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彼女は幸せになれないー巻き込まれ転移男の異世界奇譚ー  作者: 赦す内燃機関
第2章:ニラは焼かないでは食べられない
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第28話:泣き天井のグプタ

禁欲生活4日目(異世界)



「いいですか、水を集めますよ?」 


ーえーと、イメージは雲から降る雨のように・・・。



 アニマには立ったまま頭を前に突き出してもらい、僕が手のひらでアニマの髪に水を流した。さながらシャワーのように水滴を生み、アニマは髪を洗う。これまでとは違って水が生まれ続けるように空気の流れを調節し、あたり一帯の水を少しづつ手に伝わせるのは難しい制御が必要であった。最後に風魔法で軽く水気を飛ばすと、水色の髪は疲労をたたえてか、一層しおらしく見えた。



ー今日はいろいろなことがありすぎだ・・・。なによりチュビヒゲを失ってしまった。ネティマスと協力関係になったとはいえ、チュビヒゲのいないこの頼りなさは一体なんなのだろう。ああ、どうか安らかに眠ってほしい。



「アニマさん、なんとかなりますよ。根拠はないですが、すべてうまくいくと僕は信じていますから。」


ーいや、そう信じたいだけなのだろうな。


(モシ、意味がよくわかりません。)



ーあれ・・・なんだろう・・・今、とても不安な気持ちが沸々と湧いてくるのを感じた。あれ、あれ?どうしよう。アライテルのこと、アニマのこと、僕のこと、この世界のこと、全てがうまくいく、そんなことが本当にあるのか?これまでの人生でほんの些細なことでも全てが上手くいったことなんてあったか?学校では特に目立つこともなく、成績もまるで凡人、受験だって大学生活だって、本当はもっと・・・・


(タイラさん。)


「は、はい?」


(私は主様の僕です。戻らなければ、どうしても戻らねばなりません。主様を否定しきれません。)


「は、はい・・・。」


僕は1人俯いて、焚き火を見た。考えてみれば、こちらの魔法で見る炎とは違って、焚き火の炎は地球と同じで赤いことに気づいた。。


(ですが、もう少しこうしていたいとも思います。)


ーほ、ほう?


(手を握ってもいいですか?)


ーほ、ほう!!!???


「え・・・あっはい!」


薪を囲んでアニマは僕の左にいる。僕が左手を伸ばすとアニマは右手でそれをつかんだ。

アニマの手はやはり少し冷たい。冷たいし、あちこち荒れているけれど、いつ触っても真っ直ぐな意思を感じる手だった。気高さと真剣さなのだろうか。


(相変わらず、地球の人は不思議です。もう少しこうしていたい、思わせます。)


ーえっと、もしかして湯たんぽがわり?


「寒い、とかですか?」


(いえ、上手く言えないですけど。嫌であればー)


「あ、いや!!もう少しこのままで!」


ーなにこれ?どゆこと??ちょ、こっからどうすればいいの?すでに、ドキドキがとまらないんですけど・・・。いや、ドキドキ? この感じは・・・ムラムラ?・・・考えてみれば、こっちに来てからしばらく性欲処理もー


「ちょっと近くに寄ったりしたら・・・怒ります?」


「いえ、別に怒りません。」



肩が触れるくらいの距離に近づくと、アニマの髪からはほのかに汗っぽいが匂いが漂ってくる。それが、アニマと自分が同じ生き物であるという安心感を与えた。



ーうわあ、現実でこんなに異性に近づいたことないよ・・・。なんだろう、別にいい匂いじゃないけど、ドキドキするな・・・。はっ!!!!



僕は知らないうちにテントを張っていた。



「ううむ・・・」



ーええい、旅の恥は掻き捨て!



「モシ?」



「ちょっと、抱きついたりしたら、お、怒りますか?」



(怒りませんが・・・。)



ーが・・・なんだ?なんなんだ!・・・もういったれ!!


僕はもうなんかよくわからないまま、勢いよく手を背に回して、抱きついた。必然、僕の顔はアニマの肩に、アニマの顔は僕の肩へと預けられる。



{ゴクッ}



ーうおおおお、なんだこの感じ!こ、これが・・・リア充・・・!!!


「こ、こうすると落ち着くとお、思いませんか?」



(も、モシ・・・却ってそわそわしているように見えますが・・・。)



「嫌・・・だったら言ってくださいね。」



「いえ、別に・・・」


ーアニマの顔は見えないが、声色が少し震えている。これはたぶん大丈夫だということなのだろうか?いや、それともこれこそ無理をさせているということなのだろうか?そして、このドギマギ感・・・これがリア充!!!



 僕が落ち着かない腕をプルプルさせていると、ふと指先に力が入ってしまった。正確に言えば、ぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られてしまった。もっと正確に言えば、なんか”いけそう”な気がしてしまった。そのせいで指先がアニマの背中をぎゅっと食い込むと、アニマはビクリと一瞬肩を揺らした。無論、僕の力はこちらの世界ではやや強いらしい。



ーちょっと急すぎたかー




「ヒッ! PERDU KONSCION -(失神せよ)-!。」


「え?」


(あ、タイラさん、ついー)


僕の意識はそこで途切れた。





・・・







「ううむ・・・テントが・・・テントが・・・」


「ヒック・・・ヒック・・・」


「僕にも春が・・・春が・・・」


「ヒック・・・ヒック・・・」


「・・・え、ごめん、泣かなせるつもりは・・・」


「ヒック・・・ヒック・・・」


ーえ、誰が泣いてるっって?



「泣いてる?アニマさんが??? ってか、はっ!!!寝てしまったぁぁぁ!!」



ー春は!?春はまだか!!??しかしなんで寝てしまったんだっけ?なんか抱きつくところまでいって、僕はうっかりーー確信犯的にーー力を込めてしまって・・・うん??


「ヒック・・・ヒック・・・」


「アニマさん??」


あたりを見渡すと、焚き火はすでに消えていた。大きなホールの窓からは青白い光が差し込んでおり、時刻はおそらく早朝であろうと思われた。光は遠くの椅子を照らすばかりで、暗闇の中で手探りでアニマを探しすと、そこで初めてアニマがかけてくれたのか毛布の存在に気づいた。


ーこんな気遣いをしてくれるタイプだったっけ?


正直に驚いていると自分の隣、人一人分の隙間を開けてアニマのロープに指が触れた。


ーうわぁ・・・びっくした。。。


「アニマさん?起きてますか?というか泣いてますか?」


「ヒック・・・ヒック・・・」


ーん?上か?


「モシ?」


「やっぱり違う・・・となると、これは・・・」


ー使われていない廃墟。歴史のある魔道学校(推測)。女性のすすり泣く声・・・




「ゆうれいだ!!!間違いない!」



ーで、でたああ!!!!」



「アニマさん、幽霊ですよ!幽霊!!出たよ、出ちゃったよ?」


(”ユーレイ”ですか?モシ?”それ”はどこに出たのでしょうか?)



「声です、この声!」




「ヒック・・・ヒック・・・」



「ほら!ほらー!!」



(ううん・・・うん?すいません、聞こえませんが?)



ーうわー・・・なにこれ、僕向けのイベントですか?



「と、とにかく、上の方から聴こえてくるので、そうっと出ませんか?」


(”ユーレイ”は危険なものなのですか?)


「そりゃもう、怖いですよ!会ったら最後、何されるかわかりませんからね!!ヒュードロドロですよ?」


(ヒュードロドロ?)



ーそこは別にいいか。ともかくはやくー



(面白そうですね!見てみましょうよ!今なら、ネティマスさんもいるわけですし。)



ーあー相談相手間違えた気がする。



アニマは”どっち、こっちですか?”としきりに訊いてきては1人でも見つけるつもりでいる。方向はまっすぐ上。この講堂の構造上、手前に見える階段を上がればすぐだろう。


ーうーん、この世界の幽霊がどんなものかも気になるし。ってか日本でもあったことないしいっちょ会ってみるか。



「う・・・ん。こっちですね。」



かすかな陽の光に照らされた辺りを見渡すと、ここはやはりホールの様であった。ホールの両サイドには階段があり、その上は直接二階へつながっている。


「ヒ、ヒック!・・・ヒ、ヒック!・・・・」


(こ、ここです。)



ー着いてしまった。近い、どう考えてもこの階段の上にいる。うう、やっぱ止めにしないか?


(アニマさん、やっぱり引き返ー)


(先に行きますね!)


{ギシイィ}



ーちょ!心の準備ぃぃ!!!床の音よ!!!絶対気づかれただろう!!!



「ヒック・・・ヒッ・・・だれです?」


階段を登り、振り返るように二階の室内をみるとそこにはー



「で、出たああああ!!!」


「わあっ!!もしかして・・・・あなた・・・・”ニンゲン”です??」



乳白色に光る幼女がいた。





「うん?幼女じゃないです?」



ーうん?勝手に心読まないでくれる?



自称幼女じゃない白色の幼女は体の隅から隅まで透き通っている。正確に言えば、全体がワンピースに一体化した様なシルエットをしており、長い髪を初めとして手や足、体の外縁部はやや退化したようなおぼろげな輪郭しか見えない。例えるならポケ○ンのム○マを白くした様だ。ただし、顔の輪郭や目の様なものは色の濃淡でかろうじてわかる程度で、ある意味で幽霊のようでもあった。



「むうま?」



「駄目!こら!語りまで読んじゃダメ!しかも伏せ字まで補完しちゃダメ!」




ーなんてこった・・・メタ的すぎる。。。。



(モシ、タイラさん、ユーレイはどこです?)




「どこってほら、目の前に幼女が・・・見えない?」



アニマが明らかに目で捉えられていない。



「です。私はこちらの人には見えませんです。だからー」


幼女がこちらを向きぐぐぐと近寄ってくる。


「ズバリ!そこのあなた、”ニンゲン”です?」



ーなるほど、この幼女はなんらかの事情で地球に所縁があるとみた!”焼かないニラ”の住人には見えないとか?



「焼かないニラじゃないです、ニラヤ・カナイです。それに、私の本体はここに埋まって・・・あ!」



ーわかったぞ!この幼女!ツッコミ役だ!!!



「・・・私の美しい体が・・・美しい体が・・・ヒック・・・ヒック・・・」



ーわわ、また泣き出した。



「そこの”ニンゲン”!早く、早く、本体を探すです!!ヒック・・・お願いです・・・・」



ー上からなんだか丁寧なんだか・・・。ふむ・・・。



「アニマさん、どうも僕にしか見えないみたいです。そんでもって、”本体”があるとかで、ちょっと探すのを手伝ってほしそうにしてます。」


(そう・・・ですか。残念です。でもその”ユーレイ”どんな見た目なんです?)



「そうですね。さながら白色の全身タイツにカツラを被せたみたいな感じですよ」


「(全身タイツ?)」


ーよし、完全にツッコミ要員が補完された!!



「と、ともかく、本体を探すです!!!」




あかりは東側に面した埃だらけの窓からかすかに入るだけであり、足元にはよくわからない紙や布、椅子の残骸が散乱している。だたっ広いだけの場所にも見えるここは一体なんなのだろう?



「演武場・・・です」



ー演武場?がよくわからないけど、ここで魔法の練習でもしたのだろうか?



(タイラさん、どの辺を探せば?)



 僕はまっすぐに幼女の元に向かう、足元には大量の布が落ちており、幼女もここ掘れわんわんというかの様にぐるぐると回ってる。


「早く・・・早くですっ!!」


「アニマさん、この布の下らしいです。」


ー埃っぽいからあんまり触りたくないけど・・・。


僕とアニマは一心不乱に”本体”と思しき、何かを求めて布を拾っては投げ、拾っては投げる。とんでもないかずの布だ。よく見ればなんらかの刺繍があり、制服っぽくも見えた。



ー本体ってどんなん?ってか、ん?なんか臭うよ?



「え、もしかして腐乱死体とかじゃないよね??」


「違うです!その匂いは・・・ヒック・・・・とにかく違うです。私の本体は美しい魔力結晶です・・・」



「結晶?でもこの匂いは・・・動物の・・・おしっー」



僕が脳裏に浮かんだ感想を述べるよりも早く、紫色の幼女はうなだれるように床にへたりと崩れ落ちた。



「ヒック・・・早く・・・早く・・・ヒック・・・洗って・・・」



(モシ、タイラさん!なにか硬いものがこの布の下に・・・・わ!なんか臭い!!)



「え、よく見えませんが・・・うわーとりあえず、なんか臭い・・・。」



「嫌ああああ!! 早く・・・早く・・・」



アニマが指差した布は他の布とは少し色が違い、窓から漏れる陽の光に照らされて黄ばんでいた。恐る恐るーー鼻をつまんでーーめくると、そこには拳ほどの白色の円盤が金具に収まって鎮座していた。匂い付きで。


(これは一種の魔力結晶の様にも見えます。あ、温かいですよほら!)


アニマは果敢にもそれを拾うと僕に手渡してきた。恐る恐る受け取ると、白い円盤は象牙の様でもあり、同心円状に縞模様が入っているのがわかる。そしてなにより特徴的なのは、表面から生える細かな触手のようなもので、耐えず表面をピタピタとさせていることだった。以前にアニマが持っていた黒い毛虫のような結晶といい、どこかグロテスクだった。そして生暖かく、やっぱり臭かった。



「やっと!!やっとです!!!ほら、早く!!!水です!すぐです!!!」


あまりにも幼女が慌てて急かすので僕はその場で水を発生させてその円盤状の結晶をすすいでやった。



「ちゃんと、指で磨くです!ほら!そこの隅も!!です!!!」


ーはいはい。でもこの産毛みたいな触手の感触がちょっと気持ち悪いんだよなあ。。。それに・・・


「なんなのこの匂い?」


「そ、それは・・・」


心なしか先ほどよりも輝きを増した幼女は口ごもりながらどこか部屋の隅を見つめた。何かを伝えたいらしく、そちらのほうに目を向けてみると赤く光る点が2つばかし見えた。


{キュ、キュウ}


「うさぎ?」


「あの毛玉めが、私の体に”粗相”をしたです。この魔導器ともあろうこの私グプタに向かってです!!!」


ーなるほど、おしっ●をかけられて泣いてたってわけか。確かに、動けない地縛霊だと思えば、可哀想・・・かな?


僕はもう一度グプタと名乗る幼女と、ウサギを交互に眺めた。幼女は恨めしそうにウサギを見つめている。さっきまで泣いていたのであろう頰には透明なせいで見づらいが心なしか涙の跡がある。ウサギはといえば、多くの生き物がいるのが不思議なのか、視線が集まったことに警戒しているのか、首をかしげた。



{キュウ?}



「もう、許さないです!!」



誰にだって優しく。

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