第29話:魔導器グプタ
(”魔導器グプタ”ですか?すいませんが、私にはその手の知識はなくてわかりません。)
僕とアニマは外にでて再度”魔導器”グプタ”を入念に洗った。石鹸のようなものがないのが悔やまれるが、とにかく入念に洗った。若干の匂いが残っているものの、それも骨董品と思えばかえって箔がつく程度のものだろう、たぶん。
光に透かすと、円盤型の白色結晶は中心の渦が微妙に回転しているように見える。さながら土星の輪っかといった雰囲気で、なかなかどうして見入ってしまう。
「えっへん!」
(どうして、私にはその”幼女”が見えないのでしょうね?喋ってもいるのに?)
僕は文字通りお手上げのジェスチャーをする。
ー幼女さん、どうして?
「幼女じゃないです魔導器グプタです。私を作ったのは”ニンゲン”だからかもです。あ、でも、その時はまだ実体はなかったです。」
「”ニンゲン”って、まさか”夢を見る者”に作られたってこと?」
ーなんて呼んでたっけ?ラ・ソンギスト?
「うーん、彼は”ニンゲン”とだけ名乗っていたです。あなたも”ニンゲン”です?もう長い間ずっとここに放置されてきましたです。時々、そこの女性みたいに”ニンゲンモドキ”が来てもだれも気付かなかったです。だからあなたが2人目の”ニンゲン”です。」
ーニンゲンモドキ?ホーマとか、ディアブルのことだろうか?ネティマスの話ではここはもうずっと前、それこそこっちの暦で200年近く前ーーしかもここの一年は600日!ーーに閉鎖されたとのことだから、それからずっとあのままということなのか?
「まあ、そうなるです。」
「まるで付喪神みたいだ。」
(”ツクモガミ”?)
「付喪神じゃないです。魔導器グプタです。私の役目は魔法を擬似的に再現することです。治癒魔法から転移魔法までなんでもござれですです。」
ーえ、さらっといったけど、地味にすごくないですか?
「え、転移魔法も再現できるの!?」
「今の”ニンゲン”には無理です。魔力が足りないです。そもそも、私を使って魔法を再現するには本来自分で会得した場合よりも多くの魔力が必要です。なんでもないかんでも人に頼るのは良くないです。楽する分の対価は払うです。それに私は再現するだけで習得するのは自分でやるです。」
ーどっちだよ!頼るための”魔導具”じゃないのかよ!?
(モシ?転移魔法が使えるのですか?)
「えーと魔力がたくさん必要みたいですよ。」
ーでもってこれ主人公専用最強アイテムじゃんね!それじゃ、とりあえず火の属性魔法おなしゃーす!!!
僕は改めて魔導器グプタを握った。この際に至っては多少汚いことはもう忘れてしまおう。幼女グプタはこちらを疎ましげにみてから、僕とかぶさる位置に移動した。やはり実体がないのか、体が重なっても特段何も感じない。僕が火の属性魔法を脳裏でイメージすると、魔導器と呼ばれる象牙質の結晶内部の模様が激しく渦を巻くように動きはじめた。
「右手を離して上に向けるです。」
僕は言われた通りに、左手で魔導器グプタを持ったまま右手を離した。指先から手のひらに抜けるように気体の流れを感じる。
ーやはり空気中のなんらかの気体を凝集させるのはヴァルマさんが教えてくれた通りだ。でもわからないのは空気中の”何か”をどうやって選別するか・・・だ。空気や水を集める時には、かろうじて自分が流そうとしている魔力に引っかかりのようなものを感じることができる。そこに魔力を集中する感覚さえつかめば、あとはうまく集まってくれるわけだが・・・。
「そろそろです。」
ーん、なんか今、流れ込む気体がさっきまでのと違ったような・・・。あ、何かが霧のように凝集しー
{チカッ・・・ゴオオ}
目の前では確かにヴァルマさんが教えてくれたのと同じように手のひらから火柱が上がった。規模も持続時間も半分以下ではあるが、紛れもなく火の属性魔法だ。
「おお!すすええ!!グプタ、半端ないって!!!」
「感覚は鍛錬あるのみです。昔の”ニンゲン”にもできない魔法はいっぱいあったです。」
ー昔の人間か・・・。ああ、そうだ。僕の名前はタイラです。”今のニンゲン”はタイラと呼ばれています。タイラって呼んでくださいな。
「名前です?・・・タイラ・・・タイラ。私はー。」
「グプタでいい?それともグプタ先生?」
ー見た目が見た目なだけに、敬語が使いづらいんだよな・・・。
「魔導器グプタ・・・ですけど、グプタでいいです。あと”ケイゴ”の意味はよくわからないです。」
ーじゃあその殊更につける語尾の”です”ってなに!?まあいいや、どちらかというと気にするのは、魔導器をつけるか否かのようだし。それはそうと・・・。個人的に一番大事なことなんだけど、グプタはここに残りたい?
グプタはそのふわふわとした体を宙に浮かべて、講堂と思われる建物の二階部分ーー因縁の場所ーーを恨めしそうに見上げた。話を総合すれば、グプタはこの魔法アカデミーで200年以上の年月を過ごしたことになる。思い入れもひとしおだろう。
「・・・・いや、です。」
グプタの瞳は決意に満ちていた。
ーうん。じゃあ、一緒に行こう!グプタ、大事にするからさ!
「はい・・・です。魔導器グプタも一緒に行くです。」
こうして、僕は大層な武器?を手に入れてしまった。一重にこれも主人公特権である。というか、それ以外の何物でもない。やっとこさそれーー異世界モノーーらしくなってきた。
(モシ?ところで、タイラさんそれって私にもできますか?)
その後にはアニマも火の属性魔法、上位の精神魔法(被験体は僕)を再現した。音声ガイドがないため、結果的に僕はつきっきりで解説した。
ーつ、疲れる・・・。この魔導具のことは人に教えないでおこう・・・。




