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第13話:アニマさん月が綺麗ですね

注意:アニマさんがキャラ崩壊してます。


隣のテーブルでは、明らかに苦しそうな男が、遠くを見つめたり、時々手元のカレーライスを一口だけ口に運んでため息をついている。


(きゅ、救済を!)


「待って待って!というかたぶんあの人はそもそも。ただお腹と口が苦しいだけで・・・。言ってしまえば幸せの一種みたいなものというか・・・。」


 彼が今食べているのは、激辛ジャンボ大盛りカツカレー、”地獄の釜”と学生に恐れられている大盛りメニューだ。多分、浮ついた気持ちで男子大学生が挑戦したはいいものの、ただでさえ気圧される量に、一向に衰えることのない辛みにギブアップ寸前なのだろう。彼女はもちろん信じられないという表情をしている。眼からは感情があまり読み取れないが、口の開き具合、眉の傾き、角の動きからそれがわかる。


ーえ?その角動くの?


(生きて、幸せになれるのですか?)


ーはう・・角萌・・・。


「あ、も、もちろんです。あ、いや、苦しいことばかりですけれど、それでも、幸せを諦めたりはしていない人が多いと思います・・・、えっと・・・多分ですけど?」


彼女はどういうことかわからないと言った顔でコップの水面を物憂げに見つめている。


ーうん、その表情最高だよ!


「ああ、えっと、だからその、自分も生きていたいと思います。そして生きて幸せになりたいと思ってますよ。」


 伝えるには恥ずかしいと、ボソッと独り言のように言ったつもりだったが、テレパシーは御構い無しに伝えてくれてしまったたようだ。


ーまあ、ある時にはきっと、恥ずかしがってる場合じゃ無いのだきっと。



「アニマさんは、美味しいものを食べてどう感じますか?」









・・・数分後・・・









(ああ!幸せです!!!)



一つ一つのメニューをひとしきり説明した後でアニマが頼んだのはオムライスだった。情報が多すぎるのだろう、届く前から他の人のメニューをジロジロ見ては、「あのパンはずいぶん柔らかそうですね。」「え、米?カビの生えたパンクズじゃないんですか?」「わあすごい、氷がこんなに入ってますね!」、とかひっきりなしに質問したあと、オムライスを一口たべて満面の笑みでそう言った。やはり、角が若干ピンピンと動く。角萌である。



(このケチャップ?ですか、甘さも酸っぱさもちょうどいいですね。卵がこんなに使われてる料理なんてみたことありませんよ!・・・モシ!なんと、この下にあるのは。穀類なんですか?しっかり味がついて・・・ああ、美味しいです。ああ、これが幸せ・・・。)



ーおっと、涙が浮かんでいる。潤んだ瞳はまるで湖畔の月のようじゃないか。



「オムライスでそこまで喜んでくれたら、こんなに嬉しいことはないです。今日は僕のおごりですよ。初めての日本観光ということでここは一つ。あ、僕のザンギも一口どうぞ。」



彼女に鳥の揚げ物を渡すと、一口で頬張って、頬をぽっこりさせながらまたしても泣き出した。うん、うん、なんか拾った孤児にご飯をあげる映像を思い出す。実際、彼女もそれに近いかもしれない。



(・・・フグっ・・・フグフグ・・・)



ー喉を詰まらせたようだ!!!



「水をほら、一思いにゴクリと、ほらやってしまいなさい!」



{ブンブン}


アニマは苦しそうに首を横に振る。彼女は一度嗚咽をこらえた後、ゆっくりと1分近く噛み締めてから飲み込んだ。


(ふ、ふう・・・あう・・・こんなに美味しいのに・・・。水で流し込むなんてできませんよ・・・。)



「そ、そのとおりだと思います。」


ー”食のありがたみ”も極まると怖い。ってか下手したら死ぬなこれ。旨死である。


 その後も彼女はゆっくり時間をかけて噛み締めながら食べ終えた。”お腹いっぱいです”といいながら他のメニューや、他の客の食事を熱心に見つめている様子は、ともすればはしたないが、あまりにも純粋でこっちも楽しくなってくるものだった。最後にパフェを2つ頼んだ。ここの店は男子大学生向けのメニュー展開の割にパフェがうまいことで有名なのだ。店主のおっちゃんはいかにも定食屋のおじさんという感じなのに、なかなかどうして芸が細かい。

 それから数分してパフェが来た。アニマは僕が注文してからやってくるまで、それどころか今に至るまで、パフェの説明を散々求めてくる。途中からはさすがにめんどくさくなって黙ってしまった。彼女はそれにも気付かず、話しながら厨房をチラチラと見ていた。


ーう、うむ。。。リア充というのも煩わしいものかもしれない・・・。


「どうぞ、栗のパフェと、イチゴのパフェです。それと、サービスでシフォンケーキをつけておきますので。」


店員さんーーおそらく店主の奥さんだろうがーーが表情一つも変えずにテーブルに器を並べた。一瞬僕の顔を見て、少し笑っていた。もしかして、これはあれなのか。彼女ができたことへの賞賛なのか?そもそも顔を覚えられるほど通った覚えはないが・・・。あ、ありがたく受け取っておこう。



(モシ!モシ!これはまた、なんですか!甘そうな匂いがするのですが!!!食べていいんですか?モシ?モシ?)


「え、あああ、どうぞ。一口食べみて好きな方をとってくれていいです。」


 言うが先か、スプーンがソースのかかったソフトクリームを掬うが先か、彼女は口にそれを頬張った。もちろん両手にスプーンを持って。スプーンが増えても口は増えないと思うのだけども。



(ん!こっちの茶色のやつは不思議な香りですね?とっても美味しいです。それとこっちのピンクのやつも・・・なんてまろやかな甘さ!!!このピンクののはなんて言うんですか?モシ?聞いてますか?モシ?)



あんまり必死で食べるものだから、少し呆然としてしまった。涙が頬を伝っているくらいだから。



「茶色のは栗という木の実で、ピンクのは苺という果物ですよ。あ、そのソースはそれらに砂糖も加えられたジャムですが。」



(クリ!イチゴ!それにジャム!・・・モシ・・・日本てなんていいところなのでしょうか・・・。)


「ジャムは向こうの世界にはないのですか?」


(モシ・・・わかりません。私が思いつく甘いものは・・・”小麦を練って3日目”と、”ミルクに塩と花の根元を浸したもの”くらいしか思いつきませんね。)



彼女の顔は遠くを向いて、それから手元のパフェX2を見つめてため息を吐いた。


(・・・しかし、帰らねばなりません。)


そして彼女は両手にパフェを握りしめたままこちらを見つめている。


「・・・よかったら僕の分もどうぞ・・・。あと、このシフォンケーキも。」


彼女の目が輝いている。


(モシ!いいんですか!で、でも、こんなにお腹に入らないですよ??)


ーあれなんか、少しあざとい・・・これってもしかして計算か?それとも天性の・・・うう。。。少し怖くなって来た。いや、最初から怖かったけど、違う怖さが。



「甘いものは別腹とか、どうとか聞きますし、ど、どうぞ食べてください。」



(ありがとうございます!!!)



・・・それからは二人とも無言だった。彼女は言葉を考えるのすら惜しかったのだろう。僕はすこしだけ財布の中身が寂しくなるのを恨めしく思った。世の男児は何を思って奢ったりするのだろうか。カッコつけてその見返りに何を得るのだろうか。それで手に入れられるものがなんとなく心もとなく感じた。



・・・



(ふぅ!とてもおいしかったです!タイラさんが言っていたいた通り、生きて幸せになることもあるのですね!)


「そうですよ。小さなことかもしれないですけど。」



ーきっと幸せに大きいも小さいもないのだろうと思う。僕だって今はなんだかいい気分だ。お金は惜しいが背に腹は替えられぬ・・・ええい!器の小さいことを言っている場合ではない!彼女がここまで喜んでくれたらないそれいいじゃないか。


「お会計は別々で?」


僕は注文票を片手に少し食い気味に返答した。


「い、一緒でいいです。」



「4400円です。」


ーくっ!この地方都市の夕食がこの値段・・・。デートとやらは怖いものだ・・・。


アニマがこちらを見つめて、何やら興味深そうに見てくる。しかし文化の違いだろう、特に例を言うでもなく、以前として他人のテーブルに目を配っている。


「またお越しください」


僕は慣れないそぶりでいそいそと、先に出て扉を片手で開きおく。


ー見たか!ジェントルマンとは俺のことだ!!


アニマは外に出て5歩進んでこちらを振り返った。


(タイラさん。私、幸せでしたよ。)


ー流石にこれだけ喜ばれたら元が取れたきがする。良きかな、良きかな。



「ワッハハ!・・・ワッハハ!!」


アニマ突然、地の声をだして笑った。


(これで合ってますか?)


わざとらしく、僕が教えた通りに笑った。

彼女の口から出た笑い声はどこかハスキーで、かっこいいものだ。いつか言葉を僕がわかるようになったっら、もっとちゃんと”会話”ができるのだろうか。



「そのイキです!もっと大きく、こんな風に。ワッハッハ!!」



ーうん。やっぱりこうじゃないと。笑顔・・・見れてよかった。


ふたりの若者が無理して笑う様子は、他人から見れば変に映っただろう。それも変な笑い方だ。すれ違う学生たちのきょとんとした顔にいつもは怯えているはずの自分が逆に可笑しくなってる。僕は一人、さらに笑った。


ーこのまま時がとまればいいのにな。


「あ、満月だ。いや、正確には明日かもしらん。」


ーつい独り言のノリで言ってしまうが、やはり彼女に伝わったようだ。いや、彼女は最初に”伝えようとした”言葉は伝わると言っていた気がする。ほんとは、僕も聞いて欲しかったのかもな。


(っと。。。これが月ですか?架空の物だとおもっていました。私たちの世界のとは違いますね。綺麗・・・ですね。)



ー彼女の満月のような瞳と、夜空のほぼ満月。僕はもちろん彼女の目に釘付けだった。


僕は向き直ってアニマに言う。


「あの、前から言おうと思っていたんですけど、この世界の人は救済を求めていないと思いますよ?その、なんていうか・・・苦しいことも楽しいことも受け入れて、それでも自分の力で幸せになろうとしているというか・・・。僕も、アニマさんともっと長く一緒にいたいと思っています。」



ーそうだ、彼女は帰らねばならない。おそらく、もう僕を殺そうとはしないだろうと思う。幸か不幸か。彼女は実際には誰も殺せていない。それに彼女は人を殺すのが好きなわけではないのだ。ただ、それしかしらないだけで。


(いえ、もう時間切れです。とても楽しかったですし、感謝もしています。できればもっとご一緒したかったです。食べたいものも。。。でも、もう行かなくては・・・。)



(私の魔力が消えていくのを感じます。この世界では魔力を補充できないようです。それに、持って来た向こうの砂時計では、もう1週間が経っています。これ以上主様をお待たせするわけにはいきませんので。)



ー彼女の顔は真剣そのものだった。出会ってから最も無表情で、そして隙がなかった。



「じゃあせめて、最後にアニメを見てからお別れしましょう。僕の家にDVDがあります。2時間もかからないですし、それぐらいは良いでしょう?」



_____(値上げ後)

オムライス 900

ザンギ定食 900 

栗のパフェ 1400

苺のパフェ 1200

   計  4400 (税込)


アニマさんよく召し上がる。



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