第25話:一陣の風のその吹き荒び
(あなた方はどこまでも不可解です。)
ーえ、ねんわ通じてる?ってか、印象違うな・・・貴公子タイプかよ・・・。
(え??伝わってる?いつから?)
(”お兄さん”と呼ばれたのは初めてです。)
ーてめえ、それ最初からじゃねえか!!じゃあ、言えよ!!!なんなのディアブル達ーーアニマ含ーー。マイペースさんなの?
(・・・僕はタイラです。争うのはやめて話しませんか?僕はチュビヒゲも探したい。)
(チュビヒゲ・・・あのドラケトのことですか? それについては申し訳なく思います。結果的にでも”殺す”つもりはありませんでしたので。)
ー死んだ・・・のか。ほんとに・・・。
(生きてる可能性は?)
(風の爆発は危機に瀕したドラケトが自らを魔力に変換して起こすものです。。それに。すでに存在を感知できなくなってます。ですから・・・。)
ーチュビヒゲが・・・僕を救ってくれたのか。。。
(・・・そう・・・。)
僕の中で漠然とした寂しさが駆け抜けるのを感じた。ほんの少しの間だからこそ、あの触覚のこそばゆさ、背中のやわい体毛、首をかしげる所作、その1つ1つが鮮明に思い出される。
ーチュビヒゲ・・・そうか・・・お前は本当に機転のきくいい奴だったよ。こんな冴えない臆病者の為に、ううう・・・墓は作ってやるからな・・・。それともお前は復習を望むのか?ごめんよ、僕には・・・
「・・・できそうにないよ。」
(私は"ネティマス"。1つお訊きします。あなたは少々この世界の理から外れすぎています。ドラケトにこんな力があるというのも、他者を庇うのも初耳です。あなたは何もの・・・。いえ・・・。)
(あなたは”チキウ”から来たのではないですか?)
ーん?ん・・・チキウ・・・地球か。早速、身元バレしている。ちょっとセオリーから外れてないか?
(失礼”チキュウ”・・・それは・・・どういう意味で・・・。)
(魔法もディアブルも存在しない世界のことです。)
ー・・・ゴクッ。
(この世界に魔法と文明を齎したのはチキウからの転移者でした。あなたももそうなのですか?)
ー/#知らない情報・・・はあ、はあ・・・不安に駆られてハッシュタグをつけてしまった。これはつまり、この世界には他にも地球から来た人間がいるどころか、”魔法と文明”を”齎した”のは地球人だってことなのか?
(それが何か大事なこと・・・なのか?)
黒い男、ネティマスは暫く黙ってこちらを見つめ、アニマとドラコをそれぞれ見渡すとよろよろと立ち上がった。
ーやはり、良くないことだったくさい・・・。あ、ネティマスが口を開いた。詠唱か?
「タイラ殿、あなたに1つお願いがあります。聞いていただけないでしょうか?」
ネティマスはわざわざ声に出しながら念話を送ってきた。僕の考えがこの世界の認識とずれていなければ、これはおそらく誠意の表れに違いない。
「え?僕にですか?えーと、ひとまず敵対しないでいただけるのなら考えます。」
ネティマスはゆっくりと、手のひらを目の前で合わせ、それから指をくっつけたまま、手のひらを開くと鼻を覆うように顔に近づけた。それはさながら目を見てくれという意思表示のようであり、あるいは祈りのようであり、ゲンドウポーズにも見えた。雨が目に入るのも厭わず彼の目がまっすぐにこちらを見つめている。
「私たちとともにアライテルを殺していただけませんか?」
彼がその言葉をいい終わると同時にお辞儀をするのとまったく同じタイミング、未だ横になったままのアニマが初めてピクリと動いた。