇ?魔法は命令形の方が威力が出るって!・・・ぶつかり合っては熱を生み、彼のものを包め!ー "BRULIGU VENTO ” -(燃えよ風)- 」
後ろから追いかけるアネゴがさっきよりも威力の高い火と風属性の魔法を放つ。僕らの歩みよりも早いそれは、あっという間に追いつくように思えた。
(タイラさん、ここは私が囮になります。このローブなら燃えませんし、少しは時間も稼げます。)
(ちょ、何言っているんですか!?そんなん駄目ですよ!)
ー駄目だ。いや違う、そんなの嫌だ!
「タイラ、ゾッコンなのです。」
ー呑気なこと言ってる場合じゃないんだよ。。。うう、どうしようどうしよう。話し合いとか僕にできないし・・・アニマだって聞く耳を持ってはもらえないだろうし・・・。
気づけば熱波がアニマの後ろ髪に届いていた。焦げ臭い、髪が燃えるときの硫黄分を含んだ匂いは、地球でパーマをかけるときに漂うそれと全く同じものだった。
「のんきなことを考えてる場合じゃないです!」
ーグプタに言われたか。
{ヌルッ}
「え?」
{すってーん}
ぼくはそこで漫画でしか見たことのない効果音とともに、漫画のように転んだ。
ー嘘だろ?おい!このタイミングで?
「タイラさん!」
昨晩の雨で水を吸い、泥だらけになった地面は異常にぬかるむ。そのせいで足元はに非常に滑りやすくなっていた。
「タイラハゼンシンドロダラケニナッタ、デス。」
ー何その昔のRPGみたいの・・・。
「ッ!・・・冷たい・・・冷たい?・・・あ!・・・これだ。”シュワちゃん戦法”だよアニマ!」
「シュワチャンセンポゥ?」
やや低めの相手を訝しむような声でアニマが聞き返す。
ーん・・・なんか、今の言い方グッときたぞ?
「うん、シュワちゃん戦法!セイ、アゲイン!」
「モシ・・・”シュワチャン戦法”・・・?」
「のんきなことしてる場合じゃないです。」
「・・・うん。要するに濡れた泥を体に塗りたくって、相手の攻撃を無力化するのだ!」
僕はヴァルマさんに申し訳なく思いつつ素早く、地面の上を転がる。思いっきり頭の先から、靴の先まで泥に塗れるために。アニマはローブに保護の魔法がかかっているのでフードを目深にかぶるとして、露出している足と顔だ。
「アニマさん、塗っていいですか?」
(・・・モシ・・・どうぞ。)
アニマは依然として、納得がいっていないようだ。しかしこんなチャンスーー例えるなら海辺でサンオイルを塗るようなーー活かさないわけがない。
ーなるたけいやらしくならないように・・・。
「っ!・・・冷たい・・・」
ーああ!声が漏れてるよアニマさん!これは色々とまずい!!ああ!戻ってこい僕の理性!!!
そこで突然視界が白く染まった
「タイラ、のんきもいい加減にするです。」
すなわちグプタの手が両目に突き刺さっていた。
ぼくのタガが緩みました




