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彼女は幸せになれないー巻き込まれ転移男の異世界奇譚ー  作者: 赦す内燃機関
第2章:ニラは焼かないでは食べられない
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第24話:争いは何も生まないと人は言うけれど


「・・・えっと・・・・あ、そういう展開ね。」


 僕は徐ろに矢を拾い上げて手に持った。地球で見るのとは違い、矢の先から後ろまでとても軽いーー僕だからかもしれないがーー土のようなものを固めて作られている。全体が螺旋状にねじれており後ろへと広がっているのも面白い。もしかしたら、回転させながら射出する機構があるのかもしれない。


ーっとか言ってる場合じゃない。敵は!


 強風がさると、あたりは先ほどまで同様に静けさを取り戻した。黒い男はドラコを降り、こちらに向かってきている。後ろにはアニマが僕の肩を支えるさるように握ってくれていた。チュビヒゲはというと・・・。


「つぶれる つぶれる !」


お尻に潰される間一髪のところで脱出したらしく、頭の上で抗議している。


(タイラ・・・?矢に当たった?)


「あ、いや、かすったというか、弾いたというかなんというか・・・ハハハ・・・大丈夫です。それよりも前の!」


アニマがすでに懐からダガーを取り出している。あくまでも抗戦するつもりなのだろう。


「男のお前、ホーマと違う。アライテルの手下か?敵対するなるなら見逃しておけない。」



ーいやいやいや、最初から殺す気で来てませんでした!?・・・ふう、ふう、おちつけ、ここはあくまでも友好的に・・・。両手をあげて・・・。


「ちょっとまってくださいよ!話せばわかるって昔の人もー」


「く、貴様!ーDISTRU (気を散らせ)ー」



手を挙げたほんの一瞬だった。黒い男は右手をこちらにかざして、魔法を詠唱した。一瞬にして視界が揺らぎ、目の前が歪む。僕は何が起きたがわからぬまま、慌てて後ろを振り返るとアニマが驚いた顔をしている。


ーはっ!!何があった?


「長い詠唱、高位魔法の構え、敵対の意思ありと見る!」


ーへ?あ、なに、この両手上げるのが却って逆効果だった感じ?言われてみれば、確かに魔法詠唱っぽくないこともないけど・・・ってか、そうか言葉が通じてないからか。


黒い男はすでに弓を構え、矢を腰に下げた袋の中に見える土から錬成した。


ーなるほど、これなら運びやすい!


「感動している場合じゃない。くそ、意思よ共鳴せよ!聞こえるか!?そこのお兄さん!!」


{ビュッ!}


矢が、頬を通り過ぎる。当たらなかったのは、とっさにアニマが背中をひいてくれたからだ。


(タイラ!!反撃しないと死ぬ!!)


「わかってる!わかってるけど、くそ、こいつ!聞こえてないのか!?くそ!何が違う!・・・と、とにかくアニマさん、僕らは敵じゃないと伝えてくれ!!」


アニマは彼に向き直って、警戒をおこたらぬままに話しかけた。僕は解釈で会話を聞く。最初に口を開いたのはアニマだった。


「なぜ我らを狙う?」


黒い男はドラコに何やら目配せをし空へと飛ばせた。


「お前らアライテル教は、我々ディアブルを襲う。大事なものを盗み殺す。俺は憎い。我々は許さない。お前たちが現れた時、上空の魔力の流れが変だった。明らかな危険。見過ごすわけには、いかぬ!」


アニマは妄信的な信徒としてかはたまた主導権をとるためか、喰い下がった。


「アライテル様の御心は誰にもわからない。きっと理由がある。だけれども、この男は関係ない。この男は故郷に帰る方法を知りたいだけ。アライテル様ならわかる。」


ーあーうん。まあ、正直まだ迷ってるんだけどね。帰るのかどうかとかそもそも、アライテルに会うのかどうか。でも、アニマはそれを気にかけてくれているのか。


「しかしその男、お前を庇いだてする。ならば・・・敵だ!」


ーう、くそ、やっぱりこいつと直に話したい・・・。イメージして、イメージして・・・


(意思よ共鳴せよ!)


「・・・」


(どうですか、お兄・・・さん?おーい!!)


黒い男はピクリともせず、アニマに向かって今まさに弓を構えんとしている。



ーくそ!!デカい角しているんだからアンテナくらいになるだろうが!俺の脳波と共振せんかい!!!



弓を構え終わると同時に、アニマはとっさに構えて後ろに下がった。遠距離攻撃を持たない僕らにはこの状況は不利だ。何とかしないと・・・



(このデクノボー、鈍感、分からず屋!!)



「アニマさん僕が近づいて拘束します。どんな魔法でもいいので、あの矢を散らせませんか?」


僕とアニマは標的になるまいと左右に分かれながら会話した。


(風の魔法で視界を封じます!)



ーなるほど!さすがアニマさんだ。この隙に・・・走り寄る!



アニマが黒い男を中心に風を巻きを雨粒が乱暴にぶつかる。風向きを制御して、黒い男の視界は完全に遮られているように見える。



「ナイスです!これならー」


「甘い。」



黒い男が何かを口にすると同時に、風が上から下に吹いた。一瞬のうちに黒い男を中心に風が雨粒を散らす。風に乗った雨が、却ってアニマと僕を妨害した。



{ビュオオオ}



ーだが、あと5mもない!このまま突進する!本気の体当たりでなら。少しは大人しくなるか?



(戦うつもりはないってば!)



相変わらず、黒い男はこちらに見向きもしない。



(はあ・・・。 コノオオオ、分からず屋ぁぁぁ!)



黒い男はとっさに右手を僕に向けて詠唱する。


「"それ"を受けるのは、得策じゃない。- DISTRU!(気を散らせ) -」


{グワン}


ーくっ・・・!これはさっきのやつより強力じゃ・・・う・・・とんでもなく眠い時みたいに、焦点がズレてく・・・う・・・。・・・だが!これくらいなら、相手にむかって近づけないことはない。



多少の減速をしつつ、僕は片目をつぶって手を頭の前で交差し、衝撃と矢に備えながら進んだ。黒い男は弓を構え直すのに時間がかかりバックステップで後退する。弓をひく手に力が入るのが見える。


(ヤッ!)


アニマが手に持っていたダガーを投げた。いかにもへなちょこな軌道ではあるが、土壇場の集中力はすごい。男の顔面に向かうダガーに対し、男はとっさに体を捩ってかわす。弓を打つのが一拍遅れ、僕は肉薄した。


ーあと、数歩!! 数歩で手がとどく!!


「甘い。」


{ビュオオオオオ}


ー風の音??


「上 ! 上 !」


ーえ、チュビヒゲ?・・・・上?


{ビュオオオオオオ!!!}


見上げるその瞬間に視界の端でドラコの影が視界を覆う。ドラコが急降下しながら爪を広げて首元に迫る。明らかにその軌道は自分が黒い男に迫るより早く自分の命を刈り取ることを予想させた。



ーまずっ!!!!風と雨で姿が眩んで気づかなかった。。。まさか、最初からこれが?


「タイラ!!!」


「や、やばい・・・。やばいっって!!!」


ー死ぬ、死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬしー


「チュイ!」


僕が上を見上げたまま思考を止めたその瞬間、チュビヒゲが声をあげた。僕の後方で宙に浮いていたチュビヒゲがすごい速度で近づいてくる。そしてドラコの爪が眼前に広がるその刹那に、落ち葉に見紛う小さい何かが間に割って入った。


{ブワァッ}


僕とドラコの間におきたすさまじい風は、熱を伴わない爆発そのものだった。


ーう、う、う、うぐ・・・うぐ・・・うげええええ・・・。なん・・・だ・・・。


 僕の体が何回転もしながらとばされた。耳が完全に遠くなってしまっている。砂にまみれた目を必死で払い、すぐに辺りを見回すと黒い男とアニマが10m以上も遠くに倒れている。敵の持っていた弓や装備の一部が散らばっているのが見えた。奥に見える黒いのは・・・



ーあ、アニマにあげた僕のメガネか。。。


「ハッ!チュビヒゲは!?・・・いない? チュビヒゲ?・・・チュビヒゲ!?」


ドラコはすぐ近くの木の枝の中に押し込められたように閉じ込められている。しかしいくら見渡しても、チュビヒゲの姿は見えない。


ーまさか・・・自爆した?チュビヒゲの・・・自己犠牲?ど、どうして??まさか・・・そもそも、”動物”にそんなことが可能なのか?



 チュビヒゲの自己犠牲を前にしても、僕の心は至って冷静だった。あるいはそれは大事なものを失う時の常であるように、その時にははっきりと認識できないものであるのかもしれない。心の中の少なからぬ領域で、僕はチュビヒゲの存命を期待していた。



「まったく最悪だ・・・。明らかにレベルの高い敵、味方はすぐに減ってしまう、うまく意思が疎通しないし、この世界も、あんたらも、このプロット(あらすじ)も、最悪だよ・・・。」



その瞬間、うつぶせに倒れていた黒い男が首だけを動かしてこちらを向いた。



チュビヒゲえええええ

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