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第1話:タイラさん邂逅ですよ

 今僕は暇になった平日の昼間、そこそこ気に入っていたパン屋に寄る途中だった。


大雑把なつくりのこの都市で、飽きるほど眺めた道に面白いものがあるはずがない。せいぜいすれ違う明るい服装の女子大生をチラチラと陰湿に眺める男、ーー僕だーー、がいるだけだった。





・・・




ふと、学生向けとは違うけったいなマンションとマンションの間の路地裏で、だらだらと歩く僕のすぐ目の前に影が落ちた(・・・)。太陽の光がそこだけを避けたかのように、直径1mほどの不自然に真っ黒な円柱状の暗闇が広がったのだ。それも本当に目と鼻の先に。

 

風が吹いた。意識するより早く、それを吸い込んでしまう。遠い国からやってきたような場違いで、変わった匂いのする生暖かい気体。狩の角笛が聞こえたような錯覚を覚えたほどだ。かすかに獣の匂いがし、そして明らかに質量の違いを感じむせ返った。



「え?うぐぇえぇ・・・・。あぐ、あg。。。」



瞬時に吐いた、胃液だけがダラダラと落ちる。風が運んできたのは、”空気”とは違う何かだったらしい。

呑気に吸い込んだほんの一拍あとで、鼻腔から目、耳にかけて焼けつくような痛みが広がっていくのを感じた。


ーあかん、これ吸ったらあかんやつや。


とっさに床にへたる。メガネがおちるのも気にしない。必死にコンクリートに爪を立てたり、叩いたりして気を紛らわそうとする。



「ああああああ!!!」


ー苦しい、苦しい、くるしい、くるし、、ああああああ、痛い、痛い、イタイ、なんだよ、なんだよ、なんで?なんで?なんでなんでなんでなんでなん・・・・



ーあ・・・。楽になった、、、、死ぬのかなあ・・・ごめん、母さん。父さん。4年間ろくに実家に顔も見せないで、親孝行もできないで・・・・でも、謝るのも違うのかなあ。でもこういう時って謝るもんだよなあ。。。恨むなら、テロリストとか、無力な政治家とか、ずっと無関心だった凡人達とかを・・・俺みたいな凡人を・・・あ、やっぱごめん、捻くれた息子で。恩返しもできないで。。。



 必死で冷静さを取り戻す。こういう時には独り言が一番だ。このせいで普段から人に話しかけても、無視されることが多かったけど、やめられやしない。後になって「え?独り言じゃなかったの?」と謝られるたびに卑屈な気分になったとしてもだ。


ーあれ?コンクリートの感触がある。肌に当たる太陽の熱も感じる。さっきのとは違ういつも通りの風も感じる。呼吸もできる。なのに、なのに、なのに。目が見えないッ!!眩しい太陽を目をつぶって見つめた時のような不鮮明な白色。意識できない視点。おかしい、開けているのに、開けているのに!!!!!!!!



ー誰か!!!!誰か!!!!!


「ぅあんっ!!!!うあぅ!!!!!」


ー声も出ない??どころか、自分の声が聞こえない。。。。

手を叩いても、咳をして見ても、何も聞こえない。

やっぱまずい。死ぬのは怖い。。。


(モシ・・・モシ・・・)



ーなんだ?脳内に響く言葉のような音は?



(あ、こうですね。。あのウ?わカりますか?・・・・モシ?)



ー日本語?しかも随分高い。女性の声だ。助けか?



「ぁうえっえ。。。。」



(あ、モシ?モシ?通じた!んーと、あ、助けてほしい?ということですか?うー・・・私も今、余裕ないのですが・・・。)



ーえ?



とつぜんはっきりと目の前に、ターコイズブルーの長い髪に禍々しい黒い巻き角の女性の顔が浮かんだ。


白い肌に太くやわらかい青色の眉毛。しかも細い銀縁のメガネをしており、目は黒い結膜に月のような綺麗な瞳をしているーー黒い目!黄金の瞳!銀縁の眼鏡!ーー。その目はともすれば相手を威嚇するかのような鋭さがあったが、彼女の雰囲気は絶妙なバランスで凛々しさと愛らしさが調和していた。


やや小柄で判断がつきにくいが、歳は18くらいだろうか。生成色の真っ白なローブはこの世のものではないと思わせると気品と温かさがある。



ーというかこれ絶対白魔法とか使えるだろ!可愛いぃぃぃ、完全にタイプだ、やばい!!!手とか握りたい!!傷ついた無辜なる民にどうか癒しを!!!ってか絶対現実じゃない!もう、助けてくれなくてもいいから、どうせこれは夢だろう!ついでに匂いもかいでおこう




{クンカクンカ}





その日の僕はいつにもまして俗物だった。





いけませんね。開始早々に美少女とは・・・いけませんねえ。

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