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彼女は幸せになれないー巻き込まれ転移男の異世界奇譚ー  作者: 赦す内燃機関
第2章:ニラは焼かないでは食べられない
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第27話:Pax leĝoj

ネティマスとアニマを乗せたドラコ(サジャーロ)は上空で僕の様子を見ながら先行する。ネティマスの話ではこの場所から北西にドラコで10分とのことで、”そんなに遠くない”そうだ。ドラコの飛びやすい空域があるとのことで空に上がっていくと、僕は1人、帽子を目深に被って歩きはじめた。


”空飛ぶサジャーロはホーマの30倍は早い”そうなので歩きでは300分、距離にすれば25km近い距離があることになる。ちなみに離れすぎると念話が届かないことがわかった。ネティマス曰く伝達の距離には意識の同調具合、魔力操作の精度が関係しているそうだ。



ーしかし、上空でアニマとネティマスを2人にしてよかったものか。。。考えてみれば敵同士。それも見かけるなり殺そうとするような恨みのある相手であるし。仮にいがみ合ってないとしても、アニマが他の男性の背に捕まっているのを想像するのは・・・うむ、鼻持ちならない。。。



「敵同士だったものが恋人になるパターンもまた”テンプレみたいなものだしな・・・・ブツブツブツ。」






・・・1時間後。





ーちょっとまって、冷静に考えて雨の中、5時間も歩き続けるのおかしくない?




・・・2時間後。




{バサッ バサッ}



「モシ? タイラさん、大丈夫ですか?」


たまらず地面に横になり空を見つめたまま休憩していいると、気づけば隣には風の魔法で雨を弾いたアニマとネティマスが立っていた。膝は疲労で震えているし、絶えず弱い風で雨をしのぐの集中して魔力を使うせいで気も滅入っている。靴だって中まで泥水でぐちゃぐちゃだ。ヴァルマさんにもらったズボンも台無しである。



「ハァ・・・ハァ・・・おかしい・・・俺1人・・・歩く・・・おかしい・・・休みない・・・おかしい・・・」



「申し訳無いとは思いますが後少しですので。とりあえず回復魔法で疲労を和らげますね。」



ーえ、疲労も回復できんの!?やだ、この世界、思ってたよりもなんでもありだわねッ!?



「SANIGU LACO - (治癒せよ 疲労) - 」



ーうおおおお!なんだこれ!疲労が癒えていくこの感じ!寒い日に湯船につかるような、いやそれどころの話じゃない快感だぜ!!!!ヒャッハー!!これはハマる!!!



「すごい、すごいですよ!これ教えてくださいよ!お願いします!」



「構いませんが、治癒魔法は習得していますか?疲労の回復は治癒魔法の中では欠損の再生と並んで難しいのです。肉体の中の魔力の流れと、生体の構造、疲れの原因が分かってなければ難しいですよ。それに・・・。」



ーあれ、疲労はたしか筋肉に乳酸だったかなんだったか貯まるとか聞いたことあるけど・・・生物の授業さぼったからなあ。。。くう、”テストに出しますとは”言われたけど、ここで響いてくるなんて聞いてないよ。。。



(あ、アニマさんは使えます?)



(いえ、私は目に見える裂傷を繋げる程度しかできません。)



ーぐ、ぐぬぬ・・・仕方ないか・・・。



「とりあえず、ではまた目的地まで。」



ーよっしゃあ!!!疲労ためるぞ!!!!!待ってろ快楽!!!!!




・・・・更に3時間後。




「ハア・・・ハア・・・つ、着いたあ・・・・」



目の前には大きな門がひろがり、それを囲むように鉄と思われる柵があった。門をくぐった先にはアニマも、ネティマスも、サジャーロもすでに待っており、遅れてやって来た僕を見つめている。よく見れば、サジャーロの口にはイノシシのような獣が咥えられている。どうやら今夜の晩御飯のようだ。



ーってか全然、あと少しじゃなかった・・・・。


内心で愚痴をそこで僕は門に書かれている文字に目を奪われた。


ーあれ、この門の文字ってここの言葉か?なんだ、こっちの言葉もアルファベットかよ!やはり転移者が文化を作ったというのは本当っぽいな。うーんこれって、解釈できるんのかな?まあ解釈するまでもなくこれは明らかにあれだろ、異世界といえば王道の、王道の・・・・



「魔法アカデミー!!!」



書かれていた文字は”Sennacieca Academia Magia”と読むことができ、解釈は僕の脳内に「非国家魔導研究中心」というやや堅苦しい訳語を想像させた。唯一期待と違うのはそこが明らかに廃墟であることくらいだった。


ーうん、だいたい正解!!!




・・・




{コトコト}


「それは初耳です。つまりアライテルは地球からの"転生者"なわけですね。」


{コトコト}



「なるほど、ネティマスさんの話をまとめると、ディアブルというのは角をもつ種族の総称で、ホーマとは違い部族単位でしか集落を持たず、国はないと?」


ネティマスはアライテルや地球のことを知りたがり、僕はこの世界のことを知りたがったので、お互いに積もる話が多かった。場所はといえばもちろん、旧魔法アカデミーの一角で、比較的崩れていない建物の1つ、大きめのホールのような建物にドラコ共々入った。


ちなみに”タイラ殿への疲労回復は通常よりも大量の魔力が必要で、もう魔力が残ってない”とのことで僕は快楽を手に入れられなかった。


ーFuck !!それを先に言ってくれればこんなに頑張らなかったのに。。。



 今はといえば、いつのまにかサジャーロに狩られていた小型のイノシシの肉を、アニマがダガーで切って、ネティマスが土魔法で作った鍋で煮ているところだ。


この全員の集大成ともいえる食事への僕の貢献といえば、火の魔法を使い続けるのは効率が悪いとのことで、辺りの木製の椅子を壊して火に焼べたことだろう。


味付けにはネティマスが持っていたバジルに似た苦味の強い葉っぱと、黄色の岩塩ーー見た目はどうみても体に悪い鉱物にしかみえなかったーーを削ってかけただけの、かなりのシンプルさである。意外なことにパンは半分程が無事で、可食部をもぎ取り分け合うと全てなくなった。


ーそれにしても、さっき捌いていた獣・・・えげつない血の量だったなあ。アニマのローブに耐水効果がなければ、すっかり真っ赤に染まって落ちなくなっていたくらいの鮮血だ。あいかわらずアニマの肝の座り方に恐ろしくなる。



「あ、そろそろ食べられそうですよ。」



ここでもネティマスの土魔法頼みで、器とフォークを作成してもらった。大きな土製の鍋から全員分を取り分けるとあまった分はすべてサジャーロに回しみんなで食事をとった。



ーやっぱり土魔法最強だこれ・・・。どうして最初に気付かなったのだろう・・・!僕の目指すべき方向性は何不自由ない、異世界ほのぼのライフに違いないと言うのに!!!



「はふー、腹減ったなあ!いただきます!」


{パクッ}


「え。」


{ズズッ}


「ちょっとまって。」


{クンクン}



「この料理・・・。」



{パクッ}



「うえ、やっぱり、まずい!」


ーちょっと、ちょっとまってよ。ここまでの流れ普通、絶対うまいやつだったよね。『協力して作るご飯』『未知の魔物』『激戦の後の戦士の休息』。ここまでフラグ立てて置いて、え、なんなのこの中途半端なまずさ!食べれないほどじゃないけど、空腹という最高の調味料を引いたら食欲失せるレベルでまずいよ。肉自体の獣臭さが尋常じゃないし、旨味を打ち消す強烈なエグミ。あんたらよく食べれるな。



(・・・アニマさん・・・これ美味しいですか?)



(これは・・・普通でしょうか。モシ?食べないのでしたらいただきたいです)



僕は肉の塊を1つーーアニマが切った塊は僕の拳より大きかったーー頬張ると残りをアニマにあげてしまった。


ーうん、アニマはよく食べる子。


僕が口の中の肉を素早く噛んで飲み込むんでいる間、他の2人はといえば無言で淡々と食べていた。ドラコであるサジャーロに至っては、器用に器を手に持ってスープを飲み干すところですらあった。食べ終わるなり、ネティマスは器を元の土に戻し、後には獣臭い香りだけが残された。



ーなんて・・・なんて便利なんだ土魔法!!!



土魔法を見よう見まねで行ってみたが、ただ土が若干動いたり固まるだけで。丈夫な物体を形作ることはできなかった。空気中の水分を凝集して、土と一緒に泥団子を作ることくらいが限度だ。


「そ、それで、ネティマスさん、土魔法の使い方・・・じゃなかった、ディアブルとホーマの話の続きを聞かせてもらってもいいですか?」


「ええ、ではまずこの世界のこの大陸についてから。」



ネティマスは先ほど器から戻した土を薄く広げ、そこに、いびつな蝶ネクタイ型を書いた。それも風魔法で。



「このようにこの大陸には中央に山脈があり西側ではホーマが、東側にはディアブルと"サティルーソ"、および獣が多く分布しています。」



「サティルーソ?」


「ああ、失礼。チキウにはいないのですか。獣とディアブル、あるいは獣とホーマを合わせたような外見の種族のことです。」



ー平たく言えば獣人のことか!



「わかりました、続けてください。」



「すなわち、この大陸はホーマの住む西半分とそれ以外の種族が住む右半分に分かれているのです。今のところはですが。」


「今のところ?」


「そもそも、300年前”夢を見る男”が現れる以前には、ホーマとディアブルに大きな違いはありませんでした。いずれの種族もー」



ーこっちの1年て何日だっけ?1日はだいたい24時間というかんじがするけれど。こっそりアニマに訊いてみるか。


「ー小さな集落をつくり、それぞれに縄張りをもっていたのです。そして互いに干渉することは最小限にし、大陸の西側にもホーマ以外の種族がたくさんいました。しかし”夢を見る者”が現れ魔法や道具が発展するとー」


(アニマさん、この世界の1年て何日です?)


(600日ですよ。これを”ワンユェ歴”と呼ぶそうです。)


「ー”国”をつくり領土を拡大していきました。平地と豊かな土壌の多い西半分はほとんどがホーマの領土となりましたが、その一方でホーマは他の種族を嫌い私達は排斥されていったのです。そうして山脈の向こう側、環境の厳しい東側には身体能力の高い種族、ディアブルや、サティルーソ (獣人)、大型の獣などが移り住み現在のような分布になっているのです。特に今から100年前、ワンユェ200年に起きた”ホーマ解放戦争”はホーマ以外のほぼ全ての種族が山の向こうに追いやられ、同時に多数の死者ー」


ー”ホーマ解放戦争”か・・・。いかにも人間がつけそうな名前だ。。。この世界のホーマもやはり人間と同じようにずる賢く、強欲と見たり・・・はあ・・・なんか申し訳なくなるな。



(アニマさん、ディアブルとホーマってそんなに能力が違うんですか?)



(うーん、そうですね。ホーマは学習によって多種多様な魔法が得られる一方で、ディアブルの魔力や身体能力は民族毎に得手不得手があると聴いたことがあります。)



「ーそうして、絶滅した種族もありますが、ひとまずホーマ側から停戦が宣言されました。その最終決戦の地が”沈黙の平原”、私たちが最初に会ったあの平原です。それから100年近くの間、ホーマが東側の領土に干渉してくることはありませんでしたがー」



「アライテルが現れたと。」


「そうです。」



アニマの顔は先ほどとなんら変わらない。心のうちで何を思っているのかが気になるばかりだ。



「アライテルは私達にとって最も恐ろしい脅威です。これまでにもホーマによってディアブルやサティルーソが攫われることは度々ありましたが、アライテルは奪うだけにとどまらず、集落を丸ごと殺戮して廻っています。それも戯れに・・・。私達はこれに対抗するため協力しています。」


「”私達”というのは?」


「一部のディアブルとサティルーソ、そして知性の高い獣たちです。」


ーアライテルがカラコール国の兵士200万人を消滅させたというヴァルマさんの話も合わせると、これはアライテル対全種族の戦いなのか?



「Netimas.」



ーアニマが他の人に話しかけるなんて珍しい。僕に対する念話でない以上、ニュアンスはつかみきれないがひとまず、<解釈>。



「主は苦しむ者を救わねばならないと言った。救われた者はいないのか。」



「ふざけたことを言う。苦しみを生んでいるのはアライテルだ」



ーやっぱり2人とも解釈では荒っぽく聞こえるな。もしかしたら、あるいはこちらが本心なのかもしれないけれども。



アニマは焚き火を眺めたまま、何かを考えているようだった。



(アニマさん・・・)




{・・・}



それからしばらく無言の時間が続いた。僕は疲労のせいもあり、頭が回らなかったこともあるかもしれない。いや、疲労のせいにしたかった。そんな長い沈黙を最初に破ったのはネティマスだった。



「タイラ殿、改めて私はあなたにお願いしたい。これまでアライテルの敵となりうる者はいませんでした。どうかあなたに協力していただきたい。直接に勝負せずとも、弱点を明らかにしてほしいのです。お願いできませんか?」



「ええ・・・先ほどもいいましたが、協力しますよ。」



ーそう、道は決まった。



「明日の朝、私たちは一度、里に戻ります。タイラさんとは情報を取り続けたい。この腕輪をどうぞ。」



渡された腕輪は一見するとただの岩で掘られた様な灰色の無骨なものだった。僕の腕に通すと、見た目よりはずっと軽かった。


「これは?」


「”唯温の岩”と呼ばれる岩がありまして、1つの岩から作ったものはいくら離れていても互いに同じ温度を保つのです。つまり、緊急の際にはこの腕輪を加熱すれば、私のもつ腕輪にも熱が伝わるというわけです。」



ー熱が遠距離にまで伝搬する??なんじゃそれ、聞いたことないぞ??なんか電磁波でも出してるのか?



「ね、熱がですか?」



「火魔法は使えますか?使えないのでしたら、例えばこの火にこうして近づければ・・・・」



サティルーソはさも当然のように自分の腕にはめた腕輪を火に近づける。



「え、ほんとだ。僕のもあったかく・・・あつ!!!熱いです!!離して!!火傷する!!!離して!はやく!お願い!!」



「というわけです。」



ーこれめっちゃ危険じゃないか?寝てる間に腕が燃えたりしてたらどうしよ。。。



「というわけですか・・・と、とりあえずわかりました。なにかあったら、そうします。しかし場所はわかるのですか?」



「ホーマ領にあまり踏み入るのは良くないですが、幸いにして、境界からアライテル宮の周辺までは比較的問題なく動けます。タイラ殿の位置はサジャーロの武法で、半径10km以内なら捜し当てられるでしょう。」



「前から知りたかったのですが、その武法というのは?」



「魔法と並んで区別される魔力の操作に武法というものがあります。これらをまとめて魔導といいますが、武法は主に魔力を身体の一部に作用させることで、身体能力をあげたり、武術にする方法を指します。サジャーロのもつ狩の武法は嗅覚や、視覚、聴覚の向上が可能です。あるいは、一人一人の魔素の性質を見抜くことができますね。」



「うわわ、いろいろ教えてくれて嬉しいのですが情報が多くて。。。最後の魔素というのは?」



「そうですね。この世界での物質の性質は魔素とよばれるものが決めていると考えられています。すなわち石には石の、土には土の、そして人には人の。魔素は魔力を媒介に物質を形作るものであり、それを見分ければいろんな情報が得られます。例えば・・・そうですね。サジャーロがいうには、タイラ殿、あなたの”魔素”はどれも実に重たく湿っているとのことでした。」



「そ、そうですか。」



ー魔素というのは、地球で言うところの元素みたいなものなのだろうか?少し、違う様にも思えるが。。。



「ともかく今日はこの辺で寝ましょう。」



あたりはすでに完全な夜、雨は未だ降り続いている。建物の隙間から覗く空は雲のせいで星も見えず、どこまでも広がる闇が一層僕を心細くさせた。ネティマスがこちらに目配せをしドラコとともにホールの奥に消えていった。僕とアニマの2人は焚き火を囲んで、無言のまま過ごした。僕が沈黙に耐えきれずどうにかみつけた糸口は・・・・アニマの髪を洗うことだった。



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