第10話:獣の気配
ラブ的展開だとちょっと長めになってしまうサガ。
そして、アニマの着替えとチュビヒゲの紹介を終えると、僕らはまた歩き出した。彼女は最初こそトボトボしていたが、すぐにいつも通りに戻った。僕の服と毛布は僕が受け取った。なんでも、空間魔法が使えなくなったので、一度召喚すると戻せないらしいのだ。な〜に、もてばいいのだ。地球人には普通のことである。
僕は歩きながら昨晩のことをかいつまんで話しーーどうやって襲ってきた連中を撃退したかははぐらかしつつも”交渉した”とうそぶいたーー、それから今日おおよそどれくらいを歩いたかを説明した。体感では昨日、転移してからも含めて計50kmくらいは歩いたものと思う。地味にすごい気がして来た。
「こっちの人って、みんな特殊な能力とか加護をもっているものなのですか?例えば現象に干渉したり、使える魔法を表示したり。」
(能力自体は持っている人とそうでない人がいますよ。・・・”現象に干渉”する能力ですか?似た様な能力なら聞いたことがあります。たしか・・・ディアブルの一種に周辺の魔法や物理法則を操作できる種族がいたと記憶しています。主様が興味を示し実験サンプル用に乱獲して、いまでは野生種は絶滅したと笑っていましたが。)
ーう、うん。ま、まあ固有スキルじゃなくても、強いわけだし、ね?満足してるよ?ほんと、ほんとだからね?それよりアライの鬼畜ぶり、歪みねえな。ってか勢いでこっちに来ちゃったけど俺大丈夫かなあ?
(あ、魔力量と使える魔法の表示なら特殊な魔法陣で表示できますよ?ただし、魔法陣から出力される信号を解読できていないものもあって、完璧とはいえません。主様が、魔法を習得するのと感覚の発達するのは同じだと言っていましたから、感覚器官の発達具合を認識してるのではないでしょうか?ただし、それはあくまでも本来の魔力の流れに名前をつけているだけですので、分類できない魔法が数多くあると聞いています。)
「へえ、やっぱりステータスを見たりできるんですね。」
(ええ、大きな街にならあるはずです。より簡易的なタイプはこのメガネのような形のもの・・・)
突然アニマが立ち止まった。
(モシ!?メガネがない!?視界が・・・ぼやけると思っていましたが・・・ど、どうしよう・・・。)
ーあ、忘れていた。
僕は自分が周りを探しておけば・・・という罪悪感から、ぼくは大げさに慌てたふりをした。
「あ、ああ、そういえばメガネないですねっ!?」
(どうしましょう・・・あれがなければうまく見えませんし・・・。)
「あ、よかったらこれとかどうです???ちょっと汚れちゃってますけど。僕にはいらなくなったみたいで。。。」
僕はポケットから自分の黒ぶちのメガネを取り出した。よくみると片方のレンズが外れてる。
ーあ、ポケットの中に落ちてる。
手でレンズをはめ込むと汚れを確かめて、アニマに差し出した。
(いいんですか?要らないというのがよくわかりませんが・・・。)
アニマはほんの少し遠慮してからメガネを受け取ると、すぐに目にかけた。度数は近かったはずだ。
(モシ!ぴったりですね!ありがたく使わせていただきます!)
ープラスチック製だし、よもやあげても惜しくあるまい。
(モシ?)
アニマがそれまでの1mほど離れた距離からそっと近づいて来た。
心なしかほっぺが赤く見える。
(なにからなにまでありがとうございます。)
「いや、まあ、したくないことはしてないつもりです。」
「好意 ?」
ーあ、うん、チュビヒゲはすこし黙ってようか。
(モシ・・・タイラさんと居ると変な気分です。これまで感じていた空気の重さが何処かへ行ったような。体の中が暖かくなったような気すらします。)
ーアニマって、こんなに表現豊かだったっけ?なんかすごい照れ臭いな。逆にいうとこれまでロクな扱いをうけていなかったということなのかもしれないのだけど。
(モシ?それに、気分が落ち着かないのです。やっぱり地球の人も特殊な魔法を使うのでしょうか?)
ーあれ・・・もしかしてこれって・・・好意?冴えない男、大凡平に人生の春到来か?なわけ・・・いや、ワンチャン・・・あるかも?まって心の準備が!!!!
「あ、いや、そのなんて言いますか。優しくしてもらったら誰だって嬉しいものですし、ぼ、僕もアニマさんと話してるとドキ・・・いや、ウキウキしますよ??」
(ウキウキ・・・?)
「楽しいって感じ・・・かな?」
(私と居て・・・ですか?)
ーえっと・・・ああ、ダメだめちゃくちゃ恥ずかしい。なんだこの恥ずかしさ。相手が好意を抱いてくれているのかも不安になってきた。ああ、ちょっと心臓がばくばく言ってる。こ、これが恋・・・なのか?
「そ、そうです。。。アニマさんはとてもその・・・なんていうか・・えーと、純粋というか、なんといったらいいか、ハハ・・・。」
(純粋?)
「興奮 ? 興奮 ?」
ーチュビヒゲ、お前・・・。
「いや、その言いたいのは・・・。」
{ゴクリッ}
ー!!!唾を飲む音がこんなに大きいだなんて!!!
「う、美しい・・・人・・・だと思います。」
アニマは目を大きく見開いている。金色の瞳が一層まん丸く見える。僕がとっさに目を伏せると、アニマも下を向いて考え込んでしまった。この感じ前もどこかで。。。ああ、昨日髪を褒めた時に似てる。やっぱり、なにか僕に言われて嫌な気分にでもなったのだろうか?僕が一人、盲目になっていただけで、本当はこの一連の流れは相手に迷惑だっただろうか。そもそも、いつも僕は一人で勝手に舞い上がってー
(モシ・・・)
{ゴクリ}
ーまたか!うるさい!!
(からかっているのですか?そうやって、からかうのが地球の人の常識なのですか?)
ーえ、地雷踏んだ?
アニマがうつむいたまま言う。角が震えて見える。念話の声はあまりトーンが変わらないので、心が読めないのが難点だ。
ー彼女は今怒っているのだろうか。でもどうして?僕は何か失礼なことを言ったか??美しいなんて言うのはキザ過ぎただろうか?そもそも僕の”顔”がダメだったろうか?いくらなんだって、これが”からかう”なわけがないだろう。アニマの方こそ人が悪いんじゃないのか?ああ、もうなんだってんだよ・・・。
「そ、そんなわけ・・・。本心ですよ・・・。」
アニマはローブをめくり、足の付け根まで肌を露出した。
(でしたら、”美しい”というのはこの肌に”欲情する”という意味ですか?)
ー思わぬ詰問に僕の心はすっかり面を食らってしまった。彼女は僕の下心を見透かしていたのだ。加えて、僕の邪さを軽蔑していたに違いない。ああ、この女性はどこまでも気高い人であったのかもしれない。僕はやはり部を弁えるべきだった。
「魅力的・・・確かに、魅力的ではありますが・・・でも僕は・・・そう言う意味じゃなくて・・・。」
(喧嘩? 喧嘩?)
「・・・。」
(タイラさん。私の肌は誘惑し悪心を抱かせるものだと聞いています。貴方にそのような悪心を抱かせてしまったことは、本当に申し訳なく思います。)
「・・・。」
(私の瞳は気色が悪く、私の髪は”汚物”のと同じ薄汚い色、私の存在は作られた醜いものでありながら、私の肌は心を誘惑し貶める。それはつまり・・・正しい”美しい”存在のあり方を否定するもの。それは汚らわしく忌むべき悪魔。)
「・・・。」
(”友達”といっていただけて嬉しかったです。しかしながら、私は”美しく”ありません。そうです”醜い”のです。私には友達である資格がないのです。やっぱり、今もこうしてあなたを貶めてしまっています。)
ーどうしてこるなる。
価値観の違い?
信仰の違い?
経験の違い?
環境の違い?
美徳の違い?
正義の違い?
世界の違い?
人種の違い?
男女の違い?
ー 一体どうすればいいって言うんだ。僕は好意を抱くべきでないのか?彼女にとってそれは忌むべきものなのか?・・・・・いや、待ってくれよ。これじゃあただ僕もアニマも悲しいだけじゃないのか?
「・・・わからない・・・わからないよ!言っている意味が全然、わからないよ!」
(やはり私は近づくべきでなかったですね。)
急に踵を返したようなアニマのセリフがどうにも嫌味っぽく聞こえて、僕は・・・萎えた。
「違うだろう!!そうじゃなくて、僕は・・・ちょ、あ・・・」
アニマは今まさに、去ろうとでもいうのか服を正し、顔を上げずに軽くお辞儀をした。
(巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。私はこれで。』
ーッ・・・!
「まだ、話は終わってなー」
{ズウンン}
「獣 ! 獣 !」
頭上でチュビヒゲが旋回を繰り返している。
ーうそだろ?このタイミングかよ。
「グララアァァァァッ! グアアァァァァ!!」
僕たちの後方10mの位置には、泥だらけの茶色い塊。身体中から細い触手をだらんとたらした羆とモグラの合いの子のような怪物が、まさしく地中から姿を現していた。
ちょっとやりすぎましたね。




