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彼女は幸せになれないー巻き込まれ転移男の異世界奇譚ー  作者: 赦す内燃機関
第2章:ニラは焼かないでは食べられない
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第19話:寂しがり屋

 村で毛皮を売る準備と親戚に挨拶に行く準備を終えたベラローゾさんが、家の前で僕らを待っていた。僕もアニマも長居するつもりはないので、これに便乗し村の近くまで歩いて向かうことにした。ヴァルマさんは倉庫のようなところから、魔道士用の黒いつば広帽子を引っ張ってくると僕にかぶせる。自分で言うのもなんだが、とてもよく似合っている。それに顔が隠れて、周りからも目だなくなったと思う。と同時に僕は荷物持ち係だ。一見するととてつもなく重そうに見える大きなリュックだが、僕にはすこぶる軽い。


ーそう。地球育ちは物理的(フィジカル)に違うのだ。



「ありがとう 助かる 」



ベラローゾは僕が軽々と持ち上げるのをみて心底びっくりしていた。確かに、自分よりも筋肉もないひょろっこい男が軽々と持つのは納得いかないのだろう。



「一宿一飯・・・(2飯か)、のお礼です。」




ヴァルマさんがそれを聞いて、翻訳する。ベラローゾさんもまんざらでもない表情だ。


 ススーリはときどき、僕の腕をうんていがわりにしてぶらぶらして遊ぶ。すっかりはまってしまって、度々せがんで来るものの、1kgにも満たない程度の体重とはいえ小一時間も続けた頃には、さすがに腕がぷるぷるとして来た。実を言えば昨日アニマを運んだ筋肉痛も治っていない。



・・・



僕は道中、簡単にこちらの言語についても教えてもらった。




「・・・ようするに語尾をみれば主語をあらわしているのか、動詞なのか、目的なのか、はたまた修飾語なのか、わかるってわけさ。あとは、過去とか未来をさすのでも語尾が違うな。」




(な、なるほどぅ。。もしかしたら、いつかは話せるかも知れないですね。)



村につくまでに、いくつかの単語を口に出してもらいながら、”語尾”や動詞の形を教えてもらった。英語という外国語を習った経験がこう言う時に役に立つのを感じる。日本語は自然とわかってしまうが、外国語は文法や意味を対応させて理解するのが難しい。言いたい言葉が先に日本語ででてきてしまうために、”翻訳”が難しいのだと知った。最初から知らない概念なら、悩むこともなく覚えるだけでよかったはずだ。



「ススーリも一緒に聞け。」




ーあれ?いま、ベラローゾさんの言葉の”解釈”が普通の文になっていたような?



「名刺の就職なら-aでおわる、目的なら-oでおわる。命令なら、-uでおわるんだ。どうだ?」




「うー・・・お父さんの説明は難しい。単語がわかりづらい!」




ーやっぱり!!



言語について多少ならず理解したからか、言葉がより自然に”解釈”できるようになっている。このことは大きい変化だ。たぶん丁寧語とかニュアンスは完全に理解できていないのだろうけれど、おかげでだいぶ意味がわかるようになった。




そうこうしているうちに気づけば山道の遠く10 kmほど先にひらけた平野があり、その中心部に周囲を木の柵で囲った集落が見えてきた。家の数は100戸ほどだろうか。村と言っても、一つ一つの家は丈夫そうな木で作られたものであったり、きちんとした岩造りのものであったりが点在し、現代の日本にあってもみすぼらしさを感じさせないものであった。



ー忘れないうちにお礼を言っておかないとな。



「あれが村ですね!ヴァルマさん、ベレローゾさんも!本当に色々とありがとうございました!!」



「私からも・・・ありがとう。」



アニマが淡白に感謝を述べているが、これは”解釈の限界かも知れない”。アニマが僕に伝える意思がないと、精神魔法のテレパシーは聞こえてこないのだ。



僕は頭を下げた。



「これが僕の国のやり方です。」



見慣れない感謝の姿にヴァルマさんも興味深そうな顔をして、それから満足げに笑った。できればいつかまた2人で訪れてちゃんとお礼がしたい。



「気をつけろよ若い2人。まあ、でもなんだ?恋は盲目だがそれも悪いものじゃない。俺もベラローゾが村を出ると言った時に後先も考えずついて来たたちでね。・・・今はとても満足してるよ。」



「ヴァルマは良い人。私も幸せでいる。」



「ススーリも!」


三人が肩を寄せ合って笑う姿は僕の目にも確かに幸せそうに見えた。ここには日本のようにたくさんのモノはないが、それ故か洗練された暮らしは豊かさを象徴するかのようだった。そして僕はアニマを見た。



(私にも幸せそうに見えます。)



「ええ、とても幸せそうです!できればまたきたいですね。」



沈黙の広葉樹林の林の中、獣道をたどり周囲に比較的何もない場所で、僕とアニマは穏やかに笑った。


ーそういえば、鳥の鳴き声ひとつ聞こえないな・・・。。



「チュビ! チュビ!」


僕がしみじみしているその時、頭の上にいたチュビヒゲが慌ただしく飛んだ。




「獣 ! 獣! とても近い !!」



ーえっと今?・・・本当にタイミング悪いやつ!!




「みなさん! 怪物・・・ええっとー」




「タルパウルサ!」



アニマが食い気味で答える。



「タルパウルサが近くにいるみたいです!」



ヴァルマさんとベラローゾさんがお互いに目を合わせる。そして送る視線の先には・・・ススーリ。



「「こんな時に!!」」



・・・



ベラローゾさんはすぐさま背中に差していた猟銃そっくりの赤い銃身の銃を手に持ち、筒の途中に灰色の結晶がはまった箱をくっつけた。この世界の銃は金属の球を魔法で銃身に充填し、引き金を引くと小規模な爆発の魔法によって鉄の球が飛ぶ仕様になっているようだ。ヴァルマさんはススーリを左手で抱えて、右手に杖を持っている。



{サァアァ}




張り詰めた空気の中、風が吹き木の葉が揺れる音だけが響いた。かすかに地面の揺れを感じる。静寂を最初に破ったのはヴァルマさんだった。



「この感じ、数秒後に来る!」




ーヴァルマさんは「危険察知」の能力持ちだった!



次に声を発したのはベラローゾさんだった。



「下!!」



僕らは一斉に飛ぶように散開した。獣道の両側にある木の幹に寄りかかるように。皆が散り散りになるのとほぼ同時に、それまでいた地面から黒い針がまっすぐに生えた。否、タルパウルサの爪が姿を現したのだ。僕がヴァルマさんを見つめると、杖を持った右手で中指・薬指・小指を立てて僕に動かないように指示した。



「グルアアァァァ!!!!」


砂けむりと同時に、タルパウルサが姿を現した。砂煙に意識が言ってしまい、僕は一瞬何が起きたかわからず気が動転してしまう。以前に見たのと同じ触手持ちだ。



(触手持ちだと!!??そしてこの大きさはまずい。まずいよタイラくん!)



ヴァルマはテレパシーですら明らかに驚いているのがわかるが、一番驚いているのはベラローゾさんだった。銃を構えたまま、ヴァルマの前まで移動した。



「山の主。手を出せば危険だ!タイラとアニマは村まで逃げろ!ヴァルマ!ススーリをタイラに!!」



ヴァルマは音も立てずに僕のところに通ってくると、すがりつくススーリを強引に引き渡した。



(タイラくん!!わかるな?)



ーえ、これは・・・これはフラグっていうんだぞ?ヴァルマさんたちが完全に死ぬ展開だ!駄目だって!それはダメだ!まだ、まだ僕には、子どもを持つのは早いって!!!



(ちょ、まってくださいよ!)



(それはできない!!僕等のためでもある!わかるな?な!!早く!!!)



 土煙がはれて、足元だけが埃っぽくなった視界の中、ベラローゾさんはまっすぐにタルパウルサの心臓に狙いを定めている。触手は何かを察したかのように、全身を覆うように展開されている。タルパウルサが銃を一瞥したのち、あたりを見回すと、僕を見つけて体を向けた。



ーえ、俺???やっぱり俺を恨んでいるのか???



タルパウルサがまっすぐに僕の目を見つめている。威圧的とも唸ってみろ!次こそは”解釈”してやる!



「お前! 強い! 私 認める! 仲間!」



ー・・・え?どういうこと?




「言葉 ない 通じる! 故に 触れる 互いに ! 」



山の主と呼ばれたタルパウルサはゆっくりと四足歩行で、僕をめがけて歩いてきた。ヴァルマがとっさに杖を構えた。



(タイラくん、早く逃げるんだ!!僕とベラローゾで止める!!)



「ヴァルマは目と触手を!私は立った隙に心臓を狙う!!」



ー・・・あ、いやちがうなあ。”止める”のはあなたたちの方だ!



「あ!ちょっと待ってください!!この”クマ”は僕の知り合いです!!」



(いいから早・・・え?誰が知り合いだって?)



ベラローゾさんが精神を研ぎ澄ましているのに対し、ヴァルマさんはあっけにとられた表情の中に、困惑の色がありありと見える。



「クマじゃなかった、タルパウルサです!タルパウルサに挨拶するだけなんでちょっとお待ちを!!」



 僕は怯えるススーリを再びヴァルマの腕にしがみつかせる。アニマは手にナイフを持ちつつもどこか、落ち着いた様子だ。残るベラローゾは僕らの会話がわからないこともあり、明らかに苛立った様子だ。そして、ヴァルマさんはー


(タイラくん・・・僕は君が何を言っているか全然わからないよ。)



気が動転して杖を僕に向けた。


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